『印刷白書』で振り返る印刷業界動向 その3(2011-2015)

掲載日:2020年9月8日

『印刷白書』は、業界初の白書として1994年に発刊、26年にわたり印刷産業の動向把握に必要な公表データを網羅・掲載する唯一の存在である。この間2度のリニューアルを経て特集ページの掲載や統計資料の増加など内容を充実させながら、情報を更新し続けてきた。

2011年3月、東日本大震災が発生、その後の原子力発電所の事故により、これまで経験したことのない状況に直面し、産業、企業に多大なる影響と損害をもたらした。
この年の9月に発行した『白書2011』では緊急特集「震災とメディア」を組んだ。

震災後のメディアのあり方、メディアの使命や業界の果たすべき役割、復興、公益性、公共性などを考察し、信頼ネットワーク再構築の提言を行った。
2009年の出荷額は前年比8.4%減の6兆3205億円と過去最大の落ち込み幅を記録。ただし、デジタル印刷、電子書籍など新たなデジタル技術への対応に成長市場が見えてきた。

2012年、公益法人制度改革によりJAGATは印刷業界で初めて公益社団法人に認定、『印刷白書2012』では「印刷メディアと公益性」を特集し、メディアの役割と公益性・公共性などを考察した。

2010年の印刷産業出荷額は、工業統計調査速報版で6兆円割れと伝えられていたが、確報版で6兆446億円(前年比2.1%減)とかろうじて6兆円をキープした。なお、推計を含む全事業所出荷額は6兆1761億円(同2.3%減)である。

『印刷白書2013』では特集に「デジタルイノベーションと新領域ビジネス」を取り上げ、印刷産業におけるイノベーションを再考。
デジタル化の総括とともに、価値創造のため今後の新たな挑戦、事業展開、印刷会社が持つべき知識、スキルについて考察。BPOビジネス、デジタル印刷を活用したバージョニング印刷、印刷とWeb・電子書籍とのリンクなど、印刷会社が目指すべきソリューションビジネスについて提言した。

この年8月に、全企業・全産業を対象として新設された「平生24年経済センサス-活動調査」の確報が発表され、出荷額で見ると5兆7087億円で6兆円を割った。やはり東日本大震災の影響は大きく、前年比7.6%減と金融危機を受けた2009年に次ぐ大きな落ち込み幅である。

『白書2014』の「特集」は、イノベーションを喚起するため「デジタルマーケティングからみたメディアビジネス」をテーマとした。
進化するメディアビジネスを捉え、消費者視点によるマーケティングの必要性を確認して、印刷の新たな役割とその実現可能性を展望している。
現在JAGATが主張している「デジタル×紙×マーケティング」のはしりといえる。「インバウンド(プル型)マーケティングが主流になり、印刷が唯一絶対のメディアからOne Of Themになってしまった今、印刷物の効果が上がる方法を提案刷ることも印刷ビジネスになる」と訴えた。

2012年の印刷出荷額は5兆6269億円で、2011年の大震災による大幅減による反動もあり、前年比1.6%減は2008年のリーマン・ショック以降最小の下げ幅である。

2015年、JAGATは『未来を破壊する』(2012年)で業界に大きなインパクトをもたらしたジョー・ウェブ博士の新刊『未来を創る』を翻訳出版した。
『印刷白書2015』の特集でも「マーケティング発想によるデジタルメディアビジネス」を取り上げ、『未来を創る」をベースに、大量印刷・大量配布の時代は終わりを告げた今、マーケティングオートメーションを始めとするデジタルマーケティングの手法を取り入れ、いかに費用対効果の高いメディア提案をするかなどの課題に取り組んだ。

2013年の印刷産業出荷額は5兆5450億円で、依然として減少は止まらないが下げ幅は1.3%減と前年に続き小幅となり、年率5%前後の急激な縮小曲面は終えたとしている。

本稿では、『印刷白書2011』から『印刷白書2015』までを基に、出荷額の動きを抜粋して振り返ったが、最新情報をもとに業界動向を把握できる『印刷白書2020』は、現在10月下旬の発行を目指し鋭意編集中である。特集には「コロナウイルスで変わる社会と印刷(仮)」を取り上げるので、ご期待いただきたい。

(JAGAT CS部 橋本 和弥)

 

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