引き続き「GCR(Gray Component Replacement)」について考える。
JAGAT 専務理事 郡司 秀明
GCR(その2)
GCRは昔から印刷では試みられている技術なのだが、現在の形になったのはドイツの製版会社のオーナーであるキュッパース氏がUnbuntaufbau(無彩色印刷)を提唱してからである(と前回紹介した)。
昔の話ばかりしてもしょうがないのだが、グレー再現が難しかった頃は、GCR(UCR)を使用すれば、高品質なグレー再現が可能だといって、SL(蒸気機関車)や高級一眼レフカメラ等の重厚なブラックボディに使われることが多かったのだ。その頃から私は「墨インキでグレーバランスを取った薄っぺらな感じが良いのか?」とアンチテーゼを投げかけていた。私には逆なように思えた(グレーバランスが取れていない方が好ましい仕上がり)のだが、デジタル化が進んでくるとウォームグレイかコールド(クール)か等々、例えばニコンのブラックボディとキヤノンの微妙なグレイ再現差が重要視されているように感じているが、皆さんはどう思われるだろうか? 品質面だけに注目すれば、逆説的だがGCRが向いている絵柄というのは重厚なものよりカラフルな絵柄の方である。
GCRのメカニズムについて若干考察したいと思う。
図1を見ていただきたい。オフセット印刷のCMYインキはプロセスインキで透明性を担保しているインキだ。インキ同士が重なっても下色の情報が透過してミックスするものである。対して墨インキは下色を完全に隠してしまうので、色情報は無くなってしまう。下色上色は前後に刷られたものというわけではなく、墨は重なった場合に色情報を遮断してしまうと理解いただきたい(減算混合の場合)。蛇足だが、欧米の墨インキは薄くてしまりを出すためにはリッチブラック処理が必要になる(シアン等を入れないとスカスカのシャドウになってしまう)。
GCRでは墨量が10%程度の場合は全てが良い方へ転ぶのだが、33%以上になると色が重なる確率が急に高くなるので、墨版量が30%を超えると必要色の色情報が削がれて彩度低下等のトラブルが顕著になる。実際の印刷ではドットゲインがあるので28%程度から品質的には影響が出てくる。ハイエンドスキャナーにGCR機能(SCREENはACRと呼んでいた。アクロマチックカラーリムーバル)を付けていた頃には、GCR量に応じてCC(カラーコレクション色調整機能、Photoshopなら特定色域の調整)の必要色を自動で増やしてやる機能を付けて、彩度低下を防いでいた。
また、シャドウ部が普通はC97%M90%Y90%Bk75%くらいの網点が入るのに、GCRを100%効かせた時には、C0%M0%Y0% Bk98%になるわけだからどうしてもスカスカ感は否めない。そこで苦肉の策としてUCA(Under Color Addition)といって、グレイ部の色を増やす機能を付けて極シャドウだけCMYを戻して重厚感を出そうとしたりしていた(図2)。またUSMも4版かかっていると版ズレした時にレインボーの縁が出てしまうので、USMは墨版だけに限るようにする。さらにロゼッタモアレを避けるためにFM網点にしたり、線数を変えたりしていた。
これらは、あくまで見当性が悪いという前提に立っての対処であり、デジタル印刷になって見当性が全く問題ないということなら、その常識も変わってくるのは合理的である。こんな歴史を経て、インキセービングソフトに発展しているのだが、デジタル印刷機はこの辺がブラックボックスになっているので商売もしやすいと思う。インクジェットプリンターでは総インク量が200%くらいに収まるようになっており、トナー機でも10%程度の違いはあるが大体そんな感じである。そういう意味ではオフセット印刷、特にUVインキなどは信じられない高品質なのである。
(JAGAT専務理事 郡司 秀明)
(会報誌『JAGAT info』 2019年9月号より抜粋)