コロナ禍でビジネス環境が大きく変化し、中小企業も従来のビジネスだけではなく新たな事業への挑戦が求められています。新規事業を推進する上で、課題として常に上位に挙がるのが人材不足です。その課題を解消する施策として、副業・兼業人材の活用が注目を浴びています。
中小印刷会社が新規事業に取り組む上で、既存の人材だけでプロジェクトチームを編成し、事業を円滑に推進できれば理想的です。しかし、多くの会社は新規事業推進のノウハウを有している人材に恵まれているとはいえません。新規事業が成功するか否かは人材面が大きく左右するので、人材の確保が課題となります。人材を採用し新規事業プロジェクトへ投入することは一番簡単な図式ですが、コロナ禍において、財務状況に余裕がある印刷会社は少ないでしょう。今後の見通しも不透明で7割経済も叫ばれている今、新規事業のための人員増は、固定費を上げるリスクが大きく、熟慮する必要があります。
■ 副業・兼業する社会人の増加
新たな人材施策として、2020年頃から注目を浴びているのが副業・兼業人材の活用です。パーソル総合研究所の調べでは、副業を容認している企業は2021年3月調査で55.0%と過半数を超えています。また、コロナ禍によりオンライン化が一般化したことでリモートでの打ち合わせが容易になり、全国の副業・兼業人材がどの地域の仕事にも取り組みやすくなっています。そして企業と人材が出会える場として、ヤフーは副業マッチングサービス「Yahoo!副業(ベータ版)」の正式提供を2021年5月に開始、地方と副業人材をマッチングする「ふるさと兼業」など、マッチングサービスが充実し始めています。こうした環境や機会が整うことで、副業・兼業を希望する人材が市場に増えてきているのです。
■ 企業のメリットは「コスト」「ノウハウ」「流動性」
副業・兼業人材を活用する企業のメリットとして、「コスト」「ノウハウ」「流動性」の3点が挙げられます。
コスト面は、正社員として雇用するよりも人件費を抑えられることです。案件やスキルに応じて報酬の差はありますが、時給でいえば数千円レベル、月額5万円程度が多く、正規雇用では採用することが難しい優秀な人材を、活用するためのハードルが低くなるといえます。
ノウハウ面は、副業・兼業を行う人材はIT、Web、会計、マーケティング、営業、マネジメント、事業開発など、何かしらの専門性を有していることです。中小企業の場合は社内に各分野の専門人材がいるケースは少なく、そうしたノウハウを活用できるのはメリットです。そして3つ目は人材活用の流動性が高くなることです。日本の雇用は欧米諸国と比べると就社の考えはまだ強く、1社に長年にわたり勤め続ける人は多いため、会社としての採用枠も限られ新たな人材が流入せず固定化されます。それは日本の文化にも合いメリットも大きいですが、固定され過ぎては新しい価値や創造を生みにくくなる弊害もあります。採用余力がない会社でも、新規事業の案件単位で副業・兼業人材を活用することで人材の流動性を高め組織活性を図るチャンスが生まれます。
印刷会社の事例としてDNPグループは、フォトビジネスの成長を推進することを目的に「フォトサービスの企画ディレクター」「グローバル営業戦略ディレクター」の2つのポジションを、外部の副業・兼業人材からの登用に着手しています。外部から重要なポジションを担わせることで、今までの人材とは一歩引いた違う視点から、新しい価値や事業アイデアを創出することが狙いです。
長野にある製本・印刷、フォトブックのECサイト運営などの事業を行うダンクセキ株式会社は、首都圏から大手IT企業に勤務する人材を受け入れて、ECサイトの強化やWebプロモーションを担わせています。新規事業を展開する上でIT・Webなどのデジタルに関わるケースは多いですが、中小印刷会社においてはそこに専門性を有している人材は少ないです。それらスキルをプロフェショナルレベルで有している人材を活用できることはメリットも大きいようです。
副業・兼業人材を活用する上ではリスクもあります。ひとつはミスマッチです。募集の経緯や何の仕事をしてもらいたいのか、要件の定義を明確にすることが重要です。また、後にトラブルが発生するのを防ぐためにも、業務委託契約など、契約締結を行う、機密情報が漏洩しないよう適切な管理をすることが必要です。それらを考慮しながら、効果的に副業・兼業人材を活用し、既存人材とうまく連携することができれば、新規事業の歯車はうまく回る可能性が大きいでしょう。
JAGAT 塚本直樹
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・印刷ビジネス開発実践講座2022