スマートフォンと縦型動画のトレンド

掲載日:2022年5月31日

誰もがカメラマン、誰でもできる動画編集

動画の需要は、益々高まりコンテンツや使い方も様々だ。多くの印刷会社でもビジネスチャンスとしての関心度が高いようだ。ただし、動画制作の受注案件も単純に収録や編集の作業を請け負うのであれば、印刷ビジネスと同様に価格破壊が起きている。スマートフォンに代表される技術やネットワーク環境は、誰もがカメラマンで、誰でも動画編集をすることを可能にしている。受注においては、クラウドワークスやランサーズに代表されるクラウドソーシングにより誰もが競合と成り得る時代だ。ビジネスでは、ユーザーのニーズとトレンドをいち早く掴み、独自のサービスを提供するしくみが求められる。

スマートフォンで様相が変わった 動画

縦型動画が増えている。大きなトレンドだ。スチール写真のフレームは、横や縦に活用されてきたが、動画は、従来のテレビやパソコンで見ることを前提に作られてきたので横型にフレームが決まっていた。最近では、スマートフォンでの需要が増えて様相が変わった。Webコンテンツは、スマートフォンのフレームに合わせていち早く変わったが、動画コンテンツ多くは未だに横型だ。通常、横型で作られたコンテンツをスマートフォンでフレームいっぱいに見る場合は、縦から横に持ち方を変える必要がある。そのままだと天地を余した小さなフレームで見ることになる。最近、YouTubeやFacebookといった動画配信プラットフォームでもスマートフォン向けのタテ型動画への対応が始まっている。

動画コンテンツの縦型への移行は意外と大きな出来事のようだ。考えてみれば、収録するビデオカメラは横型フレーム向けに設計されているし、編集するPCやアプリケーションも横型がベースになっている。更に、大きな変化はコンテンツづくりだ。人間の視野に近い横型に比べ縦型はメッセージとしての質が異なり、企画立案やクリエイティブのアプローチが変わってくる。

存在感を増す縦型

「動画は横長」という常識が変わりつつある。英語で縦型の意味を持つ単語をバーティカルと言い、それをスマートフォンで再生するアプリを「バーティカルシアターアプリ」という。2020年10月にスタートしたバーティカルシアターアプリ「smash.(スマッシュ)」は、2022年3月に200万ダウンロードを超えた。サービスを提供するSHOWROOM株式会社の前田裕二氏(代表取締役社長)のインタビュー記事(日経新聞オンライン2022年4月5日)によれば、縦型ドラマの事業で頓挫した米国クイビー社を分析するなど「刺さるコンテンツ」の配信を目指すという。smash.は、プロクオリティーであることを売りにしている。誰でも投稿できるYouTube(ユーチューブ)やTikTok(ティックトック)と一線を画し、プロのクリエーターが制作し、プロのアーティストやタレントが出演する。「スマホでも、映画と同じぐらい人を感動させられる動画を作れることを証明したい」(前田氏)という思いからだという。徹底しているのは、画面を目いっぱいに使った「1対1」の没入感。縦型動画ならではの強みは1人称、つまり、自分があたかもその世界の中にいる感覚に浸れる主観映像が作りやすい点にあるという。100万ダウンロードの大台突破し、普及の後押には、韓国発7人組アーティストBTSのオリジナルコンテンツが大きな起点になったということだ。(日経ビジネス記事2021年7月29日)

コンテンツの力が大きい。縦型動画コンテンツの価値は、有名アーティストやクオリティーの高いドラマ、映画に限って発揮されることではない。ビジネスで必要とされる様々な用途がある。商品・サービス紹介や広告、採用者向け会社PR、研修資料などの顧客ニーズは多岐に渡る。また、すべての動画が縦型に移行するわけではない。動画受注ビジネスとしては、表現手段の選択肢が増えたと捉えるべきだ。企画立案や制作に当たっては、キーワードに「刺さる」コンテンツがある。刺さるとは、比喩的に刺されたような強い衝撃を受けるなどの感情や心の動きを表す言葉だ。つまり、前出にあった視聴者の没入感である。視聴者である顧客を知ることが鍵を握る。マーケティング視点でペルソナのような手法も必要になってくるようだ。

(CS部 古谷芸文)

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