JAGAT info 6月号では大量のデジタル印刷機を保有し、日刊紙の印刷を得意としている株式会社東伸企画の事例を報告した。今回はその一部を抜粋して紹介する。
日刊紙に特化した印刷会社
株式会社東伸企画は東京都墨田区にあり、都営新宿線菊川駅から徒歩1 分という好立地にある。強みとしているのが、日本トップクラスのデジタル印刷機の保有台数を生かした日刊紙の印刷、および配送システムである。原稿を受け取った数分後には印刷を開始し、わずか1 時間で発送を始める。この超短納期対応はいかにして可能となっているのか。東伸企画取締役の宮木豊史氏にお話を伺った。
東伸企画が現在扱っている日刊紙は小ロットがメインであり、多いものでも3000 部、少ないものでは150部程度のものもある。一般に業界紙は、自前の印刷機で冊子を印刷して配送するという場合もあるが、全国への流通網を維持することは簡単ではない。発行部数の減少に伴って、宛名の管理から印刷、配達までを請け負う東伸企画に一括で依頼されるという例が増えている。 デジタル印刷機は早くから取り入れており、20 年前に最初の機械を導入した。6年前にデジタル印刷機への完全移行が終わり、カラー機が増えるなど、設備の質も向上している。
日本トップクラスのデジタル印刷機保有台数
工場の中をのぞいてみると、まず驚かされるのがデジタル印刷機の台数である(写真3)。モノクロ機としてキヤノンのVarioPrint の6330(写真4)と6320が2 台ずつ。コニカミノルタのbizhub PRESS 1250(写真5)が6 台、Accurio Press 6120 が2 台。カラー機としてRICOH Pro C7110 SHT(写真7)が4 台並んでいる。
工場内の様子で印象的だったのは、全体的に静かだということだ。分刻みのスケジュールということから、工務やオペレーターの指示が飛び交っている現場を想像していたのだが、各自が整然と作業をこなしている。
また、他の印刷工場と比べて、積まれている印刷済みの用紙がほとんどないのも特徴的だ。入稿から発送までがタイトなスケジュールのため、印刷したらすぐに製本し、続けて発送準備に入ってしまう。時間がないことにより、かえってスムーズに進んでいる部分もあるのだ。これが可能となっているのは、余裕をもってデジタル印刷機をそろえているからである。マシントラブルでどれかの機械が止まっても、空いている他の印刷機に振り替えることでロスを吸収している。
基本的には質よりも早さが重視される日刊紙であるが、近年では品質も大きく向上している。モノクロについては生産性・品質ともにVarioPrint が素晴らしく、特に表裏同時転写を採用しているため見当性が非常に高い。VarioPrint は、欧米の印刷会社で数多く使用されており、モデル6330 はA4 両面が1 分間に328 枚出力でき、それに対応する大容量の給紙部と排紙部も持っている。デジタル印刷機では、製本ラインと生産力との差がアンバランスになることも多いが、VarioPrint では抜群の生産力から製本ライン側の待ち時間を軽減することができ、大きな強みとなっている。 また、顧客からの要望で、表紙にカラー写真を入れられるようになったのも大きな変化である。日刊紙にカラー写真を入れるのは、かつては考えられないことであったが、デジタル印刷であれば可能である。現在はRICOH Pro C7110 SHT が4 台あり、カラーについても余裕を持って印刷を進行している。今後は日刊紙のカラー化を新しい価値として、顧客にもアピールしていくとのことだ。
都心型の印刷会社の利便性を活用
東伸企画が都心にある理由は、扱っているものが紙(印刷物)だからである。締切時刻を伸ばすために企業努力を重ねてきたが、最もネックになっているのが郵便局の配達受付終了時刻である。東伸企画は銀座郵便局から15 分圏内にあり、ぎりぎりまで入稿を伸ばせる理由になっている。また、2017年には大阪に支局を作り、大阪以西の配達先はそちらで印刷している。
インターネットで最新の情報が手に入る世の中だからこそ、配達が翌々日になってしまっては意味がない。たった一日で商品価値がなくなってしまうため、超短納期の需要はより増しているといえるだろう。東伸企画はデジタル印刷の強みを生かし、さまざまな業界を支える情報を今日も伝えている。
(「JAGAT info」2020年6月号より抜粋)
(JAGAT 研究調査部 松永寛和)