2021年もコロナに始まりコロナに終わった。徐々に底打ち機運への期待も高まるが、先行き不透明感はいまだ濃い。それでもJAGATの各種調査結果*からは一進一退を繰り返しながら良い方向に向かっていく印刷会社の姿が浮かび上がる。2022年を考えるために2021年までを振り返る。
■2019年:売上高:大型イベントが集中して10数年ぶりのプラス
「2020年工業統計表」によると、2019年の印刷産業出荷額は前年比0.3%増の4兆9981億円。実に2007年以来の増加だった。2019年は改元、新天皇即位、QRキャッシュレスキャンペーンなどが景気を刺激した。しかし印刷会社には用紙不足が春先まで足かせとなった年である。その後は統一地方選と参院選があり、与党勝利で景気安心感が広がるに従い印刷需要も上向いた。消費増税前には駆け込み需要が膨らみ、マイナス要因をかつてなく集中した大型イベントが吸収した年である。
■2020年:売上高:コロナ禍による未曾有の落ち込み
2019年10月の消費増税の影響がようやく薄れかけた年明けにコロナ禍が起きた。2月中旬からその深刻さが明らかになるにしたがい、3月から売上高が急落、各社が本格的なテレワークに取り組んだ5月は25%減となった。緊急事態宣言解除の5月以降は、景気全般の回復ほどには至らないまでも、売上高は少しずつ戻りを試した。しかし10月以降は第3波が到来、GoToトラベルの中断なども背景に再び落ち込んでいった。
■2021年:売上高:年末にかけて緩やかな回復も19年水準には遠い
2021年は、2月まで緊急事態宣言の影響で2020年の流れで低調に推移した。景気が改善し3月には宣言解除もあって相当に下げ幅を縮めた。4月に15カ月ぶりのプラスを回復すると、9月まで6ヵ月連続のプラス圏で推移した。ただしプラスとはいえ2020年が未曾有の大幅減だった反動増である。2019年と比べれば15%前後のマイナスであり、表面的にはプラスだが実質的には需要水準が大きく切り下がっている。
■2021年:景況感:ハードの過剰感とソフトへの流れ
設備投資意欲はプラス圏を回復したが力強さはない。逆に、システム開発投資は2020年11月~2021年1月期を底に3四半期連続で上昇して物色は旺盛だ。人材採用は、時折りマイナス圏に入ったりしながら±0近傍で推移し、どちらかといえば弱含みと見られる。近年の人材の不足感は、全体としては過剰感に転じた。資材料単価は2020年10~12月期を底に3四半期連続で上昇し、印刷の販売単価との価格差が印刷会社経営の圧迫要因になっている。
■2021年:製品別:商業印刷の不振が続く、包装印刷は回復が早い
イベント等の縮小・延期が続いて商業印刷への打撃の大きさが続く。2020年に紙の本の見直しが進んだ出版印刷ももう一つ伸びきれない。包装印刷はプラス圏での推移に戻った。事務用印刷はコロナ対策・景気対策などの政策需要による反動減がある。『JAGAT印刷産業経営動向調査2021』の需要見込み調査によれば、生産方式ではデジタル印刷の成長性、印刷製品と付帯サービスの相性の良さが示唆され、新たなサービス設計による事業創造の可能性がうかがわれた。
■2022年:印刷ビジネスに影響を与える要因は何か
2022年は分析中だが、コロナ禍を回避したイベントが集中する年であり、順調なら印刷にも良い波及効果がありそうだ。各方面で正常化の進展が見込まれ、ニューノーマルに近づいていく。印刷の足下では、対面からオンラインへ、営業からマーケティングへ、訪問から発信へとなどの変化が確認される。社会全体に”パーパス経営”など本当に必要でなければ選ばれない価値観への移行も加速した。印刷の構造変化と市場の増減要因を考えて備えたい。
*JAGATの各種調査結果—『JAGAT info』に掲載、回答社に提供、下記セミナーで解説
・『JAGAT印刷産業経営動向調査2021』(2021年1-3月)
・『印刷会社の顧客・地域接点実態調査』(2021年6-8月)
・『印刷業定点観測アンケート』(~2021年12月)
(JAGAT 研究調査部 藤井建人)
<関連セミナー>
■印刷総合研究会 2022年1月26日(オンライン)
「印刷とメディアの動向と展望 2021-2022」
■page2022オンラインカンファレンス(計11本)2022年2月7日~10日
基調講演(1本)(2/1)
カンファレンス(5本)
ミニセミナー (5本)
<関連書籍・レポート>
「印刷白書2021」
「JAGAT印刷産業経営動向調査2021」