優れた印刷会社の条件を考える

掲載日:2015年6月9日

収益改善が進む上場印刷会社では、今後の変化に対応した基礎固めとして、人材投資・IT投資が進んでいる。

ホワイト企業トップ300に印刷会社2社がランクイン

JAGATでは東京都の「印刷業界における若手従業員処遇改善事業」のサポート事業者として、従業員の定着率向上を目指す中小印刷会社に対し、資格取得支援、スキルアップ研修、コンサルティングを実施している。

同事業の目標はズバリ「定着率の向上」にある。

入社後3年で3割が離職するといわれているが、東洋経済CSR調査によれば、2011年4月入社の新卒3年後定着率(2014年4月在籍率)の平均は86.5%で、業種別では製造業が高く、土日勤務が多い小売業(71.5%)やサービス業(75.1%)は低い傾向にある。新卒者3人以上で在籍者を開示している822社を対象とした「新入社員に優しいホワイト企業トップ300」では、定着率100%が116社に上り、印刷会社では13人採用のサンメッセが1位タイとなった。次いで、30人採用の共同印刷が28人定着(93.3%)で300位にランクインした。

定着率の高い企業では、資格・技能検定取得奨励制度、eラーニングや通信教育などの各種自己啓発制度、国内・海外留学制度、表彰制度など充実した各種制度で従業員の能力アップを後押ししている。また、従業員のライフプランをサポートする制度が充実しているという。

ホワイト企業=優れた企業とはいえない

定着率や有給休暇取得率、残業時間などによって、ホワイト企業かどうかの判断はなされるが、それだけで優れた企業とはいえない。

東洋経済が毎年作成している「新・企業力ランキング」では、成長性、収益性、安全性、規模の4つのカテゴリーで合計21の財務指標を3年平均し、総合ランキングを作成している。業種別では印刷会社は「その他製品」に含まれるが、比較的小規模な企業が上位を占め、凸版印刷は6位(総合順位174位、前年235位)、大日本印刷は9位(同246位、327位)と大手2社は総合順位を上げたものの業種内順位は落としている。その他に印刷会社は、アイフィスジャパン(同377位、625位)、フジシールインターナショナル(同511位、804位)、トッパン・フォームズ(同751位、867位)、マツモト(同1095位、圏外)、宝印刷(同1296位、1520位)、セキ(同1354位、1351位)、プロネクサス(同1408位、1776位)、共同印刷(同1669位、圏外)、共立印刷(同1722、圏外)、朝日印刷(同1881位、1768位)の順となっている。

「なでしこ銘柄」と「攻めのIT経営銘柄」に選ばれたトッパン・フォームズ

経済産業省と東京証券取引所は、2012年度より女性活躍推進に優れた上場企業「なでしこ銘柄」を選定している。東証一部上場企業を対象に、①女性のキャリア支援と、②仕事と家庭の両立支援の2つの側面からスコアリングを行い、各業種上位企業の中から財務面でのパフォーマンスもよい企業として2012年度は17社を、2013年度は26社、2014年度は選定枠を拡大し40社を選定している。印刷会社では、女性管理職の増加や男性の育児休業取得を進めているトッパン・フォームズが2013年度から2年連続で選ばれている。

また、5月27日に公表された「攻めのIT経営銘柄」18社でも、トッパン・フォームズが選定されている。

東洋経済は、2005年にCSR(企業の社会的責任)調査を開始し、翌2006年からは財務面とCSR面を合わせた総合評価に取り組んでいる。

『CSR企業総覧』2015年版掲載の1305社を対象に、CSR126項目、財務16項目で総合評価を行った「第9回CSR総合ランキング」では、トップは3年ぶり2回目の富士フイルムホールティングス(総合得点576.4点)。部門別でも、人材活用98.7点(2位)、企業統治+社会性97.4点(8位)、環境94.4点(20位)、財務285.9点(9位)とバランスよく得点している。総合ランキングは大手の製造業が上位となりやすいが、CSR活動は業種・業態により行える内容の差も大きいという。

業種別トップ20では、「その他製品」のトップは大日本印刷(530.7点)、2位が凸版印刷(526.6点)、3位アシックス(523.6点)、4位ヤマハ(508.2点)、5位トッパン・フォームズ(505.1点)と続く。さらに、9位日本写真印刷(458.4点)、12位共同印刷(453.1点)、16位サンメッセ(425.2点)、17位図書印刷(409.4点)、18位竹田印刷(394.2点)と20位内に印刷会社は8社入っている。総合ランキング700社には上記8社以外に、三浦印刷(354.0点)が656位に入っている。

収益改善が進む上場印刷会社

平成27年3月期決算短信が各社から公表されたが、連結経常利益は凸版印刷が452億円(前期比20.0%増)で3期連続増益、大日本印刷が537億円(同0.9%増)で2期連続増収・3期連続増益、トッパン・フォームズが134億円(同0.9%増)で4期連続増収増益、さらに2013年度に黒字転換した日本写真印刷は124億円(同141.1%増)の大幅増益で3期連続増収と、上場会社の収益改善が顕著となってきた。

JAGAT『印刷白書』では毎年、決算短信・有価証券報告書などを元に上場印刷業の分析を行っている。6月末には有価証券報告書も出揃うことから、2014年度の業績や今後の事業展開を分析したいと考えている。

(JAGAT CS部 吉村マチ子)