次世代経営幹部の選抜と育成

掲載日:2019年8月6日

後継者問題に加え、後継者を補佐する人材の選抜、育成が重要な課題である。

「中小企業白書2019」によると、1995年には47歳だった中小企業の経営者の最も多い年齢層が2018年には69歳となり、高齢化が進んでいる。次世代へのバトンタッチは火急の課題となり、後継者を指名し新たな経営体制の構築が必要になるが、そのプロセスにおいて苦労する点について、みずほ情報総研の調査によると「取引先との関係維持」「後継者に経営状況を詳細に伝えること」に加え、「後継者を補佐する人材の確保」があげられている。まだ経験の浅い後継者には、番頭さんのような経験豊富な方からのフォローアップや、次世代の経営体制を側面から支える若手幹部の人材が必要になる。特に後者の人材は、これらからの企業の成長を担う重要なポストであるため、幹部候補者の選抜、決定、育成プランは慎重に考えなければならない。

次世代経営幹部の選抜
幹部候補者のリストアップ方法として、「企業価値向上に向けた経営リーダー人材の戦略的育成についてのガイドライン」(平成29年経済産業省調べ)によると以下が上位にくる。

1)上司部門長による推薦・・・・77.6%
2)人事による総合的判断・・・・55.2%
3)過去の人事評価の優秀者・・・41.8%
4)アセスメント結果の上位者・・19.4%

中小企業であれば、経営層と従業員層の距離はより近いので、経営意識、問題解決力、実行力、リーダーシップ力等、経営幹部に必要な能力を経営者が肌感覚で把握できるため、選抜する上での判断基準としては重視すべきだ。ただし、それだけでは主観的であり、思い込みや特定の従業員への感情等、ハロー効果が生じる。そのため、客観性のある判断基準も加える必要がある。例えば人事評価制度や目標管理制度が社内にある場合は、評価数値や評価者のコメントから、人物像を読み解くことができる。また、人材を採用する際に使う企業も多いが、性格診断テストや経営幹部候補選出するアチーブメントテスト等を利用し、客観的な数値データで資質を図ることで、経営幹部としての潜在的な資質を捉えることもできる。それらの基準を組み合わせることで精度の高い選抜をすることができる。

経営幹部の人材育成体制の整備
選抜した候補者に対する次のステップとして、教育の体制を整える必要がある。中小企業の場合は身近な機会から経験を積ませるのも手である。例えば、社内の経営者会議、同業者あるいは異業種等、社外で集まる経営者の会合への参加することで、経営者としての意識を醸成することもできる。また、各分野の現経営幹部が社内講師になり、営業、制作、製造、財務管理等について実務を交えながら学ばせることで自社経営の理解が深まる。ただし、それだけでは社内経営ノウハウを学ぶことに過ぎないので、次世代経営者として必要な、未来志向で外部の新しい風を取り入れた経営及びイノベーション思考を学ぶには、他社も参加するような経営幹部セミナーの受講機会を設けることも重要である。様々な他社からは、自社には無い多くの気づきが得られるであろうし、共に学んだ仲間とは将来的にビジネスのネットワークを構築することも可能である。

印刷業界も世代交代の波が押し寄せている中、これからは、後継者の選定及びそれを補佐する人材の選抜及び育成は火急の課題になり、次世代の経営体制について考える転換期に差し掛かっている。

JAGAT 塚本直樹


●JAGATは次世代の印刷経営幹部の育成機会として、ミドルマネージャーを対象にした経営幹部ゼミナールを9月にリニューアル開講
https://www.jagat.or.jp/archives/61871