出版社に並ぶ新たなコンテンツメーカー機能の登場

掲載日:2019年11月11日

2019年上半期の出版市場(紙+電子)は、出版科学研究所の『出版月報』7月号によると前年同期に比べ1.1%減となり、低落傾向が止まっていない。

しかし、紙の出版物が減少している一方で電子出版の伸びは大きい。ただ、紙の出版物でもコミックスは前年同期比5%増と回復している。

また、全体で増加している電子出版でも電子雑誌は前年同期比で大きく減少しており、電子出版全体の増加を支えているのは、前年同期比で大幅増となった電子コミックスの伸長である。

雑誌も前年同期に比べて減少幅が小さくなっているが、これはコミックスが伸びているためであり、それを除くと雑誌メディアが苦戦を強いられている状況は変わりない。

電子出版が伸びているが出版市場の長期低落傾向が止まらないのは、依然として既存の出版市場が紙を中心にしたビジネスにとどまっているからかもしれない。

紙を中心とした既存出版社のビジネスがこのまま変わらないとすると、出版ビジネスは疲弊して、それが出版社での働き方に影響し、コンテンツ創出機能そのもののパワーが落ちることに直結しかねない。それは日本のさまざまエンターテイメント業界にも影響していく可能性がある。

なぜなら、日本のアニメや映画、TV、ゲームなどには出版社発の多くのコンテンツ(作品の原作として)が提供されている。出版社は日本のコンテンツ業界において作品の発掘と、作家、クリエイターを育ててきた強力なコンテンツメーカーなのである。その出版ビジネスの力が衰えることは、新たなコンテンツ創出の力が衰えることにつながる危惧があるからだ。

とはいえ、電子メディアを中心に新たなコンテンツ創作の試みが芽を出し、花を咲かせようとしている。その取り組みが新たなクリエイターの発掘や市場創出につながっていくことが期待できる。

一つは小説や漫画の投稿サイトが登場し、新たなコンテンツメーカーの機能を果たすようになりつつある。こういったサイトの課題の一つは、クリエイターがコンテンツ創作によって適切な対価を得て、継続的にコンテンツ創作が可能なシステムを作り上げることだろう。そのためには作家やクリエイターが読者等を獲得するプロモーション支援策や、紙や電子出版へ、さらには映像化やゲーム化などのコンテンツ利用の多様化につながるような流れを作ることや、その支援策の提供である。実際には既にそういったことを実現するサービスも登場している。

JAGAT info 11月号では、8月に行われたJAGAT Summer Fes2019の講演の中で、新たな動きを見せるコンテンツ、メディア関連の2つをピックアップして報告する。出版社の編集者を経て、クリエイターを支援して新たなコンテンツ発表の場を創出し、継続的コンテンツ創造を支援する(株)ピースオブケイクの加藤貞顕氏の「デジタルコンテンツの集まる街「note」の今とこれから」と、大手出版社の編集者を経てAIなど最新手のテクノロジーを活用してコンテンツ創造と支援に取り組むBooks&Companyの野村衛氏「出版とAI~価値創造か課題解決か、それとも産業の突然死か?」の講演概要を紹介している。

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