JAGAT info 7月号ではクラウドを編集に活用し、小ロット出版を行う真興社の事例を報告した。今回はその一部を抜粋して紹介する。
小ロット出版への参入
真興社は代官山駅から徒歩5分という好立地にある医学書をメインに扱っている印刷会社である。印刷業界において、2009 年にJDF の優れた活用事例を表彰するCIPPI アワードの世界大会で2冠を受賞したことで知られている。本稿では代表取締役の福田真太郎氏のお話から、IT の蓄積を生かし、デジタル印刷における小ロット出版を提案してきた真興社の新たな取り組みについて紹介する。
真興社のデジタル印刷は復刻本の出版から始まった。しかし、復刻本の再版需要はしばらくすると減退してしまい、年に数冊しか仕事が来ないようになってしまった。オフセットで刷った新刊をデジタル印刷で少部数重版するという形態は、一般にはスタンダードではあるが、医学書の場合、出版社が難色を示すことが多かった。人の命に関わる医学書では、版によって少しでも図版の色調が変わるのはNG である。それならば、最初からデジタル印刷で出版する方が受け入れられる。そのため、真興社ではデジタル印刷での小ロット出版に力を入れることになった。しかし、そこには大きな課題がある。部数が多く、例えば一件100 万円というような仕事であれば、営業が手厚く対応し、色校を5 回、10 回と持っていくことも許されるが、少部数になれば、同じ工程では採算がとれない。
かといって、医学書出版の世界では、簡単に校数を減らすこともできない。印刷会社だけの話ではなく、業界全体でコスト構造を見直さなければ、小ロット出版が軌道に乗らないことは明らかだった。
そこで生きたのが、真興社がそれまで培ってきたITの力であった。同社では「Web Factory」というオンラインシステムを提唱している。これはリモート校正を行うSCREEN のEQUIOS Online やDTP 制作の進捗状況を「見える化」するコニカミノルタのNeostream
Pro といったソフトウェアと連携する自社開発のシステムで、色校やゲラのやり取り、編集履歴の管理などをオンラインで完結させることができる。真興社は自社内の編集部でテストを行い、計3 度ものバージョンアップの末、満を持してリリースした。
しかし、リリース当初は出版社の反応は非常に冷たかったという。PC 画面では目が滑るという意見が当然のように出てくる。そういった場合には出版社側で印刷をしてもらい、従来通り赤字を入れてスキャニングしてもらうというフローを考えていたが、ではその印刷代は誰が出すのかという話が出た。どんなことでも、初めてのことは難しい。 なかなか理解を得られなかった「Web Factory」であるが、意外なことで導入が進んだ。今回のコロナショックである。今までは校正紙を持参していた出版社も、部外者が入れなくなってしまい、オンラインに移行するしかなくなったのである。一度使ってもらえれば、便利なことに間違いはなく、今回のコロナショックが一段落したとしても継続的に使ってもらえるのではと福田氏は見ている。
印刷+αの価値を提示する
現在の真興社のデジタル印刷機はコニカミノルタの機種に統一されている。カラー機としてAccurioPressC3080とC6100、bizhub PRESSC1070とC71hcを保有。モノクロ機はbizhub PRESS 1052と2250Pをそろえている。
都市部の場合、出版印刷では製本会社が指定され分業体制になることが多いが、小ロット出版では輸送費用を捻出することが難しい。そのため、真興社内で製本まで完結できるようにする必要があった。そこで、ホリゾンのものを中心に、小ロット対応の断裁機や帳合、製本、ラミネートといった一通りの工程が可能な機材をそろえている。
デジタル印刷機をコニカミノルタに決めた理由は、真興社が進めてきた自動化や工程管理との親和性を考えたからである。印刷ソリューション群AccurioProシリーズを導入することで、デジタル印刷機もこれまで時間をかけて構築してきた管理システムとつなげて運用することができている。
真興社では、JDF やNeostream Pro を活用し、間接コストを削減することで生産性の向上を図ってきた。内部コストの削減は真興社では一定の成功を収めたが、この効率化は新規顧客獲得の手段にもなってきている。その一つが先述の「Web Factory」である。他社との差別化要因となり、価格競争ではない手段で顧客を獲得する武器となっている。顧客もコスト以外に見るところがないから、買い叩くしかないのである。だからこそ、印刷物+αを説明できる会社は今後も生き残っていける。
真興社では印刷物だけではなく、新しい仕事の進め方も含めて提案している。それが段々と受け入れられるようになってきた。時代は変わってきている。小ロット出版はこれからだと福田氏は胸を張った。
(研究調査部 松永 寛和)