見える化では先行管理を重視する。結果の数字を振り返ってどんなに反省しても取り返すことはできないからだ。将来を見通し、先手で手を打って結果をコントロールすることに重きを置く。
「見える化」に取り組むある印刷会社では、管理職に先行管理の意識づけと、先を見通し、対応する力をつけるため商社出身の取締役が主導して次のような取り組みをしている。
月末の締め日の二日前に、締めの予測数字の報告を義務づけている。報告する項目は、売上、仕入(材料、外注)、在庫(製品、資材)、仕掛りの4つである。これらの項目について、それまでの当月の実績数字に残り二日間での予測値を加えて報告する。
そして、月次が締まった後には、その予測値と実績値とを比較し、何が原因で数字がずれたのかを明らかにし、それは予測可能だったのかどうかを報告している。
このような取り組みをした大きな目的は、月次決算の数字が固まるタイミングを早めるためであったが、もう一つの意図として組織風土の変革がある。印刷業は受注産業であるため、まずお客様からのアクションがあって、それに対応して動き出すという受け身の文化がある。すると、どうしてもなにか問題が起こってから後手後手の対応となりがちである。そうではなく、先に起こりそうなことを予測して、問題が起こる前に先手先手で対応するという意識を根付かせたかった。
実際、この取り組みをはじめた当初は、「お客様次第で数字は大きく変わるので、二日前に予測数字を出すのは無理だし、そもそもそんなことをしても意味がない」という社内の反応であった。
しかし、受注見込みは大体把握できる(本当に突発で即納品の仕事は少ない)。印刷予定の変更はあるものの、2日後の印刷予定を一から組み直すようなことはないので、用紙の仕入予定額、用紙在庫の変動も大体読むことができる。外注費についても同様である。また、この会社では、DTP制作から製本加工、出荷まで、すべての製造工程の予定表をMISで作成しているので、生産計画を元にした仕掛金額の算出は、ほぼ自動で計算できるようになっている。
毎月1回であっても、二日後にどうなるのか?をきちんと根拠のある予測をし、その精度を高めるということを繰り返していくと、普段から先を見通すという癖がつくようになる。すると成り行き任せではなく、自ら主体的に行動して、目標に結果をあわせようとコントロールするようになる。主導する取締役曰く、まだ目に見える効果が出るところまでは至っていないと言うが、まずは「習慣化」することが成果への近道であることは間違いないだろう。
(研究調査部 花房 賢)