インクジェットの肝はジョブギャンギングと紙

掲載日:2014年6月18日

これまでの印刷業界では、「より良い品質」「大量に安く」という価値観はゆるぎないものだった。しかし、この先「モノづくりがどう変わるのか?」「サービスがどう変わるのか?」をしっかり見据える必要がありそうだ。

その視点で2013 年度(2013 年4 月〜2014 年3 月)を見てみると、私が一番気になったことは「連帳インクジェットを利用したジョブギャンギング」とそのシステムをビジネス的に成り立たせる「インクジェット専用紙」の二つである。

ジョブギャンギングの好例として介護用品カタログがある。介護業者は全国に何百とあり、各自治体では補助金が異なるので値段設定がバラバラで、典型的な多品種小ロット印刷物である。この全国の介護業者からWeb to Print の仕組みを使って仕事を集めると、人による手間が大幅に減らせるので、最少発注単位を50 部にしても、50 部ずつを束ねて1000 部を超えるロットにまとめられると採算ラインに乗る。

印刷通販が市民権を得て以降、アナログ印刷でも100部が発注単位として定着してしまったため、デジタル印刷では、それを下回らないと小ロット対応を訴求できない。アナログ印刷はギャンギングすることでコストをドラスティックに落とし、100 部ロットを実現できたが、デジタル印刷は小ロットを幾つもまとめて中ロット以上にして効率を上げる。

分かりやすく言うと、可変印刷・バリアブル印刷が可能なデジタル印刷でも問題になるのは、小ロットの仕事を50 部、そのすぐ後にまとまったマニュアルの仕事を1000 部、そして小ロット200 部…というように、ごった煮的に仕事が入ると効率がガクンと落ちる。
そこで同じ50 部でもまとまって100 事業所分の仕事が入れば、小ロットをまとめた大ロットとして製作ラインにまとまった時間を当てられて効率がアップするわけである。

大体ワンロールに収まる仕事量を基準にしており、その仕事をワンジョブにまとめてしまえば、バリアブルでもOne to one でも、デジタル印刷の実力の見せ所となる。このように連帳のインクジェット印刷機でワンジョブ化したバリアブルデータを印刷し、Z 折(フォーム印刷で使われる折、トラブルを回避できる)で帳合いし、JDF で製本機に回すシステムを、ワンジョブにまとめて印刷するのでジョブギャンギングと呼んだりする。

Amazon のオンデマンド出版もこの方法を使っており、連帳インクジェット印刷機を数十台並べて処理している。ジョブの分け方は紙面サイズが基本で、前述したように ワンロール単位で1ジョブ化して処理している。

しかし、インクジェットは紙に滲みやすく、シャープな品質が難しかった(滲まないと今度は乾燥性が悪い)。Memjet などは一滴の噴出量を極小にして乾燥に有利なことをうたっている。メーカーとしても乾燥とそれに付随した滲みなどのトラブルは、昔から悩みの種だった。したがってインクジェットメーカーは、印刷前に特別な薬液を紙に塗布するなどして滲みを抑えていた。

活版からオフセットに移行する際にも紙の問題があった。水を使用するオフセットは現在のオフセット用紙なら問題もないが、 当時の活版用紙では違和感があったのだろう。同じくインクジェットも紙によって仕上がりが天と地ほど違う。印刷機上で薬液を塗布するより、最初からコート してある紙の方が効率的である。

現在、インクジェット専用コート紙は三菱製紙が販売するSWORD iJET が中心だが、今後、各社から提供されると様相は大きく変わってくるだろう。またコート紙の場合、コストが高くなってしまうので、トリートメントした後に高圧をかけて光沢を出したトリーテッドの非塗工紙が登場している(欧州製)。今後、より良い紙が出てくれば加速度的に環境が改善されるだろう。

(JAGAT 理事 郡司秀明)