米国企業が株主最優先のスタンスを改めつつある。従業員への教育、地域社会への投資など、長期持続的な成長へ向けて全方位的なステークホルダーを重視するのだという。米国企業の方向転換は世界の企業経営に影響を及ぼしていくだろう。
大きく変わる企業経営
企業経営に数十年単位の変化が起きている。米国の経営者団体BR(Business Roundtable)は、2019年8月に株主優先の原則を、全てのステークホルダー(顧客、従業員、サプライヤー、地域社会、株主)への価値提供に変えると宣言した。株主最優先を貫いてきた米国企業が方針転換したのである。背景には、過度に短期的利益の最大化を追求して長期持続性が後回しになった反省と、各方面からの要請の強まりがある。日本人には「三方よし」「先義後利」のように、周囲の利益も含めて考えるのは自然なことだ。日本的経営の再評価も一面にはなくはない。しかし、海外から見れば短期的な変化を恐れすぎることがマイナスとの見方は根強い。
何が変わるのか
BRの宣言は以下である。-顧客への価値提供、-従業員への投資、-サプライヤーとの公正かつ倫理的な取引、-地域社会への投資、-株主のための長期的な価値の創出。従業員と地域社会への投資、長期的な価値など、失礼ながら米国企業とは思えない言葉が並ぶ。特に米国企業は、短期的な利益追求と多様なステークホルダーに報いることを通じて持続的に価値を創造することの両方が求められることになる。これからの企業は社会的・地域的課題解決への参画がより必要になる。課題の解決は、それ自体をビジネスチャンスと捉えるべきであり、ステークホルダーへの価値創造につながり、結果的に自社の企業価値を向上させる。
CSVの考え方が求められる
こうした、周囲に好影響を与えることで結果的に自社を成長させる考え方は、マイケル・ポーターが提唱する「CSV(Creating Shared Value、共通価値の創造などと訳される)」の考え方に近い。需要が飽和しつつある時代、製品を大量に生産することで成長するのはもはや難しい。社会的・地域的課題の解決を通じて経済を刺激しない限り、新たな価値は生まれない。社会的・地域的課題の解決には、まずステークホルダーの話を聞き、潜在的な課題を顕在化させ、共通の目標を設定してともに解決する枠組みを作るところから始める必要がある。コロナ禍でいったんグローバリズムの段階を終えた現在、視点をローカリズムへ移行させる価値が高くなる。まずは自社を取り巻くすべてのステークホルダーを思い浮かべ、彼らとの関わりのあり方の可能性を再考するところから始めてみたい。(JAGAT研究調査部 藤井建人)
詳細は会員誌『JAGAT info』6月号に掲載