ジャーナリズムに大きな変革の時が訪れている。
これまでのジャーナリズムは新聞の膨大な発行部数が人員と取材コストを支え、ニュースの質を担保してきた。しかし、止まらない新聞の発行部数減は新聞のみならず、業界全体の態勢変革を迫っている。
そんな中、注目を浴びているのがAIの活用である。未来のジャーナリズムはどのように発展するのか。新しい技術の旗手と言えるJX通信社のサービスを紹介しつつ考察する。
最新技術を取り入れてきたニュース業界
ニュースビジネスには最新技術を積極的に取り入れてきた歴史がある。印刷会社にとってもなじみ深い新聞輪転機はその最たるものであるし、遠い異国のニュースを早く、正確に伝えるための通信技術でも常に先頭を走ってきた。そう考えれば、現在先端技術として注目されるAIの導入を新聞社が図っているのも当然と言えるだろう。
実は新聞はAIと相性が良いというのもある。新聞には記者それぞれの特徴的な文体といったものがなく、事実をそのまま伝えるような記事の場合は、文章表現が一定である。また、長い歴史と共に積み重ねてきた膨大な過去記事が存在し、AIにとっての教師データにも事欠かない。AIを用いた文章作成を導入しやすい下地があるのだ。実際、現在でも甲子園の戦評や決算短信などから業績変動の要因を言及するサマリーの自動作成などのサービスが始まっている。
そんな中、新聞業界から大きな注目を浴びているのがJX通信社である。
テクノロジーが支える新しいジャーナリズムの形
JX通信社の代表的なサービスの1つにファストアラートがある。これはツイッターなどの国内外のソーシャルメディアを分析し、事件性のあるものを抽出して記者に事件の発生を一早く伝えるサービスである。
基本的には「事件」や「事故」など関連性のある言葉や画像を元に抽出するのだが、こういった言葉は「殺人的な忙しさ」や「○○の事件簿」といった事件性のない場面でも使われる。そういった日常的な場面を確実に除き、画像であっても車と車が接触している、壊れているといった要素を抽出するような複雑なアルゴリズムに支えられている。
新聞各社がこうしたAI情報を元に事件現場に急行し取材するというケースが増えてきている。情報の鮮度が圧倒的に早い上に、事実確認の時間が減るため記者はその分の時間で事件の背景など深い部分に迫ることができる。単にコスト削減効果に留まらず、情報源の数や質も向上するようなサービスである。
JX通信社のサービスはファストアラートだけではなく、様々な場面で報道支える情報インフラを整備しようとしている。ニュースは日常生活を支えているインフラの一つであるが、ビジネスとしての健全性がなければ情報の質を担保することはできない。JX通信社はビジネスとジャーナリズムを両立する新しい業界の形を見せてくれようとしている。今後の動向に注目したい。
JX通信社はJAGATにて、11月6日に講演予定である。
(JAGAT研究調査部 松永寛和)