自動車メーカーの変化と在庫のムダ
印刷工場の改善活動では、ムリ・ムダ・ムラの3Mを無くすことは課題である。中でも過剰な在庫を減らすことは重要だ。最近の在庫管理では、少し違う見方もある。日本経済新聞オンライン(2021年9月15日 18:00)の記事によれば自動車メーカーの在庫管理に対する変化を伝えている。自動車メーカーの間では、できるだけ部品の在庫を持たない効率重視の調達戦略を見直す動きが広がってきた。トヨタ自動車や日産自動車、スズキは半導体の在庫を積み増す。レアメタル(希少金属)権益を自ら確保するメーカーもある。電動車シフトという構造変化を受けて半導体などは戦略部品として重要性が高まっており、国際情勢も勘案しながら安定調達する必要が出てきた。「持たざる経営」は転機を迎えた。と報じている。つまり在庫を増やすということだ。そもそも自動車業界の成長は、受注生産方式で在庫を持たないということで競争力を付けてきた。従来、メーカーの多くは、売り上げを予測して、見込生産により商品を売り切ることを目指す。売り切れずに過剰在庫となり利益に悪影響を及ぼすことがある。
トヨタ自動車のトヨタ生産方式「ジャストインタイム」は、受注生産方式のボトルネックであるリードタイムやコスト、仕様変更へ対応を改善活動により極力向上させた代表的な取り組みだ。その受注生産体制の中で、在庫を持つ方針を打ち出している。勘違いしてはいけないことは、単純な従来のリードタイム短縮や急な需要への対応などではないところだ。危機管理によるマクロ環境対応を考えた経営判断によることを理解しなければならない。
基本は、在庫は持たないほうが良い。なぜか?
答えはシンプルで、在庫はお金ではないからだ
印刷工場の在庫では、材料となる用紙やインキ、刷版などが上げられる。これらは、経営資源「お金」として都合よく運用できるものではない。コスト判断の上でも誤ることがある。例えば、財務諸表の損益計算書では、見せかけの利益となり判断を誤る。在庫は、売れないかぎり原価には計上されないからだ。例えば、年間100万円の利益を稼いだとしても、期首からの在庫残高が100万円増えれば、利益が在庫に形を変えただけでお金は全く増えていないことになる。また、会社の懐具合(ふところぐあい)である貸借対照表、資産の部「棚卸資産」に計上されるが、お金ではないことを認識しなければならい。
ムダな在庫は、生産コストにも悪影響を及ぼす。ムダな在庫は、スペースを取り、倉庫管理というムダな仕事も増やすことになる。
印刷工場のマネジメントでは、それらをお金で計ることが求められる。財務知識は必須だ。だからといって、簿記の資格を取得しなければならないということでもない。管理会計やマクロ会計的な見識が土台となる。工場に纏わる原価の科目を理解し、お金の動きと生産現場の業務を繋げ把握することが必要だ。ムダな在庫を会社のお金と結び付けて考える習慣ができれば、改善活動への意識も高まるはずだ。
オンライン印刷工場長養成講座(JAGAT主催)第1回目は、トヨタ生産方式を基本に「経営と工場マネジメント」をテーマにスタートする。
CS部 古谷芸文
【オンライン】印刷工場長養成講座 https://www.jagat.or.jp/archives/87828