受注から納品までのデジタルラインの構築がデジタル印刷機活用のカギ

掲載日:2019年4月11日

日印産連デジタルプレス推進協議会「印刷業界におけるデジタル印刷に関するアンケート調査」報告書より

日本印刷産業連合会では、国内の印刷産業における生産機としてのデジタル印刷機の活用状況を把握し、活用度をさらに高めるための調査活動を年1回のアンケート調査という形で2010年から実施している。2018年度は傘下の9団体とJAGAT会員から抽出した835社に調査用紙を郵送し、203社から回答を得た(回答率24.3%)。以下はその要約である。

なお報告書については、日印産連のホームページから無料でダウンロードできる。

デジタル印刷機の1社平均保有台数は4.28台

デジタル印刷の方式別の保有台数、稼働状況、収益性を図1に示す。保有台数の合計は659台、保有社数は154社、1社平均は4.28台であった。方式別の内訳は、トナー粉体(カラー)が247台、同(モノクロ)が91台、大判インクジェット(カラー)が244台で、これらの3方式で全体の9割近くを占めている。

図1. デジタル印刷機の保有台数、稼働状況、収益性

デジタル印刷の全売上に占める割合の平均は13.3%

売上構成を「1.従来印刷(オフセット/グラビアなど)関連(DTP制作や製本・後加工含む)」「2.デジタル印刷関連(DTP制作や製本・後加工含む)」「3.デジタルコンテンツ制作(印刷はしない)」「4.その他付帯サービス」の4種類に分類し、それぞれの構成比を問うた。

デジタル印刷保有企業では、全体売上に占めるデジタル印刷の割合の平均は13.3%であった。5%以下という企業が過半数を占め、まだまだ従来印刷の補完という位置づけから抜け出ていないと言えるが、全体売上の5割強という企業も5.4%あり、活用度にはばらつきがある。

図2.デジタル印刷の売上構成比の分布

小ロット事務用印刷が中心

受注品目別に平均ロット、受注金額、枚単価を見る。図3は回答社数が5社以上の受注品目において回答数が多い順に並べている。回答社数が最も多い受注品目は事務用印刷で平均ロットは470枚、平均受注金額は17,422円(平均枚単価55.1円)であった。デジタル印刷の活用は小ロットの事務用印刷物が中心という傾向は相変わらずである。

平均ロットが大きいのは、「DM」と「報告書、論文、議事録など」である。「報告書、論文、議事録」は頁物であり、冊数でみると小ロットの範疇であろう。仮に1冊32頁であるとすると平均440冊となる。

※各社の平均枚単価の平均値なので、平均枚単価=平均受注金額÷平均ロットとはならない。

図3.受注品目別平均ロット、平均受注金額、平均枚単価

将来性が期待されているDM

次は今後の市場拡大が期待できる将来性の高い品目である。最多回答は「DM」、2位は「大判出力」、3位は「報告書、論文、議事録など」であった。

「DM」は一昨年が4位、昨年は2位であった。成長率、将来性とも高く、今後より一層の成長が期待される。フリーコメントではバリアブル印刷を活用したいというコメントが多くみられた。改正個人情報保護法により、匿名化した個人情報の流通が可能となった。さらにキャッシュレス化の進展など社会環境的にもパーソナライズDMがより一層活用される素地が整いつつある。

図4.成長率の高い受注品目

求められる受注から納品まで会社全体でのデジタル対応

調査結果の全体傾向としては大きな変化はない。デジタル印刷活用の中心は「トナー機で500部未満の小ロットの事務用印刷物を印刷する」ことであり、オフセットなど従来印刷の補完にとどまっている。一方で、「小ロット対応だけではお客様から印刷通販との価格比較をされ差別化できない」、「オフセットの受注の仕組みのまま運用すると手間ばかりかかって効率が悪い」「受注件数を安定的に集め稼働率を維持しないと儲からない」といったコメントが寄せられた。そこで、デジタル印刷機をうまく活用している企業とはどのような特徴を持っているのか分析を試みている。カット紙の月間印刷枚数がカラーとモノクロを合わせて30万枚以上、ロール原反の月間印刷枚数が5万㎡以上の企業27社の分析を行った。月間印刷枚数が多いグループとそれ以外にわけて傾向を比較したときに顕著な違いがでたのが、会社で取り組んでいる施策を問う設問結果であった(図5)。

図5.実施施策の比較

図の左側が月間印刷枚数の多い企業の回答結果、右側がそれ以外の企業の回答結果となっている。両グループ間でもっとも特徴的に差がでたのは、「IT力の強化」である。印刷枚数が多いグループが51.9%、それ以外のグループが22.9%と倍以上の差となった。その他にもシステム化、自動化の項目はほぼすべて印刷枚数が多いグループが上回っている。印刷工程だけのデジタル化ではなく受注から納品までのトータルなシステム対応に取り組んでいる様が見て取れる。これらの施策により短納期対応が図れるだけでなく、自動化が推進できればコストダウンも実現できる。回答者からは「仕事を集める仕組みとしてのW2Pの活用」「後加工機との連携により製本までの一貫生産を行う」「受注管理システムと連動し、最適な面付け、ジョブ管理、オフセットとの振り分けを自動で行う」「データベース処理能力向上などIT力の強化による生産体制の構築」「小ロット多品種を短時間で生産するため前準備・省力化(データチェック、面付設計、出力準備)を行う」などのコメントが寄せられている。いずれにせよデジタル印刷の活用にはIT化の推進が欠かせない要件と言える。

(研究調査部 花房 賢)