「JAGAT印刷産業経営動向調査」より新技術、サービスの導入状況、満足度、導入意向を紹介する。
JAGATが毎年、会員企業を対象に実施している「印刷産業経営動向調査」の2019年度の調査結果から新技術/サービス/システムの導入状況、満足度、今後の導入意向についての結果を紹介する。本調査回答企業の平均従業員規模は103名、1社当たりの平均売上高は19.3億円であり、中堅クラスの印刷会社が中心である。
新技術、サービスの対象は以下に示す18項目である。経年変化を追いかけることを意識しつつ、状況の変化にあわせて少しずつ項目の入れ替えを行っている。最近3年間で追加された項目は、デジタル加飾(バリアブル加飾)、RPA、AI(人工知能)となっている。
設問内容としては、(1)現在導入しているかどうか、(2)導入している場合の満足度、(3)今後3年以内に導入予定があるかどうかの3つである。満足度については、A:大変満足、B:やや満足、C:普通、D:やや不満、E:非常に不満の5段階評価で回答してもらい、A:5点、B:2点、C:0点、D:-2点、E:-5点という重みづけで点数換算して満足度を数値化している。
図2は現在導入が多い順に並べたものである。第1位は4年連続でバリアブルデータ印刷であり、導入率は61.8%(前年 64.4%)であった。第2位は自動面付で51.0%、第3位は品質検査装置の50.0%となっている。3位までの顔ぶれは前年と変わりはないが、自動面付は前年から10ポイント近く導入率を伸ばしている。
導入率、導入予定、満足度という3つの指標を組み合わせると印刷業界への定着度がみてとれる。先行指標として導入予定の数字が伸びて、その結果導入率が高まり、運用が安定すると満足度が高まるという動きになる。
例えば、図3はバリアブル印刷の経年変化をみたものである。導入率は60%前後で高位安定している。一方で、今後の導入予定は低位で安定している。そして、満足度はずっとプラス評価なので、運用もすっかり定着しているといえる。設問項目からそろそろ外してもいいかという判断材料となる。同様の動きをした項目にカラーマネジメントがあった。
一方で、普及期にある技術としてプロセスレスプレートの動きを紹介する。導入済みと導入予定の数値が拮抗して伸びている。最新調査では、導入予定のほうが上回る結果となっている。また、新しい技術にも関わらず満足度はずっとプラス評価なので、技術的にも運用的にも安定していると言える。
コロナ禍の影響がでていると思われる項目を3つ紹介する。オンライン校正、営業支援ツール(CRM/SFA)、動画制作の3項目である。
オンライン校正は、直近2年間で導入率、導入予定とも大きく上向いている。かつては満足度は高くはなかったが、2016年を境に安定してプラス評価となっている。製品の成熟度とともに運用が軌道になったということが言えるだろう。コロナ禍でのリモートワークの普及はさらに追い風になっている。
一方で営業支援ツールは、導入率、導入予定とも増加しているが、満足度は一貫してマイナス評価である。製品そのものの使い勝手もあるかもしれないが、ツールを使いこなすには仕事のやり方や営業の組織文化を大きく変える必要があることが主たる原因と思われる。満足度が低いから導入しないという判断ではなく、軋轢を乗り越えてでも運用を定着させるというスタンスが求められるだろう。
動画制作は順調に普及が進んでいたが、2017年を境に頭打ちになっていた。これは参入障壁は高くないものの収益を安定させることが難しかったのが原因と思われる。しかし、コロナ禍でやっぱり避けては通れないということで導入率、導入予定とも上昇に転じたと言えそうだ。
(研究調査部 花房 賢)