近年、講談社、小学館など大手出版社が本格的なデジタル印刷・製本設備を導入した。出版社が自前の設備で小ロット出版に取り組むことであり、話題となっている。
これらは小ロット出版の重要性を意識した取り組みと言える。また、新たに中小出版社向けの小ロット出版サービスが発表された。
SCREENグラフィックス&プレシジョンソリューションズの平林利文氏に、オンデマンド印刷による新出版サービスについて伺った。
中小・専門書出版の課題
3年前から、中小・専門書出版社の団体である一般社団法人出版梓会と、共同でさまざまな勉強会を開催し、情報交換を続けてきた。その結果分かったのは、中小・専門書出版社は50部~数100部程度の小ロット出版を実際に要望していることである。
しかし、書籍を製作する印刷会社から見ると、小ロットの発注ではコンスタントに仕事量が確保できないため、結果的に割高な価格となってしまい、折り合わないという現実があった。
そこで、発注側、受注側の両方にとって満足できる方法を模索して、新たな出版サービスに取り組むことになった。そのための団体がデジタル・オンデマンド出版センターである。参加しているのは、光和コンピューター、欧文印刷、研文社、京葉出版流通倉庫とスクリーン、メディアテクノロジージャパンである。
このセンターでは、底本からのスキャニング(PDFデータ化)から、印刷・製本、流通までを受託する。このサービスを2014年7月の東京国際ブックフェアにて発表し、本格サービス開始に向けて準備中である。
ロングテールを束ねる仕組み
現在、オフセット枚葉印刷では異種多面付け(ギャンギング)によって、多品種小ロットに対応し、劇的な効率アップが実現されている。
ページサイズ、部数、折り加工情報などのパラメータを設定すると、多面付けして最適化する自動ギャンギングソフトも各メーカーから提供されている。その代り、用紙と部数は一定という制約はある。
それに対して、ロールタイプのインクジェット印刷におけるジョブギャンギングとは、1本のロールの中に複数のジョブを組合せることである。つまりA社、B社、C社からの注文を束ねて、1ロールでこなし、加工までできれば、小ロットであっても大幅な効率アップや低価格化が可能である。ただし、用紙、仕上がりサイズ、製本様式が一定という制約はある。
出版社には「リメイク本」という考え方、方式を提案している。
仕上がりサイズはA5、並製本、カバー・見返しなしと統一する。用紙も標準化して、選択することはできない。再版であっても新奥付け、新ISBNコードを付け、新価格で出版していただく。
既にこの仕組みで8タイトルを制作し、販売した出版社がある。昭和30年代の専門的な分野の書籍のリメイク版だが、早々に完売してしまい、再版の話も出ている。
つまり、50部単位であればすぐに完売する。何百部、何千部を売ることはたいへんだが、数十部であれば売ることができる。
日本で発行された出版物は182万点。95万点が現在入手可能とされている。しかし、本当に入手可能なのは60万点しかないそうだ。つまり、35万点は事実上の絶版となった「品切れ重版未定本」である。
これは、出版社や書店から見ると注文があっても販売することができない機会損失であり、読者から見ると読みたい本が買えないという事実である。どちらにとっても望ましくない状況である。
小ロット出版を実現することで、読者にも満足してもらえるし、長期的に利益を生み出すロングテール商品となり得る。このような仕組みが本格化していくことを願っている。
<JAGATトピック技術セミナー2014から>
(まとめ:JAGAT研究調査部 千葉 弘幸)