「紙は生きもの」といわれるように、印刷用紙は湿度の影響を大きく受け伸縮する。印刷用紙の伸縮を抑え、トラブルを起こさないようにするための工場の温湿度管理の考え方と具体的な事例について述べる。
印刷用紙の伸縮
植物繊維は水と親和性があるため水分変化に敏感で、水分量の増減により伸縮し、その程度は単繊維の横方向に大きく、縦方向で小さい。印刷用紙は植物繊維を主原料として機械で抄造されているため湿度変化の影響を受けやすい。抄造された用紙の繊維は複雑に絡み合っており、湿度変化による繊維の伸縮は用紙全体に及ぶ。抄紙時に繊維は流れ方向に配列されるため、用紙は機械の流れ方向(縦方向)よりも直角方向(横方向)のほうが湿度変化による伸縮が大きい。この湿度変化による用紙の伸縮でオペレーターを悩ませる代表的なトラブルが「紙くせ」である。
「紙くせ」への対応
「紙くせ」は用紙を積んだ状態で凹凸になることで、「カール」「おちょこ」「波うち」の3種類がある。「紙くせ」により発生するトラブルは、①フィーダー部で給紙トラブルが多発して印刷作業ができない、②紙しわ、見当不良、ダブリなどが発生、③デリバリーで紙が不揃いとなり裏移りも発生、といったことがある。
この「紙くせ」に共通する原因は、印刷工場内の湿度管理が悪く、紙が部分的に吸湿・脱湿して紙の中の水分分布が不均一になり、紙が部分的に伸縮して歪むことにある。これは紙の包装紙が破れていても発生することがある。
この対策としては、工場内の空調を温湿度計で常時管理し、紙の包装を開けた後はラップフィルムなどを巻きつけて吸湿・脱湿を防止させるのが一般的だ。
工場内温湿度管理の徹底
日本には四季があり湿度も地域により異なるが、一般的に冬は20%~40%、梅雨期には70%~90%になることもあり年間での湿度差が大きい。印刷現場にとって大切なのは工場内の温湿度の空調条件を整えることだ。これは用紙の伸縮はもちろんのこと、インキの乾燥速度、ローラーの温度上昇にも影響する。そうしたことを防止するためにも工場内には温湿度計を設置して、温度は夏季には25℃±2℃、冬季には23℃±2℃、相対湿度は60%±10%に保つことが望ましい。
湿度が75%以上になると紙伸びやインキの乾燥が遅れ、40%以下になると静電気が発生しやすくなり、25%以下になれば必ず発生する。空調条件は印刷物の内容、要求品質などによっても変わることがあるので、自社の状況に合わせて決めるべきである。
会社によっては印刷作業中だけでなく、夜間と休日にも空調しているところもある。また、二重扉などを設け、外気と直接的な接触を避けた工場内での包装の開封を徹底するところもある。また、各印刷機に温湿度計を設置して印刷室内の湿度を年間55%~65%の維持に努め、さらに用紙を作業の前日に工場内に入れ、使用時と同じ環境のもとに置いてなじませておくことによりトラブル発生の防止に努めている会社もある。最近では多くの工場で空調が管理されて環境も改善されてきているが、今後とも配慮しなければならない重要な事項である。
こうした工場内の空調管理も含め、印刷品質を管理するためには測定器による数値管理が必要である。品質管理の基本を正しく理解して測定器を使い、チェック項目の数値化を進めていくことはトラブルを未然に防止することにもり、同時にオペレーター教育にもなる。
JAGATでは印刷品質を一定に保つために必要な印刷現場の数値管理手法についてセミナーを開催する。数値管理の考え方を整理して印刷品質のさらなる向上のために役立てていただきたい。
(CS部 伊藤禎昭)
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