今回は「GCR(Gray Component Replacement)」について考える。
JAGAT 専務理事 郡司 秀明
GCRを再整理
最近、GCR(UCRの発展系と言うべきGray Component Replacement)について聞かれることが多いので、ここで再整理しておく。私個人は、GCRの概念ができ上がっていった時に、そのまっただ中にいた人間なので、一般的な解説と異なるかもしれない。
100%UCR、広義のGCRの概念は昔から存在しており、実験レベルでは行われていたのだが、それを実証実験しようと思ってもスキャナーのオペアンプ(回路設計が伴っていない)が不適合だったのだ。当時GCRはドイツ語でUnbuntaufbau(無彩色印刷)と言っていた。言い出しっぺの代表者が、フランクフルトの製版会社のオーナーであるハラルド・キュッパース氏だった。彼はHell社(独国)のスキャナー(クロマグラフ)やクロスフィールド社(英国)のスキャナー(マグナスキャン)で散々トライしたのだが、当時のUCRが印刷適正改善に特化して設計されていたせいもあって、極シャドウだけにイフェクトがかかり、苦戦していた。だから100%GCRで『必要色2色+墨』で全ての色を再現することなど無理だったのだ。ところが大日本スクリーン製のスキャナー(スキャナグラフ)は2社と違って独自設計だったから、「Hell社のように印刷のダイナミックレンジは2.6である」ということが明確でなく、無限大で設計されていたので「GCRの概念であるグレイ成分を墨版に置き換える」ことが可能だった。キュッパース氏は2社を諦め、SCREENに相談に来て「ビックリしてしまった!」のだ。当時SCREENの欧州拠点があったロンドンにやってきたのだが(私はそこに駐在していた)、テストの結果、理想のGCRイフェクトが得られたのである。
「GCRとUCRは何が違うんですか?」と聞かれて、「UCRは印刷適正改善を目的としているのに対して、GCRは印刷適性と製版適性も同時に改善します」と説明しているのは、嘘ではないが方便で、「スキャナー機能のUCRが極シャドウにしかイフェクトしないし、UCRがイフェクトするある濃度から(ブラウンだったシャドウが)急に墨に置き代わってしまう」というのが、本当のエクスキューズだったのだ。
SCREENのスキャナーは、すぐに機能として取り込んで実績を上げていくことになる。当時欧州の郵便料金が値上がりして、DM文化圏の欧米社会は困っていたのだが、フルGCRなら、料金を安くするためにペラペラの紙でも印刷できるために大変喜ばれた。LEGOのパッケージ印刷を100%GCRで仕上げることに挑戦して、これも大変喜ばれた。その他新聞社、特に北欧の新聞社などでは一大ブームになった。100%GCRは「必要色+墨」なので、色相に変化がないのだ。LEGO社はキレイな赤が安定せずに困っていたのだが、100%GCRは赤などの暖色系との相性が特に良かったのだ。こんな感じで最初はSCREEN(商品名はアクロマチックカラー?)が先行していたが、各社出そろって(各社立派な商品名をつけていたと思う。マグナはPCR?)これからという時に、Adobe Photoshopにこの機能を搭載するということで、私もいろいろサジェスチョンした。これがGCRという名前で登場し、結果的には名称をはじめ一切合切の名誉は取られてしまった。ICCプロファイル登場以前のカラマネでは図1のように、印刷条件によってGCR(UCR)量を変更できる機能が追加された。図1は東洋インキのマットコートについてだが、それぞれ「なし(図2)」「軟調(図3)」「中」「硬調(図4)」「最大(図5)」と変更できるようになっている。今でもCMYKプロファイルをカスタムCMYKにすれば、GCR機能は残っている。
現在はICCプロファイルにGCRは含有されてしまうので、特にGCR調整を各印刷対象ごとに変更したい場合には「インキセービングソフト」を購入していると思う。次回は「GCR品質を上げるためにどうしたのか?」まで解説し、「印刷品質を上げるということは?」まで迫りたい。
(JAGAT専務理事 郡司 秀明)
(会報誌『JAGAT info』 2019年8月号より抜粋)