『印刷白書』で振り返る印刷業界動向 その2(2006-2010)

掲載日:2020年8月18日

『印刷白書』は、業界初の白書として1994年に発刊、2006年からはそれまでのバインダー形式から書籍形態へと装丁を変更するとともに、内容もさらに充実させ、26年にわたり印刷産業の動向把握に必要な公表データを網羅・掲載する唯一の存在として情報を更新し続けている。

 

『印刷白書2006』(2006年6月発刊)は、2007年にJAGATが40周年を迎えるのに先立ち、より多くより広い方々の目に触れ、活用されるべくこれまでのバインダー形式から保存活用性を高めるために書籍形式を採用し、同時に内容の充実を図った。

具体的には構成を「産業白書」「ビジネスビジョンブック」「イエローブック」の3つのセクションに分け、「産業白書」では各種統計とともに印刷産業界の動向をマクロに捉え、1年間を概括しトレンドの把握に努め、「ビジネスビジョンブック」では、印刷産業および関連業がどのような経営、ビジネスの選択をすべきか、その可能性を社会、技術、産業界全体との対比の中で考え、「イエローブック」は活用目的のデータ集として構成した。
また、本書より会員サービスの一つとして、JAGAT会員企業の代表者に献本することになった。

当時の時代背景として、インターネットと携帯電話といった情報通信のインフラ普及が、幅広い範囲にさまざまな新たな動きを起こしつつあり、デジタル化による社会環境の変化、市場ニーズは印刷付帯サービスとしてのソフト・サービス化はこれからが本番だと指摘している。

2003年以降プラスに転じたGDP、2005年以降中小印刷会社でも景気は上向き傾向であったが、印刷業界はDTPの進化普及によるプリプレス工程の加工度低下(売上減少)、歯止めのかからぬ価格低下と事業所数減少などにより、1998年以降8年連続出荷額マイナス成長となった。

『印刷白書2007』では、JAGAT創立40周年を踏まえ、印刷産業のこれまでの40年を「産業」「人材」「技術」の観点から捉えた特別編を加えた。
好景気は一部の大手企業や東京に限られた話。中小企業や地方では不振が続き、企業間格差も増してきた。2005年の印刷出荷額は7兆1202億円。景気連動ながらGDPに対する印刷出荷額比率の低下は常態化したと分析している。

『印刷白書2008』から、ISBNを付し書店流通しやすくした。
業界の状況を、DTP技術の進歩と普及は合理化メリット以上のプリプレス分野の受注減少を印刷会社にもたらしてきたが、ようやく歯止めがかかる、しかし印刷需要はまだ増加するも供給力過剰による価格競争は続き印刷産業不信の原因となっている。と捉えている。

工業統計表による2006年の推計を含む全事業所の印刷産業出荷額は7兆108億円であり9年連続マイナス。いよいよ7兆円の大台割れが目前に迫っている。メディアの多様化によるプリント系メディアの相対的な領域縮小が進んでいる。

『印刷白書2009』からは特集ページを設置。「地域活性化と印刷産業」をテーマに、印刷会社による地域ブランドやグローカルにいち早く言及したが、当時はまだ反響は少なかったように思う。
地方分権や高齢化社会の到来により地域の自立が叫ばれ、経済活動としての地域資源を再度見直した新たな産業化の一環として、地域ブランド化育成がクローズアップされている。
地域ブランドをいかに育成し、地域本来がもっている、内向的、保守的な側面を勘案しつつ、拡販していくかが重要視されている今日、印刷産業や、広告業のようなクリエイティブな役割を担う業態が地域活性化の”一助”になるといっても過言ではない。と結んでいる。

2007年の印刷産業出荷額は7兆1417億円と若干プラスに転じたが、これは工業統計の調査項目を変更(追加)したことによると思われる。
印刷業が今後取り組むべき道筋の一つは受注産業の強みを生かせる「顧客」の要望に「深く応える」ワンストップサービスを推進することである。と提言している。

『印刷白書2010』より、内容、レイアウトを再リニューアルし、官公庁の出す8月末の統計資料を反映するため発刊時期を9月とした。これにより統計資料(図版)をこれまでに比べて50%以上増やしている。
特集は「世紀の分水嶺~新しい社会の仕組み」とし、 21世紀となって10年、社会全体の大きな環境変化の中で「公益資本主義」という新しい課題について考察した。

「平成20年工業統計表(産業編)」によると、2008年印刷出荷額は6兆9037億円で、1987年以来の7兆円割れになった。2008年は年初から再生紙偽装問題と資源価格高騰による用紙値上げに加え、リーマン・ショックによる金融危機の深刻化があり、印刷業界にも大きな影響があった。

本稿では、リニューアル発行した『印刷白書2006』から『印刷白書2010』までを元に、ごく一部を抜粋して振り返ったが、最新情報をもとに業界動向を把握できる『印刷白書2020』は、現在10月下旬の発行を目指し編集制作をスタートさせている。特集には「コロナウイルスで変わる社会と印刷(仮)」を取り上げるので、ご期待いただきたい。

(JAGAT CS部 橋本 和弥)

 

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