空店舗・廃校の活用で、地域に新しい交流の「場」を創出

掲載日:2015年4月20日

近年、「空家・空き店舗」や「廃校」の増加が問題となっている。しかしそれらを地域を活性化する「資源」とみなし、地域内外に住む人たちの新しい交流・活動の「場」として活用する事例も増えている。

文部科学省の資料によると、商店街の空き店舗は、平成15年度の7.31%に対し、平成24年度は14.62%と約2倍に、全国の公立学校における廃校発生数は平成15年度の2884校に対し、平成25年度は7926校、約2.75倍と、それぞれこの10年間で倍以上になっている。

地方都市はもちろんのこと、都心部でも目立ち始めた「空家・空き店舗」、「廃校」だが、近年はそれらを重要な地域資源の1つと考えて新しい価値を付与、利活用しながら交流・活動の場として生まれ変わらせ、地域活性化のランドマーク的な機能を持たせる事例が増えている。

地域が持つ個性に新しい才能を上乗せ、新たな価値を生み出す

都内有数のモノづくり集積地である東京・台東区の「台東デザイナーズビレッジ」は、2004年4月に旧小島小学校の校舎を利活用し、ファッション関連ビジネス分野での企業を目指すデザイナーを支援する施設として設立された。デザイナー・クリエイターが単独で起業する際の様々なリスクを軽減できるよう、オフィスや制作スペースなどのハード(施設)だけでなく、施設マネージャーによるマーケティングアドバイスや区・地元金融による各種支援メニューなどソフト面でも援助を受けることが可能だ。

さらに、同じ目標や志を持つ入居者同士はもちろんのこと、地元・台東区の産業界を始め幅広いネットワークが構築され、それぞれの強みを掛け合わせ、コラボレーションしながら、ほかに類のないの魅力や価値を持った作品や商品を生み出し、新たなビジネスへと発展することもあるという。

これは、地域が持つ「モノづくりのまち」という歴史や個性、様々なモノづくり企業が存在する環境を生かし、廃校になった小学校に、地域外の才能あるデザイナー・クリエイターと、地域内の歴史ある産業・企業が出会える場という価値を付与、地域の新たな象徴、「場」として生まれ変わらせた事例である。

産学官連携で「空き店舗」を新たな交流拠点に

次に、商店街の「空き店舗」に注目、日常的に地域住民の誰もが訪れ、使うことのできる場所としてを再活用している事例として、東京・国立市富士見台にあるNPO法人「くにたち富士見台人間環境キーステーション」の取り組みを紹介する。

くにたち富士見台人間環境キーステーションは、国立市谷保地区にある商店会と国立市、一橋大学、地域住民が協力し合い、地域活性化やまちづくりを目的に活動している産官学民協働のNPOとして、2003年に設立した。

現在は、一橋大学の学生サークルが中心となり、まちづくりのために運営するコミュニティカフェ「ここたの」を始め、地元産の野菜や物産を販売する「とれたの」、市民向けレンタルスペース「KFまちかどホール」、市民向けの「まちかど教室」・「まちかどゼミナール」といった生涯学習講座などの企画・運営もしている。

コミュニティカフェ「ここたの」は、JR谷保駅から徒歩5分の団地一階部分の商店街内にある空き店舗に出店されているが、実際に店舗を訪れると、店内は学生から子育て世代、お年寄りなど様々な客層で賑わっていた。地元住民・学生が開発したランチやスイーツも好評のようで、全てのメニューは普段から無理なく楽しめるような価格帯に抑えられている。

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■木のぬくもりが感じられるコミュニティカフェ「ここたの」

「ここたの」では飲食や交流スペースの提供だけでなく、参加者が気軽に自分の好きなパフォーマンスを発表できるステージイベント「ここたのナイト」を毎月開催、「交流」と「自己実現・表現の場」という機能を併せ持ったカフェとして、地元コミュニティの再生に寄与しながら地域内で独自の存在感を放っている。

まだまだ制度上の制約・問題も残る「空き家・空き店舗」「廃校」の活用だが、今後地域の活性化を図る有効な資源の1つとして、様々な規制が緩和されていくことが予測される。そうなった際、それらにどのような役割を担わせ、地域内外の人を集め、新しい交流を生むような交流拠点に育てるのか。

いずれの事例にも当てはまることだが、空き店舗・廃校をただ再活用するだけでは、そこに新たな人の流れや価値は生まれない。地域が持つ歴史的背景や特性、魅力、産学官など協力できる外的な環境はあるのか、個性的な能力・才能を持つ地域住民の有無など環境をしっかり分析し、それを生かしながら地域が抱える課題を解決する手法を探る、という姿勢が重要になっていくだろう。

(研究調査部 小林織恵)