円安・株高・増税・原油安・物価高・外国人客増…。現在、このような数十年に一度単位の潮流変化が一度に押し寄せている。印刷ビジネスにはどのようなプラス面とマイナス面があるか。潮目を迎えた印刷市場内の需給バランス構造変化なども含め、2015年の印刷ビジネスを考える。
需給と価格形成の変化
従来型印刷市場の縮小が続くなか、並行して供給力削減も進んできた。しかし需給バランスが改善しないのは、需要の減少に供給力削減が遅れるからである。需給改善には、需要の減少より1単位でも供給力の削減を先行させねばならず、これは現実的な競争市場では難しい。しかし様々なデータを合わせみると、リーマン・ショック以降続いてきた供給力削減と物価高・増税の相乗効果は、これまでのトレンドを変える可能性を持ち始めた。
ロットの変化
多品種小ロットのトレンドが続いている。ある意味、これは業種を問わず中小企業全般に通じる永遠のテーマなのだが、ここで言っているのは、リーマン・ショック以降にさらに小ロット化が加速したということだ。これは、生活者の価値観の多様化、企業のキャッシュフロー経営の追求、印刷技術の進歩が組み合わさって進んでいる。我が国印刷オペレータの技術力は世界的にも高く、オフセット印刷でも相当な小ロット対応ができ、デジタル印刷との競争力を持つ。しかし小ロット化の動向とその速度については、従来と異なる変化が起きていることを知っておきたい。
市場の変化
2014年は増税前後で局面が一変した。影響は想定以上に長引き、状況が厳しいことに変わりはないものの、印刷市場では1997年の増税時に比べた比較で見れば影響は小さい。また、減少率も過去数年に比べれば縮小した。印刷市場に影響を与える最大要因は我が国経済(GDP)であるが、この我が国経済の構造自体が円安・株高・増税・原油安・物価高・外国人客増…といった未曾有の激変のなかに置かれ、先行き不透明感を増している。しかし、2014年は有力印刷業の破綻がなかったこと、印刷業と同様に構造不況だった百貨店既存店売上高がインバウンド効果により3年連続で増加に転じたことなどをみると、アベノミクスの副作用をはらみつつだが内需産業にとっても良い方向に向かっているのではないか。
『印刷白書2014』 62ページ、図表2-37.1955年~印刷産業出荷額と百貨店売上高
成長のために
百貨店の既存店売上高が反転し始めたことは示唆に富む。ずいぶんとビジネスモデルの古さを指摘されたりしていたが、視点を変えれば、外国人旅行者にとってこれ以上ない買い物天国であり、おもてなしの凝縮された我が国そのものを体現した世界なのであった。そして、成長市場に深く関わることは長期低迷業種にとっても成長エンジンになることを証明した。インバウンド事業に取り組む石田大成社の阿部乙彦社長は「外国人客は来る所には既に来ているので、いま来ていない所にどうやって呼び込むか」「もうどこまでインバウンドと呼ぶかわからないくらい仕事がある」、シーズクリエイトの宮城正一社長は「外国人誘客や地域活性を通じて地域の産業活性につなげることがカギ」、パルコ・シティの川瀬賢二社長は「ユビキタスが当たり前になって死語になったように、数年後にはインバウンドも定着して死語になるのでは」という。
構造の変化を考える
我が国経済を取り巻く様々なメガトレンドが変わり始めているように思われる。市場の変化、需給の変化、ロットの変化など、印刷ビジネスの現在をデータで客観的に捉え、現在迎えているトレンド変化を乗り切るようにしたい。また、印刷業にとってインバウンドがどれだけのチャンスになるか未知数であるが、関心を持って成長市場を知り、今後の関わり方を考えるようにしたい。
(JAGAT研究調査部 藤井建人)
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