今回は「感性マーケティング」について考える。
JAGAT 専務理事 郡司 秀明
感性マーケティング
コロナ禍で印刷を取り巻く環境も大きく変わってしまった。チラシに代表される大量印刷物(オフ輪)は相当影響を受けていると思う。JAGATが言い続けてきた「デジタル×紙×マーケティング」も、確かに仕掛けが大きくなると二の足を踏む場合もあり、影響も少なくない。しかし、大量印刷物の場合はコストも大きく、理由はともあれ一括ストップという場合が多く、印刷物の中では際立って影響を受けている。チラシの場合の最大インパクトファクターは値段であり、他より一円でも安いというのが、インパクトになる。しかし、コロナ禍にあって、モノを大量に買おうとしても難しく、結果的に価値観が多様化しているのだ。
例えばマスクを買おうと思ってもなかなか思いどおりの製品が見つからず、それだったら少し高くとも生産国にこだわったり、機能にこだわったり、デザインにこだわったりしている。大量に欲しい場合は、生産国より大量に手に入るがキーファクターとなる(写真1)。このように一億の人間が全員、安くて良いモノ(画一的に)を欲しがっていた時代は、チラシのような大量印刷物の効果もあったのだが、さまざまな価値観で評価される場合、大量印刷物は価値が半減してしまう。
その中で「デジタル×紙×マーケティング」の精神は、コロナ禍でも生きているのだが、何分にも景気が悪く、お金を湯水のようには使えない。そうなってくるとお金のかからないウェブが注目されてしまうわけだ。しかし、少し経済活動が戻ってくると、紙の効果が再注目されるようになり、ROIが再度重視されだしているのだ。確かにウェブを使えば、One to Oneや個別ターゲットに対しての個別(グルーピング含む)のアプローチが可能である。しかし、何分に「その効果は?」というと、やっぱり疑問が残るのだ。
そこでその解決策として提案されたのが、感性マーケティング(触覚や触感マーケティングとも言う)という、理論だけではなく五感に直接訴えかけるマーケティングだ。五感といっても触覚(手触り)と視覚(色・デザイン)が主で、香水や日本の香の匂いなどの嗅覚も含まれる。印刷の場合は、デザインや色のインパクトが強く、それを紙の手触り等の触覚でより強烈に引きつけるわけだ。
デザインといっても単なる紙の上のデザインだけではなく、リボンが付いたり、そのリボンに文字が表記されたりとさまざまな工夫でインパクトをより強めていく。コロナ禍では3密が敬遠され、会食等が御法度になっているが、それをよそ事のようにUber Eatsや出前館は絶好調である。単なる食事だけではなく、より付加価値がプラスされたモノ、例えば結婚記念日に花束とカードを添えてとか、誕生日にプレゼント等を添えてのサービス等、+αの付加価値はいくらでも考えられる。印刷会社ならではのサービスも考案できるはずだ。カードだったら印刷業ならではのデザイン、紙種、表面加工等々、五感に響く印刷物は考案できるはずである。
ただし、印刷業が陥りやすいのが、自己満足的品質である。印刷会社が「わが社の印刷品質は?」と説明し出す場合、多くは自己満足的なモノが多いということである。これを冷静に回避できれば、マーケティング理論ガチガチのウェブマーケティングだけのアプローチより、感性マーケティングの方が効果が大きいのは明白である。決して、忘れないでほしい。マーケティング理論に裏付けられて(これがないとダメ!)、かつ感性に訴えられれば大きな効果が上げられるということである。
感性(触覚)マーケティングは東洋的とも言えるが、欧米のブランド、例えばアメリカのティファニーだってティファニーブルーを多用した素敵なデザインの印刷物を多く配布している。アップルのiPhoneの箱だって、コストダウンしたとはいっても、蓋をかぶせたときのあの独特の閉まり方にはこだわりを感じる。独特のブランディングのためにはコストを確保しているのである。世の中、不要不急の排除に傾いているが、こういうときだからこそブランディングを再度訴えかける良いチャンスと言えるだろう。
(JAGAT専務理事 郡司 秀明)