印刷白書」カテゴリーアーカイブ

デジタル化で変化するニュースの読まれ方~2024年

ソーシャルメディアからのトラフィックの減少や、動画主体のプラットフォームへのシフト、AIによるコンテンツ作成などの環境変化の中で、ニュースと消費者の関係も変化していくのか。(数字で読み解く印刷産業2024その9)

プラットフォームの変化がニュースに与える影響

ロイタージャーナリズム研究所「ロイター・デジタルニュースリポート2024」によると、多くの国や地域で、ニュースメディアはコスト増、広告収入減、さらにソーシャルメディアからのトラフィックの急減により困難な状況にあります。

その要因の一つとして「プラットフォーム・リセット」が挙げられています。FacebookやX(旧Twitter)は、ニュースや政治的コンテンツの扱いを縮小し、動画や自社フォーマットによる投稿などを優先的に表示するように変化しています。ニュースサイトなどに流入するトラフィックは、過去1年でFacebookから48%、Xから27%減少したというデータもあります。

また、YouTubeやTikTokのような動画主体のプラットフォームへのシフトが若年層を中心に進み、全体の66%がニュースのショート動画にアクセスし、長尺動画も51%が視聴しています。

ニュースへの入り口は検索+アグリゲーター

ニュースの入手経路は、ソーシャルメディア29%、検索25%、Webサイトやアプリへのダイレクトアクセス22%、アグリゲーター(各社の記事をまとめて表示するWebサイトやアプリ)8%です。ソーシャルメディアは若年層で利用され、検索はすべての年齢層で一貫して利用されています。

この傾向は国による違いも大きく、調査対象の47カ国・地域のうち、フィンランド・ノルウェー・デンマーク・スウェーデンではダイレクトが50%を超えているのに対して、タイ・ケニア・フィリピン・チリではソーシャルメディアが主流です。一方、日本では検索+アグリゲーターの利用が70% 、ダイレクトは9% 、ソーシャルメディアは8%で、韓国も似たような傾向にあります。

オンラインニュースの何が事実で何がフェイクなのかという不安は、過去1年で3ポイント上昇し、59%となりました。誤情報や陰謀論のほか、ディープフェイク画像や動画の拡散の舞台となったTikTokとXでの見極めが、特に難しいとされています。

また、ジャーナリズムにおけるAIの使用法では、十分な監督なしにAIで作成されたコンテンツについて不安という回答が大部分を占めました。これに対して、文字起こしや翻訳などのジャーナリストの仕事を補助する目的での使用は容認されています。

ニュースへの信頼度は安定しているか

2024年の報告書は、世界中で重要な選挙が行われ、ウクライナとガザで戦闘が続く中で発表されたことから、「この騒然とした世の中で、正確で独立したジャーナリズムの重要性はかつてないほど高まっているが、その一方で調査対象の国や地域の多くでは、ニュースメディアが誤情報・偽情報の増加や信頼の低下、政治家からの攻撃、不確実なビジネス環境といった問題にますます悩まされている」と分析しています。

ニュースへの信頼度は、調査全体で40%と横ばいで安定しています。フィンランドが69%と最も高く、ギリシャとハンガリーが23%で最も低く、日本は43%で平均をわずかに上回っています。

日本での信頼度は横ばいで推移していますが、個々のニュースブランドのスコアは2~6ポイント低下しています。ジャニー喜多川の性加害問題をなぜ大手メディアが長年放置してきたのか、日本以外のメディアであるBBCの調査によって公になったことも指摘されています。

ニュースは自然に目に入るもの

「ニュースを得るために利用する媒体」(複数回答)は、日本では2014年からの10年間で、「新聞・雑誌」は60%→21%、「テレビ」は80%→53%へと大幅に減少しました。この減少分をオンラインやソーシャルメディアが補っているかというと、「オンライン(ソーシャルメディア含む)」は増減を繰り返しながら10年間で5ポイント減で、「ソーシャルメディア」は16%→23%の増加にとどまっています。

一方、「いずれでもない」は4%→16%と4倍になっています。調査全体の平均は6%で、2桁に達しているのは、アメリカ11%、イギリス10%、アルゼンチン10%と、政治や社会の対立が表面化している国ばかりです。媒体を利用しなかった理由をアメリカ、イギリス、ドイツなど6カ国に尋ねたところ、「ニュースは自然に目に入る」という回答が、日本は41%と突出していました(6カ国平均26%)。

日本では多くの消費者が無料のニュースを利用しています。そのため、オンラインニュースの定期購読は、対象となった20カ国の平均は17%ですが、日本は9%で、イギリスの8%に次いで低くなっています。

10月末発刊の『印刷白書2024』では、 「新聞ならではの信頼性を確保しつつ進むデジタルシフト」において、新聞の存在意義やジャーナリズムについて考察しています。
限られた誌面で伝え切れないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信していきます。ご意見、ご要望などもぜひお寄せください。

(JAGAT 研究・教育部  吉村マチ子)

上場印刷企業の女性管理職比率は平均8.8%

2023年度の上場印刷企業35社のうち、女性管理職比率を開示している26社の平均は8.8%。厚生労働省「雇用均等基本調査」によれば、女性管理職比率は12.7%と横ばいで、製造業は8.5%と低い水準となっている。(数字で読み解く印刷産業2024その8)

上場印刷企業の2023年度業績は堅調

JAGAT『印刷白書』では、社名もしくは特色などに「印刷」とある企業を、上場印刷企業としています。各社の業績は決算短信と有価証券報告書で見ていますが、提出時期の関係で2023年6月期決算から2024年5月期決算までを2023年度としています。

上場印刷企業の社数は、親会社による完全子会社化による上場廃止がある一方、新規上場もあって、33~34社で推移してきました。『印刷白書2024』では、2022年3月3日上場のイメージ・マジックと、2023年9月22日上場の笹徳印刷の2社を加えた35社の企業力などを見ています。

上場印刷企業の2023年度業績を見ると、35社の売上高合計は4兆円(前期比2.4%増)で、増収22社、増益20社、黒字転換2社と堅調です。

上場印刷企業26社の管理職に占める女性の割合は8.8%

2023年3月期決算以降の有価証券報告書から、人的資本の情報開示が義務化され、管理職に占める女性労働者の割合(女性管理職比率)が開示項目の選択肢の一つとなりました。上場印刷企業35社のうち、女性管理職比率を開示している26社の平均は8.8%(前期は16社7.0%)です。

女性管理職比率27.1%と突出しているラスクルは、2024年7月末は24.7%となりましたが、役員に占める女性の割合は37.5%から44.4%に上昇しました。一定グレード(等級)以上の女性従業員の割合を2025年7月末までに20%以上にすることを目指しています(2024年7月末時点18.2%)。

次いで22.2%のクレステックは、中途採用者や女性が活躍できる社内環境の整備に取り組んでいて、2024年6月末時点の女性管理職比率は24.0%となっています。

19.7%の総合商研は、2024年7月末で20.6%となり、係長職以上の女性社員の割合を25.9%(2024年度実績)から、2027年7月末までに30%以上とする目標を掲げています。

厚生労働省「令和5年度雇用均等基本調査」によれば、女性管理職比率は12.7%で、前年と変わらず横ばいとなりました。産業別にみると、「医療、福祉」52.7%が突出して高く、「教育、学習支援業」24.8%、「生活関連サービス業、娯楽業」20.1%、「宿泊業、飲食サービス業」19.4%と続いています。「製造業」は8.5%で、「電気・ガス・熱供給・水道業」4.4%に次いで低い水準となっています。

また、労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2024」によると、アメリカ41.0%、シンガポール40.3%、フランス39.9%、ドイツ28.9%など、諸外国がおおむね30%以上となっているのに対して、日本は大幅に低くなっています。

『印刷白書2024』は2024年10月31日に発刊となりました。上場印刷企業35社の分析では、事業展開の特色と売上高構成比、個別業績による規模・収益性・生産性・安全性・成長性、連結業績による設備投資総額・研究開発費、キャッシュフローバランスなどを比較しています。

限られた誌面で伝え切れないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信していきます。ご意見、ご要望などもぜひお寄せください。

(JAGAT 研究・教育部 吉村マチ子)

『印刷白書2024』発刊のご挨拶

2024年10月31日発刊の『印刷白書2024』について、会長網野勝彦よりご挨拶させていただきます。

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 2024年度も後半に入り、秋の訪れとともに人々の動きが増え、活気が増してくるはずですが、今年は例年にない酷暑に見舞われました。日常においても“ 地球温暖化” に対する危機を感じざるを得ません。年初に能登半島地震が起こり、その直後に羽田空港で被災地に向かう航空機と旅客機の衝突事故が発生し、社会に大きな衝撃が走りました。被災地の復興が急がれる中、気候変動により激しさを増した豪雨がさらに被害を拡大させ、最も取り組みを優先すべき社会的問題となっています。一日も早い被災地の安全確保と被害に遭われた方々の日常が取り戻されることを願い、私たちは一丸となって被災地を応援し、復興を支援していかなければなりません。印刷業界としても被災地に心を寄せて、それぞれができる支援を考えていきたいと思います。

 さて、印刷産業を取り巻く環境は、コロナ禍を境に劇的に変化しました。それまでも、デジタル・ネットワークの技術革新により、印刷物が他のメディアにシフトするなど、長きにわたり年率数パーセントの出荷額減が続き、印刷業界は苦戦を強いられてきました。ところが、パンデミックにより社会経済活動が3 年にわたり停滞し、その後に起こった状況は誰も想像できなかったものでした。印刷需要の“ 減少” というレベルではなく、“ 需要消失” ともいえる過去に経験のない事態となりました。昨年5 月に、政府が新型コロナウイルス感染症を5 類に移行し、徐々に内需は回復傾向になりましたが、印刷需要は元の水準に戻ることなく現在に至っています。

 この状況の一つの理解は、今の印刷の全体量が“ 本来の社会全体の必要量” だということです。これまで印刷業界は、過剰な価格競争の中で生き残るべく、必要以上の印刷物を出荷してきた面があります。店頭販促プロモーション用途で出荷されたものの、実際に使われずに廃棄される印刷物は数十パーセントに上るといわれてきました。書籍や雑誌でも同じような問題があります。パンデミックで社会経済活動がリセットされたことで、本来必要である印刷物だけが残り、廃棄や未使用となる“ ムダ” が排除されたのかもしれません。社会が本当に必要としている、“ ムダ” のない印刷物の量に調整されたとも考えられます。これまでの供給過剰から脱出し、印刷物の価値を高める機会だとポジティブに捉えていきたいと思います。

 この先、社会は地球温暖化をはじめとする大きな課題に立ち向かっていかなければなりません。その中で、私たち印刷産業はどのようにすれば持続可能な社会に貢献できるのかを考えていくことが、一つの選択肢になると思います。『印刷白書2024』がその考察の一助になることを祈念しております。

2024年10月
公益社団法人日本印刷技術協会
会長 網野勝彦

書籍発刊のお知らせ

『印刷白書2024』2024年10月31日発刊

印刷白書2024

印刷白書2024
印刷産業の現在とこれからを知るために必携の白書『印刷白書2024』
第1章 Keynote 「共奏」ビジネス
第2章 印刷産業の動向
第3章 印刷トレンド
第4章 関連産業の動向
第5章 印刷産業の経営課題
ご注文はこちら発行日:2024年10月31日
ページ数:120ページ
判型:A4判オールカラー
発行:公益社団法人日本印刷技術協会
定価:9,900円(9,000円+税10%)
JAGAT会員特別定価:8,300円(7,545円+税10%)

解説

印刷産業のこれからを知るために必携の白書『印刷白書2024』

あらゆる産業を顧客とする印刷産業は、さまざまな産業と密接に関わりを持っています。「印刷白書」では、印刷産業の現状分析から印刷ビジネスの今後まで幅広く取り上げています。

印刷・同関連業界だけでなく広く産業界全体に役立つ年鑑とするために、社会、技術、産業全体、周辺産業というさまざまな観点から、ビジョンを描き込み、今後の印刷メディア産業の方向性を探りました。

印刷業界で唯一の白書として1993年以来毎年発行してきましたが、2024年版ではdrupa、サステナビリティ、事業承継などの項目を追加しました。

印刷関連ならびに情報・メディア産業の経営者、経営企画・戦略、新規事業、営業・マーケティングの方、調査、研究に携わる方、産業・企業支援に携わる方、大学図書館・研究室・公共図書館などの蔵書として、幅広い用途にご利用いただけます。

「第1章 Keynote」では印刷会社の「共奏ビジネス」をテーマに、印刷ビジネスの課題解決に取り組んでいます。「第2章 印刷産業の動向」では印刷産業の現状と課題を俯瞰的に捉え、「第3章 印刷トレンド」では技術課題を整理しました。「第4章 関連産業の動向」ではクライアント産業の動向を探りました。「第5章 印刷産業の経営課題」ではサステナビリティから人材まで印刷産業が取り組むべき課題を整理しました。
印刷メディア産業に関連するデータを網羅し、UD書体を使った見やすくわかりやすい図版を多数掲載し、他誌には見られないオリジナルの図版も充実させました。

CONTENTS

第1章 Keynote 「共奏」ビジネス
印刷ビジネスは「創注」から「連携」、そして「共奏」へ

第2章 印刷産業の動向
[産業構造]多くの可能性を秘めている印刷テクノロジーの対応力
[産業連関表]あらゆる産業に提供される印刷製品・関連サービス
[市場動向]共創による価値創出へのビジネスモデル革新 インフレ時代の利益成長に向けて
[上場企業]サステナビリティの実現と企業価値向上を目指す上場印刷企業
*関連資料 産業構造/産業分類・商品分類/規模(1)/規模(2)/規模(3)/産出事業所数(上位品目)/産出事業所数・出荷額/調達先と販売先/産業全体への影響力と感応度/最終需要と生産誘発/印刷物の輸出入額と差引額/印刷製品別輸出入額/印刷物の地域別輸出入額/印刷物の輸出入相手国/経営動向/上場企業/生産金額(製品別)/生産金額(印刷方式別)/売上高前期比・景況DI/設備投資・研究開発/生産能力/紙・プラスチック/印刷インキ/M&A

第3章 印刷トレンド
[デザイン]消費者ニーズに応えて進化するデザイン
[ワークフロー]印刷に新しい価値を吹き込むオンデマンドサービス
[drupa]drupa2024でデジタル印刷の将来は見えたか
[後加工]受注単価の値上げに取り組み、第3の市場開拓を模索する製本業界
*関連資料 設備投資の動向/フォーム印刷業界

第4章 関連産業の動向
[出版業界]出版市場の動向と読書バリアフリー
[新聞業界]新聞ならではの信頼性を確保しつつ進むデジタルシフト
[広告業界]広告費は過去最高の7.3兆円、インターネット広告は3.3兆円に
[DM業界]ターゲット精度の向上と顧客データの活用・解析でDM効果の最適化を図る
[地域メディア]地域メディアが持つ本質的な効果と事業創出力 派生的効果の包括的評価に向けて
[通信販売業界]通販・EC市場売上高は13兆円超えと成長続く 目立つ老舗カタログ通販企業へのM&A
*関連資料 出版市場/新聞市場/広告市場/通販市場
[コラム]自分を幸せにしてあげていますか?

第5章 印刷産業の経営課題
[サステナビリティ]ビジネスに直結するサステナビリティ サプライチェーン全体で環境対応を考える
[地域活性化]経営資源を活用した地域活性化による企業成長 起業しやすい地域づくりで差をつける
[経営管理]人口が減少する成熟社会の企業経営を考える 経営者に求められる「市場創出」のマインド
[事業承継]未来を見据えたベンチャー型事業承継の提案 自社の経営資源に後継者の意志を融合する
[デジタルマーケティング]デジタルマーケティングはAIマーケティングへ進化、そしてAIインダストリーへ
[AI活用]進化が進む生成AIとAI技術 今後の利活用の鍵は各工程における連携
[労務管理]省力化対応の観点から考える新しい労務管理
[人材]経営戦略とともに捉える人的資本の形成
*関連資料 クロスメディア/AI活用/人材

●巻末資料
DTP・デジタル年表/年表

(訂正版)「令和2年(2020年)産業連関表」で見る印刷産業

6月25日公表の「令和2年(2020年)産業連関表」が9月3日に訂正されました。一部の部門の国内生産額に誤りがあったためで、産業連関表の構造上、その内訳等も訂正されました。これに伴い、7月11日掲載の記事を以下のように訂正します。(数字で読み解く印刷産業2024その5修正版)

5年ぶりに公表の産業連関表 (下線部が訂正箇所)

産業連関表(全国表)は、日本国内で1年間に行われた財・サービスの生産状況や取引状況を行列(マトリックス)にした統計表です。各産業が相互に支え合って社会が成り立っているという実態を、具体的な数値で見ることができます。

関係府省庁の共同事業として、西暦の末尾が0または5の年を対象に作成されています。今回の「令和2年(2020年)産業連関表」は、前回の「平成27年(2015年)産業連関表」(2019年6月27日公表)から5年ぶりに公表されたものです。

2020年の財・サービスの総供給は1120兆円、そのうち国内生産額は1026兆円 (総供給に占める割合は91.7%)、輸入は93兆円(同8.3%)です。

国内生産額の費用構成は、中間投入率が45.3%、粗付加価値率が54.7%です。

財・サービスの総需要は1120兆円、そのうち中間需要は465兆円(総需要に占める割合41.5%)、国内最終需要は572兆円(同51.1%)、輸出は82兆円(同7.4%)です。

印刷産業の財・サービスの総需要(総供給)は約4兆円(訂正なし)

同じ項目を印刷産業について見ると、2020年の総供給は4兆1727億円、そのうち国内生産額は4兆875億円(総供給に占める割合は98.0%)、輸入は851億円(同2.0%)です。

国内生産額の費用構成は、中間投入率が39.4%、粗付加価値率が60.6%です。

財・サービスの総需要は4兆1727億円、そのうち中間需要は4兆1156億円(総需要に占める割合98.6%)、国内最終需要は357億円(同0.9%)、輸出は214億円(同0.5%)です。

印刷産業の生産波及力を見るために38部門表を作成

JAGAT刊『印刷白書』では産業連関表を使って、印刷産業とその取引先産業の動きを見ています。統合中分類(108部門)表の「191印刷・製版・製本」を列方向(タテ)に見ると、印刷産業がどの産業から1年間にどれだけの金額の生産物やサービスを購入しているか、行方向(ヨコ)に見ると、印刷産業の商品・サービスの販売先がわかります。

印刷産業の国内生産額に誤りはないので、印刷産業の項目をタテ・ヨコに見るだけなら今回の訂正の影響はありません。ただし、『印刷白書』では印刷産業を別掲した統合大分類(38部門)表を独自にまとめ、逆行列係数表を作成しています。 印刷産業の国内生産額は全産業の0.4%にすぎませんが、38部門の逆行列係数表で生産波及を見る場合、訂正が影響します。

『印刷白書2024』(10月発刊予定)では、 「令和2年(2020年)産業連関表」 から独自に作成した統合大分類(38部門)表によって、 印刷産業の生産波及力などを見ています。
限られた誌面で伝え切れないことや、読者からの問い合わせなどに対しては、「数字で読み解く印刷産業」で順次発信していきます。

(JAGAT 研究・教育部 吉村マチ子)

2022年の印刷産業出荷額(全事業所)は5兆462億円(「2023年製造業事業所調査」)

「2023年経済構造実態調査 製造業事業所調査」によれば、印刷産業出荷額は5兆462億円、事業所数は1万3520、従業者数は24万7854人。(数字で読み解く印刷産業2024その6)

「工業統計調査」に代わる2回目の「製造業事業所調査」

『印刷白書』では「工業統計調査」が全数調査を開始した1955年から、印刷・同関連業の全事業所の推移を見てきましたが、全産業を調査する「経済センサス‐活動調査」の創設に伴い、活動調査の実施年には「工業統計調査」は中止となりました。
さらに、5年ごとに行われる「経済センサス‐活動調査」の中間年において、「経済構造実態調査」が創設されたことから、「工業統計調査」は2020年調査(2019年実績)で廃止となり、2020年実績は「経済センサス‐活動調査(製造業)」、2021年・2022年実績は工業統計に代わる「経済構造実態調査 製造業事業所調査」で見ることになりました。

ただし、2020年以降は個人経営を含まない集計結果です。また、調査対象となる母集団も「工業統計調査」は独自のものですが、「経済センサス‐活動調査」と「経済構造実態調査」は「事業所母集団データベース」を利用しています。そのため、過去の工業統計と単純に比較ができないことに留意する必要があります。

工業統計調査に代わる「製造業事業所調査」は今回が2回目の実施で、品目別・産業別・地域別の集計結果が7月26日に公表されました。2022年の印刷産業出荷額は5兆462億円、コロナ禍を脱して2年連続の増加となり、5年ぶりに5兆円台となりました。2023年6月1日現在の事業所数は1万3520、従業者数は24万7854人です。

下表は、「経済センサス‐活動調査」が創設された2011年以降の印刷産業の事業所数・従業者数・製造品出荷額等の推移です。個人経営を含まない数字となった2020年に、事業所数・従業者数は大幅に減少し、1事業所当たり従業者数は5人増え、1事業所当たり出荷額は1億円以上増加し、2022年はそれぞれ18.3人、373.2百万円となりました。1人当たり出荷額は4年連続の増加で2036万円となっています。

現在『印刷白書2024』(10月発刊予定)の準備を進めていますが、限られた誌面で伝え切れないことや、読者からの問い合わせなどに対しては、「数字で読み解く印刷産業」で順次発信していきます。

(JAGAT 研究・教育部 吉村マチ子)

「令和2年(2020年)産業連関表」で見る印刷産業

「令和2年(2020年)産業連関表」が6月25日に公表されました。産業連関表は1年間に行われた全産業の取引を一つの表にまとめたもので、数値をそのまま読み取ることで、その年の産業構造などを把握できます。(数字で読み解く印刷産業2024その5)

5年ぶりに公表の産業連関表

産業連関表(全国表)は、日本国内で1年間に行われた財・サービスの生産状況や取引状況を行列(マトリックス)にした統計表です。各産業が相互に支え合って社会が成り立っているという実態を、具体的な数値で見ることができます。

関係府省庁の共同事業として、西暦の末尾が0または5の年を対象に作成されています。今回の「令和2年(2020年)産業連関表」は、前回の「平成27年(2015年)産業連関表」(2019年6月27日公表)から5年ぶりに公表されたものです。

2020年の財・サービスの総供給は1120兆円、そのうち国内生産額は1027兆円(総供給に占める割合は91.7%)、輸入は93兆円(同8.3%)です。

国内生産額の費用構成は、中間投入率が45.3%、粗付加価値率が54.7%です。

財・サービスの総需要は1120兆円、そのうち中間需要は465兆円(総需要に占める割合41.5%)、国内最終需要は573兆円(同51.1%)、輸出は82兆円(同7.4%)です。

印刷産業の財・サービスの総需要(総供給)は約4兆円

同じ項目を印刷産業について見ると、2020年の総供給は4兆1727億円、そのうち国内生産額は4兆875億円(総供給に占める割合は98.0%)、輸入は851億円(同2.0%)です。

国内生産額の費用構成は、中間投入率が39.4%、粗付加価値率が60.6%です。

財・サービスの総需要は4兆1727億円、そのうち中間需要は4兆1156億円(総需要に占める割合98.6%)、国内最終需要は357億円(同0.9%)、輸出は214億円(同0.5%)です。

産業連関表は、最もサイズの小さい統合大分類(37部門)でも、最大10桁の数字のセルが37×37並ぶ大きな表です。そして、印刷産業はそのほんの一部、具体的な数字で言えば、国内生産額の0.4%にすぎません。そのため、統合中分類(108部門)以上のサイズにならないとその数字は把握できません。

JAGAT刊『印刷白書』では産業連関表を使って、印刷産業とその取引先産業の動きを見ています。ただし、統合中分類では印刷産業とほとんど関連のない部門が多いことから、印刷産業を別掲した統合大分類表を独自に作成しています。

現在『印刷白書2024』(10月発刊予定)の準備を進めていますが、限られた誌面で伝え切れないことや、読者からの問い合わせなどに対しては、「数字で読み解く印刷産業」で順次発信していきます。

(JAGAT 研究・教育部 吉村マチ子)

印刷物は13年連続の輸入超過、アジアがシェア7割

貿易統計で印刷物を見ると、2023年は輸出減・輸入増で13年連続の輸入超過となった。輸出入ともに中国が1位で3割を占めている。(数字で読み解く印刷産業2024その4)

輸出入の1位は中国、西欧からの輸入が拡大

財務省「貿易統計」によれば、2023年の印刷物の輸出額は313億円(前年比2.4%減)で3年ぶりの減少、輸入額は694億円(同1.0%増)で2年連続の増加となりました。

アジアが最大の取引先で、2023年の輸出額は208億45百万円(同5.4%減)、輸入額は478億93百万円(同3.3%減)で、輸出入ともに総額の約7割を占めています。西欧は輸出28億90百万円(同4.3%増)、輸入118億75百万円(同26.4%増)と輸出入ともに増加し、特にドイツ・フランスからの輸入額が増加しました。北米は輸出50億32百万円(同4.5%減)、輸入88億33百万円(同3.0%増)となりました。

輸出先のトップ10は、中国、アメリカ、香港、ベトナム、台湾、韓国、メキシコ、タイ、ドイツ、シンガポールです。中国は不動の1位でシェアは3割を占めます。

輸入先のトップ10は、中国、シンガポール、アメリカ、韓国、ドイツ、フランス、イタリア、アイルランド、ベトナム、マレーシアです。10年連続1位のシンガポールが2位に後退し、中国が1位となり、輸入総額の31.5%を占めています。

下図は1994~2023年の印刷物の輸出入額とその差引額の推移です。1994~2004年の11年間は輸入超過でしたが、2005~2010年の6年間は輸出超過となり、2011年以降の13年間は逆に輸入超過となっています。2023年の差引額は381億円となりました。

『印刷白書』では、印刷物の輸出入相手国上位10カ国の推移表や、アジア・西欧・北米などの地域別の構成比の推移なども、わかりやすいグラフで紹介しています。
限られた誌面で伝え切れないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信していきます。ご意見、ご要望などもぜひお寄せください。

(JAGAT 研究・教育部 吉村マチ子)

上場印刷企業の2023年度業績は堅調

2024年3月期決算では、上場印刷企業18社のうち11社が増収、13社が増益を達成した。持続可能な社会の実現と企業価値向上に向けて、さらなる事業領域の拡大に取り組んでいる。(数字で読み解く印刷産業2024その3)

上場企業2024年3月期は3年連続最高益、印刷企業は13社が増益達成

上場企業の2024年3月期決算は、3年連続で最高益を更新しました。
日本経済新聞が東証プライム市場に上場する1071社を集計した結果、純利益は前期比20%増の46兆8285億円となり、全体の65%の企業で損益が改善しました。製造業は22%増、非製造業は18%増となりました。

また、2024年3月期決算における上場印刷企業18社(東証プライム市場上場は5社)では、11社が増収、13社が増益を達成しています。

上場印刷企業の2023年度業績も堅調

JAGAT『印刷白書』では、社名もしくは特色などに「印刷」とある企業を、上場印刷企業としています。各社の業績は決算短信と有価証券報告書で見ていますが、提出時期の関係で前年6月期決算から当年5月期決算までを当年度としています。

上場印刷企業の社数は、親会社による完全子会社化による上場廃止がある一方、新規上場もあって、33~34社で推移してきました。そして、現在準備を進めている『印刷白書2024』では、2022年3月3日上場のイメージ・マジックと、2023年9月22日上場の笹徳印刷の2社を加えた35社で分析する予定です。

上場印刷企業の2023年度業績を見ると、マツモト(4月期決算、6月中旬決算短信発表予定)とTAKARA&COMPANY(5月期決算、7月上旬決算短信発表予定)を除く33社の売上高合計は4兆円(前期比2.4%増)で、増収21社、増益20社、黒字転換1社と堅調です。

事業領域の拡大を反映して社名から「印刷」が消える

凸版印刷が2023年10月1日付けで持株会社に移行し、社名を「TOPPANホールディングス」に変更したニュースは、印刷業界のデジタルシフトの本格化を示すものとして受け止められました。しかし、社名から「印刷」が消えた印刷会社は、凸版印刷だけではありません。印刷事業からスタートして、事業領域の拡大を反映して、社名変更した印刷会社は少なくありません。

また、持株会社化で社名が変更になった上場企業は、2012年のウイルコホールディングス(旧:ウイルコ)、2015年の日本創発グループ(旧:東京リスマチック)、2019年のTAKARA & COMPANY(旧:宝印刷)、2021年の広済堂ホールディングス(旧:廣済堂)、2022年10月のKYORITSU(旧:共立印刷)、2023年 4月の竹田iPホールディングス(旧:竹田印刷)と、TOPPANホールディングスを含めて7社になりました。

それぞれの子会社として、ウイル・コーポレーション、東京リスマチック、宝印刷、広済堂ネクスト、共立印刷、竹田印刷、TOPPANが情報ソリューション事業を継続しています。

上場印刷企業35社のうち連結決算は27社ですが、そのグループ企業には印刷産業とは全く関連のない事業もあって、連結業績から印刷事業の実態を見ることは難しい。そこで、『印刷白書』では、個別業績に印刷事業が含まれない持株会社7社とアサガミを除外し、非連結の8社を含む27社の個別業績の企業力比較なども行います。

『印刷白書2024』は10月下旬発行を予定しています。上場印刷企業35社の分析では、事業展開の特色と売上高構成比、個別業績による規模・収益性・生産性・安全性・成長性、連結業績による設備投資総額・研究開発費、キャッシュフローバランスなどを比較します。

限られた誌面で伝え切れないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信していきます。ご意見、ご要望などもぜひお寄せください。

(JAGAT 研究・教育部 吉村マチ子)