【マスター郡司のキーワード解説2022】リターゲティング広告

掲載日:2022年3月3日

リターゲティング(グーグルはリマーケティングと称している)広告とは、自社サイトを一度訪れたユーザーに、再度ウェブ広告を表示してアプローチする(し直す)ものだ。

 

ユーザーがサイトで商品を閲覧し、購入しようと思ってカートには入れたものの、決済せずにサイトを離れること、いわゆる「カート落ち」の場合には、別のサイトにその商品の広告を表示させたりする。つまり「広告に追いかけられる」という広告行為も、リターゲティング広告である。リターゲティング広告を成立させるには、Cookie(特に3rd Party Cookie)という技術(仕組み)が必要で、Cookieについては前号の本欄で解説しているので詳細はそちらを参照していただきたいが、簡単におさらいしておく。Cookieには1st Party Cookieと3rd Party Cookieの大きく2種類に分けられる。1st Party Cookieはログイン情報や閲覧履歴などを保持しており、単一のサイト内で活用される。それに対して3rd Party Cookieは、現在アクセスしているウェブサイト以外から発行されており、複数サイトを跨いでユーザーの行動履歴を収集している。

 

しかし最近、3rd Party Cookieへの風当たりが強く、リターゲティング広告についてもネガティブな意見を聞くことが多い(「広告に追いかけられるなんて、まっぴら御免」というのが正直な気持ちだろう)。3rd Party Cookieに対してアップルは既に規制をかけているが(1st Party Cookieも7日間で消してしまう)、グーグルはビジネスへの影響が大きいのでいつもの歯切れの良さはなく、2023年に向けて規制を強化していくという方針である。

 

巷には反論はあるものの、多くのリターゲティング広告が実際に活躍している。例えばカート落ちに対してのバリアブルDMの送付なども、広義にはリターゲティング広告なので、印刷業界にとっても無縁ではない。マーケティングビジネスは印刷業界にとっても重要なので、引き続き解説していきたい。なお、次号では「2023年度に何が起こるのか?(規制実施)」をテーマにする予定であり、個人情報についての見識を深めてほしい。クドいようだが、印刷ビジネスはマーケティング支援業なのである。

 

このように、お国柄によって状況はさまざまなのだが、日本ではほぼ全員が銀行口座を持っているし、87%がクレジットカードも保有している。そんな日本でBNPLが伸びているのは、「信用の問題」だといわれている。しかし、私はこれには懐疑的だ。私が高齢なこともあるのだろうが、どうしてもAMEXのゴールドカードやDinersに信頼を寄せてしまう。確かに、中国などでクレジットカードを使うと「何なんだ、これは!?」という明細も混じってくる。すぐさま電話すると「ああ、そうですか」とアッサリ認められてしまう潔さにも困ったモノで、この手のトラブルには慣れきっている。こうした不安感から、「クレジットカードを持っていても使わずに、BNPLを利用しているのではないのか」ということなのだが、若者の利用数が数字を押し上げているのではないかと思っている。

 

リターゲティング広告を配信するためには、訪れたユーザーを判別するリターゲティング用タグを設定しなくてはならない。タグとはブラウザに対して指示する命令文のことで、リターゲティングを仕掛けたい全てのサイトにこのタグを設定する必要がある。そして、リターゲティング用のタグが設置されたサイトを訪れたユーザーには、Cookieが付与される。Cookieはユーザーが閲覧したサイトの情報を一時的に保存でき、この情報によりユーザーを追跡したり、購入済みのユーザーに対する不要な広告などを除外したりすることが可能になる。

 

Cookieがユーザーに付与されると、ユーザー配信リストが作成される。このリストは、ユーザーが訪問したときの条件を設定して選別できるため、より細かなターゲティングが可能である。つまり、戦略に沿った広告配信ができるようになるのだ。そのためリターゲティング広告は、ユーザーに対して適切な内容やタイミングで表示することができる。従ってリストには、「トップページのみ訪問した」「詳細ページまで訪問した」「購入済み」など、条件を細かく分けておくことが必要である。

 

そして、一定以上のリストが蓄積されたら、広告を表示(配信)することになる。リターゲティング広告を配信する期間は、ユーザーが当該ページを離れてから3日以内ぐらいが効果的だといわれている。ただし実際には、ここにインターネット広告配信会社が絡むのだが、今回はそれには触れないでおく。

 

リターゲティング広告のメリットの第一は、もともとユーザーに関心があるので「コンバージョン率が高い」ことだ。自社の戦略に対してターゲットの絞り込みができることも、第二のメリットに挙げられる。例えば自社商品やサービスのページを過去に閲覧したことのあるユーザーに広告を表示するので、ニーズのあるターゲットを絞り込むことができる。的外れな広告や、無駄な表示を減らすことが可能だ。そして、リターゲティング広告は他の広告と比べてクリック単価が低く、かつコンバージョン率は高いため、広告にかける費用も抑えられる。すなわち「費用対効果が高い広告」というのが第三のメリットで、これが最も重要だ。


バリアブルDMだけではなく一般的な商業印刷の分野でも、マーケティングの常識や思考は今や当たり前だ。印刷会社はマーケティング人材を育て、印刷発注者の相談に乗れるようになることが急務である。

(専務理事 郡司 秀明)