自動化、AI活用、あるいは見える化を推進するMISの導入など会社を変えるものとして新しい設備やシステム、技術に焦点が当たりがちであるが、視点を社員の立場に置いて考えてみたい。
例えば自動化によるメリットは短納期対応もあるが、人件費の削減によるコストダウンもあるだろう。社員からすると自動化を推進することは自らの雇用が脅かされるものと受け取られかねない。「見える化」の取り組みも同様であるが、何のために行うのか目的を最初に社員としっかり共有することが出発点となる。
ある印刷会社の取り組みを紹介する。当社では利益の半分は賞与として社員に還元することを約束するとともに社員教育に力を入れている。2019年5月から研修として全社員でマネジメントゲームを行っている。マネジメントゲーム(以下MG)とは、参加者一人一人が経営者となり、仕入・製造・販売や投資などの意思決定を行い、会社を成長させていくシミュレーションゲームである。ゲーム中の戦略投資(広告宣伝、研究開発、社員教育、設備増強など)や、販売市場における他社(他のプレーヤー)との駆け引きなど、一連の企業活動が会社の利益に与える影響を学ぶことができる。価格を下げないと売れないが価格を下げると儲からないというジレンマを身をもって体験することができる。また1期ごとに本格的な決算(棚卸、B/S、P/Lの作成)を行うので、経営感覚だけでなく財務会計、管理会計の理論を学ぶことができる。
当社では、課長は年間でマネジメントゲームの決算期を40期、係長以下は20期分プレイすることが義務付けられている。しかもゲームのプレイ時間は就業時間内で行うことになっている。働き方改革の流れを受けてということもあるが、MGをプレイすることは仕事の一環であるというメッセージも込められている。
こうして全社員に会計知識を身に着けてもらったうえで、自社の試算表をわかりやすい形に加工して公開している。MGではMQ会計という付加価値重視の管理会計の考え方がベースになっているが、当社でも売上重視から付加価値、収益性重視へと舵を切っている。オフ輪事業から撤退し、適正なダウンサイジングを標榜している。営業の数字目標は売上ではなく付加価値(MQ)で設定している。
当社はデジタル印刷機を活用したワークフローの自動化など先進的な取り組みを積極的に行っている。以前はトップダウンで強行に進めるスタイルであったが、なかなか社員の協力を得られずに時間と労力を消耗することも多かったという。一見回り道のようではあるが、目的の共有、情報開示、社員教育の3つを地道に行うことで、社内のコミュニケーション、特に組織の上下のあいだでの意思疎通がスムーズになり、業務改善の提案もボトムアップで活発にでるようになったという。
Jagat info 2020年2月号より抜粋
(研究調査部 花房 賢)