「時間当たり付加価値」は京セラのアメーバー経営で重視されている経営管理指標として知られている。働き方改革で脱・長時間労働の機運が高まるなか、「見える化」に取り組む印刷会社においても重視されつつある。
付加価値とは売上―変動費という式で表されるが、変動費に該当する経費を何とするかは、いくつか考え方がある。というか目的によって異なってくる。
印刷業において二大変動費といえるのが、用紙代と外注加工費である。一般的にこの二つが売上に占める比率は40%から60%程度である。用紙代と外注加工費は、比較的容易に受注と紐づけることが可能で把握しやすいので、管理会計で簡易的に日次の付加価値を計算するときには、この二つを変動費として計算することが多い。
その他の変動費として、刷版代や配送費、インキ代、商品仕入れ(ノベルティ商品の仕入など)などがある。月次や年次で付加価値を計算するときには、財務会計でこれらの数字を取り出して計算する。
この付加価値と総労働時間で割ったものが「時間当たり付加価値」である。売上や残業時間が増えているのに付加価値の伸びが伴わないときは要注意である。また、時間当たり付加価値と時間当たり人件費を比較すればわかりやすいKPI指標となる。付加価値以上の給料を払うことはあり得ないからだ。
変動費を文字通り仕事量に応じて変化する費用として考えれば、残業代、電力代、あるいは日常的に発生する消耗品も変動費としてみなすことができる。具体的には、CTPの現像液、印刷のブランケット、湿し水添加剤、ウエス、手袋、断裁機の刃、プルーフのインキや用紙、PODのトナー代やカウンターチャージ、梱包用資材などである。
付加価値向上をつき詰めていくと、これらの経費まで「見える化」する必要がある。「見えない」ものは管理(コストダウン)できないからだ。
ところが、これらの経費を手間をかけずに集計できる仕組みがある印刷会社は多くない。消耗品関係は、発注するときに使用部門や用途はわかっているはずなのだが、発注処理は電話やFAXなどのアナログ処理でデータ化されておらず、経理処理するときには経理担当が請求書の明細を見ても内容がわからず、仕入先単位でまとめて処理しているようなケースが多い。
使用頻度の高い消耗品などはシステムにマスター登録しておき、システムで発注処理(発注書の発行)を行うことで、発注日、発注数量、発注金額がすぐに把握、集計できるようにしておきたい。
(研究調査部 花房 賢)