日印産連デジタルプレス推進協議会「印刷業界におけるデジタル印刷に関するアンケート調査」報告書より
日本印刷産業連合会では、国内の印刷産業における生産機としてのデジタル印刷機の活用状況を把握し、活用度をさらに高めるための調査活動を年1回のアンケート調査という形で2010年から実施している。2021年度は傘下の9団体とJAGAT会員から抽出した610社に調査用紙を郵送し、219社から回答を得た(回答率35.9%)。以下はその要約である。
デジタル印刷機の1社平均保有台数は3.95台
デジタル印刷の方式別の保有台数、稼働状況、収益性を図1に示す。保有台数の合計は692台、保有社数は182社、1社平均は3.95台であった(前年は674台、178社、1社平均3.96台)。※1社平均台数は台数未回答企業を除いて計算
方式別の内訳は、トナー粉体(カラー)が281台(対前年8台増)、トナー粉体(モノクロ)が111台(対前年9台増)、大判インクジェット(カラー)が177台(対前年30台減)であった。これらの3方式で全体の約80%を占めている。高速インクジェット(枚葉)が対前年9台増の21台、高速インクジェット(連帳)がカラー、モノクロ合わせて対前年25台増の52台となっている。
デジタル印刷の全売上に占める割合の平均は13.2%
売上構成を「1.従来印刷(オフセット/グラビアなど)関連(DTP制作や製本・後加工含む)」「2.デジタル印刷関連(DTP制作や製本・後加工含む)」「3.デジタルコンテンツ制作(印刷はしない)」「4.その他付帯サービス」の4種類に分類し、それぞれの構成比を問うた。
デジタル印刷保有企業では、全体売上に占めるデジタル印刷の割合の平均は13.2%であった。図2はデジタル印刷の売上構成比の分布の経年変化を表したものである。2021年度は、デジタル印刷の売上が全体の「5~10%以下」という回答が19.0%で最も多い。これは過去3年同じである。経年変化では、売上の10%を超える層の合計が徐々に増加傾向にある。(2018年30.2%、2019年33.5%、2020年34.9%、2021年36.3%)
小ロットの傾向薄れる
デジタル印刷の平均受注ロットを見る。図3はデジタル印刷を利用した売上上位一位の品目の平均ロット分布である。「10枚~100枚未満」が19.6%と最多回答となっているが、どの層も偏りなく分布している。小ロット中心からスタートしたデジタル印刷であるが、多様性を増している。
DMの将来性に期待が集まる
今後の市場拡大が期待できる将来性の高い品目を聞いている(図4)。最多回答は「DM」(前年2位)、2位は「ナンバリング」(前年1位)、3位は「データプリント」(前年4位)であった。
DMは費用対効果がよりシビアに問われる印刷メディアである。マーケティングに力を入れるという回答者のコメントが散見された。
- 顧客のマーケティング戦略を共有しながら営業展開を行う。印刷会社はもっとマーケティングに力を入れ、顧客の要望をより深くくみとれるような営業をすべき。
- お客様との関係性を深めマーケティング等を研究し、提案を行う。
- マーケティングと企画立案を強化し、そこから印刷物の受注につなげる。両者の両立を図る
これらのコメントは必ずしもDMを意識したものとは限らないが、DMの仕事をする上ではこうした姿勢は欠かせない。
デジタル印刷活用の肝は工程管理
デジタル印刷機をうまく活用している企業とはどのような特徴を持っているのか分析を試みている。月間印刷枚数が30万枚以上の企業33社の分析を行った。月間印刷枚数が多いグループとそれ以外にわけて傾向を比較したときに顕著な違いがでたのが、会社で取り組んでいる施策を問う設問結果であった(図5)。
図の左側が月間印刷枚数の多い企業の回答結果、右側がそれ以外の企業の回答結果となっている。例年、両グループの差が顕著にあらわれる。印刷枚数が多いグループの回答が最も大きく上回ったのは「工程管理のシステム化(印刷枚数多:69.7%、それ以外:42.3%)」である。製造面においてはデジタル印刷の成功の肝は工程管理にありといえるかもしれない。その他、IT活用による自動化、省力化の施策について、ことごとく印刷枚数が多いグループの回答が大きく上回った。前年の報告書では、デジタル印刷へのシフトを進めるためには工程のデジタル化だけでなく、ビジネスのデジタル化、まさにDXが求められると述べたが、着実にDXの取り組みを進めているグループと足踏みを続けているグループの差がデジタル印刷の活用度に明確に表れた結果となった。先行グループでは、IT活用のレベルアップが着実に進んでいる様子がみてとれる。DXの下地は整いつつある。
(研究調査部 花房 賢)