中国での駐在経験からみたフリーペーパー
方正株式会社 芦野 雄一
海外で勤務する日本人として3 年3 カ月に及ぶ広州での勤務中、出張や旅行で中国各地を訪れた。北京、上海、杭州、蘇州、寧波、武漢、貴陽をはじめ、北は大連、丹東から南は海南島まで各地の文化や習俗に触れることができた。
日系企業とそこで働く駐在員とその家族向けのメディアとして、数種類のフリーペーパーが発行されている。主なものとしては、Wheneverやジャピオンが挙げられる。フリーペーパーの配布方法は、日系企業への郵送や日本人向け飲食店へのマガジンラック設置などであり、広州のほか、香港、深センなど華南地区の主な都市を配布対象としている。
フリーペーパーには、イベントや生活情報、企業や人物紹介などローカル性豊かな話題が満載されている。Whenever誌は二つの別冊とセットになっていて、一つはレストランなどのグルメ情報、もう一つはスナックやクラブなどのナイトライフの特集となっている。
華南地区に進出している生活関連の日系企業としては、総合スーパーのイオンやレストランのサイゼリアがあり、いずれも多店舗展開している。イオンは現地の日本人にとって欠かすことのできない存在だが、中国人の買い物客も多い。中国では公害や農薬などによる食品汚染への関心が高く、日本企業としてのイオンへ信頼を寄せていることが窺える。
サイゼリアは洋食レストランでありながら価格帯が手頃なこともあり、いつも家族連れで賑わっている。ランチ時などは高校生の食堂替わりとなっている。中国では最近日本食の人気が高く、一風堂や博多一幸舎などのラーメン店、元気寿司などは複数の店舗を持ち、そのほかにも多くの日本料理店が店を開いている。
コンビニは中国系ローカルコンビニ店とセブンイレブン、ファミリーマート、サークルK サンクスが出店を争っていて、さながらコンビニ戦争の様相を呈している。春節休暇中にはローカルコンビニ店や地元のスーパーの多くは休業したが、イオンや日系のコンビニは休業せず助かった。
日本人にとっては、食の面は何とかなるであろうが、気になるのは医療についてだろう。最近、親しくしていた中国の友人が病気で入院したこともあり、中国の医療保険制度の一端を知ることになった。大都市の住民は都市戸籍を持つ人と地方出身の農民工に分けられる。私の友人は広州出身者であり都市戸籍の保有者だったために、入院治療に際し医療保険の補償が受けられると聞いた。
しかし保険の適用範囲は極めて狭い。病院のベッド代やCT 検査費用などは自己負担とのことだった。また、広州の住民が隣の深センの病院を受診すると保険の対象外となる。農民工が都会で病気や怪我をしても医療保険を受けることができない。日本の国民皆保険制度の優位性を実感した次第だ。
(『JAGAT info』2015年4月号より一部改変、抜粋)
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プリントチャイナ2015に見る中国の印刷技術動向を報告する。また、3年半の広州駐在員生活の視点から現地の印刷・出版事情、さらにネットワーク、電子書籍、SNSなどメディア関連事情を紹介する。