重要な湿し水の温度コントロール

掲載日:2019年5月24日

湿し水はインキとのバランスを一定に保つために冷却しておくことが大切だ。

多くの会社がアルコールを使用していない

現在オフセット印刷機の湿し水装置は連続給水タイプが主流だ。この装置はアルコールを使用することが前提になっていたが、今では使用しないで印刷する会社が多数を占めている。
 アルコールを添加すると湿し水の比重が軽くなり、表面張力が低下して版面の濡れが良くなる。さらに、湿し水を粘らせて水ローラー間のニップを通る水の膜を厚くして、版面に安定した湿し水を供給できる。しかし、オフセット印刷の現場で働くオペレーターの中でアルコールが原因で健康を害する報告が多数出たことから、作業環境を改善するためにアルコールを使用する会社は少なくなった。
現在ではアルコールに代替するエッチ液が市販されている。この中には水を粘らす材料と界面活性剤が少量加えられている。アルコール不要となったが、湿し水には温度コントロールが重要だ。

ポイントは水舟内の温度を7~10℃で維持

インキの表面に湿し水が付着し、ローラーのニップを通過していくうちに湿し水が微細化され,インキの中に分散化するようになる現象を乳化という。印刷には15~17%の乳化率が良いとされているが、高速で印刷されるとインキローラーの熱が上がって、インキは熱のためタックが低下して柔らかくなる。そこで通常温度の湿し水(15~18℃)に付着すると必要以上にインキの中に混入されてトラブル(乾燥不良、裏移り等)が生じてしまうので、湿し水を冷却する必要がある。
湿し水の温度コントロールには冷却強制循環装置が使用されており、通常は水舟内で7~10℃になるように設定されている。その理由は、冷却された湿し水は常に版面に接触して版の表面温度は低くなる。そして、版面上の冷たい湿し水がインキと接触すると、インキローラーを通過して温まったインキが瞬間に固まろうとし、同時に湿し水を取り込まないように作用する。そのためインキは過剰な乳化を起こさず、網点が素抜けしないで印刷される。インキの乾燥も遅れることはない。
また、湿し水を冷却しておくことによりドットゲインを小さく抑えられる。普通の温度(15~18℃)の湿し水とのドットゲインの差は4~5%程度の差があるといわれている。
このように湿し水の管理は品質安定のためには大切な要素であり、温度とともに湿し水循環装置を点検しながら作業する必要がある。

(CS部 伊藤 禎昭 )

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