今回は「ハイレゾ」について考える。
JAGAT 専務理事 郡司 秀明
ハイレゾ(その壱)
今回は閑話休題的に、オーディオのハイレゾの話でもしてみたい(とはいっても、最終的には画像の解像度の話につなげるつもり)。私のように1970年代に学生だった世代はオーディオに夢中だった時期があるはずで、レコードが高価だったからカセットテープにダビングして、普段聞くのはカセットテープだった。好きな女の子に特別なカセットテープを編集してプレゼントするのも、はやっていた。選曲や録音テクニックなどでは、男のプライド競争をしていた。
また、録音といえば、エアチェックといってFM放送を録音して聞いていた。今から思えば「ラジオの音質だろ?」と疑問だらけなのだが、あの頃はFMラジオ番組表の付いた雑誌(『週刊FM』や『FMレコパル』)が販売されていて、貧乏学生は録音して音楽を楽しんでいたのだ。私は子どもの頃、アマチュア無線をやっていたので、TRIO(通信機メーカーで、現在のKenwood)のチューナーでエアチェックにはまっていた。生活レベルを測る尺度にエンゲル係数があるが、それをもじれば当時の男子大学生はオーディオ係数が高かったと思う。
さて、ハイレゾの話だ。レゾ(=レゾリューション)とは解像度のことだが、ハイレゾなので高解像度を意味する。レコードはアナログなので、技術が進化すればノイズを最小に押さえて(S/N比を高め)、主信号(音波)の波形を正確に再現して、原音をより忠実に再現することが可能となる。終わりのない進化が続くのがアナログの世界で、デジタル革命がなければ、レコードは溝がどんどん高精細化して超高音部再生まで可能になったはずだ。対してデジタルの世界は、節目節目(CDなどメディア規格が決められるときが多い)に技術がガクンと進化して、次の規格改定まではその時代が続く。
オーディオファンにスタート時から評判が悪かったのがCDの規格で、44.1kHz(サンプリングレート)でサンプリングを行っているのが粗すぎるというのだ。印刷でいえば画像の解像度に相当し、400dpi以上は人間の目では識別できないことから、仕上がりで400dpiある画像データなら十分といわれているが、ちょうど300dpiくらいで印刷原稿にしている感じだ(微妙?)。
44.1kHzでサンプリングされた音声データは、20kHz以下は表現できるので理論的にはCDで十分なはずなのだが、何かと難癖を付けたがるのがマニアというものだ。実際には人間の耳には聞こえない高周波部分、ギターやバイオリンの弦がこすれる音などが、良い録音環境だとアナログレコードでは再生されている。それを「レコードの味」とか、「アナログの良さ」とか言ったりしているのだが、実際にはどんなに耳の良い人でも20kHz以上の音が聞こえる人はいない。指使いで出る音の一部分や高周波の付随音の20kHz以下が聞こえていて、聞こえない高音部は勝手に想像しているだけだと思う。
この「サンプリングレートが44.1kHzなのに20kHzしか再生できていない」理由には、立派な科学定理があり、「標本化定理(サンプリング定理)」と呼ばれている。「アナログ信号をデジタル信号に変換する際にどの程度のピッチでサンプリングすべきか」ということを科学的に定義したものなのだが、ハリー・ナイキスト氏が提唱したので「ナイキストの定理」とか、クロード・シャノン氏が証明したので「シャノンの定理」ともいわれている。
標本化定理とは「再現したい周波数の二倍の周波数でサンプリングする必要がある」というもので、この定理を当てはめれば、44.1kHzでサンプリングした音は22.05kHzまでが再現可能な周波数であるということができる。20kHzでサンプリングした点をプロットしていくと20kHzの正弦波も描けるが、プロットした点を通る3倍の60kHzの正弦波だって描けるわけである。だから倍のサンプリングが必要になると理解してくれればよい。この邪魔なノイズはエイリアシングノイズ(繰り返し雑音)といって、デジタルならではの問題点となっており、実際にはフィルターで濾過してCD音源にしているのだ。
では、なぜサンプリングレートに44.1kHzが選ばれたかというと、テレビの規格が関係している。日本ではアメリカのNTSC規格が採用されているが、490/2ライン×60Hz×(6サンプル/2ch)×(14/15)となる。また、欧州で使われている走査線の細かいPALは588/2ライン×50Hz×(6サンプル/2ch)ということで、両方ともピッタリ44100Hzとなる。44.1kHz以上のサンプリングピッチで音楽を再生しようというのがハイレゾオーディオなのだが、使用するアンプやスピーカーもハイレゾに対応していないと意味がない。これについては次号で詳説したい。
(JAGAT専務理事 郡司 秀明)