進捗管理の強化による「見える化」の推進

掲載日:2019年10月24日

印刷業の収益改善における「見える化」の肝は、受注一品別の収支把握である。

実現のボトルネックのひとつが、精度の高い実績データの記録、収集である。手書きの作業日報からシステム入力への移行は進んでいるが、入力の手間が敬遠されたり、入力端末の台数が不足していたりするなどの課題が残っている。

製造設備から直接、実績データを取得する手法としてJDF/JMFの利用がある。作業指示書をJDFのジョブチケットとして電子化し、製造設備にダイレクトに送信し、実績情報はJMFというデータ形式で製造設備からダイレクトに受け取る。JDF/JMFはCIP4が策定した国際的な標準フォーマットでありメーカーを問わずに利用することができる。良い事づくめのようであるが普及は進んでいない。

その理由のひとつがMISの運用にある。もともとMISは販売管理を出発点に発展したものが多く、そうしたシステムは現場レベルの細かい作業指示を行うことが想定されていない。

例えば、印刷の作業指示でいえば「菊全 4/4 通し数 5,000の仕事が4台」、あるいは製本の作業指示でいえば「128頁の無線綴じ 5,000冊」といった単位である。業務に精通した人間が見るのであれば、このレベルで十分であるが、JDFのジョブチケットを発行しようとすると、印刷は4台のジョブ単位(片面機であればさらに表面と裏面)に分けてジョブ定義をする必要がある。製本であれば、「16頁折りの折り工程が8台」、そして、それらの折り丁を丁合して綴じて三方断裁する「無線綴じ」の工程とに分けてジョブ定義をする必要がある。

さらに、受注産業の宿命で予定変更が頻発することから予定組みはMISではなく変更の操作が容易で柔軟な対応ができるExcelを用いている印刷会社が多い。また、工程をまたがった変更は操作が非常に煩雑となるので、予定表の作成は印刷工程までで、製本の現場では、紙の印刷予定表をみて現場判断で対応しているケースも多くみられる。このように予定や進捗状況の情報が社内で分断されていることが多くのロスを生んでいる。特に営業所と工場とが離れている場合などは問い合わせの電話が頻繁に行き交うことになる。

これらの課題に対しては、MISと実績収集ツール、そして印刷会社の運用という三方面からの取組みが求められる。ある中堅印刷会社では、細かな仕様登録、ジョブ定義の作業負荷を軽減するため営業サポート部門を設置、そして間際での予定変更の抑止と変更への迅速な対応を図るために「48時間ルール」というものを運用している

「48時間ルール」とは、印刷予定を2営業日前に作成し、予定表を作成した後に仕様や日程の変更があった場合は、担当営業は営業部長に申請して承認をもらうというルールである。上長の承認がない限り、担当営業は独断で予定を動かすことはできない。設定当初は、ナンセンスなルールで手間を増やすばかりと営業からは大ブーイングであったが、強行した結果、このルールが抑止効果となり、スケジュールの先行管理が定着し、予定の精度が向上した。また、現在では変更の申請にLINEを使うことで外出先からも行うことができ、営業サポートチームとも即時に情報共有できるようになっている。

この会社ではMISはPrintSapiens(J Spirits)、実績収集ツールとしてKP-ConnectPro(小森コーポレーション)を導入している。小森製の印刷機からは作業実績データが自動でMISに送信されるほか他社印刷機やポストプレス機器の実績情報はタブレット端末を用いて入力している。タブレット端末は、設置場所が固定されるパソコンと異なり持ち運びが容易で、オペレータの配置が日々流動的であるポストプレスの現場と親和性が高い。また、各設備の進捗状況はリアルタイムで事務所の大型ディスプレイに表示され、一目で進捗状況が確認できるようになっている。

KP-ConnectProには実績データを詳細に分析するための各種ツールが用意されているが、同社では受注一品別の収支結果と結びつけて改善につなげたいと考えている。

生産性の改善を金額換算して「見せる化」することで、より改善の実感がわき「自分事」として取り組むことができる。従来は分析のための資料作成に多くの時間を費やしていたが、稼働状況のレポートはシステムで自動的に作成されるので、改善活動により多くの時間を割くことができるようになる。

「見える化」を支援するITツールは今後いろいろと登場してくるだろうが、ツールを活かすためには導入側の運用の工夫、改善も求められる。

(研究調査部 花房 賢)

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