おかげさまでpage2015も無事終了し、カンファレンスも大盛況だった。今回のpage2015を一言でいえば、デジタル印刷へ大きく潮目が変わった年といえるだろう。
基調講演1「未来を創造する」に御登壇いただいたスピーカーはJAGAT会長である塚田司郎氏、広く業界にWebb博士の名を知らしめた「未来を破壊する」 を個人出版までするくらいに情熱を傾けたフォーム工連の山口実専務理事、昨年のWebb博士招聘の立役者でもあるハイデルベルグ・ジャパン社長の水野秀也 氏、「未来を破壊する」の日本語訳者でもある山下潤一郎氏達四名を招いて議論や論点の整理を行った。
まずは塚田会長の「未来を破壊する」をなぜ JAGAT大会で紹介したか?からスタートしたのだが、印刷業界に関するレポートのほとんどは「紙は無くならない」とか、「印刷業こそ地域密着型ビジネス の最有力」「印刷業こそソリューションビジネスの立役者」といった楽観的なコメントが多かった中、Webb博士のスパッとした論理は新鮮で明確だった。 言っていることも全くその通りで、欧米だけではなく日本でも当てはまるはずだというのが言い分である。
同じく「未来を破壊する」に情熱をかけた山口氏は現在ビジネスで成功している企業は
- デジタルプリントへの取組(パーソナル化)
日本でももう少し小ロット化が進めば、デジタル印刷がメインストリームになるのは間違いがない。 - プラットフォーム提供(ソフト・ネットワーク等)
この辺の構築技術や出来映えがビジネスに大きく関わってくるのが、これからの印刷業である。 - システム開発部門・マーケティング部門の充実
システム部門・マーケティング部門も独自性を出すためには、各社自前が前提となる。 - 直接受注比率が高い(70%以上)
クライアントと直に結びつくのが全てではないだろうが、クライアントと直につながった方が、ソリューションや問題解決には近距離だということは自明である。プラットフォームも直受けだと、より効果が出てくるはずだ。 - 特殊技術・特殊設備(コーティング・加工等)
製品の差別化も重要である。特に製本等の後加工
としているが、それを踏まえて何をすれば良いかの結論を
- コミュニケーション力を作れ!(人材への投資)
- 異業種との交流(壁の外の社会を見よう!)
- 決断(Hour of Decision)
としている。
ハイデルの水野社長は、昔は広告予算(ピザパイ)が放送(TV)と印刷の二つだけでシェアすれば良かったものが、同じサイズのピザパイを放送、印刷、 SNS、オンラインメディア、サーチエンジン、スマホ、ユーチューブでシェアするのだから印刷の取り分が落ちるのは当たり前のことであるとしている。
そして印刷物への発注額自体も
- 印刷は益々小ロット化し、多くのカタログは生産すらされなくなっている=印刷物の減少
- 消費者の過敏な反応によって広告サイクルは更に短くなった=価値の減少
- 安価なウエブ受注による標準的な印刷物の需要が増加=価格競争
- 情報出版印刷はインターネットに置き換わる傾向
ということで、減ることはあっても増える要素は見あたらない。
しかし、水野氏の持論でもある印刷物の良さとデジタルの良さ、つまり長所短所を前提にした施策が必要になると強く説いている。
結論としては
- 印刷はメディアの一部として補完的な役割を担う。
- パッケージ以外は減少傾向にあり、印刷物の小ロット化は極限まで進む。
- インダストリー4.0のようなスマートファクトリーが必要とされる時代が来る。
- 印刷物もビッグデータに取り込まれる。
- 印刷業の収益モデルは次の四つに集約
- 極限までトータルスループットを上げたコストリーダー
- ユニークな製品・サービスを提供できるサービスプロバイダー
- M&A等による水平・垂直統合を果たすビジネスリーダー
- アジアを中心とした海外でのサービスを展開するグローバルプレイヤー
というものだが、「来るべき準備のためにはお金が必要なので、現在の仕事で一生懸命稼ぎましょう」というのは、ハイデル・ジャパン社長の本音でもある。
翻訳者の山下氏はWebb博士の最新刊「THIS POINT FORWARD」(JAGATから四月中旬発刊予定)の紹介もしてくれたのだが、最新刊に書かれている内容「未来を創造する」事例についても解説した。
- 印刷物と印刷ビジネスの役割には違いがある。
- メディアは変化していない。変化しているのは、そのコンテンツの届けられ方なのだ。
- 会話に参加することが重要である。
- まず、既存の顧客から始めるのが妥当である。
- 先験的アプローチで一般的な戦略を湿すことはできるが、各企業が実行する取組は、市場環境に応じて様々なものとなる。
と語っている。
—その2—として、これらのポイントについて解説することをお約束して、今回はここで終わりたいと思う。
(JAGAT理事 郡司秀明)