2014年のフリーペーパー広告費は7年振りに増加、再評価が進む。特にマーケティング、自社独自の資源やデジタルと組み合わせた新サービス開発、地域活性などで効果をあげている。4月開催セミナー報告。
フリーペーパーの最新動向2015:
日本生活情報紙協会(JAFNA) 久保 まり子 氏
久保氏によると、2015年のフリーペーパー最新動向を表すキーワードとして、「7年振りの広告費前年比増」をはじめ、「新規発行を抑制して反数を絞り込み、外注を削減して収入増を図る」、「地域創生、観光・インバウンドを促進」、「収入源多様化とWeb活用の伸張」、「伝えるメディアから繋げるメディアへ」などが挙げられるという。
特に注目すべきは、「地域創生、観光・インバウンドを促進」、「収入源多様化とWeb活用の伸張」である。年間100タイトル前後、3日に1タイトルの新しいフリーペーパー・フリーマガジンが生まれているが、近年目立つのは地域おこし、観光・インバウンドをテーマにした媒体の発行だ。
従来のフリーペーパーは、いわゆる「広告モデル」で発行される例が多かった。そのため、広告市場の縮小やインターネット広告・SNSの登場による従来モデルの行き詰まりに合わせ、フリーペーパーの媒体力に影が差した。しかし、最近ではフリーペーパー・フリーマガジンが持つ「地域メディア」という特性が注目され、地域おこし、観光・インバウンドの促進を図る媒体として再評価、多くのタイトルが生まれている。
他にも、従来型の広告モデルに頼るのではなく、自社独自の配布網などをはじめ、自分たちが持つ固有の資源を活用して新サービスを開発、提供する発行社が目立つ。広告関連はもちろん、デリバリーやイベントなど新たな収入源を獲得、さらに、各種SNSやARなどWebと連動させることで、新しい読者層を取り込み、成果を生む発行社も増えている。また、紙誌面、Web、デジタルサイネージなどメディアの立体活用でマーケティングを展開する事例も生まれ始めている。
以上のように新しい活用法が生まれ、再評価の進むフリーペパー・フリーマガジンだが、今後さらに広告メディア・広告ツールの多様化が進むと考えると、解決すべき課題は多いという。「効くメディア」であることを証明するデータ整備を行い、フリーペーパー・フリーマガジンを起点として全メディアを横断するプロモーションを考えて提案、「ONE TO ALL」ではなく「ONE TO ONE」を意識することが重要だと結んだ。
地域だけでなく自らを活性化させるフリーマガジン「a un」:
西濃印刷 河野 俊一郎 氏
西濃印刷は、1987(明治30)年に岐阜県大垣市で設立された老舗の総合印刷会社である。1944(昭和19)年に本社を岐阜市に移転、今年の5月で創業118年を迎えた。西濃印刷がフリーペーパーの発行を始めたのは、2001年7月、2000年にオープンした公設民営の商業施設「アクティブG」(岐阜駅)からの依頼を受け、周辺エリアの活性化も同時に促す情報誌を発行することになった。
「岐阜まちなか再発見フリーマガジン「a un」と名付けられた同誌は、A4・40ページ、オールカラーの季刊発行で、通巻56号を数える。創刊当時は「地域を憂う想い」を前面に、様々な問題のあぶり出しや提起を行うなど、発行側のメッセージが強い媒体だったが、途中から編集者が素直に良いと思った「モノ・コト」を取り上げ、地域を再発見する媒体へ転換、発行者が発信するだけでなく、読者の共感を得ることも意識した媒体へと生まれ変わった。
誌面コンテンツは「特集」、「アクティブGの店舗紹介」、「コラム、イベント紹介」、「広告」などで構成、Webマガジンの展開やSNSの活用も行っている。「特集」は編集スタッフが比較的自由にテーマを設定、記事はもちろん広告についても全て「読み物」として面白い内容になるよう心がけているという。
『a un』を発行するまで、書籍やフリーマガジンの編集経験がなかった西濃印刷だが、『a un』を機に編集部を設置、編集スキルを蓄積していった。他にも、付き合いのなかった新しい業種と接点が生まれ、社外からの評価も高まり、地域情報誌や社内報など各種情報誌を受注、掲載記事を編纂、岐阜の情報を詰め込んだ『岐阜さんぽ』も発行した。
さらに、イベントの企画・運営や広告掲載店舗のパッケージデザインなど、従来無かった仕事も増えている。河野氏は「地域活性に貢献できているか、評価は難しい」というが、読者にはフリーマガジンの発行が地域の魅力を再発見するきっかけに、広告主には地域顧客に情報を届ける新しいツールとなり、西濃印刷には派生的な仕事をもたらすなど、3者が共に益を得られる関係となり、その中心にフリーマガジンがあるのは言うまでもない。今後は媒体編集で培った「再発見力」を活かし、地域だけでなくクライアントの魅力を再発見、それをカタチにできる会社を目指す。
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久保氏、河野氏の講演から、「フリーペーパー・フリーマガジン」が地域メディアとして再評価されるだけでなく、柔軟な活用方法がある媒体と再認識されている様子がうかがえる。今後は、「他メディアと連携した多角的な活用」を意識、自社に蓄積されたリソースや手法、コンテンツを活用しながら、「効くメディア」としての事例が増えていくことを期待したい。
(研究調査部 小林織恵)