【第28期与件:観光牧場】クロスメディアエキスパート 記述試験
掲載日:2019年11月26日
状況設定
- あなたは、首都圏にある中堅総合印刷会社のX社に勤務するクロスメディアエキスパートである。X社は、商業印刷物やSP企画・制作、Webサイトの構築・運用のサービスを顧客企業に提供している。X社にはデザイン制作、およびWebコンテンツや映像・動画の企画制作を専門とする系列子会社があり、グループ総従業員数は約200名である。
A社提案プロジェクト
- 観光牧場を運営するA社は、X社が過去に取引を行った顧客企業である。同社のチラシ・パンフレット製作やWebサイトの一部を手がけた実績もある。
- 営業担当者より「A社は生活者との新しいコミュニケーション戦略を検討している」との報告があった。そこでX社では、営業部門や企画部門、制作部門に所属する数名で、A社提案プロジェクトを立ち上げることになった。クロスメディアエキスパートであるあなたは、本プロジェクトのリーダーを任命された。
- X社は、本プロジェクトにて提案書を作成し、2019年8月30日にA社へ提出する予定である。
面談ヒアリング
- A社について調査を進めたところ、X社の競合企業Y社がインターネットやモバイル端末を活用した企画提案を行う準備をしているとの情報が入った。X社では、営業担当者が中心となり、社長と事業企画本部長と面談(※ヒアリング報告書参照)を実施した。
- A社は、コミュニケーション戦略を立案するにあたり、社外からの優れた提案を取り入れ、実施を検討する方針である。
2019年8月20日
A社ヒアリング報告書
X社 営業部 第一課
奥原 天陽
奥原 天陽
概要:A社からの提案依頼に伴う、ヒアリング調査
日時:2019年8月19日 12時~14時(牧場内レストランでのランチミーティングを含む)
対応者:井田行俊社長、井田俊輔常務・事業企画本部長
内容:下記に記載
1.提案へ向けて
- A社は、富士山麓で生乳を生産する牧場を親子三代に渡って経営している。初代が「イダボク」の名称で牧場を創業。農協へ生乳を納入する一般的な酪農家であった。
- 現社長(2代目)は、良い生乳でも安く買い上げられてしまう農協へ納入するのではなく、自ら生乳の加工を行い、販路を開拓し、高品質な牛乳・乳製品を高値で販売することに成功した。
- さらに、ブランド認知を広げて販路拡大に結び付けるため、観光牧場「大草原の自然牧場」の運営に乗り出した。収益面ではほぼ順調に推移しているが、観光牧場のブランド認知が十分に浸透しておらず、満足はしていない。改善の余地は少なくない。
- 観光牧場として、生活者とのコミュニケーション手法を確立し、関係性を重視した継続的なプロモーションの実現を模索しており、それに伴うコンテンツやメディア展開案を求めている。
2. 施策の運営と実施効果測定
- 週単位でメディア展開の実績を確認したい
- 可能な範囲でメディア利用者のレスポンスを把握し、活用したい
- A社のメディア展開担当者は、事業企画本部を中心に2名を予定
3.想定予算
- 印刷物の企画製作、Webサイトの企画製作、ハードウェア、ソフトウェア、開発費など総額1,200万円以内を想定(初期費用のみ。サービス開始後の維持費は別途算定として構わない)
4.施策の実施期間
- 2019年10月に業者選定。11月に要件定義と設計、12月~翌3月に準備、4月1日に施策展開を開始、翌3月末までの1年とする。その後、施策の評価と見直しを行う。
5.酪農と観光牧場の市場
- 現在、国内の酪農経営は、牛乳消費量のゆるやかな減少傾向、飼料価格の高騰、厳しい労働条件や人材不足などの問題を抱えており、厳しいものとなっている。
- 農水省が推進する6次産業化とは、農林水産業者(1次)が製造・加工(2次)や小売・流通(3次)に主体的に取り組み、付加価値と収益の向上を図るものである。酪農経営において、独自ブランドの乳製品を製造し、直営店やショッピングモールなどで販売することや観光牧場もこれに相当すると考えられる。
- 牧場の本来の目的は牧畜(放牧による畜産)であるが、近年は観光客を呼ぶことを目的とした観光牧場も全国的に増えている。豊かな自然に囲まれた環境で牛や馬・羊など動物と触れ合うこと、乳しぼりなど酪農体験ができることから家族連れを中心に人気がある。フィールドアスレチックや釣り堀などを設置している牧場もある。
- Googleトレンドによれば、毎年夏になると観光牧場をWeb検索する件数が増える傾向がある。旅行やレジャーの雑誌でも、夏に向けて観光牧場が取り上げられることが多い。
- 日本生産性本部のレジャー白書によれば、観光・行楽の市場規模は2016年に10.5兆円。2017年は3%増加、2018年は4.1%増加している。ジャンルに「牧場」そのものはないが、1位 国内観光旅行、2位 外食(日常的なものは除く)、4位 ドライブ、8位 動物園 植物園…などに含まれると想定される。
- 観光牧場は、日本全国でも数が限られており、動物園などと同様にその牧場のできごとやイベントをマスメディアが報道してくれることが多い。
- 国内の牛乳生産に使われる乳牛は、約99%がホルスタインである。白地に黒斑模様が入った外見で乳量が多い。生乳の乳脂肪率は3.5%程度で、飲みやすいという特徴がある。
- 英国ジャージー島原産のジャージー牛は、体が比較的小さく乳量もホルスタインの2/3程度である。人懐こく愛嬌のある性格や丸く愛らしい目、褐色の外見も特徴的である。濃厚さが際立つ生乳はゴールデンミルクとも呼ばれ、世界各地でバターやチーズなど乳製品の原料として多用されている。日本では乳牛の0.6%程度となっており、希少な品種である。
- 近年、観光牧場がクラウドファンディングを利用することも増えている。話題性があり生活者に共感を得られやすいこと、ファン育成・来場促進が期待できるためである。例えば、生乳から発酵バターを作るためのクラウドファンディングを実施し、支援者には製品を届けるだけでなく、バター作りイベントへの招待や乳製品セットを提供するといった方法である。
6.A社の創業と事業モデルの変遷
- 1960年、A社は酪農業として現社長の父(井田正)が、日本有数の酪農地帯である静岡県富士宮市の富士山麓で創業。「おいしい牛乳はきれいな牧場から」の哲学で、衛生管理に気を配り、ホルスタインによる良質な生乳を生産。農林大臣日本一賞を受賞したこともある。
- 1990年以降、2代目(現社長の井田行俊)は「大手メーカーに納入すれば他の牧場の生乳と混ざるため、良質な生乳を生産しても意味がない」と考えるようになり、農協に頼らない独自の加工場を開設し、流通経路を開拓した。また、ジャージー牛の放牧を開始。独自ブランド「イダボク」の牛乳・アイスクリーム・バター・チーズなどの乳製品を製造し、県内のスーパーマーケットへの卸売や飲食店への販売を行うようになった。
- 「イダボク」牛乳や乳製品シリーズは、地元でも信頼され愛用されている。
- 2000年、牧場内にレストランとカフェを開設した。牛のストレスを減らすための放牧、衛生管理の行き届いた牛舎を多くの人々に知ってもらいたいとの思いである。
- 2010年にソフトクリーム、ジェラートなどを販売する直営店事業をスタートした。現在は東名高速のサービスエリアに5店舗、郊外のショッピングモールに2店舗を出店している。
- 2016年春、第1牧場の2倍の広さの第2牧場をオープンし、「大草原の自然牧場」と命名した。これまでの乳製品の製造販売に加え、観光牧場としてブランド認知を向上させ、より多くの人々に来場してもらい、さらに自社乳製品の価値を広く知ってもらいたいと考えている。
- 第2牧場の牧場事業とブランド強化は、井田俊輔常務が責任者として事業を統括している。
- 地元の雇用拡大にも貢献しており、施設の従業員を地元から採用している。
7.「大草原の自然牧場」のブランドと新たな事業展開
- 「大草原の自然牧場」ではジャージー牛を中心とした放牧を行っている。乳牛へのストレスを避けるため、毎日定刻に搾乳を行っている。来場者向けの乳しぼり体験や餌やりはできないが、チーズ作り体験やバター作り体験をできるようにした。
- ジャージー牛乳を使ったコーヒーやソフトクリームを提供する「大草原のカフェ」、自社ブランドのチーズを豊富に使ったピザや提携先の「富士山麓牛」ステーキを提供する「大草原のレストラン」を開設した。
- カフェとレストランは、厨房の様子や作り手の顔が見えるオープンキッチンとし、開放的な店構えとした。富士山麓の素晴らしい自然をバックに食を楽しめる空間であること、ものづくりの臨場感にあふれ、ワクワク・ドキドキする時間を提供することを目指している。
- 行楽シーズンの週末や連休には、さまざまなイベントを実施している。有名シェフによるスペシャルメニュー提供や、チーズ作り体験、バター作り体験、パティシエ体験と呼ぶスイーツの手作り体験もある。
- 「大草原の自然牧場」は、第1牧場とは車で15分ほどの距離に位置する。高速道路のインターチェンジから車で30分、新幹線の駅からだと路線バスで35分の場所にある。
- 現在は年間10万人が訪れている。インバウンド効果により、富士山を周遊する外国人の来場も増えている。
- 主な来場者層は、小さい子供~10代の子供を持つファミリー層が中心である。ドライブデートコースでもあり、カフェには大人専用のテラス席も設置している。帆布製の日よけのあるテラス席は、カップルや男女グループに人気がある。
- この牧場で加工された乳製品は、「大草原のジャージー牛乳」「大草原のジャージーソフトクリーム」などの名称で販売を始めた。市のふるさと納税課から声がかかり、ふるさと納税の返礼品として全国へ届けている。
8.これまでの販促活動
- イダボクのネーミングなど気にせず、衛生・品質一筋でやってきた。農林大臣賞(現在の農林水産大臣賞)、関東生乳品質改善共励会の最優秀賞・特別賞を何度も受賞しており、それを誇りに思っている。今後もさらなる受賞をめざし、それをPRしたい。
- 受賞歴のPRと牧場を見学し試飲してもらえば、品質の良さを実感してもらえた。その後も販路の開拓が中心であり、一般生活者への販促に注力したことはなかった。
- WebサイトとSNS(LINE、Twitter、Facebook)アカウントは開設している。「大草原の自然牧場」はイダボクのTOPページに掲載されているものの、イダボクのWebサイト内に入っており、直営店舗と同列に紹介されている程度である。
- 来場者に親近感を持ってもらうため、毎年子牛の中からマスコット牛を選定し、名前を付けている。牧場内で「今年のマスコット牛」として告知している。
9. A社の競合
- 認知拡大をマスメディア報道や雑誌等に頼っている現状があるため、場所は遠くても広域関東圏にある観光牧場が競合となる。
- 房総の「草原のゆめ牧場」は、都心から気軽に行ける牧場で、小さい子供のいるファミリー層が中心。
- 那須にある「森林の自然牧場」は、富裕層を狙って希少なブラウンスイス牛の高級な牛乳と乳製品を販売している。大人向けの観光牧場。
- 近くにある「高原ミルクランド」は、動物ふれあい広場や宿泊施設もあり、小さい子供のいるファミリー層向け。コンセプトも異なるので競合とは考えていない。
10.今後の事業について
- 近年6次産業化が提唱され、イダボクと類似するクリーン牧場や加工・販売を行う牧場が、全国的に増えている。〇〇自然牧場、〇〇高原牧場などのネーミングによるブランド化も活発であるため、「大草原の自然牧場」のブランド認知と商品の販促をさらに進める。
- ソフトクリーム、ジェラートなどを販売する直営店の名称は、今まで「イダボクIDABOKU」としていた。来春から「大草原の自然牧場IDABOKU」と変更する。
- 秋には恒例の「大草原の自然牧場」の大感謝祭を開催する。富士山麓の大草原に牛と人が集まり、みんなで楽しみ、収穫に感謝するイベントである。牧場散歩、バター作りやケーキ作り体験、提携農家の新鮮な野菜を味わうこともできる。当牧場に興味を持ってくれた人たちへ継続的に認知させたい。
11. 今後の販促について
- SNS映えするオープンキッチンのカフェ内や牧場内の撮影ポイントに、撮影スポットをいくつか用意する予定。
- マスコット牛の選定を、Webサイト上で候補(子牛)を紹介し、一般からの投票で選定する総選挙方式とする。同時に名前も募集する。マスコット牛の日常を心暖まるレポートや動画として送り届けることでファンを増やしたい。
- 知名度の高いジャージー牛を放牧する牧場、マスコット牛がいる牧場は広域関東圏では「大草原の自然牧場」のみである。他の観光牧場との違いとしてアピールしたい。
- 「大草原の自然牧場」は他の牧場同様にマスメディアが定期的に取り上げてくれている。実際に、マスメディアで放映された直後のWebサイト訪問は何十倍に増える傾向がある。しかし、来場者に来場動機を聞くと「テレビで放映された牧場なのか不明だったが、偶然決めた」ということも少なくない。WebサイトやSNS上で牧場をフォローしていても、そういう人は他の牧場もフォローしていることが多く、どの牧場かわからなくなるようだ。
- Webサイトを閲覧した直後、その場で商品を予約・購入できるショッピングサイトと異なり、牧場などのレジャー施設は休日のスケジュールや交通機関を確認したり、同行者との相談が必要となる。そのような次の行動を起こしやすくする施策が必要であり、他の観光牧場との差別化ポイントだと考えている。例えば、牧場のイベント開催スケジュールやお気に入りポイントを簡単にシェアできるような仕組みである。
A社の概要
- 法人名 株式会社 イダボク
- 設 立 1960年
- 従業員 90人
- 資本金 5千万円
- 売 上 14億2千万円(2019年3月期)
- 所在地 静岡県富士宮市
- 役 員 井田行俊 代表取締役社長、井田俊輔 常務取締役 事業企画本部長
- 事 業 酪農、牛乳・乳製品製造販売と委託加工、カフェ、レストラン
- 牧 場 第1牧場(イダボク)乳牛約150頭、第2牧場(大草原の自然牧場)乳牛約200頭
- 直営店 東名高速のサービスエリアに5店舗、郊外のアウトレットモールに2店舗
- 主要取引先 鉄道会社、旅行代理店、県内主要スーパーマーケット
【企業沿革】
- 1960年 初代(井田 正)が静岡県富士宮市で酪農業を開始。
- 1968年 農林大臣日本一賞受賞
- 1990年 2代目(井田 行俊)が(有)井出種畜牧場を設立(農業生産法人)。 乳製品加工を開始。アイス製造および販売を開始
- 2000年 (株)イダボクに改組
- 2001年 ヨーグルト製造を開始
- 2004年 チーズ製造工房を開設
- 2008年 牧場内にカフェとレストランを開設
- 2010年 事業企画本部を設立。3代目(井田 俊輔本部長)が直営店事業を始める。
- 2012年 第4回関東生乳品質改善共励会、最優秀賞・特別賞を受賞。以降何度も受賞。
- 2016年 第2牧場(大草原の自然牧場)をオープン。カフェ、レストラン、体験工房開始
- 2018年 発酵バターの生産を開始。クラウドファンディングの支援を受ける。
【経営理念】
- おいしい牛乳はきれいな牧場から
- 品質第一
【社長プロフィール】
井田 行俊(いだ ゆきとし)(1959年生まれ、60歳)
- 学 歴 :
1977年 富士宮農業高校富士宮農業高校富士宮農業高校富士宮農業高校 卒業 - 職 歴 :
1977年 イダボク初代の井田 正ともに正ともに正ともに酪農業酪農業を始める。
2003年 株式会社イダボク 社長就任 - 家族構成: 妻、長女、次女、長男(井田 俊輔)
- モットー: 時代は自分で切り開く
- 趣味 : 写真、カメラ
【A社損益計算書】
決算年月 | 2018年3月 | 2019年3月 |
---|---|---|
売上高 | 1,346,823 | 1,424,352 |
売上原価 | 782,615 | 812,384 |
売上総利益 | 564,208 | 611,968 |
販売費及び一般管理費 | 489,752 | 512,438 |
営業利益 | 74,456 | 99,530 |
営業外収益 | 2,823 | 3,164 |
営業外費用 | 2,318 | 2,373 |
経常利益 | 74,961 | 100,321 |
(設問)与件文を読み、設問にしたがって各項目を別途配布された解答用紙に記述しなさい。
[問1]【課題設定】
A社が顧客コミュニケーションにおいて取り組むべき課題を3件、優先度の高い順に記述しなさい。
[問2]【ターゲット】
A社に提案する施策のメインターゲットとその理由を記述しなさい。
[問3]【提案の基盤・方針】下記項目を記述しなさい。
(1)A社へ提案する施策を発信する主メディア(認知促進、興味・関心の醸成)とその選定理由
(2)メディアを通じて発信・訴求する主要コンテンツとそのねらい・意図
(3)(1)の主メディアを含む複数メディア間の連携を誘導するしくみ
(4)共有・拡散を促すしくみ
[問4]【提案する施策内容】
A社に提案する施策を3件にまとめ、記述しなさい。
[問5]【実行スケジュール】
施策の実行スケジュールを記入しなさい。
[問6]【概算見積】
施策の概算見積を記入しなさい。
[問7]【タイトル】
提案書のタイトル(およびサブタイトル)を記述しなさい。
[問8]【序文(挨拶)】
提案書の序文を「ですます調」で記述しなさい
[問9]【施策の総合的効果】
問4に記述した施策のまとめとして、下記項目を記述しなさい。
[自社(X社)の強み・X社を採用する意義]
[A社の競合他社への差別化対策]
[施策内容の総合的な効果・まとめ]