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コンビニ、スーパー、百貨店の動向は印刷産業にどう影響するか

コンビニ店舗数は減少したが売上高は過去最高を更新、競争激化でビジネスモデルの転換期を迎えている。大手小売業の業績は、印刷会社の需要にどう影響するのか。(数字で読み解く印刷産業2020その1)

コンビニ店舗数は初の減少、スーパー店舗数は過去最高を更新

日本フランチャイズチェーン協会(JFA)は1月20日、2019年末の全国のコンビニエンスストア店舗数を5万5620店と発表しました。セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソンなど、JFA正会員7社の店舗数を集計したもので、前年末に比べ123店減少しました。2005年以降初めてのマイナスで、コンビニは飽和状態にあることから今後も店舗数は頭打ち状態が続くとみられます。

一方、大手スーパーなどを会員とする日本チェーンストア協会(JCA)が1月23日に発表した、2019年末のJCA会員企業55社の店舗数は1万550店と過去最高を更新しました。100円ショップなどスーパー以外の業種増加が主な理由ですが、2012年の57社7895店から7年連続で増加しています。

百貨店は最近では地方の不採算店の閉店が続き、2019年末の店舗数は76社208店と、ピークだった1999年(140社311店)から約3割減少しています。

コンビニ売上高は過去最高を更新、百貨店はインバウンドが好調

次に3業態の2019年売上高を見てみましょう。
最も売上規模の大きいスーパーは12兆4325億円、天候不順や消費税増税などの影響もあって、既存店ベースで前年を1.8%下回り、4年連続の減少となりました。
前年からの変化を見る場合、過去1年間に開・廃業した店舗の販売額を除いた「既存店ベース」が主に利用されますが、印刷需要に関して言えば、新規出店の告知チラシなどが考えられることから、「全店ベース」で比較したほうがいいかもしれません。ちなみにスーパーは全店ベースで見ると4.3%減となりました。

コンビニの全店売上高は11兆1608億円(前年比1.7%増)で過去最高を更新しました。既存店ベースでは10兆3421億円(同0.4%増)で、初めて10兆円を超えました。カウンター商材、冷凍食品、調理麺、おにぎり、デザートなどの中食の好調、たばこの売り上げ増加、キャッシュレス還元の効果により、客単価が上昇したものとみられます。

日本百貨店協会が1月22日に発表した、2019年の全国百貨店売上高は5兆7547億円(前年比:全店2.2%減、既存店1.4%減)で6年連続のマイナスです。マイナス要因として、天候不順や消費税増税、さらに若年層の百貨店離れや地方経済低迷などの構造的要因が考えられます。ただし、インバウンド(訪日外国人)は客数減を購買単価でカバーし、3461億円(同2.0%増)で3年連続で過去最高を更新しました。

1月売上高はマスク特需でコンビニはプラス、スーパーと百貨店はマイナス

新型コロナウイルスの影響が心配される中、2月下旬には2020年1月の販売統計が相次いで発表されました。
スーパーの総販売額はマイナス(前年同月比:全店7.7%減、既存店2.0%減)ですが、コンビニ売上高は中食の好調とキャッシュレス還元に加え、マスクなどの需要増加によりプラス(同:全店1.0%増、既存店0.4%増)となりました。

一方、全国百貨店売上高は4カ月連続のマイナスです(同:全店4.5%減、既存店3.1%減)。記録的な暖冬で季節需要が減退し、インバウンドは春節の月ズレ(昨年2月5日→本年1月25日)で2桁増ですが、下旬からは新型コロナウイルスの影響で国内外の集客・売り上げともに厳しい商況となりました。

(JAGAT CS部 吉村マチ子)

■関連情報『印刷白書2019』(2019年10月23日発刊)
『印刷白書2019』では印刷メディア産業に関連するデータを網羅し、わかりやすい図表にして分析しています。また、限られた誌面で伝えきれないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信しています。

『印刷白書2019』発刊記念特別セミナー

印刷業界動向、産業連関表、上場企業分析、産業構造、ワークフロー、マーケティングオートメーションと印刷など『印刷白書2019』から主要なトピックを解説します。「デジタル×紙×マーケティング」で印刷ビジネスがどのように変わるのかを探ります。 続きを読む

経済効果も含めて大成功のラグビーワールドカップ

日本初開催のラグビーワールドカップは、9月20日から11月2日の決勝までの44日間、日本各地で計48試合が行われました。その経済効果は4372億円、訪日外国人客は40万人とされます。(数字で読み解く印刷産業2019その8)

数字で読み解くラグビーワールドカップ2019

大型台風の影響で48試合中3試合が中止となりましたが、日本代表はロシア、アイルランド、サモア、スコットランドを次々に破って、予選グループを全勝で1位通過し、準々決勝で南アフリカに敗れたものの、1試合ごとにラグビーファンを増やしていきました。

今年話題になった言葉に贈られる「新語・流行語大賞」のノミネート30語のうち、ラグビーワールドカップ(W杯)2019に関連する言葉として、「ジャッカル」「にわかファン」「4年に一度じゃない。一生に一度だ。」「笑わない男」「ONE TEAM(ワンチーム)」の5つが選ばれています。

タックルされて倒れた相手のボールを奪うプレーが「ジャッカル」と言われても、「にわかファン」には何のことかわかりませんが、「一生に一度」の体験を求めて大勢の観客が会場へと足を運び、「笑わない男」の顔も広く知られるようになりました。

「ONE TEAM」で初のベスト8進出を決めた日本対スコットランド戦の観客動員数は6万7666人、全試合の観客動員数は延べ170万4443人(1試合平均3万7877人)で、チケット販売枚数は184万枚(販売率99.3%、中止の3試合を含む)に達しました。

経済効果は4372億円

「ラグビーワールドカップ2019大会前経済効果分析レポート」では、大会開催による経済効果を4372億円と試算しています。

この試算は2017年9月現在における情報や想定に基づくもので、スタジアム等のインフラ整備、大会運営、観客による消費需要増加額を積み上げ、次に産業連関分析を用いて第一次・第二次間接効果を含めた経済効果を試算しています。

2015イングランド大会の247万人、2007フランス大会の219万人に次いで、日本大会の入場者数は150万~180万人の予測でしたが、台風で中止となった3試合が開催されていれば、180万人は確実に超えていたことになります。

同レポートでは、W杯を目的とした訪日外国人客40万人、その消費による経済効果を1057億円と予想し、「大会後の経済効果を見据えた取組みの実施により、本大会による経済効果はさらに増大する」としています。

日本政府観光局(JNTO)によれば、9~10月のW杯出場国からの外国人旅行者数は76万4100人で前年同期比29.4%増となりました。このうち、優勝した南アフリカからの旅行者は9500人で5倍近くに増え、日本と1次リーグで対戦したアイルランドからも2万1200人と約5.5倍に増加しました。また、イギリスからは11万8000人と、85.1%の大幅な増加となりました。

ラグビー観戦にビールは欠かせないといわれますが、W杯のワールドワイドパートナー「ハイネケン」の9~10月の国内販売量は、試合会場での販売や大会ロゴを使用した販促などが功を奏し、前年同期比2.8倍と大幅増を達成しました。

また、英国式パブHUBを展開するハブの10月度の月次速報によれば、全店舗の売上高(前年同月比)125.6%、客数(同)117.7%と好調でしたが、9月度より売上高で1ポイント、客数で3.6ポイント縮小した要因を「台風19号による、売上指数の最も高い土曜日であり且つラグビーイベントの複数試合が予定されていた10月12日(土)の休業(関西および九州の15店舗を除く96店舗が休業)の影響」とみています。

全国各地が会場となり、地方に長期滞在する人も多かったため、ビールだけでなく、宿泊施設など各方面に大きな経済効果を及ぼしたようです。

(JAGAT CS部 吉村マチ子)

■関連情報『印刷白書2019』発刊記念特別セミナー
2019年11月27日(水)14:00~17:10予定
印刷業界動向、産業連関表、上場企業分析、産業構造、ワークフロー、マーケティングオートメーションと印刷など『印刷白書2019』から主要なトピックを解説します。「デジタル×紙×マーケティング」で印刷ビジネスがどのように変わるのかを探ります。

■関連情報『印刷白書2019』
『印刷白書2019』(10月23日発刊)では産業連関表を使って、イベント開催による印刷産業への経済波及効果を考察しています。





『印刷白書2019』発刊のご挨拶

2019年10月23日発刊の『印刷白書2019』について、会長塚田司郎よりご挨拶させていただきます。

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今年は、国内では年初の製紙メーカーの生産工場での事故と、その後の機械停止を伴う生産調整による用紙の値上げに始まり、輸入原材料のコスト上昇によるインキの値上げなど、主要な資材コストの上昇があり、紙メディアに関連するビジネスは難しくなってきました。また、世界では米中間の貿易戦争、悪化する日韓関係、目前に迫っているイギリスのEU からの離脱など、不安定な状況はますますエスカレートしています。経済面では、各国の利下げ競争が強まり、わが国においても日銀がこれ以上マイナス金利を深掘りするのかなどの議論が盛んですが、一方では資金の貸し手である銀行の自己資本規制の心配もあり、やがて融資に影響するのではないかとの懸念も生まれつつあります。10月からは消費増税も実施されました。

この10 年で印刷産業の企業数は1 万社減って2万2000社となりました。産業のピークだった30年前の半数です。リーマンショック後の世界では企業は製品やサービスのプロモーションにROIを重視するようになり、スマートフォンの登場以降は、デジタルメディアは年々進化して、人々がそうしたメディアに接触する時間が増え、結果として紙メディアは減少してきました。現代では、DMのような紙メディアからQRコードでスマホやPCのサイトに導き、ユーザーとコミュニケーションを取る企業が増えてきました。こうしたニーズにはマーケティングに対する理解も不可欠ですが、それとともにバリアブルプリントの技術で印刷物のパーソナライゼーションを可能にしなければなりません。JAGATでもそれを「デジタル×紙×マーケティング」と称して、昨年に引き続き研究し、事例の紹介に努めてきました。

時代の変化、デジタル技術の変化とともに、単に紙にインクを乗せていた姿からビジネスの目的や業態も変わっていきます。もちろん、オフセット印刷の生産性向上についても継続し努力しなければなりませんが、コモディティプリントは減少しているので、デジタルメディアとつながり、紙メディアの価値を高めることにも留意する必要があります。変化する社会のニーズに対して適応できる人材の育成は重要な経営課題の一つです。今年の印刷白書が各企業の皆様にとって、変化の方向性について考える際の参考となることを願っています。

2019年10月
公益社団法人日本印刷技術協会
会長 塚田司郎

書籍発刊のお知らせ

『印刷白書2019』2019年10月23日発刊

印刷白書2019

印刷白書2019
印刷産業の現在とこれからを知るために必携の白書『印刷白書2019』
第1部「特集 デジタル×紙×マーケティング for Business」
第2部「印刷産業の動向」「印刷トレンド」「関連産業の動向」
第3部「印刷産業の経営課題」
ご注文はこちら発行日:2019年10月23日
ページ数:144ページ
判型:A4判
発行:公益社団法人日本印刷技術協会
定価:9,000円+税
JAGAT会員特別定価:7,545円+税

解説

印刷産業のこれからを知るために必携の白書『印刷白書2019』。
印刷・同関連業界だけでなく広く産業界全体に役立つ年鑑とするために、「印刷白書」は3部構成となっています。
印刷業界で唯一の白書として1993年以来毎年発行してきましたが、2019年版ではコンテンツ、用紙などの項目を追加しました。
印刷関連ならびに情報・メディア産業の経営者、経営企画・戦略、新規事業、営業・マーケティングの方、調査、研究に携わる方、産業・企業支援に携わる方、大学図書館・研究室・公共図書館などの蔵書として、幅広い用途にご利用いただけます。

第1部「特集」では「デジタル×紙×マーケティング for Business」をテーマとしています。
デジタルと紙を組み合わせてコミュニケーションを行うこと、デジタルマーケティングで生きる紙メディアのあり方などの現状分析と課題解決に取り組んでいます。
第2部「印刷・関連産業の動向」、第3部「印刷産業の経営課題」では、社会、技術、産業全体、周辺産業というさまざまな観点から、ビジョンを描き込み、今後の印刷メディア産業の方向性を探りました。
印刷メディア産業に関連するデータを網羅、UD書体を使った見やすくわかりやすい図版を多数掲載し、他誌には見られない経営比率に関する調査比較などのオリジナルの図版も充実させました。


CONTENTS

第1部
第1章 特集 デジタル×紙×マーケティング for Business
マーケティング支援への意識改革と方策 page2019から見えてきた印刷業界の方向性
*関連資料 DTP・デジタル年表
*コラム 組織の中にある「やる気」と「手抜き」

第2部
第2章 印刷産業の動向
[産業構造]デジタル×アナログで印刷ビジネスの可能性はさらに広がる
[産業連関表]産業連関表で印刷需要を考える
[市場規模]印刷ビジネスを取り巻くマクロ環境変化の方向性
[上場企業]経営強化で新たな収益モデル確立を目指す上場印刷企業
[関連資料]産業構造/産業分類・商品分類/規模(1)/規模(2)/規模(3)/
産出事業所数(上位品目)/産出事業所数・出荷額/調達先と販売先/
産業全体への影響力と感応度/最終需要と生産誘発/印刷物の輸出入額と差引額/
印刷製品別輸出入額/印刷物の地域別輸出入額/印刷物の輸出相手国・輸入相手国/
経営動向/上場企業/生産金額(製品別)/生産金額(印刷方式別)/
売上高前期比・景況DI/設備投資・研究開発/生産能力/紙・プラスチック/
印刷インキ/M&A

第3章 印刷トレンド
[デザイン]印刷技術と提案力を活用し、新しい価値を創造する
[ワークフロー]顧客とつながるワークフロー
[オフセット印刷]コストコントロール可能なプレスルーム
[デジタル印刷]日本におけるデジタル印刷の現状と課題
[包装印刷]包装印刷の新しい流れは「環境適性」と「多様化」から
[用紙]デジタル技術の進展による印刷用紙のあり方と媒体価値の変化
[後加工]崖っぷちの製本加工、今こそ「経営の覚悟と現場の提案力」
*関連資料 デジタル印刷/フォーム印刷業界

第4章 関連産業の動向
[出版業界]縮小する既存出版市場と立ちはだかる構造問題、拡大する新規出版市場
[電子出版]電子コミックの急成長と多様化する出版サービス
[コンテンツ]クールジャパンの進展により印刷需要の多様化進む
[新聞業界]新聞メディアのダウントレンド対応進む
[広告業界]紙×デジタルで広告の一体的な運用が進む
[DM業界]デジタルネイティブ層に食い込むDM、「量から質」への変革進む
[折込広告他]地域メディアとしての位置付けが鮮明化する折込広告とフリーペーパー、成長する周辺ビジネス
[通信販売業界]ネット通販が牽引し8兆円市場へ成長もカタログ通販は不調
*関連資料 出版市場/電子出版市場/コンテンツ市場/新聞市場/広告市場/通販市場

第3部
第5章 印刷産業の経営課題
[地域活性化]自社の経営資源と地域資源を組み合わせて新たな価値の連鎖を創出する
[経営管理]見える化でビジネスというゲームに勝つ
[クロスメディア]誰もが使えるAI民主化時代が近づいている
[デジタルマーケティング]改めて知るソーシャルメディアマーケティングの基本
[デジタルイノベーション]世界のユニコーン30社にみる最新デジタルビジネス動向
[人材1]AIの人材育成には経営者の新しい人材構想が不可欠
[人材2]デジタルネイティブ時代の人材教育
*関連資料 地域活性化/クロスメディア/人材

●巻末資料
年表/『印刷白書』年表/印刷産業&関連団体アドレス

2017年の印刷産業出荷額(全事業所)は5兆2378億円(確報値)

「平成30年工業統計表」の確報版(産業別統計表、品目別統計表、地域別統計表)が公表された。3人以下の事業所が半数以上を占める印刷産業は、全国に事業所が存在する。(数字で読み解く印刷産業2019その7)

3人以下の事業所が半数以上を占める

2018年6月1日現在で実施された「平成30年工業統計表」は、速報版が2月28日、概要版が5月31日に公表になり、このコーナーでも2回取り上げました。

8月に入り、確報版になる産業別統計表が9日に、品目別統計表と地域別統計表が23日に公表されました。

JAGAT刊『印刷白書』では、確報版でなければわからない、推計による3人以下の事業所に関する統計表も使って、全事業所数の数値で印刷産業の変化を見ています。

全事業所の印刷産業出荷額は5兆2378億円(前年比0.7%減)、2018年6月1日現在の事業所数は2万2210事業所(同4.3%減)、従業者数は28万2395人(同1.2%減)となりました。

3人以下の事業所の出荷額は1614億円、従業者数は2万4097人と非常に小さい数字ですが、事業所数は1万1965事業所と半数以上を占めています。

人口当たり事業所数は東京に次いで福井が2位

印刷産業の事業所数を都道府県別に見ると、東京都が4403事業所(全国の19.8%)と最も多く、次いで大阪府2459事業所(同11.1%)、埼玉県1513事業所(同6.8%)、愛知県1356事業所(同6.1%)と、都市圏が上位を占めています。

次に人口に対する事業所数で見ると、東京に次いで、人口77万人の福井が237事業所で2位となり、以下、大阪、京都、岐阜、長野と続いています。福井県は眼鏡枠の産地として有名で、一番多い事業所は眼鏡枠ですが、次いで印刷物の事業所が多いのです。印刷産業の事業所が存在しない県は一つもなく、印刷産業の裾野の広さがわかります。

『印刷白書』では、印刷メディア産業に関連するデータを網羅し、UD書体を使った見やすくわかりやすい図版を多数掲載しています。

最新刊となる『印刷白書2019』は、10月23日開催の「JAGAT大会2019」で発表予定です。

限られた誌面で伝えきれないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信していきます。ご意見、ご要望などもぜひお寄せください。

(JAGAT CS部 吉村マチ子)

印刷技術を核とする34社をリストアップ

現在編集中の『印刷白書2019』の上場企業分析では、社名もしくは特色に「印刷」とある34社を対象としている。売上高構成比を見ると、出版印刷、商業印刷を主力とする企業は少数派となっている。(数字で読み解く印刷産業2019その6)

印刷産業2.6万社のうち上場企業は34社

印刷白書では2011年版から上場印刷企業の分析を行い、事業展開の特色と売上高構成比、個別業績による規模・収益性・生産性・安全性・成長性、連結業績による設備投資総額・研究開発費、キャッシュフローバランスなどを比較してきました。また、「印刷産業の経営比率と損益構成」のデータとして個別業績を利用しています。

2019年版に掲載する上場印刷企業は34社で、そのうち東証1部上場企業は、1949年5月上場の凸版印刷、大日本印刷、図書印刷の3社から2016年3月上場の中本パックスまで14社です。

東証2部上場企業は、1961年10月上場のアサガミから2005年10月上場のウイルコホールディングスまでの8社で、竹田印刷は名証2部にも上場していて、また福島印刷が名証2部に上場しています。

マザーズにはラクスルが2018年5月に上場し、JASDAQスタンダードには、1988年8月上場の光ビジネスフォームから2018年10月上場のプリントネットまでの10社が上場しています。

全産業の上場企業数を見ると、2019年7月29日現在の東証一部上場企業数は2151社で、東証二部やマザーズ、 JASDAQ 銘柄 など、他の上場銘柄なども合わせると3676社となります。全産業の企業数は385万6457企業(「平成28年経済センサス-活動調査」)なので、上場企業の割合は0.095%に過ぎません。一方、印刷産業は2万6065企業(活動調査)に対して、上場企業は34社なので0.13%となります。

印刷通販2社が加わった上場印刷企業リストで分析

印刷白書の上場印刷企業は、2011年版に30社でスタートしましたが、2015年7月のクレステック、2016年3月の中本パックスの上場や、2017年5月の三浦印刷の上場廃止などによって変化しています。

また、2005年創業のプリントネットと2009年創業のラクスルという印刷通販2社が上場印刷企業のリストに加わったことも大きな変化といえます。

印刷白書の関連資料「印刷産業の経営比率と損益構成」では、財務諸表(個別業績)から収益性、生産性、安全性等に関する財務指標を作成しています。今回は、個別業績に印刷事業が含まれない3社(アサガミ、日本創発グループ、ウイルコホールディングス)を除く31社の個別業績を利用する予定です。

『印刷白書2019』は、10月23日開催の「JAGAT大会2019」で発表予定です。

限られた誌面で伝えきれないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信していきます。ご意見、ご要望などもぜひお寄せください。

(JAGAT CS部 吉村マチ子)

2015年産業連関表、国内生産額は初めて1000兆円超え

「平成27年(2015年)産業連関表」が6月27日に公表されました。産業連関表は1年間に行われた全産業の取引を一つの表にまとめたもので、数値をそのまま読み取ることで、その年の産業構造などを把握できます。(数字で読み解く印刷産業2019その5)

印刷産業の国内生産額は約5兆円

産業連関表(全国表)は、1955年を対象にしたもの以降、5年ごとに作成されてきました。ただし、前回の「平成23年(2011年)産業連関表」は、重要な基礎資料となる「経済センサス-活動調査」が2011年を対象に実施されたことを受け、例外として2011年を対象年とし、2015年6月16日に公表されました。今回は、2015年を対象に活動調査が実施されたことから、産業連関表も2015年表が作成されました。

2015年の国内生産額は約1018兆円で、産業連関表の作成開始以降、初めて1000兆円を超えました。前回の2011年に比べて8.3%増で、輸入も22.9%増で、これらを合わせた総供給は9.5%増となりました。一方、総需要の内訳をみると、国内需要が8.7%増、輸出も19.7%増となりました。

同じ項目を印刷産業について見ると、2015年の国内生産額は約4兆9724億円で、2011年に比べて2.8%減、輸入は16.9%増で、これらを合わせた総供給は2.5%減となりました。一方、総需要の内訳をみると、国内需要が2.4%減、輸出も16.0%減となりました。

産業連関表は、最もサイズの小さい統合大分類(37部門)でも、最大9桁の数字のセルが37×37並ぶ大きな表です。そして、印刷産業はそのほんの一部、具体的な数字で言えば、国内生産額の0.5%にすぎません。そのため、統合中分類(107部門)以上のサイズにならないとその数字は把握できません。

JAGAT刊『印刷白書』では産業連関表を使って、印刷産業とその取引先産業の動きを見ています。ただし、統合中分類では印刷産業とほとんど関連のない部門が多いことから、印刷産業は独立した部門とした55部門表を独自に作成しています。

現在『印刷白書2019』(10月23日発刊予定)の執筆準備を進めていますが、限られた誌面で伝えきれないことや、読者からの問い合わせなどに対しては、「数字で読み解く印刷産業」で順次発信していきます。

(JAGAT CS部 吉村マチ子)

2017年の印刷産業出荷額(4人以上の事業所)は5兆764億円(確報値)

「平成30年工業統計表」産業別統計表(概要版)が5月31日に公表された。4人以上の印刷産業出荷額は0.6%減となった。(数字で読み解く印刷産業2019その4)

出荷額は0.6%減で前年並みの5.1兆円に

2018年6月1日現在で実施された「平成30年工業統計表」産業別統計表(概要版)が5月31日に公表されました。調査期日が年末から変更されて2回目の調査結果です。

従業者4人以上の事業所に関して、製造業の2017年の製造品出荷額等は319兆1667億円(前年比5.7%増)で速報値より0.7ポイント増、印刷産業は5兆764億円(同0.6%減)で、前年並みとなりました。

2018年6月1日現在の製造業の事業所数は18万8249事業所(前年比1.6%減)、従業者数は769万7321人(同1.7%増)、印刷産業は1万245事業所(同3.2%減)、従業者数は25万8298人(同0.7%減)で、こちらも速報値より改善されました。

上の表でアンダーラインが引かれている調査年は「経済センサス-活動調査」による数値で、4人以上の事業所数は経済センサスの年には増加して、その反動で次の年の工業統計では大幅減となっています。この傾向は製造業全体でも同じような結果で、24産業分類のすべてで減少となりました。

出荷額は2015年の経済センサスでは製造業全体では前年比2.6%増で5産業が減少となっただけですが、2016年の工業統計確報値では同3.5%減となり、17産業が減少となっていて、経済センサスと工業統計とを単純に比較することはできないようです。

工業統計調査の結果は、速報→概要版→確報の順で公表されます。今回の産業別統計表(概要版)は、産業別、都道府県別に主要項目を集計したもので、8月末に公表予定の「産業別統計表」「地域別統計表」の数値が確定値になります。

『印刷白書2018』では印刷メディア産業に関連するデータを網羅し、わかりやすい図表にして分析しています。また、限られた誌面で伝えきれないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信しています。

(JAGAT CS部 吉村マチ子)

サービス産業を782種に分けた新分類、公的統計で適用へ

総務省は、サービス産業12大分類を782種に分けた「サービス分野の生産物分類」を4月25日に決定し、各種統計調査などに段階的に適用することを予定している。(数字で読み解く印刷産業2019その3)

新たな分類でサービス産業の実態を捉える

証拠に基づく政策立案(EBPM)の構築と、国民経済計算(GDP統計)を軸とした経済統計の改善が現在進められています。総務省は、2018年度末までに、サービス分野について用途の類似性による基準を指向した生産物分類を整備することとされています。
「サービス分野の生産物分類」は、日本標準産業分類(JSIC)のような統計法に基づく統計基準ではありませんが、GDP統計、産業連関表およびこれらの作成に使用する各種統計調査などにおいて段階的に適用される予定です。

生産物分類では、JSICの大分類でサービス産業に当たる「F 電気・ガス・熱供給・水道業」から「R サービス業(他に分類されないもの)」までの13大分類のうち、「I 卸売業、小売業」を除く12大分類の生産物を詳細分類で782、統合分類で394に分類しました。

「G 情報通信業」はJSICの細分類では45に分かれていますが、生産物分類では「移動音声伝送サービス」「テレビ番組の制作サービス」「システム等管理運営サービス」など98種まで細かく分けられました。そのほか「学術研究、専門・技術サービス業」は140種、「金融業、保険業」は79種に分類されました。

新聞業は7種、出版業は11種に分類

「新聞業」「出版業」は、「G 情報通信業」の中分類「41 映像・音声・文字情報制作業」の小分類に当たり、細分類でもそれ以上細かく分かれていませんが、生産物分類では7種と11種に分けられました。
紙媒体とオンライン、購読料収入と広告収入などで分けられたほか、著作権の使用許諾サービス、オリジナルなど、新聞・出版業界の現状を反映したものとなっています。

生産物分類の適用方法として、統計の作成目的に応じて、分類表の一部の分類項目のみを使用したり、詳細分類の下に分類項目を設定したり、分類項目の集約または分割を行うことができます。
なお、「I 卸売業、小売業」や製造業などの生産物分類は、2023年度末までに策定される予定です。

JAGAT刊『印刷白書』では多くの公的統計データを利用して、印刷メディア産業の現状を捉えています。また、限られた誌面で伝えきれないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信していきます。

(JAGAT CS部 吉村マチ子)