アップルの標準ウェブブラウザーSafariでは、既に3rd Party Cookieが使用できなくなっており、グーグルも2023年度には全面的に使用できなくすると発表している。規制が一番厳しいのはEU諸国で、個人情報の考え方がしっかりしている。Cookieを使うためには個人の同意が必要であり、そのことをマーケティング用語(?)では「オプトイン」という。それに対して、脱退することが個人の意志で可能であることを「オプトアウト」と呼ぶ。
アメリカもカリフォルニア州を筆頭に頑張っているが、アメリカ人の根底には「使えるものを使って何が悪い?」という(変な)ポジティブ思考があるようだ。アメリカでもCookieは個人情報であると認められているが、オプトアウトが基本で、未成年だけはオプトイン形式が適用されている。日本では少々曖昧な部分を残しているが(実に日本的)、「便利だったら良いじゃないか!?」的なポジティブ思考は通用しない。個人情報ということになると必要以上に臆病になり、欧米の動向を注視しているということだ。少し考えてやるのがアメリカ人なら、じっくり考えてやらないのが日本人だ。
日本ではマイクロソフトの標準ウェブブラウザーEdgeの使用比率が異様に高いのだが、世界的に最もシェアの高いGoogle ChromeとSafariを合わせれば日本でも6割以上となり、決して無視できない数字である。かつてIE(Internet Explorer)がNetscape(当時の標準ブラウザー)を駆逐してしまった時代とは状況が大きく異なる。Edge自体は決して悪くないのだが、天下のマイクロソフトでもグーグル相手だと好き勝手はできないようだ(マイクロソフトには優秀なスタッフがたくさんいるだろうが、グーグルには天才がゴロゴロいる)。そのグーグルが2023年度にCookieの使用を制限するとしているので、2023年問題と呼んでいるのだ。
3rd Party Cookieが使えなくなるということは、デジタルマーケティングではユーザー行動がトラッキングできなくなることを意味する。このことで精緻なターゲティングが難しくなり、CPA(コスト・パー・アクション)の悪化が危惧されている。
特に2011年ごろから使われているアトリビューション分析(測定)は、最近ではごく普通になったマーケティング評価方法だ。しかし3rd Party Cookieが使用できなくなると、ドメインをまたいだアトリビューション分析ができなくなってしまう。
アトリビューション分析には「ラストクリックモデル」「起点モデル」「均等配分モデル」「減衰モデル」「接点ベースモデル」の代表的な5つのモデルがある。広告メディアを単に直接売れた行為(メディア)だけで評価せずに(結果に至ることをコンバージョン(CV)と呼ぶ)、途中経過までをトラッキングできるので、アトリビューション分析はマーケティング施策を正当に評価できる手法になっていたのだが、3rd Party Cookieが使えなくなり途中経過が評価できなくなると「ラストクリック」偏重に陥り、マーケティング的な決断で誤りを犯しやすくなってしまう。そして何よりも、ウェブの訪問履歴に対して広告を配信していくリターゲティング広告にとっては、大きな痛手になる。
同様に、デジタルマーケティングの発展はCVR(コンバージョンレイト)の高いリードに対して価格面で優遇したり販売額を増やしたり、あるいは逆に価格を高くして売るなどで利益を確保する手法が当たり前になっていたのだが、トラッキング情報が得られなくなると、評判になった広告コピーやデザインなどの誇張された広告に引っ張られてしまうことが危惧される。特に印刷ビジネスでは陥りそうな罠である。クリック(CV)される確率は誇張広告では高いのだが、持続するわけではない。
3rd Party Cookieが使えなくなったら、1st Party Cookieでマーケティングの王道を行くことを見据えていかなくてはならない。そんなツールが現在でも提供されているし、これから多くの手頃なツールが登場するだろう。印刷会社も勉強していかねばならない。
(専務理事 郡司 秀明)