今回は「トラッピング、抜き合わせ(ノックアウト)、毛抜き合わせ(トラッピング)、ノセ(オーバープリント)」について取り上げる。
JAGAT 専務理事 郡司 秀明
トラッピング
JAGATから『みんなの印刷入門』という印刷入門書を発行したので、その中からトラッピングのコラムを取り上げて、キーワード的に書き直して紹介する。
カラーの印刷や多色の印刷では、A色とB色が隣り合う場合に、重なり合って関係ない色にならないようにピッタリ隣り合わせにさせることを抜き合わせという。しかし、印刷で重ね合わせの位置関係(見当)がぴったりと一致しないと紙の白(地色)が出てしまう。DTPが生まれた頃の北米では、見当が合わないのが当たり前で、ルーペでトンボをのぞけば、何色印刷か?分かるくらいだった(トンボが複数本見える)。機械精度が良くても、印刷に使われる紙は、印圧や湿し水の影響で伸縮するので、抜き合わせだと白が出る可能性が高くなるのだ。
この現象を防ぐために毛抜き合わせ(トラッピング)処理を行うことが一般的だ。毛一本の太さでダブらせるという意味で毛抜き合わせという。毛抜き合わせは、A色もしくはB色(淡い色側を太らせるのが一般的)の絵柄をほんのわずか太らせ、重ね合わせることによって紙の白が出るのを防ぐ方法だ。重なり合う部分の輪郭が目立たなく、また白が出ないような量に調整するのがポイントだ。英語ではスプレッド&チョーク(その逆も可)という。プロレスファンならお分かりいただけると思うが、首締めのことをチョークと言い、その意味で使っている。このチョークとスプレッドも、日本語と英語の行く=Goと来る=Comeのように、日本人には実に分かり難いのだ。日本以外の国は大体同じで「貴方のところに行く」は“I go you”ではなく“I come you”なのだ。だから日本人は、難しいことは考えずに白や薄い色を濃い色に潜らせると考えれば良い。大体日本人が「スプレッド」だと思った方が、「チョーク」だったりするので、「白地が出ないようにすることをニゲ処理というのだ」くらいに考えれば良い。しかし、この処理のことを全体的にトラッピング処理と呼んでいるので、「何でもかんでもトラッピング」と言ってしまってもかまわない。
DTP創生期にはアメリカの常識がそっくりそのまま日本に上陸していたので、ニゲ量(かぶせ量)、トラッピング量を0.3mmとしていたため、日本では太すぎて黒筋が出てしまい、黒筋がDTPの代名詞とも言われていた。印刷業界代表が少なかったので、私などは先頭に立って訂正(日本では0.1mmで十分と)に奔走していた。先ほども述べたようにアメリカでは見当が悪いので0.3mmダブらせないと白地が出てしまうのだ。さすがに最近はCTPで見当性が良くなったので0.1mmになっているのではないだろうか?
重ねる色が墨の場合、墨を黄色に重ねても黒く見える。特に絵柄の中の墨文字は、抜の場合は見当合わせが大変なので、ノセ(オーバープリント、下地はそのまま)処理してやれば、見当ズレによる問題は起きない。一般的に墨との重ね合わせではノセ処理が行われるのだ。このことを墨ノセという。アメリカの墨インキは薄いので、下地が透けてしまうのでリッチブラック処理等も行われる。墨以外の色の重ね合わせでは違う色になってしまうので毛抜き合わせ処理が行われるのが一般的だ。
このような処理を印刷業界ではニゲ処理やかぶせ処理と言っているが、紙の印刷工程の場合は、前述したように総称してトラッピング処理で通じる。軟包装材印刷の場合は伸び縮みが大きいので、ニゲ処理は必須だ。非印刷体の伸び縮みで透明フィルムの地が出てしまったりするので、紙材よりは多めの、太らせ量が必要だ(この場合こそ0.3mm)。また、フィルムは透明なので、紙のように印刷するには白地を印刷する必要がある。これを白座布団と呼んでいる。
(JAGAT専務理事 郡司 秀明)
(会報誌『JAGAT info』 2019年4月号より抜粋)