「メディアの未来像をさぐる」page2015カンファレンス報告

掲載日:2015年2月26日

page2015では、印刷業界にとどまらず、広くメディアビジネスの今後のあり方についても考察している。カンファレンスCM4セッション報告。

メディアトレンドのセッション

pageカンファレンスのCMカテゴリーでは、「クロスメディア」をテーマに、クロスメディアビジネスの成功モデルやコンテンツ制作、動画プロモーションなどを取り上げた。なかでもメディア動向を知りたい方のため各業界の最前線で活躍している方々で活発なディスカッションした。

CM4「メディアの未来像をさぐる」では、コンテンツの価値を高めるための新たな情報発信とは何か? をディスカッションしていった。2015~2020年にかけてメディアはどう変わり、ビジネスはどう変わるのだろうか。コンテンツの流動化によりマスとキュレーションの関係が変化している。マネタイズ(課金)の問題にも注目していく。印刷需要に大きな影響を及ぼす新聞、出版、メディアにおけるトレンドをディスカッションし、情報の新たな届け方を検討した。

モデレータにジャーナリストとしても著名で、現在法政大学で「メディアとジャーナリズムの未来を切り開く」人材育成を行っている藤代裕之氏、スピーカーにはコンテンツ提供側であるマスメディアの朝日新聞メディアラボ雨森拓児氏、キュレーションメディアのスマートニュース藤村厚夫氏 、さらには、ポータルサイトでありながら独自のコンテンツ配信を行っているヤフーの片岡裕氏を迎え、ソーシャルメディアにおけるマネタイズの仕組みやメディア形態の変化についてセッションを行った。

モバイルシフトの問題

モデレータの藤代氏から、コンテンツがPCからスマホへシフトしている状況を解説、各社に対し、スマホ対応とコンテンツの関係、またマネタイズ(課金)するのかという問題を提議した。

Yahoo!ニュースはポータルサイトで、マスメディア的な存在である。その仕組みをソーシャル型に変えた理由として、「個人」の影響力がソーシャルメディアプラットフォーム上で瞬く間に広がることを挙げていた。さらにYahoo!ニュースができて18年たつが、スマホは6年で月間50億PVに達し、これはPCの3倍の速度だという。

iPhoneが出た時にスマホ起点を推進し、今後アプリに関しても注力していく方針である。コンテンツを「見る」だけのものから「体験」を提供できるようにしていくと高価値になり、販売価格になっていく。Yahoo!ニュースでは、マスの論理とパーソナルの組み合わせで情報を届けていきたい考えである。

スマートニュースでは、Webの方程式とアプリビジネスの方程式ではかなり異なり、ギャップがあるという話が出た。例えば、スマホ画面では大きな広告が出せない。画面サイズと広告費が比例すると思っている人もまだいて、モバイルトレンドは理解できても、広告などは前に進まない状況でもある。

ただ、スマホは使っている人が没入しているので、その深いところ(その人の世界観)に入っていける可能性がある。そこに見合った商材を提供できればビジネスが広がる。

朝日新聞でもPCとスマホで広告収入の差があるという議論があったが、新聞とネットも同じであった。新聞広告の場合の売り上げ単位とネットやPCでは、桁が違う。マスメディアとしての事業規模を取り払い、細分化した事業をしていきたい。特にメディアラボでは、新しい取り組みを始めている。ただコンテンツ課金となると難しく、これまでと違う仕組みや付加価値をセットにしていかなければならないと思う。

これからのコンテンツの価値創造

藤代氏からは、10年くらい前からコンテンツを売るだけのビジネスは成立しないだろうという予感はあったという話があった。

多くの人は、記事を出した瞬間が最高で、コンテンツの価値が下がると思っているかもしれないが、ソーシャル時代は、いろいろな人に手渡してコラボレーションしながら、雪だるまのように大きくしていくのが、これからのメディアビジネスではないか、と語った。

藤村氏はアルビン・トフラーの『富の未来』から引用して、コンテンツの価値がこれまでの時代と違うのは、「いくら複製しても劣化しない」ことだという。ニュースには旬があるが、キュレーションサービスの立場からは、違う見せ方やアプローチ方法を考えられる。

コンテンツは一つのビジネスモデルで稼ぎ抜く時代から、いろいろな形で稼ぎを積み上げる時代に入ってきた。印刷物でもデジタルでも音声でも映像でもいいので、多様な形態で多様な価値を生み出す仕組みを考えていくべきである。

コンテンツ提供側の朝日新聞としては、以前は買い切りのコンテンツ配信が中心だったので、いまはコンテンツの価格が下がっているのかもしれない。しかし、コンテンツプロバイダーへの利益還元を考慮しているサービス会社も出てきて考え方は変わってきているだろう。いずれにしてもコンテンツ生成側の努力なしには価格云々の問題はない。

「紙とメディア」について

pageならではのテーマということで、「紙とデジタル」「紙とメディア」について話が及んだ。藤代氏からこれからのメディアビジネスにおいて紙をどのように使ったらよいかを投げかけた。ヤフーの片岡氏は、ネットの記事を新聞という形態ではないにしても、重要なものは紙に残して保存するように連鎖していくのではないか。紙とネットは、対極にあるというより近づいていけると話した。

アナログ時代からメディアにかかわっている藤村氏は、自身の経験則からデジタルメディアの人は、本当に文字組版や印刷のことがわからなくなってきているという。スマートニュースでは、カーニングなどもきちんとやっているが、若い人やネットの世界の人たちには組版用語など全く通用しない。印刷業界の人はそのへん詳しいので、教えてもらえるとありがたい。

朝日新聞の雨森氏は、新聞の特性として大量に紙を刷っているが、技術の進歩によって少量のインキでもきれいに印刷できるようになってきている。大判の紙の役割やニーズはまだあるとして、仮に電子ペーパーのようになったとしても見やすさ、ユーザーフレンドリーさをデジタルメディアに活かしていけるのではないかと話した。

メディアの未来像を考えるときに、印刷業界がこれまで培ってきた独自の技術や経験をプラスに活かすことを考えていくことができる。技術を知っていることはリスペクトされるし、むしろプラスに作用することもある。もちろんビジネスの芽だってあるのだということをあらためて感じさせるセッションだった。

(JAGAT 研究調査部 上野寿)