原稿は、その目的意識や表現方法を明確に分けなくてはいけないが、“お家の事情”で次回くらいまで整理に時間をいただきたい。今回は「専務のつぶやき」と少々ダブってしまうところを解説したい。
カラマネの分野、それもsRGBやAdobe RGBについては、議論は出尽くしているはずなのだが、なんだかんだ言う人は減らないものである。しかし、こういう人たち(ハイアマチュアが多いかな?)からは、「自分なりに責任を持とう」という意識を感じ取ることができる。「自分が使っているモニターはsRGB対応なので、Adobe RGBは保証できない」「自分のモニターはMac製なので、P3色域なら保証できる(これが今回の話題)が、Adobe RGBだと保証できない」と主張しているのだが、このように品質保証を自らの目で行うという意識はあるのだ。これに対して印刷業界は、「こういうふうに決まっているので、こうやっています」と答えるのが決まり文句だ。もっとも、長年の苦労で「印刷業界はAdobe RGBを使用する」という決まりが定着したのだから、簡単に変えるべきではない。
私がsRGBを意識的に嫌っている(昔は理性的だったのだが、だんだん嫌いになって今や感情的?)のは、その規格の決め方があまりに安易で、CRT時代の色域を引っ張りすぎているからなのだ(基本はブラウン管で、昔のカラーテレビのイメージ)。現時点で規格を制定すれば、ずっとマシな色域になっていたはずだ。
sRGBのRGB色域に、CMYK印刷の再現色域より狭い部分があるなどとは「言語道断!」である。そこで、印刷領域まで完全にカバーしているAdobe RGBをDTP関係者は推したのだが、色域を広げるためには、当時はGを引っ張って色域を広げることしかできなかったのが(正直に言えば)残念だった。RGB点をそれぞれ外側に拡大するのが一番バランスの良い方法だとは思っていたが、当時現実的に一番確実だったのがAdobe RGBだったのだ。内幕を暴露するとそんな感じだ(Adobe RGBの派手なグリーンは、現実にはお目にかかれない)。
液晶ディスプレーが出現するとモニター環境は大きく変化し(sRGB制定がもう少し遅ければと悔やまれる)、有機ELの登場とともに赤系統も広げられることが容易になった。ところでアメリカ文化を代表するものに映画があるが、映画に関してのアメリカ人の気合いの入れ方は、アメリカンフットボール並みにスゴイ。映画が絡むと、一致団結して問題解決に向かうのだ。映画もデジタルになって、ナノミラーを使用した投影素子が開発され、デジタル映画が一般化して広色域再現も可能になった(一種の奇跡である)。これがDCI-P3(デジタルシネマ用規格)だが、アップルは今まで先行開発してガラパゴス化した技術、例えばApple RGBの二の舞にはなりたくないため、将来を見据えて「ハリウッドの動向」に従い、色域をDCI-P3準拠のDisplay P3として、全てのディスプレーに採用したのだ(白色点などは映画と異なる)。「それを(今さら)言っちゃあ、おしまいよ。オイちゃん」(フーテンの寅の決め台詞)という感じだが、sRGB色域がもしもDisplay P3色域だったら、かつてのsRGBのようなコトをマイクロソフトが言い出しても、理性的に納得するレベルだったと思う。
図1に注目いただきたい。
sRGB・Adobe RGB・Display P3それぞれの色域だが、sRGBは明らかに小さ過ぎる。Adobe RGBはシアン色域や黄色に余裕を持たせるためにG点を広げ過ぎている。ということは、ディスプレー再現技術の平均値的に考えても、P3くらいの色域なら結構使えるということだ。しかし、これを印刷技術・DTP技術のメインワークフロー技術と捉えると大きな問題になってしまうので、時間をかけて皆で議論し、育んでいくしかない。
「P3色域は結構メジャーになっていく可能性もあるし、sRGBみたいに古くはないので、検討していくことは無駄ではない」という認識は必要だ。日本ならスマホの半分はiPhoneで、タブレットもiPadの独占市場であるし、デジタルサイネージでは差を付けていくのにDCI-P3色域(高色域)を売りにするメーカーも増えてくるだろう。印刷業界としては、こういったサイネージで、カラマネ技術を背景に営業をかけることだってできるのだ。「ウェブやデジタルサイネージならsRGB」と決め付ける必要など、決してないのだから。
(専務理事 郡司 秀明)
図1 出典:https://life-with-photo.com/srgb-adobe-p3