印刷白書」カテゴリーアーカイブ

「令和2年(2020年)産業連関表」で見る印刷産業

「令和2年(2020年)産業連関表」が6月25日に公表されました。産業連関表は1年間に行われた全産業の取引を一つの表にまとめたもので、数値をそのまま読み取ることで、その年の産業構造などを把握できます。(数字で読み解く印刷産業2024その5)

5年ぶりに公表の産業連関表

産業連関表(全国表)は、日本国内で1年間に行われた財・サービスの生産状況や取引状況を行列(マトリックス)にした統計表です。各産業が相互に支え合って社会が成り立っているという実態を、具体的な数値で見ることができます。

関係府省庁の共同事業として、西暦の末尾が0または5の年を対象に作成されています。今回の「令和2年(2020年)産業連関表」は、前回の「平成27年(2015年)産業連関表」(2019年6月27日公表)から5年ぶりに公表されたものです。

2020年の財・サービスの総供給は1120兆円、そのうち国内生産額は1027兆円(総供給に占める割合は91.7%)、輸入は93兆円(同8.3%)です。

国内生産額の費用構成は、中間投入率が45.3%、粗付加価値率が54.7%です。

財・サービスの総需要は1120兆円、そのうち中間需要は465兆円(総需要に占める割合41.5%)、国内最終需要は573兆円(同51.1%)、輸出は82兆円(同7.4%)です。

印刷産業の財・サービスの総需要(総供給)は約4兆円

同じ項目を印刷産業について見ると、2020年の総供給は4兆1727億円、そのうち国内生産額は4兆875億円(総供給に占める割合は98.0%)、輸入は851億円(同2.0%)です。

国内生産額の費用構成は、中間投入率が39.4%、粗付加価値率が60.6%です。

財・サービスの総需要は4兆1727億円、そのうち中間需要は4兆1156億円(総需要に占める割合98.6%)、国内最終需要は357億円(同0.9%)、輸出は214億円(同0.5%)です。

産業連関表は、最もサイズの小さい統合大分類(37部門)でも、最大10桁の数字のセルが37×37並ぶ大きな表です。そして、印刷産業はそのほんの一部、具体的な数字で言えば、国内生産額の0.4%にすぎません。そのため、統合中分類(108部門)以上のサイズにならないとその数字は把握できません。

JAGAT刊『印刷白書』では産業連関表を使って、印刷産業とその取引先産業の動きを見ています。ただし、統合中分類では印刷産業とほとんど関連のない部門が多いことから、印刷産業を別掲した統合大分類表を独自に作成しています。

現在『印刷白書2024』(10月発刊予定)の準備を進めていますが、限られた誌面で伝え切れないことや、読者からの問い合わせなどに対しては、「数字で読み解く印刷産業」で順次発信していきます。

(JAGAT 研究・教育部 吉村マチ子)

印刷物は13年連続の輸入超過、アジアがシェア7割

貿易統計で印刷物を見ると、2023年は輸出減・輸入増で13年連続の輸入超過となった。輸出入ともに中国が1位で3割を占めている。(数字で読み解く印刷産業2024その4)

輸出入の1位は中国、西欧からの輸入が拡大

財務省「貿易統計」によれば、2023年の印刷物の輸出額は313億円(前年比2.4%減)で3年ぶりの減少、輸入額は694億円(同1.0%増)で2年連続の増加となりました。

アジアが最大の取引先で、2023年の輸出額は208億45百万円(同5.4%減)、輸入額は478億93百万円(同3.3%減)で、輸出入ともに総額の約7割を占めています。西欧は輸出28億90百万円(同4.3%増)、輸入118億75百万円(同26.4%増)と輸出入ともに増加し、特にドイツ・フランスからの輸入額が増加しました。北米は輸出50億32百万円(同4.5%減)、輸入88億33百万円(同3.0%増)となりました。

輸出先のトップ10は、中国、アメリカ、香港、ベトナム、台湾、韓国、メキシコ、タイ、ドイツ、シンガポールです。中国は不動の1位でシェアは3割を占めます。

輸入先のトップ10は、中国、シンガポール、アメリカ、韓国、ドイツ、フランス、イタリア、アイルランド、ベトナム、マレーシアです。10年連続1位のシンガポールが2位に後退し、中国が1位となり、輸入総額の31.5%を占めています。

下図は1994~2023年の印刷物の輸出入額とその差引額の推移です。1994~2004年の11年間は輸入超過でしたが、2005~2010年の6年間は輸出超過となり、2011年以降の13年間は逆に輸入超過となっています。2023年の差引額は381億円となりました。

『印刷白書』では、印刷物の輸出入相手国上位10カ国の推移表や、アジア・西欧・北米などの地域別の構成比の推移なども、わかりやすいグラフで紹介しています。
限られた誌面で伝え切れないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信していきます。ご意見、ご要望などもぜひお寄せください。

(JAGAT 研究・教育部 吉村マチ子)

上場印刷企業の2023年度業績は堅調

2024年3月期決算では、上場印刷企業18社のうち11社が増収、13社が増益を達成した。持続可能な社会の実現と企業価値向上に向けて、さらなる事業領域の拡大に取り組んでいる。(数字で読み解く印刷産業2024その3)

上場企業2024年3月期は3年連続最高益、印刷企業は13社が増益達成

上場企業の2024年3月期決算は、3年連続で最高益を更新しました。
日本経済新聞が東証プライム市場に上場する1071社を集計した結果、純利益は前期比20%増の46兆8285億円となり、全体の65%の企業で損益が改善しました。製造業は22%増、非製造業は18%増となりました。

また、2024年3月期決算における上場印刷企業18社(東証プライム市場上場は5社)では、11社が増収、13社が増益を達成しています。

上場印刷企業の2023年度業績も堅調

JAGAT『印刷白書』では、社名もしくは特色などに「印刷」とある企業を、上場印刷企業としています。各社の業績は決算短信と有価証券報告書で見ていますが、提出時期の関係で前年6月期決算から当年5月期決算までを当年度としています。

上場印刷企業の社数は、親会社による完全子会社化による上場廃止がある一方、新規上場もあって、33~34社で推移してきました。そして、現在準備を進めている『印刷白書2024』では、2022年3月3日上場のイメージ・マジックと、2023年9月22日上場の笹徳印刷の2社を加えた35社で分析する予定です。

上場印刷企業の2023年度業績を見ると、マツモト(4月期決算、6月中旬決算短信発表予定)とTAKARA&COMPANY(5月期決算、7月上旬決算短信発表予定)を除く33社の売上高合計は4兆円(前期比2.4%増)で、増収21社、増益20社、黒字転換1社と堅調です。

事業領域の拡大を反映して社名から「印刷」が消える

凸版印刷が2023年10月1日付けで持株会社に移行し、社名を「TOPPANホールディングス」に変更したニュースは、印刷業界のデジタルシフトの本格化を示すものとして受け止められました。しかし、社名から「印刷」が消えた印刷会社は、凸版印刷だけではありません。印刷事業からスタートして、事業領域の拡大を反映して、社名変更した印刷会社は少なくありません。

また、持株会社化で社名が変更になった上場企業は、2012年のウイルコホールディングス(旧:ウイルコ)、2015年の日本創発グループ(旧:東京リスマチック)、2019年のTAKARA & COMPANY(旧:宝印刷)、2021年の広済堂ホールディングス(旧:廣済堂)、2022年10月のKYORITSU(旧:共立印刷)、2023年 4月の竹田iPホールディングス(旧:竹田印刷)と、TOPPANホールディングスを含めて7社になりました。

それぞれの子会社として、ウイル・コーポレーション、東京リスマチック、宝印刷、広済堂ネクスト、共立印刷、竹田印刷、TOPPANが情報ソリューション事業を継続しています。

上場印刷企業35社のうち連結決算は27社ですが、そのグループ企業には印刷産業とは全く関連のない事業もあって、連結業績から印刷事業の実態を見ることは難しい。そこで、『印刷白書』では、個別業績に印刷事業が含まれない持株会社7社とアサガミを除外し、非連結の8社を含む27社の個別業績の企業力比較なども行います。

『印刷白書2024』は10月下旬発行を予定しています。上場印刷企業35社の分析では、事業展開の特色と売上高構成比、個別業績による規模・収益性・生産性・安全性・成長性、連結業績による設備投資総額・研究開発費、キャッシュフローバランスなどを比較します。

限られた誌面で伝え切れないことや、今後の大きな変更点は点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信していきます。ご意見、ご要望などもぜひお寄せください。

(JAGAT 研究・教育部 吉村マチ子)

売り上げ拡大が続くスーパー、コンビニ、百貨店

紙の出版物と広告はマイナスが続くが、大手小売業は2024年も好調である。印刷業は18カ月ぶりの前年割れから、2月は微増となった。(数字で読み解く印刷産業2024その2)

マイナスが続く紙の出版物と印刷メディア広告費

印刷産業の得意先産業は、出版、小売、金融、広告などが大きな割合を占めています。それぞれの業況が印刷産業にも影響を与えます。

2023年の紙の出版物の推定販売金額は、1兆612億円(前年比6.0%減)、書籍・雑誌ともに減少し19年連続のマイナスとなりました(全国出版協会・出版科学研究所推定)。

2023年の印刷メディア広告費は、雑誌広告(前年比2.0%増)以外はすべて減少し、1兆3168億円(同4.5%減)で2年連続のマイナスとなりました(電通「2023年日本の広告費」から新聞・雑誌・折込広告・DM・フリーペーパー・POPの広告費を合算)。

2023年の印刷業の生産金額合計は3569億円(前年比1.5%増)となりました(経済産業省生産動態統計、従事者100人以上の事業所、印刷工程のみの金額)。
製品別見ると、商業印刷1247億円(同1.2%増)、事務用印刷479億円(同2.1%増)、その他の印刷189億円(同10.6%増)、証券印刷58億円(同16.6%増)までがプラスに転じ、包装印刷922億円(同3.3%増)は3年連続のプラスです。出版印刷519億円(同3.6%減)は2008年から16年連続のマイナス、建装材印刷154億円(同4.7%減)は2年連続のマイナスです。

スーパー売上高は4年連続増、コンビニと百貨店免税売上高は過去最高を更新

2023年の小売業界については、大手小売業の販売概況を見てみましょう。

最も売上規模の大きいスーパーの全店売上高は13兆5585億円(前年比2.2%増)、4年連続で前年を上回りました(日本チェーンストア協会)。
全体の約7割を占める食料品は、節約志向から買い控えが続きましたが、4月以降はメーカーの値上げで店頭価格が上昇し全体を押し上げました。住関連品では旅行用バッグやアウトドア用品などが売れましたが、衣料品は高気温の影響で冬物が低調でした。

コンビニの全店売上高は11兆6593億円(前年比4.3%増)で、3年連続で前年を上回り、過去最高を更新しました(日本フランチャイズチェーン協会)。
人流・観光客の増加、記録的な高温などに対応した品ぞろえ・キャンペーンにより、おにぎり、菓子、アイスクリーム、飲料などが好調で、客単価も720.5円(同1.3%増)と9年連続のプラス、来店客数は3.0%増で2年連続のプラスとなりました。

全国百貨店売上高は5兆4211億円(前年比8.8%増)で3年連続で増加し、ほぼコロナ前の水準まで回復しました(日本百貨店協会) 。
インバウンド(訪日外国人客)による消費も拡大し、円安を追い風に免税売上高は前年比3倍の3484億円で過去最高となりました。コロナ禍前は約7割を占めた中国人客は、2023年は約5割に減少しましたが、韓国や台湾、東南アジア、欧米からの来店が増えています。

紙の出版物・広告は低調、大手小売業・通販は好調が続く

2024年に入っても同じような業況が続いています。

紙の出版物の推定販売金額は、2024年1月が731億円(前年同月比5.8%減)、2月が963億円(同3.5%減)で、書籍・雑誌ともに減少し4カ月連続のマイナスです。

広告業売上高は1月が4045億円(前年同月比0.9%減)、2月が4192億円(同0.5%減)で、3カ月連続のマイナスです(経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」)。
そのうち雑誌は1月20.8%増、2月17.6%増と好調ですが、新聞は1月4.2%減、2月8.2%減で12カ月連続のマイナス、折込み・ダイレクトメールが1月9.8%減、2月11.7%減で17カ月連続のマイナスとなりました。

大手小売業の3月の全店売上高は、スーパーが1兆2216億円(前年同月比9.3%増)で13カ月連続のプラス、コンビニが9701億円(同0.3%増)で28カ月連続のプラス、百貨店が5019億円(同9.7%増)で25カ月連続のプラスといずれも好調でした。

また、3月の通信販売売上高は1147億円(前年同月比1.5%増)で、2カ月連続のプラスとなりました(日本通信販売協会会員企業121社計)。

印刷業の生産金額は、1月が264億円(前年同月比1.3%減)で、18カ月ぶりに前年割れとなりましたが、2月は288億円(同0.2%増)と微増になりました。
製品別に見ると、商業印刷が4.5%増と5カ月連続の増加、その他の印刷が4.4%増で12カ月連続の増加、建装材印刷が3.1%増です。マイナスは、証券印刷11.4%減、事務用印刷4.5%減、出版印刷2.7%減、包装印刷2.3%減です。

『印刷白書2023』では 印刷メディア産業に関連するデータを網羅し、わかりやすい図表にして分析しています。
また、限られた誌面で伝えきれないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信していきます。ご意見、ご要望などもぜひお寄せください。

(JAGAT 吉村マチ子)

2022年の印刷産業売上高は7兆5639億円(「2023年経済構造実態調査」一次集計)

「2023年経済構造実態調査(産業横断調査)」によれば、印刷産業は1万6734企業、売上高は7兆5639億円となった。 (数字で読み解く印刷産業2024その1)

「経済構造実態調査」の速報値公表

総務省・経済産業省は、「2023年経済構造実態調査(産業横断調査)」の一次集計結果(企業等に関する集計)を3月27日に公表しました。

売上高を見ると、「製造業」は453兆8466億円(前年比9.4%増)、「印刷・同関連業」は7兆5639億円(同1.7%減)となっています。

企業数を見ると、「製造業」は24万1661企業(同0.5%減)、「印刷・同関連業」は1万6734企業(同0.8%減)となっています。

一次集計(産業横断調査)は法人企業を集計対象とした速報値で、確報値は2024年7月公表予定の二次集計(産業横断調査)で公表されます。

また、2022年調査から「経済構造実態調査」の一部として実施されている「製造業事業所調査」も2024年7月に公表予定です。

印刷産業の出荷額4.9兆円に対して、売上高は7.6兆円

「2022年経済構造実態調査 製造業事業所調査」(2023年7月31日公表)が現時点では最新のデータで、2021年の「印刷・同関連業」の製造品出荷額等(全事業所)は4兆8555億円です。

これに対して、「2023年経済構造実態調査(産業横断調査)」の一次集計(企業等に関する集計)では、「印刷・同関連業」の売上高は7兆5639億円となっています。

印刷産業の出荷額は4.9兆円なのに、売上高は7.6兆円、この差はどこからきているのでしょうか。

「製造業事業所調査」の出荷額は事業所単位の集計なので、主要製品が「印刷・同関連品」なら印刷産業の出荷額になります。一方、「産業横断調査」の売上高は企業単位の集計なので、主業が「印刷・同関連業」なら印刷産業の売上高になるのです。

また、出荷額は工場出荷金額(積み込み料、運賃、保険料、その他費用を除いた金額)なので、その分売上高より金額は小さくなります。

『印刷白書2023』図表2-3を一部加工

『印刷白書2023』では 印刷メディア産業に関連するデータを網羅し、わかりやすい図表にして分析しています。
また、限られた誌面で伝えきれないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信していきます。ご意見、ご要望などもぜひお寄せください。

(JAGAT 吉村マチ子)

イノベーティブな人材と異業種連携との関係

働く人の低賃金や人材の非流動性を解消し、事業の再構築や新事業の展開、DXの促進を図るため、国や自治体においても人材の育成・確保に関わるさまざまな支援事業が行われている。印刷業界でもイノベーティブな価値を生み出す創注人材が求められる中、人材育成のための異業種との連携や越境学習について考える。
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『印刷白書2023』創刊30年目にして初めてカラー化

業界初の白書として1994年に発刊以来、『印刷白書』は29年にわたり、印刷産業の動向把握に必要な公表データを網羅・掲載する唯一の存在である。10月31日に発刊した最新版の『印刷白書2023』は、30年目にして初めてデジタル印刷を活用し、カラー版となった。 続きを読む

デジタル化で変化するニュースの読まれ方

ニュースへの信頼の低下や、ニュースを意図的に避ける傾向は日本では見られないが、ニュースへの関心の低下が続き、シェア&コメントがされなくなっている。(数字で読み解く印刷産業2023その10)

ニュースへの入り口はアグリゲーター

ロイタージャーナリズム研究所「ロイター・デジタルニュースリポート2023」によると、オンラインのニュースに触れる方法として、ニュースのWebサイトやアプリを直接開く割合は、2018年の32%から2023年は22%に減少し、ソーシャルメディアを使う割合は、逆に23%から30%に増加しています。その他の方法としては、検索25%(2018年比1%増)、モバイルアラート9%(同3%増)、ニュースアグリゲーター(ニュースをまとめて確認できるように、各社の記事をまとめて表示するWebサイトやアプリ)8%(同2%増)、Eメール5%(同1%減)です。
この傾向は国による違いが大きく、調査対象の46カ国・地域のうち、フィンランド・ノルウェー・デンマークでは直接が50%を超えているのに対して、タイ・フィリピン・チリではソーシャルメディアが50%を超えています。一方、日本では検索+アグリゲーターの利用が65% 、直接は12% 、ソーシャルメディアは10%で、韓国・台湾も同じような傾向にあります。
国による違いとは別に、年齢層によっても大きな差があって、日本でも世界でも、若い世代はソーシャルメディアを通じてニュースを得る人が増えています。

アルゴリズムへの懐疑的な見方の強まり

2023年の報告書は、生活費の高騰や異常気象、ウクライナ侵攻などの危機が続く中で執筆されたことから、「こうした状況下では、正確で、安定した財源に支えられた、独立したジャーナリズムの存在は極めて重要だが、調査を行った国々の多くでは、信頼の低下やエンゲージメントの低下、不確実なビジネス環境などによって、厳しい課題に直面していることが浮き彫りになった」と分析しています。
また、「信頼性にばらつきがあったり、嫌がらせや誤情報のリスクがあったり、時として経営やデータ保護の問題があったりという、重大な懸念があるにもかかわらず、どこの国でも圧倒的にデジタルメディアが選ばれている」としています。
個々人の閲覧歴に基づいて取捨選択されたニュースを見ることについて、良い方法だと答えた割合は30%で、2016年から6ポイント減少しました。ただし、編集者やジャーナリストに選んでもらうのが良い(27%)よりも、アルゴリズムのほうがわずかながら多くなっています。
ニュースへの信頼は、調査全体で40%、コロナ禍で上昇した分が反転し前年に比べ2ポイント低下しました。フィンランド(69%)やポルトガル(58%)などの国で信頼度が高く、アメリカ(32%)、アルゼンチン(30%)、ハンガリー(25%)、ギリシャ(19%)など、政治の分断が進んでいる国は低くなりました。日本は42%と平均並みです。

ニュースへの関心が低下し、議論も低調

ニュースを意図的に避ける「ニュース回避」は、全体では36%、ギリシャ・ブルガリアが各57%で最も高く、逆に日本は11%で最も低くなっています。
一方で「ニュースへの関心」の低下は、各国で進んでいます。ニュースに全く触れない層も増え、日本は17%で世界で最も高くなっています。
インターネットによって民主的な議論が広がると期待されたにもかかわらず、オンライン上でニュースにコメントしたり、議論に参加したりする人は、近年、少なくなっています。積極的に参加する人は調査全体で22%、日本は6%と世界で最も低く、政治に対する議論の少なさも際立っています。

デジタルの時代において、ニュースはこれまでの届け方とは明らかに異なる形にシフトしており、受け手の選択肢も多様化していることは数字上からも見て取れます。
ニュースが不可欠な理由はなぜか、プロのジャーナリストによるその質の高い価値を今一度再認識することが必要になります。

10月末発刊の『印刷白書2023』では、新聞業界欄「メディアの使命を果たし続けるためのデジタルシフト」において、新聞の存在意義や、ネットの中でジャーナリズムはどう機能すべきかについても考察しています。
限られた誌面で伝えきれないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信していきます。ご意見、ご要望などもぜひお寄せください。

(JAGAT CS部 吉村マチ子)

『印刷白書2023』発刊のご挨拶

2023年10月31日発刊の『印刷白書2023』について、会長塚田司郎よりご挨拶させていただきます。

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今年は3月に開催されたワールドベースボールクラシックで大谷翔平選手の活躍もあって侍ジャパンが優勝し、日本中が歓喜に沸きました。また、5 月に政府が新型コロナウイルス感染症を5類に移行したことにより、サービス業などの内需の回復が見られます。一方、温暖化による気候変動の影響は、今年も日本各地に大雨をもたらし甚大な被害を及ぼしました。8月下旬には、福島第一原子力発電所で処理水の放出を開始したことに中国が反発し、輸入規制をするなど日中関係が悪化しています。

5月の連休が明けて、長かったコロナ禍での生活も終わり、再びかつての日常が戻ってきたことで、後半は経済も上向いて需要も戻ってくるのではと期待されました。一方で、今年は3年間にわたる需要減や諸物価の上昇、各種補助金の終了、3年前のゼロゼロ融資の返済の年であることもあり、年度予算がタイトな企業も少なくなかったのではと考えられます。Web会議サービスの浸透やさまざまな新しい法律の施行、いまだに終わらないウクライナ侵攻の影響などで今後の印刷需要予測もやや不透明になっています。

現代はデジタル経済と実体経済が並行して走っている状況です。デジタルメディアでは検索のたびにエンジンが学習して個人の趣味嗜好に合った提案をするように、印刷でもユーザーの購買履歴をRFM 分析して、バリアブルプリントで個人の興味を引くDMを作成したり、ニッチな分野でより少部数の本やパンフレットなどを提供することが求められます。そのためには、よりいっそうコストと品質のバランスが取れたデジタル印刷機が必要になります。

さらに環境問題があります。IPCCの最新レポートでは、世界平均気温は産業革命以前と比較して1.1℃上昇していて、パリ協定の1.5℃目標を達成するには、従来の各国の温室効果ガス削減目標では足りないと指摘しています。国連のグテーレス事務総長は「地球温暖化ではなく地球沸騰化の時代が来た」、最近では「人類は地獄への扉を開けた」とも発言しています。

環境負荷の点では、紙の抄造工程では大量の水とエネルギーを使用し、PS版の製造においても負荷は少なくありません。需要の減少している現在、製紙メーカーはエネルギーを消費する側から電気を作る側となって、今では紙の代理店が売電も行っています。世界的にアルミの需要が旺盛なこともあり、PS版の工場も一部閉鎖されています。どんな印刷方式にせよ、必要以上に大量に紙や資材を消費することは、食品や衣料品のようにロスにつながり持続可能とは呼べません。インキの乾燥では電力消費量の大きいオフ輪のヒートセット方式や、パッケージのUV乾燥も今後の課題です。

他の産業と同様に、印刷企業もDXや生成AIで業務効率を改善し、事業転換を進めていくことが求められています。今年もこの白書がそうした企業の前進に役立つよう願っています。

2023年10月
公益社団法人日本印刷技術協会
会長 塚田司郎

書籍発刊のお知らせ

『印刷白書2023』2023年10月31日発刊

印刷白書2023

印刷白書2023
印刷産業の現在とこれからを知るために必携の白書『印刷白書2023』
第1章 Keynote 創注→連携戦略
第2章 印刷産業の動向
第3章 印刷トレンド
第4章 関連産業の動向
第5章 印刷産業の経営課題
ご注文はこちら発行日:2023年10月31日
ページ数:128ページ
判型:A4判オールカラー
発行:公益社団法人日本印刷技術協会
定価:9,900円(9,000円+税10%)
JAGAT会員特別定価:8,300円(7,545円+税10%)

解説

印刷産業のこれからを知るために必携の白書『印刷白書2023』

あらゆる産業を顧客とする印刷産業は、さまざまな産業と密接に関わりを持っています。「印刷白書」では、印刷産業の現状分析から印刷ビジネスの今後まで幅広く取り上げています。

印刷・同関連業界だけでなく広く産業界全体に役立つ年鑑とするために、社会、技術、産業全体、周辺産業というさまざまな観点から、ビジョンを描き込み、今後の印刷メディア産業の方向性を探りました。

印刷業界で唯一の白書として1993年以来毎年発行してきましたが、2023年版では印刷DX、AI活用などの項目を追加しました。

印刷関連ならびに情報・メディア産業の経営者、経営企画・戦略、新規事業、営業・マーケティングの方、調査、研究に携わる方、産業・企業支援に携わる方、大学図書館・研究室・公共図書館などの蔵書として、幅広い用途にご利用いただけます。

「第1章 Keynote」では印刷会社の「創注→連携戦略」をテーマに、印刷ビジネスの課題解決に取り組んでいます。「第2章 印刷産業の動向」では印刷産業の現状と課題を俯瞰的に捉え、「第3章 印刷トレンド」では技術課題を整理しました。「第4章 関連産業の動向」ではクライアント産業の動向を探りました。「第5章 印刷産業の経営課題」ではSDGsから人材まで印刷産業が取り組むべき課題を整理しました。
印刷メディア産業に関連するデータを網羅し、UD書体を使った見やすくわかりやすい図版を多数掲載し、他誌には見られないオリジナルの図版も充実させました。

CONTENTS

第1章 Keynote 創注→連携戦略
「創注」「連携」こそ、印刷業界の目指すべきこと

第2章 印刷産業の動向
[産業構造]多種多様な課題に応えて印刷ビジネスは次の地平へ
[産業連関表]あらゆる産業の需要に応えて生み出される印刷製品
[市場規模]市場の断続的な回復と再編 起業家精神の再獲得に向けて
[上場企業]企業価値向上に向けて変化を加速する上場印刷企業
[海外動向]持続可能性と社会最適化が求められる情報メディアビジネス
*関連資料 産業構造/産業分類・商品分類/規模/産出事業所数(上位品目)/産出事業所数・出荷額/調達先と販売先/産業全体への影響力と感応度/最終需要と生産誘発/印刷物の輸出入額と差引額/印刷製品別輸出入額/印刷物の地域別輸出入額/印刷物の輸出入相手国/経営動向/上場企業/売上高前期比・景況DI/生産金額(製品別)/生産金額(印刷方式別)/設備投資・研究開発/生産能力/紙・プラスチック/印刷インキ/M&A
[コラム]「あなたの色眼鏡は、何色ですか?」

第3章 印刷トレンド
[デザイン]印刷・加工技術とデザインで社会の課題に応える
[ワークフロー]オンデマンドビジネスを成立させるワークフロー 業界を超えた標準化で付加価値を高める
[オフセット印刷/デジタル印刷]真の印刷DX に向けてワークフローの革新を
[用紙]収益改善も需要低調な製紙業界、プラ代替品の需要動向に注目
[後加工]スマート化や新技術の進展で、新たな需要が期待される製本業界
*関連資料 設備投資の動向/フォーム印刷業界

第4章 関連産業の動向
[出版業界]産業再生に向けた出版構造改革 連携と標準化、DXの始動
[電子出版]市場規模は横ばいながらも電子書籍の普及・利用が進む 進化を続けるEdTech、電子図書館に注目
[新聞業界]メディアの使命を果たし続けるためのデジタルシフト
[広告業界]広告費は過去最高の7.1 兆円、インターネット広告は3兆円を突破
[DM業界]ターゲットとタイミングの精度を高め、高品質化と利用範囲の拡大が進むDM
[地域メディア]地域メディアの新たな展開と機能 広告主・読者・商圏の変容を受けて
[通信販売業界]通販・EC市場、10.9%増で初の12兆円超え カタログやテレビのコロナ禍特需は終焉迎える
*関連資料 出版市場/電子出版市場/新聞市場/広告市場/通販市場

第5章 印刷産業の経営課題
[SDGs]SDGs活動が生み出す新しい地方創生の形 印刷会社の役割、そして連携と共創
[地域活性化]デジタル田園都市国家構想は仕事づくりが中核に 高まるスタートアップへの期待
[経営管理]企業変革と社員の成長がリンクする組織マネジメント
[デジタルマーケティング]デジタルマーケティングは業務のデジタル化へ
[印刷DX]DXの推進と共創で創注型事業モデルへの変革を促す
[AI活用]顧客接点から製造・出荷までのワークフローにおける生成AIの活用
[労務管理]賃上げと労働生産性の観点から新たな労務管理を考える
[人材]越境学習がイノベーティブな人材を創る
*関連資料 クロスメディア/AI活用/人材

●巻末資料
DTP・デジタル年表/年表