JAGAT info 5月号では小回りの利く設備ときめ細やかなサービスでデジタル印刷を武器に変えている株式会社千葉印刷の事例を報告した。今回はその一部を抜粋して紹介する。
サービスビューロー的な会社運営
渋谷駅の道玄坂上から少し入ったところに株式会社千葉印刷はある。1965 年に創立され、現在の社員数は14 人ながら渋谷近郊の企業を中心に多くの顧客を持ち、外資系アパレルメーカーや、大手IT 企業、芸能関係者も足を運ぶ、知る人ぞ知る印刷会社となっている。現代のサービスビューローとも言える街の印刷屋が、デジタル印刷をどのように武器に変えているのか。2020 年3 月から代表取締役に就任した柳川満生氏にお話を伺った。
軽オフ出身ならではの設備を多数保有
千葉印刷はもともと軽オフセット出身の印刷会社であり、小ロットの印刷に強みを持っていた。取材当日も、菊四截寸延びオフセット印刷機のRYOBI 520HXを熟練の職人が動かしていた。質問にもテキパキと応えてくれて、見られること、コミュニケーションを取ることに慣れている様子だった。
製本機はホリゾンのものを中心に、勝田製作所の断裁機JMC Ⅳや工藤鉄工所の紙揃え機クドエースなど、こだわりの機械が並ぶ。使い込まれた物もあるが、機械はかなりの数があり、自社の設備だけで中綴じや無線綴じをはじめ、一通りのことはできるそうである。
地下には部品を分解して運び入れたという小森のLITHRON 26が設置されており、5000 部や1 万部といった中、大ロットも対応可能である。製版機については富士フイルムのLuxel T-6500CTP Sを保有し、無処理版のSUPERIA ZPを使用している。
渋谷道玄坂という立地を生かす
軽オフ出身らしい小ロットの生産に適した設備群だが、それらを強みに変えているのが特殊紙の比率を高める提案と、100% 本機校正をし、印刷の立ち合いも無料で歓迎しているという点、そして渋谷道玄坂という抜群の立地である。
千葉印刷の製品の特徴として、特殊紙比率の高さがある。全体の6割から7割が特殊紙だという。ポイントは特殊紙を使うということが、本機校正や立ち合い無料の価値を高めているという点である。初めて使う紙であれば、顧客も最後は自分の目で見ないと安心できない。
千葉印刷には、渋谷の企業や個人デザイナーなどが頻繁に足を運んでくる。これができるのも道玄坂という立地ならではである。スタッフもこういった環境に鍛えられており、オペレーター本人が印刷機のすぐ横の色見台で、要求を聞きながら調整していくこともあるそうだ。そういった対応が口コミで広がり、遠方から千葉印刷を訪ねてくる顧客もいるという。
Iridesse を新しい武器に
そんな千葉印刷で現在大きな武器になっているのが、富士ゼロックス社のIridesse™ Production Pressである。Iridesse は特色の使用に強みを持ち、他と差別化できる点に大きな魅力を感じているという。
Iridesse は、6 ステーションフル実装モデルで、CMYK 以外の2 色として、金・銀・白を選びながら使いこなしている。特に金と銀から生み出されるメタリックカラーはIridesse の大きな強みとなっており、他社にない幅広い印刷表現を可能にしている。
また、デジタルだからこそクライアントに工場に来てもらい、印刷直後のものを見せて、イメージと違う部分を聞き、調整してまた印刷ということが可能である。その日のうちに何度も刷りなおして、イメージ通りに仕上がるまで一日で完結することができる。これはデジタル印刷の品質が上がったからこそ生まれた大きなメリットだと言えるだろう。
「印刷屋」を目指す
柳川氏は、かつて自分の父が印刷屋だと自称しているのが嫌で仕方がなかったそうである。印刷屋ではなく、きちんとした印刷会社にならなくてはと思っていた。しかし、今は積極的に「印刷屋」を目指している。
八百屋や魚屋のようにお客さんが気軽に立ち寄れるような場所が理想だ。お客さんの求めることをダイレクトに受けて、一緒に良い印刷物を作り信頼関係を構築するのが「印刷屋」だと自負している。
千葉印刷の事例は、決して大きくはない印刷会社でも小回りの利く性質やきめ細やかなサービスでファンを獲得し、大きなクライアントを獲得できることを表している。デジタル印刷や特色、特殊紙など最新の事例を押さえながら「印刷屋」としての仕事を追求していくことは、印刷会社が選び得る一つの有力な生存戦略なのではないだろうか。
(「JAGAT info」2020年5月号より抜粋)
(JAGAT 研究調査部 松永寛和)
『JAGTA info』2020年5月号では特集として「緊急調査 コロナショックが与える印刷業界への影響と対応」の調査結果を取り上げます。→『JAGAT info』情報はこちらから。