印刷・製本関連」カテゴリーアーカイブ

科学的な改善活動のルーツとIE活動

改善と科学的なアプローチ

印刷工場におけるムリ、ムダ、ムラの3Mを削減することは重要な課題だ。特に中小の印刷業では、多品種少量に加え、仕様の異なる受注生産の多い製造部門においては管理が難しく、現場では経験や勘による職人気質で活動してきた事案が見受けられ、生産性向上に向けた改善活動が進まないケースがある。改善活動が上手くいかないケースでは、推進するリーダーや改善マインドが重要不可欠で、納得感のある合理的で科学的な対応策も必要だ。ロサンゼルスドジャーズの大谷選手は、データ分析にも積極的で科学的だ。自分の打撃データを分析して弱点を補強し、強みをさらに伸ばしているという。日刊スポーツ(2024年6月20号)によれば、新ルーティンでは、打席でのバット置きで立ち位置を確認していることで、導入後5戦で打率4割5分の記事が掲載された。同チームのベイツ打撃コーチによれば「彼は打席で同じ位置に立ちたいと思っている。相手投手によって変えることもあるが、安定して立てるように」と、左足をセットする明確な意図があるという。こうした姿勢が、彼の打撃力をさらに高め、ホームランを量産する結果に繋がったとされる。

科学的な改善とIE活動

これらは、仕事における改善活動にも大いに共通する。科学的な改善活動では、IE活動がある。トヨタ生産方式のベースになったともいわれ、改善活動のルーツのようなものだ。IE(Industrial Engineering)は、一般的に生産工学や経営工学とされ、JISでは経営工学とされている。ものづくりの改善は経済的な側面が大きく、企業の経営を左右する。世界におけるものづくりは、18世紀後半~19世紀前半にかけてイギリスで起こった産業革命によって大きく変わった。職人による家内労働から工場における組織的生産活動に変化したことにより、効率的な生産に向けた体制づくりが必要になった背景がある。1900年初期に、アメリカの技術者兼経営学者“フレデリック・テーラー”によって提唱された手法で、日本インダストリアル・エンジニアリング協会(日本IE協会)によれば、IEは、価値とムダを顕在化させ、資源を最小化することでその価値を最大限に引き出そうとする見方・考え方であり、それを実現する技術。仕事のやり方や時間の使い方を工夫して豊かで実りある社会を築くことを狙いとしており、製造業だけでなくサービス産業や農業、公共団体や家庭生活の中でも活用されているとある。

IEは、論理的な分析によって生産性を向上する手法だ。工程や作業の方法、作業にかかる時間などを科学的な手法に基づき細かく分析することで、ムリ・ムダ・ムラのない最適な方法を導く。基本的な考え方は、生産活動における作業を「価値のあるもの」と「価値のないムダなもの」に分けることだ。これらを「見える化」し、ムダを排除する。

効率=「得られた結果」÷「労力」で表し、

労力におけるムダを減らすことで労力の比率が下がり、生産効率が高まる。ポイントは、IEではムダは全部排除できないとされる。「必要なムダ」があるというのだ。

例えば、印刷機の3つの作業動作では、

  • 紙を積み、インキ、版をセット=「価値を生まない」
  • 刷り出し調整=「価値を生まない」
  • 印刷=「価値を生む」

段取り替えにあたる①と②は価値を生まないムダに分類される。ところが、このムダに分類された動作がなければ印刷はできない。「必要なムダ」ということだ。ムダを不必要なムダは排除し、必要なムダを工夫することで効率化していくことが肝になる。

IE活動の実践では、論理的な様々な分析手法を使い、大きく2種に分類される。 「方法研究」 と 「作業測定」 である。方法研究では、工程・作業方法・手順を分析して改善を行い、作業測定では、作業に必要な時間を測定・分析して、ムダな時間をなくす。これら2つの分類において様々な具体的な手法がある。例えば、代表的なものにフランク・バンカー・ギルブレスが提唱した「サーブリッグ分析」は、方法研究である動作研究の基礎となる。「人が行う作業は、18種類の基本的な要素動作からなる」と提唱し、その要素動作をサーブリッグと名付けた。3つの有用度、第1類・第2類・第3類に層別し、サーブリッグ分析表により「見える化」することで改善案を検討する手法で微細動作分析(サーブリッグ分析)と呼ばれる。2025年6月4日開講予定の第5期印刷工場長養成講座(全6回)では、新講座として、生産性向上のためのマネジメント「IE活動のすすめ方」を取り入れる。多くの工場で、人材不足や働き方改革への対応が必要な今日では、社員の納得感のある合理的な課題解決策は益々重要になる。

(研究教育部 古谷芸文)

【オンライン】 第5期 印刷工場長養成講座  2025年6月開講

【オンライン】第3期 印刷機長養成講座 2025年8月開講

 

社員が自走する組織づくりと1on1ミーティング

社員の自走について

企業に必要とされるイノベーションや生産性向上は、印刷会社においても重要な課題で、人材においては、自走する社員が求められる。「社員の自走」とは、社員が自ら考え、行動し、課題を解決する能力を持つことを示す。上司からの指示を待つのではなく、自分でやるべきことを見つけて実行する姿勢を意味する。PHP人材開発のWebサイト(2024年2月13日更新)を参考に自走する社員がいる組織のメリットが上げられる。

<メリット>

  • 生産性の向上:社員が自発的に動くことで、業務の効率が上がる。
  • イノベーションの促進:新しいアイデアや改善策が生まれやすくなる。
  • マネジメントの負担軽減:上司が細かい指示を出す必要がなくなり、戦略的な業務に集中できる。

自走する社員を育成するためには重要なポイントがあるという。

<実施するポイント>

  • 理念やビジョンの共有:企業の方向性を明確にし、社員に浸透させる。
  • 支援型リーダーの育成:社員の自主性を引き出し、サポートするリーダーを育てる。
  • 心理的安全性の確保:社員が安心して意見を言える環境を整える。

社員の自走を促進するコミュニケーション

社員が自走するためには、マネジメントにおける社員各々のモチベーションと目標を持たせることが欠かせない。鍵の握るのは、コミュニケーションである。JAGATの管理者系研修でも受講者の困りごととして「部下とのコミュニケーション」についての事柄が意外に多い。2024年9月12日(木)に開講する「営業マネージャー養成講座」の第2回目では「部下の成長を促進させる1on1ミーティング」をテーマに泉谷史郎氏(キャリアコンサルタント、凸版印刷株式会社 情報コミュニケーション事業本部ビジネスプロデュースセンター第六営業本部長)により事例と演習を交えながら講座を行う。 LINEヤフー株式会社 が2012年から取り入れたことでも話題になった「1on1ミーティング」は効果的な手法のひとつかもしれない。講座では、その狙いについて、過去のマネジメントスタイルやリーダー像を鉄道に例えて「機関車」と称する。先頭の機関車が動力のない車両を強引に引っ張るものだ。対して、これからのマネジメントを「新幹線」に例えている。新幹線は、各車両が自走することで効率よく高速で走り快適な乗り心地を生み出すことができる。自走型の組織と自走できる社員の育成の必要性を表したものだ。講座では、部下を育てる上で必要となる関係づくりを学び、コミュニケーショントレーニングを行う。

1on1は、各社員の力を引き出し、業績アップを導くものだ。上司と部下が1対1で行う定期的なミーティングで概ね短時間の面談、頻繁に実施することが基本とされる。1on1の目的は、部下の成長のために行うものである。主役はあくまで部下、上司は聞き手に徹することが大切である。

1on1ミーティングを効果的に行うためにはポイントがある。

(目的と期待を共有する)

ミーティングの目的や期待を事前に部下と共有することで、双方が同じ方向を向いて話し合う。

(傾聴の姿勢を持つ)

上司は部下の話をしっかりと聞くことが重要。部下が話しやすい雰囲気を作り、積極的に質問を投げかけることで、深い対話を可能にする。

(定期的に実施する)

1on1ミーティングは一度きりではなく、短い時間でも定期的に行うことで信頼関係が築かれる。例えば、月に一度や隔週で行うことなど。

(フィードバックを具体的にする)

ポジティブなフィードバックだけでなく、改善点も具体的に伝えることが大切。具体的な事例を挙げて話すと、部下も理解しやすい。

(アクションプランを策定する)

ミーティングの最後には、次回までのアクションプランを明確にし、フォローアップを行うこと。成長をサポートしていく。

(記録を残す)

ミーティングの内容を記録し、いつでも見返せるようにしておく。次回のミーティングにも役立つ。

部下とのコミュニケーションスタイルの変化への柔軟な対応は益々重要である。1on1が話題になっている背景には、VUCAと称される時代や働き手の減少に加え、働き方の多様化などがある。 人材マネジメントは 、人材の確保と育成において益々各社員を尊重し、それぞれの心を大切にする必要がある。一方、その運用に難しさを感じている企業も多い。企業の中には、強烈なリーダーにより成長してきた事例も多い。大きな声を出す過去の成功体験や実績のあるリーダーこそ変化対応が難しいかもしれない。拘ることは、テクニックや体裁ではない。無駄な人材を抱える余裕のない中、満遍なく各社員を機能させ戦力化することである。生産性を高め自走する組織づくりには、各社員の心に触れ、やる気を高めることにより自走する社員を生み出すことだ。

(研究教育部 古谷芸文)

オンライン 印刷営業マネージャー養成講座2024

オンライン【2024年10月開講】秋の印刷入門

職場のモチベーションアップと目標管理

社員のモチベーション管理と課題

印刷工場の改善活動が進まない大きな原因のひとつにリーダーシップや社員のやる気(モチベーション)という心の問題がある。社員のモチベーションを高めるために印刷会社でも、人事評価に目標管理を連動させて運用しているケースも少なくない。人事評価に目標管理を組み込むことで、公平かつ納得感のある人事評価を行うことが目的である。しかし、目標管理や人事評価の本来の意味や目的を正しく理解していないために、運用方法を間違え社員の主体性やモチベーションを奪う場合もある。リクルートソマネジメントリューションズのWeb版用語解説によれば、モチベーションとは、動機づけ、やる気という意味。何かを欲求して動かす(動かされる)ことで、目標(ターゲット)を認識し、それを獲得し実現するために、方向づけたり行動したりすることを示すとある。ビジネスでは「仕事への意欲」を指し、社員のモチベーションを引き出すことを「動機づけ」と呼ばれている。モチベーションに関する研究は、主に1950年代に広く行われ、現在でも有名な「マズローの欲求段階説」「マクレガーのX理論・Y理論」「ハーズバーグの動機づけ・衛生理論(二要因理論)」などが展開されている。一般的にモチベーションを上げるには、動機づけを大きく2つに分類できる。

<外発的動機づけ>

外発的動機とは「給料のため」「生活のため」など、外部から与えられた条件や特定の目的意識などによる意欲のことで、昇給や賞与、インセンティブ、社内表彰、抜擢など、報酬や名誉によってモチベーションを上げる施策がある。

<内発的動機づけ>

内発的動機とは「自身の成長」「おもしろみ」「夢の実現」など、個人の内面から起こる感情や発生する意欲のことになる。金銭や知名度アップなどではない「自らのやりがい」という意識がある。社員の多様な仕事への価値観や働き方を理解し、コミュニケーションや仕組みづくりにより目標を導くことが求められる。

モチベーションを上げる目標管理

本来の目標管理は、社員のモチベーションを上げるものだ。目標管理である「MBO」とはManagement by Objectives and Self controlの略で、目標管理制度のことを意味する(人事ポータルサイト【HRpro】用語集より)。個別またはグルーブごとに目標を設定し、それに対する達成度合いで評価を決める制度で、1954年にP.F.ドラッガーが自身の著書の中で提唱した組織マネジメントの概念とされる。過去に大ブームとなった小説“もしドラ”(「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」)でも注目され、組織貢献と自己成長の両方が達成できる「個人目標」を設定させ、その達成度で評価を行う人事制度として用いられていた。そもそも人事評価とは相反する部分もある。人事評価の指標は、企業の期待に対して、従業員の能力や業務遂行度、業績などを評価し、待遇・処遇に反映させる。従来の日本の企業では、年齢や勤続年数による人事評価が採用され、近年では、個人の働きぶりや能力を重視し、適切に評価することが主流になりつつある。

「目標管理」では、社員自らが設定した目標を、「主体的」に管理し、達成に向けて行動することが求められる。管理するポイントは、例えば、「組織目標との連動」「適切な目標設定」「取り組みの具体的性」「期間の設定」などをチェックし、進捗を見極める。社員は自己管理をしながら目標達成に向けて行動する。目標管理では、定期的に1on1や面談などにより、上司と部下との間で、進捗状況の共有し、目標を達成できるように適切なアドバイスなどのコミュニケーションが求められる。共にPDCAを行いながらゴールに向かって行動していくことが肝心だ。そうすることにより、現実的な達成感が得られ、モチベーション向上に繋がる。社員が目標を達成することは、組織全体の良い業績を生み出すことになる。

ドラッカーの提唱したMBOと日本に根付いたMBOとでは、大きな違いがあるという。目標管理は単なる人事評価とは異なる。また、経営陣によるトップダウンで成果を求めるものでもない。「評価の手法」ではなく、「マネジメントの手法」として提唱している。社員各々を尊重したもので民主的な考え方だ。目標づくりは、本来セルフコントロールの領分とされる。一人ひとりが目標を考え、そこに対してコミットし、コミットの結果を自分で振り返りながら達成に向かっていくことがポイントとさられる。去る6月~7月に開催された第4期印刷工場長養成講座でも多くの工場長が人材育成やコミュニケーションといった部下の管理に纏わる課題が関心を集めた。人材不足の昨今、社員の多様化する働き方や価値に対応し、モチベーションアップという単純な解のない課題解決は益々重要になっていく。

(研究教育部 古谷芸文)

オンライン 印刷営業マネージャー養成講座2024

オンライン  秋の印刷入門<2024年10月開講>

印刷工場のリスクマネジメントと持続的な対策を考える

中小企業のリスクへの備えと現況

印刷工場を取り巻くリスクは、自然災害やIT化による情報漏洩など大きな影響を及ぼす事象がますます増えている。「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査」(2024年※複数回答あり)株式会社帝国データバンクによると中小企業が「事業の継続が困難になると想定しているリスク」は「自然災害68.6%、情報セキュリティ上のリスク41.3%」に続き、「設備の故障39.7%」が上位を占めている。また、事業継続計画(BCP)の策定状況では、「策定している」企業の割合(以下、BCP 策定率)は19.8%となった。前回調査(2023 年 5 月)から 1.4 ポイント増加し、過去最高となったという。2024年7月3日に開催された第4期印刷工場長養成講座全6講座、第4回では、リスクマネジメントと持続的な対策について講座開催された。リスクマネジメントの定義は、組織全体で企業の障害リスクを管理していくことで予想される損失を回避、低減化を図る活動のことである。組織内で発生するリスクに対して個別に対応せずに体系化した「しくみ」を通じて対応する。目的は、企業として「事業を継続」していくことでBCPに行き着くという。今日は、明らかにリスクが増加し、取り囲まれている。印刷会社が直面するリスクも多岐にわたる。

例えば

  • 受注リスク: 受注が減少したり、キャンセルされたりするリスク
  • 品質リスク: 印刷品質不良によるクレームややり直しリスク
  • 納期リスク: 納期に間に合わないリスク
  • 情報漏洩リスク: 顧客情報や社内情報の漏洩リスク
  • 災害リスク: 地震、火災、洪水などの自然災害リスク
  • 法令遵守リスク: 法令違反による制裁リスク
  • 人材リスク: 従業員の離職や労災事故リスク
  • サイバーセキュリティリスク: ハッキングやランサムウェアによる被害リスクなど

これらのリスクは、印刷会社の経営に大きな損害を与え、場合によっては事業存続を脅かす可能性がある。

リスクマネジメント の施策とBCP

そこで、印刷会社はこれらのリスクを認識し、適切な対策を講じることが重要である。では、なぜ増えたのか。周知の通り、地球温暖化にみる環境や法令施行などに加えてインターネットの普及による情報革命は、大きくビジネス環境を変えた。今やリスクは致命的な損失を与える可能性が圧倒的に高くなっているのだ。また、2006年に改正された会社法では、会社法施行規則第100条では、体制構築することを求めている。

・損失の危険の管理に関する規定その他の体制(いわゆるリスクマネジメント体制)

・使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制(いわゆるコンプライアンス体制)

不祥事を起こした企業経営者が「知らなかった」「担当者の一存でやった」などの責任逃れが済まされない。経営者として職務不履行であることを法的に明確にしてある。

リスクマネジメントは、4つ施策から成り立つという。

①リスクを抽出し特定する

②リスクを分析する

③リスク対応の優先度を評価する

④リスク対策を立案し、実行する

改善活動の基本となるPDCAサイクルと同様だ。ISO規格では、ISO31000になる。2009年11月にリスクマネジメント手法のガイドラインとして発行されている。あくまでもガイドラインであり、認証を目的としたものではないことを再認識する必要がある。その考え方や手法を個々の組織の事情に応じて臨機応変に応用して利用するべきだという。リスクマネジメント対策は、まだまだ取り組む企業が比較的に少ない。これからの重要な施策だと考えられるが、一方で、印刷工場の対策は、これまでの改善活動とは別物で考える必要はない。例えば、ヒューマンエラー対策も含まれる。ヒヤリハットのデータを集め、インシデントレポートを集めるしくみをつくり、予防予知トレーニング(KYT)によって事故を軽減する取り組みはリスクを軽減する活動である。リスクマネジメントの目指す施策にBCPを含むことが考えられる。BCP(Business Continuity Plan)とは「事業継続計画」である。地震、台風、火災といった有事が発生した際、企業や団体が、事態にどう対処し、事業をどう復旧させるかなどの計画のことで事業を止めず、継続させることが目的となっている。昨今は、VUCA(ブーカ)の時代と呼ばれるように、予測できない変化が激しくなる一方で、さまざまなリスクが潜んでいるといわれる。 今一度自社のリスク発生後、事業継続するための施策の現状を確認したいところだ。

(研究・教育部 古谷芸文)

【オンライン】第2期 印刷機長養成講座

【2024年9月開講】印刷営業マネージャー養成講座2024

ヒューマンエラー対策と「ポカヨケ」で回避するしくみ化

事故にみる原因を追究するヒューマンエラー対策

印刷工場でのヒューマンエラー対応策への取り組みは、益々重要視されている。この6月5日(水)に開講した第4期印刷工場長養成講座に受講前アンケートでも多くの管理職者が関心事項の一つとして課題としている。今年1月2日に起きた羽田空港での日本航空機と海上保安庁の航空機が衝突した事故で、日本経済新聞(2024年1月4日)によれば、日航機側と管制官は滑走路に誤進入したとされる海保機を認識していなかった。海保機が滑走路上で約40秒間停止していたとみられることも新たに判明。事故は人的ミスが影響したとの見方が強まっている。管制指示の誤解を防ぐ表示装置の導入といったデジタル化も進む中、ソフト面も組み合わせた対策が欠かせないとしている。肝心なことは、一刻を争う緊迫した中で起きた不慮の事故であるということだ。背景のひとつとして、海上保安庁の航空機が能登半島地震を受け、新潟の航空基地に救援物資を運ぼうとしている中の事故で故意に起きたエラーでないことが容易に想像できる。事故は、時折、責任追及に関心が集まりがちだが、原因を追究し二度と起こさないための対策を講じることが重要だ。周知の通り、ヒューマンエラーは、完全に無くすことはできないことが前提だ。責任追及型ではなく原因追求型の適切なヒューマンエラー対策が求められる。

ヒューマンエラーを未然に防ぐための対策とは

ヒューマンエラーが減らない企業の特徴に個人の問題にして終了というケースが多々ある。そうした中で出てくる対策は、朝礼等での通知、チェック手順の追加、 注意喚起の表示など、 その場しのぎの対応が多くなることがある。最もダメなパターンでは、ミスを犯した部下に対して、「最近の若者は」などのボヤキ、「ちゃんとチェックしろ!」、「しっかり注意しろ!」「気をつけろ!」など怒鳴りつけて対策を終了するなどの場面があるのではないだろうか。ヒューマンエラー対策講座(JAGAT主催)によれば企業が行うヒューマンエラー対策は、ミス・事故を起こした個人だけの問題ではなく、ミス・事故に至ったプロセスや作業環境にも問題がある。ヒューマンエラーは複数の要因が連鎖して起こるケースも多いため、しっかりと対策を講じることでエラーの連鎖を断ち切り、発生・再発防止に対処することが必要だ。

【ヒューマンエラーを未然に防ぐための対策】

●業務フローの見直し

●マニュアルの整備

●ヒヤリハットの共有

1件の重大な事故の背後には29件の軽微な事故、さらにその背後には300件のヒヤリハットが存在すると言われる。ヒヤリハットの時点で対策を講じ、重大な事故・災害が発生しないように努める。

●チェック体制の強化

●システム・ツールの活用

●ミスしにくい設計(フールプルーフ)

あらかじめミスが起こりにくい体制を構築する。誤った操作を行っても重大な事故につながらないような設計することをフールプルーフと言う。

●注意喚起の徹底

●作業者スキルの向上

●ヒューマンエラー研修・教育の実施

●職場環境の改善

「5S」に則った対策を取るのが有効。従業員が仕事がし易い環境を整え、ミスや事故の防止にもつながる。

改善活動とポカヨケ、AI活用

対策において重要なことは、しくみ化に取り組み形骸化しないことだ。例えば、トヨタ生産方式による改善活動(カイゼン)で生まれた「ポカヨケ」は、ヒューマンエラー対策におけるしくみ化のひとつだ。ポカヨケは、日本語の「ポカ」(うっかりミス)と「ヨケ」(避ける)を組み合わせた言葉で、製造業やサービス業において、ヒューマンエラーを防止するための仕組みや工夫を指す。作業者がミスをしにくいように、もしくはミスをしてもすぐに気づくようにするための設計や仕組みを取り入れることとされる。

主な目的は

  • エラーの防止:作業者が間違った操作をするのを未然に防ぐ。
  • エラーの早期発見:エラーが発生した場合、それをすぐに発見して修正できるようにする。

具体的なポカヨケの例としては、

  • 形状や大きさでの区別:部品の取り付け位置や向きが間違えないように、形状やサイズを異なるものにする。
  • センサーの活用:製品の組み立て工程でセンサーを使用して、正しく組み立てられているかをチェックする。
  • チェックリスト:作業手順を確認するためのチェックリストを用意し、手順ごとに確認を行う。

ポカヨケの考え方は、ミスをした人を責めるのではなく、システムやプロセスを改善してミスが発生しないようにすることを重視している。これらの考え方をベースに最近では、AI活用も急速に進んでいる。

<異常検知>

AIを用いた異常検知は、クレジットカードの不正検出から製造工程の不良品検知まで幅広く活用されている。

<ポカヨケ>

ポカヨケは、人の手による作業ミスを防止・回避するための対策。AIを活用した不良品検知の活用も広まっている。

これは、品質管理や生産性向上に効果的で結果的に顧客満足度の向上につながる。企業活動の中でもヒューマンエラー対策は、改善活動の一環であることを認識していなければならない。「急がば回れ」である。PDCA(管理サイクル)で好循環のスパイラルを回転させしくみ化することと人を育てる対応が望まれる。鍵を握るのは推進するリーダーや各々のリーダーシップである。印刷工場では、改善活動にしっかりと取り入れて根付かせなければならい。

(研究・教育部 古谷芸文)

【オンライン】第2期 印刷機長養成講座

ユーザー視点で考える品質規格とデジュールスタンダード

USBインターフェース規格にみる利便性と落とし穴

印刷工場の設備では、様々な機械や材料、部品などにおいて様々な規格が存在する。規格によって利便性が左右されることもある。最近、スマートフォンの映像を液晶モニターに 投影することを試みた 。スマートフォンのインターフェースのUSBタイプCから液晶モニターのHDMI端子とを接続したが、結果はうまくできなかった。周知の通り、USBタイプCにはいくつかの種類と落とし穴がある。タイプCケーブルには、速度、電力、およびプロトコルの能力において様々なバリエーションがある。例えば、USB 3.1 Gen 2 と USB 2.0 のケーブルでは、データ転送速度に大きな違いがある。仮にHD映画を転送する場合、USB 3.1 Gen 2は10Gbpsで5秒、USB 2.0は480Mbpsで1.7分かかるという。異なるUSB Cケーブルは、MHL、HDMI、Thunderbolt 3、DisplayPortなどの異なるプロトコル、つまり、データ転送方法をサポートしていることがある。筆者のデバイスは、転送速度や転送方法が異なることにより同じタイプCの形状にも関わらず不可能だったわけである。

デジュールスタンダードとユーザーの利便性

BBCジャパン2023年9月5日よりよれば、アップルは新型iPhoneにUSBタイプC端子を採用することを発表した。これは、欧州連合(EU)が2024年12月までに携帯電話メーカーに充電用の接続端子を共通化するよう法律で義務付けたことに対応するためだ。iPhone 15シリーズは、従来のLightningポートに代わってUSB-Cポートを採用。これにより、充電やデータ通信、映像出力、周辺機器接続などが可能になる。また、USB-C端子は業界標準規格であるため、多くのノートパソコンやAndroidスマートフォン、その他のデバイスと互換性があるとされる。これは、同社がデファクトスタンダードからデジュールスタンダードのインターフェース(IF)に切り替えたことになる。アップル社製品の独自性は魅力的なものがあるが、ユーザーの利便性は高まるはずだ。USB規格は、デジュールスタンダードである。非営利団体であるUSB Implementers Forum (USB-IF) によって決定されている。USB-IFは、Apple、ヒューレット・パッカード、インテル、マイクロソフト、ルネサスエレクトロニクス、STマイクロエレクトロニクスなどの主導企業を含む996社で構成されており、USBの仕様の策定や管理を行っている。また、USB規格は特許使用料が無料であり、ルールを守れば誰でも参入可能なことが普及を促進しているという。

【デジュールスタンダードとデファクトスタンダード】

  • デジュールスタンダード(De jureは「法律上の」という意味) ☆ユーザー側に好都合
    • 公的機関や標準化機関によって標準規格と定められたものを示す。
    • 例えば、乾電池。乾電池の大きさや種類、材料などの規格は国際標準化機関や企業、専門家が議論して策定。代表的な規格は「国際標準化機構(ISO)」「米国国家規格協会(ANSI)」「日本産業規格(JIS)」など
  • デファクトスタンダード(事実上の標準の意味) ☆勝ち組の企業側に好都合
    • 市場競争によって業界標準と認められた規格。
    • 例えば、「Windows OS」「DVD・ブルーレイ」「USB端子」など

デジュールスタンダードとしてのJapan Color認証

国内の多くの印刷工場では、Japan Color認証を活用した標準化への取り組みが見受けられる。一方で現場への浸透が課題となっているケースも多い。オフセット枚葉印刷Japan Color認証は、印刷機資材のメーカーにあたる(一社)日本印刷産業機械工業会により、印刷品質を決定づける要因についての取り扱い方をデジュールスタンダード(公的な標準)として決めたものだ。策定以前は、各メーカーによるバラつきに加え測定技術や管理手法の課題も重なり、資材や設備の変更による品質トラブルも今よりはるかに増していたと考えられる。製造業の基本的な管理要素にあたるMan(人)、Machine(設備)、Material(材料)、Method(手順、方法)の4Mにおいては見えないことだらけである。当時のオペレーターの多くが勘や経験に頼っていたこともわかる気がする。各メーカーが集い、企業の枠を超えて、競争によるデファクトスタンダード(事実上の標準)獲得に拘らずにユーザー目線で印刷業界の標準化に取り組んだことは大きな前進とも言える。印刷の現場ではJapan Color認証を取得した後が重要でその意味を理解し、日常的に管理することが求められる。ユーザーとしての印刷会社は、規格された機資材をどう使いこなすがポイントで自社に合った品質管理をしくみとして取り入れることで発展に繋がる。

(研究・教育部 古谷芸文)

オンライン第4期 印刷工場長養成講座  2024年6月開講

オンライン第2期 印刷機長養成講座 2024年8月開講

2024/7/11 【オンライン】印刷、後加工の仕事に役立つ 製本加工の基礎知識

セミナー名:【オンライン】印刷、後加工の仕事に役立つ製本加工の基礎知識
開催日:2024年7月11日(木) 14:00-17:00
参加費:JAGAT会員:15,400円(税込)/一般:20,900円(税込)
詳細案内ページ

・申込みは、下記のフォームに必要事項をご記入のうえ、送信ボタンを押してください。
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■部署名(例:企画営業部)

■役職名(例:主任)

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page2024セミナーのゲストスピーカーに三輪 直之氏(シンクイノベーション株式会社 代表取締役)

ウォルトディズニーにみるキャラクタービジネスの展開

世界的にも競争力の高い日本のキャラクターは、さまざまなコンテンツやグッズ、イベントなどで活用されている。そんなキャラクターの知的財産(IP)のライセンスを扱うのがキャラクターライセンスビジネスだ。昨今は、漫画やアニメ、ゲームに携わる企業の業績が軒並み好調である。作品のキャラクターや世界観などIP(知的財産)を用いたエンタメ、コンテンツ領域での事業の拡大や企業のプロモーション活動におけるIPの活用によるキャラクタービジネスに注力している。東洋経済オンライン(2022年01月29日)によれば、そのビジネスモデルはアメリカのウォルトディズニーにも似ているという。ウォルトディズニーの事業は大きく分けて2つあるとされる。一つ目は、テレビ放送や動画配信サービスによる「映像系」作品の事業。二つ目は、作品をベースにしてテーマパークを軸にしたリアルエンタメを提供する「体験系」だという。加えてそれら作品のストーリー性やリアルエンタメの世界観体験の副産物としての製品パッケージなどの企業プロモーションでのコラボや様々な製品、グッズなどでのキャラクタービジネスでの大きな収益がある。特にキャラクタービジネスは、商品企画や在庫におけるコストがかからないため高採算なビジネスが多いともいわれている。日本のゲームや漫画IPは、もともと高い競争力を持っている。世界的な動画サービスの普及を受けて派生したコンテンツは、グローバルに拡大し、ゲームIPは、スマホやPCの普及により世界的に急速に広がっている。競争が厳しい事業でもある。コンテンツやキャラクターなどのIP力で成否が分かれるからだ。ゲーム会社や出版社といったコンテンツを生み出す企業がキャラクター市場で勝ち抜く上では、コンテンツの競争力維持に加え総合力が求められているという。多角的な展開やキャラクター活用による提案力がいっそう必要になっている。

キャラクターライセンスビジネスの展開とシンクイノベーション株式会社

魅力的なコンテンツIPを持つ会社は、キャラクタービジネスを展開するための魅力的なパートナー企業を求めている。ライセンスビジネスプレーヤーは主に4つある。「ライセンサー」「ライセンシー」「ライセンスエージェント」「小売業者(流通のプラットホーム)」で、互いの強みを発揮することで双方の利益を図ることができる。

  • 【ライセンサー(実施許諾者)】ブランドやキャラクターなどの特許ライセンスを所有する団体や個人
  • 【ライセンシー(実施権者)】ブランドやキャラクターなどのIP(知的財産)の使用権をライセンサーから承諾を得ることで、IPを使用した商品やサービスを開発し、販売することが可能な事業者
  • 【ライセンスエージェント】ライセンサー(実施許諾者)と契約を結ぶことで、キャラクターやブランドなどのIPの営業代行やマーケティングを行う団体や個人。
  • 【小売業者】ライセンシーが開発したライセンス製品を購入することで、インターネットや小売店などを通して販売する事業者。

また、キャラクターグッズに携わる事業者には、ライセンサー(版権元)から版権を借りてグッズ化し販売する事業者「ライセンシー」と企業や同人、個人から委託されるOEMがある。

page2024セミナーでは、ゲストスピーカーに三輪 直之氏(シンクイノベーション株式会社 代表取締役)に登壇頂く。ライセンスグッズの企画・製造・販売を手がける同社は、概ね3つ事業がある。一つ目は、オリジナルでバッチやスマホケースなどの企画・製造・販売するBtoC事業。二つ目は、雑貨店などの商品を依頼受けて製造するOEM事業。加えて、三つ目にMD事業(ライセンス事業)がある。例えば、アニメの「進撃の巨人」や「ハイキュー!!」のキャラクターライセンスを取得して自社商品としてキャラクターライセンスビジネスを展開している。印刷業界での話題では、株式会社ミマキエンジニアリングのUVインクジェットプリンタをはじめとする印刷機械設備65台。従業員数100名で社内生産をしていることも特徴でpage2024セミナーでは解説やコメントを頂戴する予定だ。

(CS部 古谷芸文)

【S4】キャラクタービジネスと印刷業の可能性

【S1】営業初心者をあっという間に戦力化する 「チームマネジメント」

【S2】新時代突入! 生成AIでデザイン業務はどう変わるのか

【S3】未来を見据えた異業種共創と新事業開発

【S5】生成AIで変わる動画ビジネス

【オンライン】デジタル印刷とデータビジネスの基本

印刷ビジネスにおける受注活動は、いまや紙媒体だけではなく動画やWebメディア等への幅広い対応力と知識が求められています。本講座では印刷物及び、それ以外のデジタル商品の受注能力を育成するためのデジタルデータ基礎知識を学びます。

 

開催日時

2023年12月4日(月) 14:00~17:00

 

対象

・若手、中途社員
・デジタルメディアの基礎を勉強したい方
・デジタルワークフローに興味のある方
・デジタル印刷ビジネスを始めたい方

 

カリキュラム

◇デジタルメディアとデータの種類
・印刷会社が受注するメディアの変化
・印刷会社で扱うデータ(印刷用素材・Web用素材・映像ファイル形式)

◇メディアによる受注フローの違い
・印刷案件、Web案件、動画・映像制作の受注情報

◇トラブルを防ぐ入稿データのチェックポイント
・印刷入稿データとソフトウェア別データチェック手法
・Web制作工程とWeb発注の予備知識
・動画制作工程と動画プロモーションの予備知識

 

講師

影山 史枝 
株式会社スイッチ / DTPスペシャリスト

複写機メーカー・精密機器メーカーのテクニカルサポートを経て、PCスクールおよび派遣企業の教育センターでトレーナーとして勤務。現在は印刷企業の技術顧問、業界団体のDTP・マーケティング系講座・企業研修を多数行う。

 

最少催行人数

6名

 

参加費

JAGAT会員 14,300円 / 一般 19,800円      

※上記価格は1名様の価格です。複数名でご視聴の際は人数×受講料をお支払い下さい。

 


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参加費振込先
参加費は、下記口座に開催日の2日前までに振り込み願います。
なお、お申し込み後の取り消しはお受けできません。代理の方のご出席をお願いします。

口座名:シャ)ニホンインサツギジュツキョウカイ
口座番号:みずほ銀行中野支店(普)202430

内容に関して問い合わせ先
内容に関するお問い合わせはお気軽に下記までお寄せください。
CS部 セミナー担当 電話:03-3384-3411

お申し込み及びお支払に関して
管理部(販売管理担当)   電話:03-5385-7185(直通)

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