三和印刷工業では、主にAV機器、デジタル製品の取扱説明書やサービスマニュアル等を制作している。XML技術を活用したコンテンツ管理と自動組版、HTML自動生成など、製品マニュアルのワンソースマルチユースを実現し、多言語対応にも効果を上げている。
同社代表取締役の竹内栄司に話を聞いた。
■XML技術を導入した背景と方法
顧客は電機メーカーで、テレビ、DVDレコーダー、ビデオカメラ、デジカメなどのマニュアルを制作している。仕事量は年々減っているが、競合も多く品質や納期面の要求はより厳しくなっている。DTPなど従来の方法では限界があり、大幅な原価削減や差別化を模索していた。
XMLはタグ付きテキストデータであり、1つのデータからスタイルシートを変えることでレイアウト変更や印刷用PDFを書き出し、自動でHTMLを生成することができる。DTPを自動化し、Webマニュアルも同時に自動生成できることから、XML方式を導入することを決定した。XMLの生成方法は、WordやInDesign、XMLエディタも検討したが、オペレータにXML知識が不要で、ワンソースマルチユースが可能なCMSを自社開発することに決定した。データベースのサーバーにテキストやイラスト、スタイルシート等が格納され、そこからXMLが自動出力される。XSLTスタイルシートを経由してアンテナハウスのAH Formatterという変換エンジンでPDFに書き出す。HTMLもCSSを組み合わせて自動でアップする仕組になっている。
■システム開発の経過と成果
初期の段階で、テキストとイラストを多言語も含めて全部データベース化し、PDFとWebマニュアルを同時に作ることができ、また取説の固有名詞を管理するシステムを2年かけて開発した。最初からいろいろな仕組みを一遍に立ち上げたため、安定もせず、効率化もできていなかった。しかし値段だけは安くできたので、顧客も許容してくれた。その後、約3年かけてシステムを強化した。1つのモデルの取説を複数の人間で編集できるようにした。また、例えば5モデルくらいを一度に作り、最小限の修正作業で各ファイルに反映できるようにした。PDFとHTMLも同時に作ることを実現した。DTPに追いつき、追い越したというところである。
さらに、XMLと翻訳システムを連動させた。検査機能や自動メンテ機能を付加し、作業を大幅に削減することができた。システム的に品質向上する仕組みを実現することができた。現在、6年が経過し、編集システムiTrexと翻訳管理システムiTosに加え、PettssというGUIの用語データベースが連動している。
システム導入の効果として、以前の体制よりDTPオペレータと校正者を削減し、執筆者を増やすことができた。XSLTというスタイルシートの設計は、当初外注していたが現在は内製化している。納期面でも、多言語版を含めると大きな効果が出ている。レイアウトも翻訳準備も自動化したため、InDesignで約20日間かかっていた業務が約10日でできるようになった。顧客からも高い評価を受けている。
■今後の展開
Web化することで取扱説明書の付加価値を上げたいと考えている。通常の取説は、目次と索引で必要な事項を探す必要がある。目次にできることを並べているだけなので、どの機能を使って良いかわからない。デジカメなどでは、目次だけで100項目くらいあるので全部は読まれていない。
Webマニュアルであれば、「初めて使うときは」をクリックすると、初めて使うときの手順をエンドユーザーにナビゲートすることができる。「めざまし時計代わりに音楽を再生したい」とか、「プレイリスト風に使いたいときはどうするか」等、事例を挟みながら説明することができる。また、ネットワーク接続は他メーカーの機器と接続するため、取説で説明することは非常に厄介だったが、Webなら条件を選ぶことによって絞り込むことができる。
使い方がわからないとエンドユーザーはメーカーに電話するが、そのサポートもコストになる。Webマニュアルを提案することで、メーカーではコスト削減になり、印刷会社の付加価値にもなる。しかも、手間や費用をかけて制作するのではなく、紙を作ったついでにHTMLにすることを選ぶだけである。これがPDFとHTMLを同時に印刷するという事例である。
(JAGAT 研究調査部 千葉 弘幸)