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デザインの重度が増す印刷ビジネスと求められるアイデア

 印刷業を取り巻くビジネス環境では、デザインの重度が増している。ニーズが複雑化し課題がわかりにくい今日においては、課題探索・発掘、コンセプト設計においてのデザイナーの発想に期待が大きいようだ。印刷会社がマーケティングや製品においてデザイン能力を重要視しているように顧客側の企業もデザインノウハウを重要視している。経済産業省の「デザインの活用によるイノベーション創出環境整備に向けたデザイン業の実態調査研究によれば、デザインが事業運営や売上計上に貢献しているとの回答は8割超となっている。アンケート調査の主な内容としては、「デザインが事業そのものに直結しており売上げと緊密な相関がある」、 「デザインが事業の柱として技術やその他の要素をバランスよくまとめ、売上げに貢献している」及び「デザインは事業の一要素として、企業の総合力の一部として売上げに貢献している」との回答を合わせたものになっている。産業界全体としてもデザインが重要な課題となっている。企業がデザインに期待する役割は多岐にわたる。例えば、経営においてデザインに期待する事項としては、ブランドの構築、外観での付加価値の向上、オリジナリティの表現等が多く挙げられている。これらに続いて品質や技術力の表現やコンセプトの提案等への期待が高まっている。このことは、印刷業でもビジネスチャンスとして捉えるべきであろう。

 デザイン思考(デザインシンキング)とは、デザイナーがデザインを行う上で行っている思考方法のことである。「デザイン」とは、例えば、建築や服飾、美術、広告などの様々な分野で、設計や表現するクリエイティブな行為の事を示すが、一方、デザインのプロセスや考え方をビジネスに転用したものがデザイン思考とも言える。商品・サービス開発においてのポイントは、「ユーザー目線で物事を考える」ことがビジネスパーソンに求められる。デザイン思考のプロセスは、前例のない問題などに対して新たな解決策を見出す際に役立つと言われている。

<商品開発の決め手はアイデア>

 印刷ビジネスにおいても商品開発の決め手は、アイデアだ。モノや情報が溢れた時代では、ユーザーの想定を超えた製品やサービスが必要になる。過去のパターンに捕らわれた単なるモノを作ることではない。例えば、デザイン思考的な見方をすれば、人々が気づいていないニーズを明らかにすることで「洞察」「観察」「共感」という三つの要素の相乗効果によって製品やサービスを生み出すことのようだ。プロセスは、マーケティングも含めたしくみづくりにも及ぶ。page2020でも、加藤隆之氏(加藤製本株式会社/代表取締役)と山田明良氏(福永紙工株式会社/代表取締役 かみの工作所/代表)を講師に「アイデアを形にする紙加工の製品開発」をテーマにセミナーを開催する。紙加工のノウハウをコアに〝今までにない”紙製品を創り〟で販路開拓し、ブランディングを展開している。従来の受注型ビジネスから市場提案型ビジネスへ舵を切った事例だ。ビジネスの原動力は、アイデアを生み出すしくみとデザイン的な発想だ。アイデアやデザイン的な発想は、簡単に出せるものではない。指示や命令だけで良いアイデアを出すことは難しい。経営判断で、実際にアイデアを生み出すために取り組むべきことは何かを知ることから始めることが求められる。

CS部 古谷芸文

関連情報 page2020セミナーhttps://page.jagat.or.jp/sessionList/seminar.html

【S9】アイディアを形にする 紙加工の製品開発 イディアを形にすhttps://page.jagat.or.jp/session/detail_30.html

【S12】デザイン設計の基本セオリー https://page.jagat.or.jp/session/detail_33.html

【S13】効果の高いパーソナライズDMの実際 ~データ分析からプロモーション戦略、メディアプランニングの手法を学ぶ~ https://page.jagat.or.jp/session/detail_34.html

【S15】デジタルと紙メディアで表現するブランディング実践 ~印刷物、Web、CG、VR、AR、動画、リアルを組み合わせる~ https://page.jagat.or.jp/session/detail_36.html

「デジタル×紙×マーケティングfor Business」を深掘りしたJAGAT大会2019

JAGATは2019年10月23日(水)、ホテル椿山荘東京でJAGAT 大会2019を開催した。大会テーマは「デジタル×紙×マーケティングfor Business」で、来る2月に開催されるpage2020と同じである。JAGATは、この数年マーケティングの重要性を訴えてきたが、それを具体的な果実に結び付けるのが、「デジタル×紙×マーケティング」の実践であり、印刷物に新たな価値を生み出すことにつながるという思いが込められている。

JAGAT 大会2019では、「実践!デジタル×紙×マーケティング+AI 」をテーマにアウトブレイン ジャパン株式会社 顧問/アビームコンサルティング株式会社 顧問の本間充氏と、SENSY株式会社代表取締役CEO渡辺 祐樹氏、JAGAT専務理事郡司秀明の3人でディスカッションを行った。

議論に入る前に、本間氏と渡辺氏がそれぞれにマーケティングの変化とAIについてプレゼンを行った。

本間氏は1980年代にニューヨークのマンハッタン島が馬車の増加によって馬の排泄物で島が埋め尽くされるという予測があったが、実際にはそれが避けられた。馬車が2頭立て、6頭立てになって輸送量が増える馬車技術の変化、さらにT型フォードも登場してマンハッタンの破綻を回避した。

われわれは売り上げはずっと伸びるというように、物事の延長線上で未来を描いてしまうが、人類の歴史には必ず不連続点が発生し、そのときに新しい景色が見えて、これがビジネスの分岐点になるかもしれない。つまり、印刷でいえば、大量生産を前提にしたオフセット印刷からデジタル機、バリアブル印刷の登場が新しい景色なのではないかと指摘した。

さらにマーケティングの変化に言及し、第二次産業革命によって登場したマス向けのマーケティングから、デジタル活用によってOne to Oneのマーケティングにシフトしていくので、そこに印刷も対応していけばビジネスは広がることを訴えた。

渡辺氏はAIの概要を解説した後、自社でAIを活用してどのような取り組みをしているのかについてマーケティングにかかわる事例から紹介した。渡辺氏の会社では感性工学の分野でAIを活用、例えばさまざまデータからAIで消費行動を分析して、折込チラシの最適化やDM、カタログの配布選択、クーポンの最適化を行っている。

ある紳士服チェーン店では、毎月100万枚のDMをAIで運用している。従来は男・女、年齢層などいくつかのセグメントで3~5パターンだったものを、現在は一人一人の顧客に、好みそうなタイプ5~6点の商品を変えて送っており、1年の実証実験で従来のDMの2.2倍の効果を上げているなどの事例が紹介された。

2人のプレゼンの後はJAGATの郡司を入れて、マーケティングにどのようにAIを活用できるか、それをいかに印刷ビジネスに結び付けるのか、さらにマーケティングに関わるどのようなところでAIが活用できる可能性があるのか、そのために印刷会社がやるべきこと何かといった白熱の議論が展開された。その議論も模様は、JAGAT info12月号で紹介しているので、ぜひご一読指定ください。

JAGAT info12月号 の目次はこちら

『印刷白書2019』発刊記念特別セミナー

印刷業界動向、産業連関表、上場企業分析、産業構造、ワークフロー、マーケティングオートメーションと印刷など『印刷白書2019』から主要なトピックを解説します。「デジタル×紙×マーケティング」で印刷ビジネスがどのように変わるのかを探ります。 続きを読む

page2020はfor Business

page2020のテーマは、「デジタル×紙×マーケティング for Business」に決まりました。

このテーマは、前回page2019のテーマ「デジタル×紙×マーケティング」を踏襲し、「for Business」を加えてこの路線を、より強固に、より具体的に、より儲けられるようにしていく決意を込めた。

ビジネスに直結するイベントに

弊会では今年8月には夏フェス2019、10月のJAGAT大会2019および地域会員大会、そして先週のJAGATエキスパートDAYと様々なイベントを行ってきた。それらすべてで「デジタル×紙×マーケティング」をスローガンに掲げてきたが、今回のpage2020は集大成である。また「for Business」を打ち出すことで、このイベントに参画するすべての企業のビジネスに直結するイベントにしようと様々な施策を計画しているので、ご期待いただきたい。

出展規模は7年連続で拡大へ

page2020の出展企業数は、現時点で前回の162社を超える予定であり、展示規模は7年連続の拡大となる。展示ホールにはびっしりと出展企業の小間が並んでいるのを感じていただけるはずだ。出展企業が増加すると、それに比例して来場者数も増加する傾向にあるので、例年並みの盛り上がりにご期待いただきたい。

2020年2月5日~7日の3日間、東京・池袋のサンシャインシティでお待ちしております。

(JAGAT page事務局)

客員研究員

公益社団法人日本印刷協会では、印刷産業・印刷技術・印刷メディア・印刷教育・印刷文化に高い知見を持つ、各界第一人者の方に客員研究員を委嘱し、協会の研究活動等に協力頂いています。毎年10月1日を期首とした1年間を任期とし、本ページに現在委嘱の客員研究員を公表しています。

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出版社に並ぶ新たなコンテンツメーカー機能の登場

2019年上半期の出版市場(紙+電子)は、出版科学研究所の『出版月報』7月号によると前年同期に比べ1.1%減となり、低落傾向が止まっていない。

しかし、紙の出版物が減少している一方で電子出版の伸びは大きい。ただ、紙の出版物でもコミックスは前年同期比5%増と回復している。

また、全体で増加している電子出版でも電子雑誌は前年同期比で大きく減少しており、電子出版全体の増加を支えているのは、前年同期比で大幅増となった電子コミックスの伸長である。

雑誌も前年同期に比べて減少幅が小さくなっているが、これはコミックスが伸びているためであり、それを除くと雑誌メディアが苦戦を強いられている状況は変わりない。

電子出版が伸びているが出版市場の長期低落傾向が止まらないのは、依然として既存の出版市場が紙を中心にしたビジネスにとどまっているからかもしれない。

紙を中心とした既存出版社のビジネスがこのまま変わらないとすると、出版ビジネスは疲弊して、それが出版社での働き方に影響し、コンテンツ創出機能そのもののパワーが落ちることに直結しかねない。それは日本のさまざまエンターテイメント業界にも影響していく可能性がある。

なぜなら、日本のアニメや映画、TV、ゲームなどには出版社発の多くのコンテンツ(作品の原作として)が提供されている。出版社は日本のコンテンツ業界において作品の発掘と、作家、クリエイターを育ててきた強力なコンテンツメーカーなのである。その出版ビジネスの力が衰えることは、新たなコンテンツ創出の力が衰えることにつながる危惧があるからだ。

とはいえ、電子メディアを中心に新たなコンテンツ創作の試みが芽を出し、花を咲かせようとしている。その取り組みが新たなクリエイターの発掘や市場創出につながっていくことが期待できる。

一つは小説や漫画の投稿サイトが登場し、新たなコンテンツメーカーの機能を果たすようになりつつある。こういったサイトの課題の一つは、クリエイターがコンテンツ創作によって適切な対価を得て、継続的にコンテンツ創作が可能なシステムを作り上げることだろう。そのためには作家やクリエイターが読者等を獲得するプロモーション支援策や、紙や電子出版へ、さらには映像化やゲーム化などのコンテンツ利用の多様化につながるような流れを作ることや、その支援策の提供である。実際には既にそういったことを実現するサービスも登場している。

JAGAT info 11月号では、8月に行われたJAGAT Summer Fes2019の講演の中で、新たな動きを見せるコンテンツ、メディア関連の2つをピックアップして報告する。出版社の編集者を経て、クリエイターを支援して新たなコンテンツ発表の場を創出し、継続的コンテンツ創造を支援する(株)ピースオブケイクの加藤貞顕氏の「デジタルコンテンツの集まる街「note」の今とこれから」と、大手出版社の編集者を経てAIなど最新手のテクノロジーを活用してコンテンツ創造と支援に取り組むBooks&Companyの野村衛氏「出版とAI~価値創造か課題解決か、それとも産業の突然死か?」の講演概要を紹介している。

JAGAT info11月号の目次はこちら