2020年から2021年にかけて、コロナ禍や緊急事態宣言の余波で公共図書館が相次ぐ事態となった。また、大学でも大学構内や図書館などへの立ち入り制限が行われている。このような状況への対応策として、電子図書館や電子図書館サービスに注目が集まっている。
本格普及が近づく
電子図書館とは、広義ではインターネット経由で書誌・文献を検索するサービス、電子書籍や音声・映像などデジタルアーカイブを提供し、利用するサービス、あるいはこのようなシステムを備えた図書館などの総称である。
国内では、公共図書館などが紙の図書の貸出しに加えて、電子書籍の貸出しを行う事例が増えており、これらを電子図書館とすることも多い。
公共図書館などで実施されている電子図書館とは、インターネット経由で貸出し可能な電子書籍を検索し、一定の期間内に閲覧することができるサービスである。期間が終わると、自動的に閲覧することができなくなる。図書館に来館し、窓口にて図書の貸出し・返却する手続きも必要ない。
また、大学図書館などでは、電子ジャーナルやデータベース、電子書籍などを随時閲覧するサービスが行われている。特に貸出期限などの概念もなく、必要な箇所を閲覧したり、データ利用することもできる。
電子図書館のメリットとして、第1に挙げられるのは、インターネット経由で24時間、いつでもどこでもアクセス可能であることが挙げられる。電子書籍であるため、テキスト読上げや文字拡大など、アクセシビリティ改善も実現可能である。デジタル化により資料の劣化防止や保管・事務作業を軽減することもできる。ネットワークに接続さえできれば、PCやOS、スマートフォン・タブレットの種類にかかわらず、アクセスして利用することができる。
既存の公共図書館などでは、その規模や立地、蔵書、設備や人員など、個々の施設の充実度は同等ではなく、地域格差が大きいことは明らかである。今後、電子図書館サービスが普及すると、そのような格差を解消することもあるだろう。
一方で、現時点では発展途上のサービスであり、貸出可能な電子書籍やコンテンツが不足していること、公共図書館などでは予算措置が十分でないことなどが課題となっている。
電子図書館サービス事業の特徴
公共図書館の多くは、民間の電子図書館サービスを利用して電子書籍の貸出しを実施している。現在、このようなサービス事業を提供している主な事業者として、下記がある。
■図書館流通センター(TRC) 『LibrariE & TRC-DL』
大日本印刷、日本ユニシス、図書館流通センター、丸善などDNPグループが開発・販売するクラウド型電子図書館サービスであり、国内実績でNo.1となっている。提供しているサービスの『LibrariE』は、後述の日本電子図書館サービスによる。
■メディアドゥ 『Over Drive』
2014年に米国Over Drive社と戦略的業務提携をおこない、電子図書館サービスに参入した。Over Drive社は、世界No.1規模の電子図書館プラットフォーム企業。
■丸善雄松堂 『Maruzen eBook Library』
丸善雄松堂が開発・運営する教育・研究機関向け電子書籍提供サービスで、専門書や教養書、学術雑誌などを中心としている。
■紀伊國屋書店 『KinoDen(キノデン)』
紀伊國屋書店が提供する学術系和書の電子図書館サービス。
■日本電子図書館サービス(JDLS) 『LibrariE(ライブラリエ)』
2013年、KADOKAWA、紀伊國屋書店、講談社により設立された企業で、電子書籍貸出しサービスを行っている。2016年に大日本印刷、図書館流通センターが資本参加している。
■ネットアドバンス 『ジャパンナレッジ』
2001年、小学館によって設立された企業。80種類以上の百科事典や辞書などを一括検索し、情報を入手できるサービスを展開している。大学図書館を中心に、公共図書館や中高、一般企業向けにも提供されている。
■国立国会図書館のデジタル化事業
国立国会図書館は、2001年から所蔵資料のデジタル化を進めており、インターネット上で閲覧するサービスを提供している。
期待されるサービス
コロナ禍によって、企業ではテレワークの導入が進められている。また、大学や高校でもオンライン授業が増えている状況がある。さらに、小中学校ではGIGAスクール構想が前倒しで進められている。このような状況の中で、図書館の利用形態として、電子図書館サービスの比重が大きくなっていくことは必然だと言える。
電子出版制作・流通協議会が発行する『電子図書館・電子書籍貸出サービス調査報告2020』によると、図書館流通センター(TRC)の図書館向け電子書籍サービスにおける2020年4月の貸出実績は前年比423%、同5月では526%と急増したという。また、同年4月時点の電子図書館導入は96自治体であったが、10月時点では114自治体となった。
今後も、教育・研究機関において上述のような電子図書館やサービスの利用が増えていくこと、また、公共図書館においても電子図書館サービスがさらに充実されていくことが予想される。
(研究調査部 千葉 弘幸)