印刷白書」カテゴリーアーカイブ

2019年の印刷産業売上高は7兆7821億円(「2020年経済構造実態調査」一次集計)

2回目となる「経済構造実態調査」によれば、印刷産業の法人企業の売上高は7兆7821億円(前年比0.6%減)となった。 (数字で読み解く印刷産業2021その4)

「工業統計調査」と同時・一体的に実施される「経済構造実態調査」

総務省・経済産業省は、「2020年経済構造実態調査」一次集計結果を3月31日に公表しました。2019年に創設された同調査は、5年ごとの「経済センサス‐活動調査」の中間年の実態を把握するために、毎年6月1日に実施されます(活動調査実施年を除く)。国民経済計算(特にGDP統計)の精度向上や企業の経営判断に資することを目的とするものです。

調査対象は大きく「甲調査」「乙調査」に分かれ、「甲調査」は製造業~サービス業に属する大企業を中心とした売上高が一定規模以上のすべての企業・団体を対象としています。また、「乙調査」についてはソフトウェア業など特定の35業種のサービス産業に属する事業所および企業を対象とし、7月末の二次集計で公表されます。

これまで実施されていた3つの統計調査(サービス産業動向調査の拡大調査、商業統計調査、特定サービス産業実態調査)を統合・再編し、必要最低限の事項を把握するものです。2019年度から「工業統計調査」と同時実施し、製造業に属する企業の一部については工業統計調査からデータ移送を受けており、一次公表では工業統計調査の速報値を用いています。

印刷産業の出荷額4.8兆円に対して、売上高は7.8兆円

3月26日公表の「2020年工業統計調査」速報値では、2019年の「製造業」の製造品出荷額等は322兆1260億円(前年比2.9%減)、「印刷・同関連業」は4兆8271億円(同0.02%減)です。

これに対して、「2020年経済構造実態調査」一次集計結果では、「製造業」の売上高は400兆9098億円(前年比3.0%減)、「印刷・同関連業」は7兆7821億円(同0.6%減)となっています。

印刷産業の出荷額は4.8兆円なのに、売上高は7.8兆円、この差はどこからきているのでしょうか。

まず「工業統計調査」は4人以上の事業所に関する調査で、「経済構造実態調査」は製造業・サービス業の売上高一定規模以上の企業を調査対象とし、調査対象外企業の推計値を加えて集計しています。ただし、製造業の単独事業所企業については、工業統計調査からデータ移送を受けています。

つまり、「工業統計調査」の出荷額は事業所単位の集計なので、主要製品が「印刷・同関連品」なら印刷産業の出荷額になります。一方、「経済構造実態調査」の売上高は企業単位の集計なので、主業が「印刷・同関連業」なら印刷産業の売上高になるのです。また、出荷額は工場出荷金額(積み込み料、運賃、保険料、その他費用を除いた金額)なので、その分売上高より金額は小さくなります。

『印刷白書2020』では印刷メディア産業に関連するデータを網羅し、わかりやすい図表にして分析しています。また、限られた誌面で伝え切れないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信しています。ご意見、ご要望などもぜひお寄せください。

(JAGAT CS部 吉村マチ子)

2019年の印刷産業出荷額(4人以上の事業所)は4兆8271億円(速報値)

「2020年工業統計速報」が3月26日に公表された。4人以上の印刷産業出荷額は前年並みを確保し、付加価値額は微増となった。(数字で読み解く印刷産業2021その3)

印刷産業出荷額は前年の大幅減から、前年並みで下げ止まりとなる

「2020年工業統計速報」(2020年6月1日現在で実施)によれば、従業者4人以上の事業所数は18万1299事業所(前年比2.1%減)、従業者数は769万7536人(同1.0%減)となりました。2019年の製造品出荷額等は322兆1260億円(同2.9%減)で、全24業種のうち減少は16業種(前年は4業種)となりました。

印刷産業に関して見ると、事業所数は9636事業所(同2.5%減)、従業者数は25万579人(同1.2%減)で、製造業全体よりも減少幅は大きくなりましたが、製造品出荷額等は4兆8271億円で前年並み、付加価値額は2兆1219億円(同0.1%増)となりました。

工業統計調査の結果は、「速報」→「概要版」→「確報」の順で公表され、速報では数値は小さく出る傾向があります。印刷産業出荷額は2018年の速報値では前年比5.3%減でしたが、確報値では4.9%減となり、220億円ほど増加しました。今回の速報値では前年差が10億円ですから、確報値ではプラスとなる可能性もあります。

印刷産業の出荷額・事業所数は東京が1位

製造品出荷額等が最も大きい産業は、輸送用機械器具製造業(構成比21.1%)で、食料品製造業(同9.2%)、化学工業(同9.1%)の順となっています。

製造品出荷額等が最も大きい都道府県は、愛知(同14.9%)で、神奈川(同5.5%)、静岡(同5.3%)、大阪(同5.2%)、兵庫(同5.0%)と続きます。都道府県別第1位産業をみると、輸送用機械器具製造業が14都県、食料品製造業が10道県、化学工業が7府県、電子部品・デバイス・電子回路製造業が4県です。

印刷産業では、製造品出荷額等は東京(構成比15.3%)が最も大きく、埼玉(同14.5%)、大阪(同9.4%)、愛知(同6.4%)の順、事業所数も東京(同17.6%)が最も多く、大阪(同11.3%)、埼玉(同8.4%)、愛知(同6.5%)の順です。

東京の主要産業を見ると、輸送用機械器具製造業、電気機械器具製造業に次いで、印刷産業は第3位産業に入っていて、東京の地場産業といえます。

『印刷白書2020』では印刷メディア産業に関連するデータを網羅し、わかりやすい図表にして分析しています。また、限られた誌面で伝え切れないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信しています。ご意見、ご要望などもぜひお寄せください。

(JAGAT CS部 吉村マチ子)

最新の「延長産業連関表」で印刷産業の調達先と販売先の変化を見る

印刷産業は1年間にどれだけのモノ、サービスを購入しているか。印刷物はどの産業にどのくらい1年間に購入されているか。2015年を基準年とする最新の「延長産業連関表」で見てみよう。(数字で読み解く印刷産業2021その2)

同業者間取引は年々縮小、プラスチック製品、印刷インキは増加傾向

「産業連関表」は国内で1年間に行われたすべての産業の取引を一つの表にまとめたもので、各産業間のモノやサービスの取引状況を金額で把握できます。
日本全国を対象とした「産業連関表(基本表)」は、10府省庁が共同で5年ごとに作成していて、「平成27年(2015年)産業連関表」(2019年6月公表)が最新のものです。

経済産業省は、この「産業連関表(基本表)」をベンチマークとして、「延長産業連関表」を毎年作成していて、1月27日に「平成29年(2017年)延長産業連関表」を公表しました。

延長産業連関表(96部門表)の「013印刷・製版・製本」を列方向(タテ)に見ると、印刷産業がどの産業から1年間にどれだけの金額の生産物やサービスを購入しているか、行方向(ヨコ)に見ると、印刷産業の商品・サービスの販売先がわかります。

『印刷白書2020』では、2020年3月公表の「平成28年(2016年)延長産業連関表」を中心に、印刷産業とその取引先産業やクライアント産業の動きを見ています。「013印刷・製版・製本」の行列を金額の大きい順に並び替えて、取引額の大きい産業を「原材料等の調達先上位10産業」「販売先上位10産業」としてグラフにしています。今回は2017年延長表の公表を受けて、2017年の上位10産業に関して、2015年からの推移を見てみましょう。

「原材料等の調達先上位10産業」を実質表で見ると、材料費、商業(卸売マージン額など)、同業者間取引が上位を占め、順位に変動はありません。上位5産業で7割を占めています。
印刷市場の縮小を反映して2015年から2017年にトータルで5.1%減となりました。特に「物品賃貸サービス」(産業用機械器具賃貸業、貸自動車業、電子計算機・同関連機器賃貸業、事務用機械器具賃貸業など)が2015年比23.4%減、「印刷・製版・製本」が同14.7%減と大幅に減少しました。一方、「プラスチック製品」は7.5%増、「化学最終製品」(印刷インキなど)は5.0%増と堅調です。

得意先1位は「金融・保険」、出版、新聞は2位に後退

「販売先上位10産業」から印刷産業の得意先を見ると、「映像・音声・文字情報制作」(出版、新聞など)が長年首位を占めていましたが、2017年に初めて「金融・保険」が1位となり、構成比は3位の「商業」まで同じ規模になっています。
2015年から2017年にトータルで6.9%減となり、「食料品・たばこ」「医療・福祉」だけがプラスとなりました。減少幅が大きいのは、「映像・音声・文字情報制作」17.0%減、次いで「印刷・製版・製本」14.7%減、「研究」「商業」「公務」も2桁台の減少となりました。

『印刷白書2020』では、産業連関表を使って、印刷産業の取引の流れを細かく見ています。限られた誌面で伝えきれないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信していきます。ご意見、ご要望などもぜひお寄せください。

(JAGAT CS部 吉村マチ子)

百貨店売上高は45年ぶりの低水準、コンビニは初の減少、スーパーは5年ぶり増

2020年の大手小売業売上高は、百貨店が大幅減、コンビニも減少、スーパーは増加と明暗が分かれた。クライアント産業の業績は、印刷会社の需要にどの程度影響するのか。(数字で読み解く印刷産業2021その1)

コンビニ店舗数は横ばい、スーパー店舗数は過去最高を更新

印刷産業の得意先産業は、出版、金融、小売、広告などが大きな割合を占めています。巣ごもり需要に呼応して出版物が比較的好調なことが、印刷産業にとっては明るい材料ですが、チラシをはじめとした宣伝印刷物は大きく減少しています。今回は1月下旬に発表された大手小売業の2020年販売概況を見てみましょう。

日本フランチャイズチェーン協会は1月20日、2020年末の全国のコンビニエンスストア店舗数を5万5924店(2019年末は5万5562店)と発表しました。セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソンなど、正会員7社の店舗数を集計したもので、2019年3月から店舗数はほぼ横ばいです。

一方、大手スーパーなどを会員とする日本チェーンストア協会が1月21日に発表した、2020年末の会員企業56社の店舗数は1万975店(2019年末は55社1万550店)で、過去最高を更新しました。

日本百貨店協会が1月22日に発表した2020年末の百貨店店舗数は73社196店(2019年末は76社208店)、最近では地方の不採算店の閉店が続き、ピークだった1999年(140社311店)から3割強減少しています。

スーパー売上高は堅調、コンビニは初めてのマイナス、百貨店は大幅減で5兆円割れ

次に2020年売上高を見てみましょう。

最も売上規模の大きいスーパーの全店売上高は12兆7597億円、全体の約7割を占める食料品が好調な一方、衣料品は過去最大の下げ幅で、住宅関連品は感染症対策関連商品を中心に堅調に推移しました。その結果、既存店ベースで前年を0.9%上回り、5年ぶりのプラスとなりました。

コンビニの全店売上高は10兆6608億円(前年比4.5%減)で、比較可能な2005年以降で初めてのマイナスとなりました。コロナ禍の外出自粛・在宅勤務、買い物回数の減少、巣ごもり需要などにより、客単価は6.4%高い670.4円に増えましたが、来店客数は10.2%減となりました。

全国百貨店売上高は4兆2204億円、1975年(4兆651億円)以来45年ぶりの低水準となりました。緊急事態宣言による店舗休業や営業時間短縮、繁華街への外出自粛などにより、既存店ベースで前年比25.7%減、3年連続の減少となりました。さらに、インバウンド(訪日外国人)は80.2%の大幅減(686億円)で4年ぶりに前年実績を下回りました。衣料品の売上高は31.1%減の1兆1410億円、食料品が15.9%減の1兆3193億円と、商品別売上高で初めて衣料品が食料品に逆転されました。

印刷産業出荷額と百貨店売上高は規模が近く、どちらも1991年と1997年をピークとするM字カーブを描き、2009年に大きく減少しました。その後は、印刷産業出荷額が2011年に6兆円割れ、2018年に5兆円割れとなったのに対して、百貨店売上高は2015年まで6兆円台で、インバウンド需要の拡大もあって2019年まで堅調でしたが、2020年2月以降は、衣料品の悪化やインバウンド需要の冷え込みにより大きく減少しました。

「工業統計調査」による印刷産業出荷額は2月末に2019年実績の速報値が公表されます。現時点で、今回の百貨店売上高と比較できる数値はありませんが、毎月の「印刷統計」で前年同月比を見ると、2020年4月から9月の落ち込みが大きく、10月、11月は改善が見られましたが、再度の緊急事態宣言で悪化することが予想されます。

(JAGAT CS部 吉村マチ子)

■関連情報 :『印刷白書2020』(2020年10月23日発刊)
『印刷白書2020』では印刷メディア産業に関連するデータを網羅し、わかりやすい図表にして分析しています。また、限られた誌面で伝えきれないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信しています。

印刷産業の取引の変化を2005年から見る

印刷物の生産にどれだけのモノ、サービスが投入されているか。印刷物はどの産業にどのくらい購入されているか。「接続産業連関表」と「延長産業連関表 」で見てみよう。 (数字で読み解く印刷産業2020その10)

5年に1回公表の「産業連関表」

「産業連関表」は国内で1年間に行われたすべての産業の取引を一つの表にまとめたもので、各産業間のモノやサービスの取引状況を金額で把握できます。多種多様な統計資料を用いて、10府省庁が共同で5年ごとに作成する加工統計なので、精度に優れ各種資料のベンチマークとなっています。ただし、公表時期は遅くなり、日本全国を対象とした全国産業連関表(基本表)は、「平成27年(2015年)産業連関表」(2019年6月公表)が最新のものです。

経済産業省は、毎年この基本表から各年の産業連関表を延長推計した延長産業連関表を作成しています。『印刷白書2020』では、2020年3月に公表された「平成28年(2016年)延長産業連関表(平成27年基準)」を中心に、印刷産業とその取引先産業やクライアント産業の動きを見ています。

接続産業連関表で2005年からの推移を見る

『印刷白書2020』では、延長産業連関表(96部門表)の「印刷・製版・製本」の行列を金額の大きい順に並び替えて、取引額の大きい産業をグラフにしています。今回は総務省が8月31日に公表した 『平成17-23-27年接続産業連関表』 を使って、2005年と2011年を追加してみました。

96部門表の「013印刷・製版・製本」を列方向(タテ)に見ると、印刷産業がどの産業から1年間にどれだけの金額の生産物やサービスを購入しているか、行方向(ヨコ)に見ると、印刷産業の商品・サービスの販売先がわかります。2016年の上位10部門に関して、2005年以降の推移を見てみましょう。

「原材料等の調達先上位10産業」を実質表で見ると、材料費、商業(卸売マージン額など)、同業者間取引が上位を占めています。印刷市場の縮小を反映して2011年から2015年に大きく減少し、2016年も減少傾向にありますが、化学最終製品(印刷インキなど)だけは前年より増加しています。

「販売先上位10産業」から印刷産業の得意先を見ると、長年首位の映像・音声・文字情報制作(出版、新聞など)が、2005年から2011年に大幅に減少し、構成比は2005年の14.5%から2016年には11.7%まで低下し、金融・保険11.0%、商業10.7%と同じ規模になっています。医療・福祉と食料品・たばこは堅調に推移しています。

『印刷白書2020』では、産業連関表を使って、印刷産業の取引の流れを細かく見ています。限られた誌面で伝えきれないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信していきます。ご意見、ご要望などもぜひお寄せください。

(JAGAT CS部 吉村マチ子)

『印刷白書2020』をどう読むか、どう役立てるか

『印刷白書』は、印刷産業以外の方にも印刷産業の全体像を理解してもらえるように構成している。図表点数は140点以上で統計資料満載だが、資料的価値だけでなく、読み物としての面白さも追及している。11月27日の発刊記念セミナーではその中から主要なトピックを解説する。


今年も『印刷白書』が10月末に発刊され、JAGAT会員企業の代表者には1冊献本されました。編集作業は時間との戦いでもあって、あっちが勝ったりこっちが負けたりで、終わってみればもっとできることがあったのではと後悔しきりです。それでも、『印刷白書』を手にした方から、電話やメールでお礼や労いの言葉をいただくこともあって、何とか無事発刊できたことを実感しています。

2020年版の特集は「コロナウイルスで変わる社会と印刷」

『印刷白書』は全体で3部5章構成で、印刷産業以外の方にも印刷産業の全体像を理解してもらえるように意図しています。
また、印刷メディア産業の大きな変化を捉えるために、印刷産業にとどまらない社会の変化に目を向けることが必要と考え、第1部「特集」では広く社会全体に関わるテーマを取り上げてきました。
今回は避けられないテーマとして、コロナウイルスを取り上げました。特集「コロナウイルスで変わる社会と印刷」では、コロナ禍で生じたトピックを整理し、with/afterコロナの時代に対応していく印刷ビジネスとは何か、ニューノーマル時代のビジネスの現状分析と課題解決に取り組んでいます。
第1部「特集」に続いて、第2部「印刷・関連産業の動向」、第3部「印刷産業の経営課題」では、社会、技術、産業全体、周辺産業というさまざまな観点から、ビジョンを描き込み、今後の印刷メディア産業の方向性を探っています。
今回は「印刷産業の経営課題」に、テレワークの項目を追加しました。また、新たに「新聞業界」をジャーナリストの井坂公明氏、「デジタルマーケティング」をヤプリの島袋孝一氏、「デジタルイノベーション」をアビームコンサルティングの本間充氏に執筆していただきました。

統計資料満載で「データをして語らしむ」

『印刷白書』は「印刷産業に関する最新データを網羅する」ことを基本方針とし、UD書体を使った見やすくわかりやすい図表にまとめ、周辺産業に関する最新データも掲載しています。
図表点数は毎年140点以上で、官公庁や関連団体の統計調査から、印刷産業に関連するデータを抽出し、時系列比較などにより有用なデータを提供しています。またJAGATが継続的に行っている調査(印刷産業経営力調査、印刷業毎月観測アンケート、新入社員意識調査など)も掲載しています。
図表を多く掲載してきたのは「データをして語らしむ」という考え方からです。そのために、統計データを図表化する際にも、できるだけバイアスのかからない形で加工して提供して、そこから何を読み取るかは読者に委ねたいと考えています。統計データが示しているものは過去の姿で、そこから新たな事業の方向性やヒントを見つけ出すことができるかどうかが、データを読み解くカギになるからです。
今年もこの印刷白書が新たなチャレンジについて考える際の参考となれば幸いです。

(JAGAT CS部 吉村マチ子)

■関連情報
2020年11月27日(金)
『印刷白書2020』発刊記念セミナー

第3部第5章で「デジタルマーケティング」の項を執筆していただいたヤプリの島袋孝一さんを講師に招いて、『印刷白書2020』発刊記念セミナーを開催します。

『印刷白書2020』発刊のご挨拶

2020年10月23日発刊の『印刷白書2020』について、会長塚田司郎よりご挨拶させていただきます。

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いろいろとあった今年もあと2カ月余りとなりました。新型コロナウイルスの影響で6月に開催されるはずだったdrupaも、夏の東京オリンピック・パラリンピックも、その他多くのイベントも延期または中止となり、2020年という年は今後長く忘れられない年になりそうです。イギリスのジョンソン首相も、そして10月にはアメリカのトランプ大統領も新型コロナウイルスに感染する事態となり、次期アメリカ大統領選出のための選挙戦は郵便による投票の是非も含めて、ますます混迷しています。国内では、熊本県の球磨川や秋田県の最上川が氾濫し、気候変動による豪雨の影響で、今年も大きな被害となりました。

withコロナの状況で、イベントの自粛や経済活動の制限がある中で、業界の仕事では折込チラシのような広告、宣伝、販促といった分野に大きな影響が及び、そのセグメントでは前年比50%くらいの会社も少なくないようです。生命が危険にさらされているのに、売り上げや利益のことをあまり考える気にもならないのですが、雇用の維持、事業の継続を思えば、やはり毎月の数字に直面せざるを得ません。月次の決算書を見れば、助成金の申請の他にまず変動費の削減、そしてまた固定費の削減を考えますが、やる事はそれ以外にもあります。

現在の状況は、不況で売り上げが減少するということでは約10年前のリーマンショック後の世界と似ています。企業の使える予算も限られてくるので、気の利いたサービスを提供するよりは、本質的なサービスをよりリーズナブルなコストで提供する必要があります。受注から納品までのすべてのプロセスでタッチポイントを減らすべく、ワークフローオートメーションに取り組んだり、そもそもすべて自前の自社の垂直統合モデルを見直してみるとか、柔軟な対応性のために各部門の職務範囲を少し広げてみるとか、こうしたことは当時も言われていましたが10年の間に技術も進歩しました。業界の各メーカーやサプライヤーも変化するニーズに対し、受発注やプルーフでの確認の自動化システム、環境負荷を低減しメンテナンスを不要にする無処理版、より扱いやすい小型の枚葉インクジェット機、日本市場に最適なフォーマットのオフセット印刷機など、新しく開発した製品を発表しています。JAGATでも毎年「トピック技術セミナー」を開催し、熱心な参加者が多いのですが、今年はオンラインセミナーとしました。私自身も視聴しましたが、わざわざ出掛けずに自社でコーヒー片手に見られるのでとても便利でした。こうしたセミナーや今年の白書が、時代が変わった今、各社のゲームチェンジに役立つことを願っています。

2020年10月
公益社団法人日本印刷技術協会
会長 塚田司郎

書籍発刊のお知らせ

『印刷白書2020』2020年10月23日発刊

印刷白書2020

印刷白書2020
印刷産業の現在とこれからを知るために必携の白書『印刷白書2020』
第1部「特集 コロナウイルスで変わる社会と印刷」
第2部「印刷産業の動向」「印刷トレンド」「関連産業の動向」
第3部「印刷産業の経営課題」
ご注文はこちら発行日:2020年10月23日
ページ数:148ページ
判型:A4判
発行:公益社団法人日本印刷技術協会
定価:9,000円+税
JAGAT会員特別定価:7,545円+税

解説

印刷産業のこれからを知るために必携の白書『印刷白書2020』。
印刷・同関連業界だけでなく広く産業界全体に役立つ年鑑とするために、「印刷白書」は3部構成となっています。
印刷業界で唯一の白書として1993年以来毎年発行してきましたが、2020年版ではテレワークなどの項目を追加しました。
印刷関連ならびに情報・メディア産業の経営者、経営企画・戦略、新規事業、営業・マーケティングの方、調査、研究に携わる方、産業・企業支援に携わる方、大学図書館・研究室・公共図書館などの蔵書として、幅広い用途にご利用いただけます。

第1部「特集」では「コロナウイルスで変わる社会と印刷」をテーマとしています。
コロナ禍で生じたトピックを整理し、with/afterコロナの時代に対応していく印刷ビジネスとは何か、ニューノーマル時代のビジネスの現状分析と課題解決に取り組んでいます。
第2部「印刷・関連産業の動向」、第3部「印刷産業の経営課題」では、社会、技術、産業全体、周辺産業というさまざまな観点から、ビジョンを描き込み、今後の印刷メディア産業の方向性を探りました。
印刷メディア産業に関連するデータを網羅、UD書体を使った見やすくわかりやすい図版を多数掲載し、他誌には見られない経営比率に関する調査比較などのオリジナルの図版も充実させました。

CONTENTS

第1部
第1章 特集 コロナウイルスで変わる社会と印刷
ニューノーマル時代の印刷ビジネスを考える
コロナ禍で印刷ビジネスはどう変わるか

第2部
第2章 印刷産業の動向
[産業構造]社会のニーズに対応して変化を続ける印刷産業
[産業連関表]産業連関表で印刷産業の取引の流れを見る
[市場規模]新たな発想と戦略で不可逆的なデジタル化とローカリズムへの変化に備える
[上場企業]新たな収益モデルの確立に向けた模索が続く上場印刷企業
[関連資料]産業構造/産業分類・商品分類/規模(1)/規模(2)/規模(3)/
産出事業所数(上位品目)/産出事業所数・出荷額/調達先と販売先/
産業全体への影響力と感応度/最終需要と生産誘発/印刷物の輸出入額と差引額/
印刷製品別輸出入額/印刷物の地域別輸出入額/印刷物の輸出相手国・輸入相手国/
経営動向/上場企業/生産金額(製品別)/生産金額(印刷方式別)/
売上高前期比・景況DI/設備投資・研究開発/生産能力/紙・プラスチック/
印刷インキ/M&A

第3章 印刷トレンド
[デザイン]新しい環境に対応した製品・サービスをデザインする
[ワークフロー]スマートファクトリーからデジタル・トランスフォーメーション(DX)へ
[オフセット印刷]ますます効率化を目指す印刷フローに オフセット印刷を取り巻くトレンド
[デジタル印刷]デジタル印刷で効率的なビジネス展開を
[用紙]持続可能な循環型経済社会における新たな紙の価値
[後加工]問い直される製本の価値と、新たな取り組みに向けてのリ・スタート
*関連資料 デジタル印刷/フォーム印刷業界

第4章 関連産業の動向
[出版業界]デジタルと紙で光明の見え始めた出版ビジネス
[電子出版]多様化する電子出版ビジネスとコロナ禍の影響
[コンテンツ]流通のデジタルシフトとコンテンツの体験型消費が進む
[新聞業界]デジタルの強化と「新聞外」収入の拡大を模索
[広告業界]広告における印刷メディアの成長はWebとの連携が鍵に
[DM業界]日本の広告費で一定シェアを占めるDM、One to One型へのシフトが進む
[折込広告他]地域メディアとしての特性を価値創造に活かす折込広告とフリーペーパー
[通信販売業界]アマゾン一強のネット通販は8.8兆円市場に成長も、カタログ通販不調は続く
*関連資料 出版市場/電子出版市場/コンテンツ市場/新聞市場/広告市場/通販市場

第3部
第5章 印刷産業の経営課題
[地域活性化]グローバリズムからローカリズムへ withコロナ時代の地方創生戦略の行方
[経営管理]DTP制作部門の収益化に向けて
[クロスメディア]コロナ禍で加速するバーチャル体験の提供
[デジタルマーケティング]アフターデジタル時代の到来 生活者のメディア環境の変化と企業コミュニケーション
[デジタルイノベーション]自社の本質と強みを強化する真のデジタル・トランスフォーメーション(DX)とは
[テレワーク]印刷会社はテレワーク時代にどう向き合うか
[人材1]コロナ禍で変化した印刷会社の新卒採用
[人材2]社会環境の変化とインストラクショナルデザインの重要性
*関連資料 クロスメディア/テレワーク/人材

●巻末資料
DTP・デジタル年表/年表/『印刷白書』年表/印刷産業&関連団体アドレス

変革を進める上場印刷企業34社

上場印刷企業34社では、新たな収益モデルの確立に向けて、事業領域の再編成、生活者に寄り添った新サービスの開発などの模索が続いている。(数字で読み解く印刷産業2020その9)

2020年上場企業の希望退職募集は60社、1万人超え

東京商工リサーチの調査によれば、2019年に早期・希望退職者を募集した上場企業は延べ36社、対象人数は1万1351人で、過去20年間で社数・人数ともに最少だった2018年(12社・4126人)と比べると約3倍に増加しました。
さらに2020年は9月14日の時点で60社、対象人数は1万100人に上り、募集企業数は前年の1.7倍、リーマン・ショックの影響が残る2010年の85社に迫る勢いとなっています。
「新型コロナによる業績の影響は、国内外の消費回復の遅れなどで長期化の気配も強く、企業の人員削減の加速も招いている。さらに、外食や、アパレル小売など労働集約型の企業では、雇用調整助成金の終了も見え、年末から来年にかけ募集に拍車がかかることも懸念される」と分析しています。

上場印刷企業34社の14社が増収増益

現在編集中の 『印刷白書2020』 では、日本の上場企業3824社(2020年8月末時点)のうち社名もしくは特色などに「印刷」とある企業34社を、上場印刷企業として取り上げています。
2019年版の印刷白書で取り上げた図書印刷は、凸版印刷の完全子会社化により2019年7月30日付で上場廃止となりましたが、ビーアンドピーが同年7月24日付でマザーズに上場したので、社数は前回と同じ34社になりました。

上場印刷企業でも希望退職募集の動きはあります。2020年に入って、次の3社が実施しました。
NISSHAは収益力強化策の一環として、子会社を含む正社員を中心に250名規模の希望退職者を募集し、268名が6月30日に退職しました。
廣済堂は社外転進支援プログラム(希望退職の募集)を45歳以上60歳未満の正社員、豊中工場・新木場発送センターに在籍する正社員、それ以外の非正規社員を対象に約240名を募集し、9月30日に230名が退職することになりました。
また、アサガミは、連結子会社のマイプリントの婚礼事業に属する35歳以上の正社員を対象に60名程度の希望退職者を募集しています。

印刷業界においては、紙メディア需要の減少、受注価格の下落、原材料価格の値上がりなど、全体として厳しい状況が続いています。
上場印刷企業では、既存事業における競争優位性の確立とコスト削減、成長分野への積極的な投資などに努めた結果、2019年度の業績は増収が23社、そのうちの14社が増収増益となりました。

『印刷白書2020』は10月下旬発行を予定しています。上場印刷企業34社の分析では、事業展開の特色と売上高構成比、個別業績による規模・収益性・生産性・安全性・成長性、連結業績による設備投資総額・研究開発費、キャッシュフローバランスなどを比較しています。
限られた誌面で伝えきれないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信していきます。ご意見、ご要望などもぜひお寄せください。

(JAGAT CS部 吉村マチ子)