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変革を進める上場印刷企業34社

上場印刷企業34社では、新たな収益モデルの確立に向けて、事業領域の再編成、生活者に寄り添った新サービスの開発などの模索が続いている。(数字で読み解く印刷産業2020その9)

2020年上場企業の希望退職募集は60社、1万人超え

東京商工リサーチの調査によれば、2019年に早期・希望退職者を募集した上場企業は延べ36社、対象人数は1万1351人で、過去20年間で社数・人数ともに最少だった2018年(12社・4126人)と比べると約3倍に増加しました。
さらに2020年は9月14日の時点で60社、対象人数は1万100人に上り、募集企業数は前年の1.7倍、リーマン・ショックの影響が残る2010年の85社に迫る勢いとなっています。
「新型コロナによる業績の影響は、国内外の消費回復の遅れなどで長期化の気配も強く、企業の人員削減の加速も招いている。さらに、外食や、アパレル小売など労働集約型の企業では、雇用調整助成金の終了も見え、年末から来年にかけ募集に拍車がかかることも懸念される」と分析しています。

上場印刷企業34社の14社が増収増益

現在編集中の 『印刷白書2020』 では、日本の上場企業3824社(2020年8月末時点)のうち社名もしくは特色などに「印刷」とある企業34社を、上場印刷企業として取り上げています。
2019年版の印刷白書で取り上げた図書印刷は、凸版印刷の完全子会社化により2019年7月30日付で上場廃止となりましたが、ビーアンドピーが同年7月24日付でマザーズに上場したので、社数は前回と同じ34社になりました。

上場印刷企業でも希望退職募集の動きはあります。2020年に入って、次の3社が実施しました。
NISSHAは収益力強化策の一環として、子会社を含む正社員を中心に250名規模の希望退職者を募集し、268名が6月30日に退職しました。
廣済堂は社外転進支援プログラム(希望退職の募集)を45歳以上60歳未満の正社員、豊中工場・新木場発送センターに在籍する正社員、それ以外の非正規社員を対象に約240名を募集し、9月30日に230名が退職することになりました。
また、アサガミは、連結子会社のマイプリントの婚礼事業に属する35歳以上の正社員を対象に60名程度の希望退職者を募集しています。

印刷業界においては、紙メディア需要の減少、受注価格の下落、原材料価格の値上がりなど、全体として厳しい状況が続いています。
上場印刷企業では、既存事業における競争優位性の確立とコスト削減、成長分野への積極的な投資などに努めた結果、2019年度の業績は増収が23社、そのうちの14社が増収増益となりました。

『印刷白書2020』は10月下旬発行を予定しています。上場印刷企業34社の分析では、事業展開の特色と売上高構成比、個別業績による規模・収益性・生産性・安全性・成長性、連結業績による設備投資総額・研究開発費、キャッシュフローバランスなどを比較しています。
限られた誌面で伝えきれないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信していきます。ご意見、ご要望などもぜひお寄せください。

(JAGAT CS部 吉村マチ子)

2018年の印刷産業出荷額(全事業所)は4兆9829億円(確報値)

「2019年工業統計表」の確報版が公表された。全事業所(3人以下の事業所を含む)の印刷産業出荷額は、36年ぶりに5兆円割れとなった。(数字で読み解く印刷産業2020その8)

3人以下の事業所が半数以上を占める

2019年6月1日現在で実施された「2019年工業統計表」は、速報版が2020年2月28日、概要版が5月29日に公表になり、このコーナーでも2回取り上げました。
8月に入り、確報版になる産業別統計表が7日に公表され、品目別統計表と地域別統計表が本日公表されます。

JAGAT刊『印刷白書』では、確報版でなければわからない、推計による従業者3人以下の事業所に関する統計表も使って、全事業所の数値で印刷産業の変化を見ています。

2018年の全事業所の印刷産業出荷額は4兆9829億円(前年比4.9%減)、2019年6月1日現在の事業所数は2万1247事業所(同4.3%減)、従業者数は27万6505人(同2.1%減)となりました。
3人以下の事業所の出荷額は1548億円、従業者数は2万2840人と非常に小さい数字ですが、事業所数は1万1359事業所と半数以上を占めています。

1982年以来の5兆円割れでも高い生産性を維持

印刷産業出荷額は2012年から微減で推移してきましたが、今回は減少幅が大きく、1982年(4兆7441億円)以来36年ぶりに5兆円割れとなりました。ただし1人当たり出荷額は1982年の1154万円に対して1802万円、1事業所当たり出荷額114.8百万円に対して234.5百万円を確保しています。

出荷額が8.9兆円でピークだった1991年と比較してみても、1人当たり出荷額はピーク時と変わらない水準を確保し、1事業所当たり出荷額は上昇傾向にあります。事業所数の減少や省人化設備が寄与していることは確かですが、高い生産性を維持していることに印刷産業全体の健全性が表れています。

『印刷白書2020』は10月下旬発行を予定しています。限られた誌面で伝えきれないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信していきます。ご意見、ご要望などもぜひお寄せください。

(JAGAT CS部 吉村マチ子)

『印刷白書』で振り返る印刷業界動向 その2(2006-2010)

『印刷白書』は、業界初の白書として1994年に発刊、2006年からはそれまでのバインダー形式から書籍形態へと装丁を変更するとともに、内容もさらに充実させ、26年にわたり印刷産業の動向把握に必要な公表データを網羅・掲載する唯一の存在として情報を更新し続けている。 続きを読む

テレワーク時代の印刷ビジネスモデル読本

新型コロナウイルスの影響で、印刷業界も従来のビジネスモデルや勤務形態に変化を迫られています。本書では、これからの印刷ビジネスについて議論した座談会や、印刷会社が行うウェビナーの事例インタビュー、リモートワーク(テレワーク)の実施における各産業共通の動向と課題、印刷関連企業によるリモートワーク(テレワーク)ツールの紹介などを収録しています。
また、日本印刷技術協会(JAGAT)が2020年4月に実施した、コロナショックが印刷業界に与えた影響調査結果レポート、印刷業界におけるテレワークの実態調査結果レポート(『JAGAT info』2020年5月号・6月号にそれぞれ収録)も掲載しています。


『対談・データ・事例から読み解く
 テレワーク時代の印刷ビジネスモデル読本』

2020年7月30日発売/A4判90ページ

価格:2,800円(税抜き2,545円)

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目次
・afterコロナ / withコロナ時代の印刷ビジネス
・特別ウェブ座談会 コロナ禍で印刷ビジネスはどう変わるか
・リモートワーク(テレワーク)は何を変えたのか
・緊急調査 印刷会社はテレワーク時代にどう向き合うか
・ウェビナー活用事例紹介
・リモートワーク支援ツール
・緊急調査 コロナショックが与える印刷業界への影響と対応
・リモート・オンライン教育 変わるビジネスや働き方、変わる人材育成のあり方
・コラム 新型コロナ禍における関西の印刷会社動向

印刷技術を核に業態を広げる34社をリストアップ

現在編集中の『印刷白書2020』の上場企業分析では、社名もしくは特色などに「印刷」とある34社を対象としている。印刷通販2社やデジタル専業など、印刷会社の業態変化を反映したリストになっている。(数字で読み解く印刷産業2020その7)

新規上場1社、 市場変更2社、上場廃止1社

印刷白書では2011年版から上場印刷企業の分析を行い、事業展開の特色と売上高構成比、個別業績による規模・収益性・生産性・安全性・成長性、連結業績による設備投資総額・研究開発費、キャッシュフローバランスなどを比較してきました。また、「印刷産業の経営比率と損益構成」のデータとして個別業績を利用しています。

2020年版に掲載する上場印刷企業は34社で、社数は前年リストと同じですが、新規上場が1社、市場変更が2社、上場廃止が1社となりました。

34社のうち東証1部上場企業は、1949年5月上場の凸版印刷、大日本印刷の2社から、2019年8月にマザーズから市場変更したラクスルまで14社です。前回リストに載っていた図書印刷は凸版印刷の完全子会社化により2019年7月30日付で上場廃止となりました。

東証2部上場企業は、1961年10月上場のアサガミから、2019年7月にJASDAQから市場変更したクレステックまでの9社で、そのうち竹田印刷は名証2部にも上場しています。また、福島印刷が名証2部に上場しています。

JASDAQスタンダードには、1988年8月上場の光ビジネスフォームから2018年10月上場のプリントネットまでの9社です。また、マザーズにはビーアンドピーが2019年7月に上場しました。

全産業の上場企業数を見ると、2020年7月15日現在の東証一部上場企業数は2171社(前年は2151社)で、東証二部やマザーズ、JASDAQ銘柄など、他の上場銘柄なども合わせると3717社(同3676社)となります。全産業の企業数は385万6457企業(「平成28年経済センサス-活動調査」)なので、上場企業の割合は0.096%に過ぎません。一方、印刷産業は2万6065企業(活動調査)に対して、上場企業は34社なので0.13%となります。

印刷通販2社とデジタル印刷専業が加わった上場印刷企業リスト

印刷白書の上場印刷企業は、2011年版に30社でスタートしましたが、2015年7月のクレステック、2016年3月の中本パックスの上場や、2017年5月の三浦印刷の上場廃止などによって変化してきました。

また、2005年創業のプリントネットと2009年創業のラクスルという印刷通販2社が上場印刷企業のリストに加わったことも大きな変化といえます。さらに、業務用インクジェットプリンターを使ったデジタル印刷に特化したビーアンドピーが今回加わりました。

印刷白書の関連資料「印刷産業の経営比率と損益構成」では、財務諸表(個別業績)から収益性、生産性、安全性等に関する財務指標を作成しています。今回は、個別業績に印刷事業が含まれない4社(アサガミ、ウイルコホールディングス、日本創発グループ、TAKARA & COMPANY )を除く30社の個別業績を利用する予定です(宝印刷は2019年12月2日付で持株会社体制へと移行し、商号を「株式会社TAKARA & COMPANY」に変更しています)。

『印刷白書2020』は10月下旬発行を予定しています。限られた誌面で伝えきれないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信していきます。ご意見、ご要望などもぜひお寄せください。

(JAGAT CS部 吉村マチ子)

2019年の印刷物の輸入額は813億円まで拡大

貿易統計で印刷物を見ると、2019年は輸入の大幅拡大で、9年連続の輸入超過となり、差引額はさらに拡大した。輸入先のトップは7年連続でシンガポール、輸出先は中国が不動の1位となっている。(数字で読み解く印刷産業2020その6)

印刷物は9年連続の輸入超過、シンガポールが牽引

財務省「貿易統計」によれば、2019年の印刷物の輸出額は289億24百万円(前年比10.1%減)、輸入額は813億21百万円(同37.2%増)となりました。

アジアが最大の取引先で、2019年の輸出額は194億95百万円(構成比67.4%)で、転写印刷とその他の印刷の割合が大きくなっています。輸入額は605億46百万円(同74.5%)で、その他の印刷が8割を占めています。

下図は1990~2019年の印刷物の輸出入額とその差引額の推移です。1990~2004年の15年間は輸入超過でしたが、2005~2010年の6年間は輸出超過となり、2011年以降の9年間は逆に輸入超過となっています。

2019年の輸入額が大幅に拡大したのは、シンガポールの輸入額が前年より194億円増加したことによるものです。シンガポールは2013年に輸入先のトップとなり、以来7年間連続トップで輸入総額の5割以上を占めるまでになりました。輸出額は2010年から2019年の10年間で半減しています。

ちなみに現在執筆準備を進めている『印刷白書2020』では、同じ期間の出版物の輸出入額とその差引額の推移も見ていますが、全期間輸入超過となっています。

また、印刷物の輸出入相手国上位10カ国の推移表や、アジア・西欧・北米などの地域別の構成比の推移なども、わかりやすいグラフで紹介する予定です。

限られた誌面で伝えきれないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信していきます。ご意見、ご要望などもぜひお寄せください。

(JAGAT CS部 吉村マチ子)

2018年の印刷産業出荷額(4人以上の事業所)は4兆8281億円(確報値)

「2019年工業統計表 産業別統計表〔概要版〕」が5月29日に公表された。4人以上の印刷産業出荷額は4.9%減で5兆円割れが確定となった。(数字で読み解く印刷産業2020その5)

出荷額は4.9%減で5兆円割れ、事業所数も1万を切る

2019年6月1日現在で実施された「2019年工業統計調査(2018年実績)」の産業別統計表〔概要版〕が5月29日に公表されました。調査期日が年末から変更されて3回目の調査結果です。
従業者4人以上の事業所に関して、製造業の2018年の製造品出荷額等は331兆8094億円(前年比4.0%増)で速報値より0.1ポイント増、印刷産業は4兆8281億円(同4.9%減)で速報値より0.4ポイント改善されましたが、初めて5兆円割れとなりました。
2019年6月1日現在の製造業の事業所数は18万5116事業所(前年比1.7%減)、従業者数は777万8124人(同1.0%増)、印刷産業は9888事業所(同3.5%減)、従業者数は25万3665人(同1.8%減)で、こちらも速報値より改善されました。

工業統計調査の結果は、速報→概要版→確報の順で公表されます。今回の産業別統計表(概要版)は、産業別、都道府県別に主要項目を集計したもので、8月に公表予定の「産業別統計表」「地域別統計表」の数値が確定値になります。
製造業に属する4人以上の事業所を対象とし、2019年の調査対象数は19万5951事業所、回収率は95.2%となっています。現在、2020年6月1日を調査期日として、「2020年工業統計調査」が実施されています。

JAGAT刊『印刷白書』では、「工業統計調査」が全事業所での調査を開始した1955年からの長期データなどを、わかりやすい図表にして掲載しています。また、限られた誌面で伝え切れないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信しています。

(JAGAT CS部 吉村マチ子)

2019年の印刷業の生産金額は3704億円、包装印刷のみプラス成長

印刷統計によると、2019年の印刷業の生産金額は3704億円(前年比0.4%減)、商業印刷と出版印刷で5割以上を占め、特に商業印刷の動向が市場を左右しています。(数字で読み解く印刷産業2020その4)

JAGAT刊『印刷白書』では多くの公的統計データを利用して、印刷メディア産業の現状を捉えています。新型コロナウイルス感染症拡大を受け、集計作業の遅れなどが心配されますが、今年度も例年どおり10月下旬の発刊に向けて、2020年版の準備を始めたところです。

印刷市場の規模を見るときには「工業統計」が使われますが、年に1度の工業統計調査に対して、毎月の「印刷統計」では製品別・印刷方式別の生産金額を知ることができます。
「工業統計」2019年調査は、2020年2月28日公表の速報版に続いて、産業別統計表〔概要版〕が本日公表される予定です。こちらは2018年実績ですが、1週間前(5月22日)に公表された「経済産業省生産動態統計」2019年年報には、2019年1~12月の「印刷統計」を集計した2019年実績が掲載されています。

工業統計の出荷額4.8兆円に対して、印刷統計の2019年年計では生産金額は3703億87百万円です。この差はどこからくるかというと、印刷統計は100人以上の印刷業を対象とした標本調査で、印刷前工程(企画・編集・製版など)と印刷後工程(製本・加工など)、用紙代などを除いた、印刷工程の生産金額に限定された数字だからです。
印刷製品別生産金額の構成比を見ると、商業印刷と出版印刷で5割以上を占めています。印刷方式別では平版印刷(オフセット印刷)が圧倒的ですが、その他の印刷方式(デジタル印刷など)が毎年少しずつ増えています。

「印刷統計」の2004年調査開始以来の製品別シェアを見ると、この15年間で大きく減少したのは出版印刷(30.0%→16.3%)と証券印刷(2.0%→1.3%)で、包装印刷は逆に13.0%→22.3%と大きくシェアを伸ばし、建装材印刷も3.2%→4.7%と着実に増加しています。出版不況の長期化、証券印刷物関連の電子化、包装材や建装材の多様化などを反映した数字となっています。
同じく2004年調査開始以来の印刷方式別シェアを見ると、平版印刷は2011年までは70%を超えていましたが、2019年は65.8%となっています。その他の印刷(デジタル印刷など)は逆に3.9%→6.8%と着実に増加しています。

時系列表で過去61カ月分の推移を見ると、商業印刷の動向がそのまま印刷業全体の動向となっていることがよくわかります。商業印刷の動向はクライアント産業の動向によって決まるわけで、また違う統計データを見る必要があります。

『印刷白書2019』では印刷メディア産業に関連するデータを網羅し、わかりやすい図表にして分析しています。また、限られた誌面で伝え切れないことや、今後の大きな変更点は「数字で読み解く印刷産業」で順次発信しています。

(JAGAT CS部 吉村マチ子)