小学生のプログラミング教育
2017年に発表された新学習指導要領では、小学生からプログラミング教育を導入することが盛り込まれた。「プログラミングを体験しながら、コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付ける学習」と記されており、情報機器の操作やプログラミング体験を通して、プログラミング思考を習得するという主旨らしい。2018~2019年の移行期間を経て、2020年度から全面実施となるそうだ。
これだけ聞くと、素晴らしい取り組みと思える。プログラミング教育を通じてIT社会の発信側の考え方を学ぶことは、情報リテラシーの基礎となり、たいへん有意義である。しかし、コンピュータ機器や環境の整備、指導者側のスキルなど、十分に用意できているのだろうか、自治体や都道府県で温度差があるのではないか、と多くの方々が懸念されているようでもある。
高校における「情報」教科
高校においても、2003年から「情報」科目は必修となっている。2013年の高校の学習指導要領の改訂で「情報の科学」 「社会と情報」 という教科が新設され、どちらかの科目を選択することになっている。試しに2科目の教科書、「情報の科学」(東京書籍版:2018年発行)と「社会と情報」(東京書籍版:2018年発行)を入手してみた。
「情報の科学」では、フィルムカメラとデジタルカメラの違いからアナログとデジタルを比較するなど、的確で分かりやすい解説がある。文字コードや3原色の原理から、コンピュータで文字や画像を表示する仕組みを説明している。通信ネットワークやWebサーバーからインターネット環境が構成されていること、電子メールの仕組みなど、基本的な内容が簡潔にまとめられている。
さらに、問題解決の章があり、情報の分析・モデル化・アルゴリズム・プログラムといった項目がある。また、情報社会の分野では学習・仕事・家庭の環境、セキュリティ、情報の信頼性、メディアリテラシー、コミュニティ、モラル・マナーといった項目もある。
今日のIT社会を理解する基本的な仕組みや知識、リスクなどが網羅されており、良く考えられた教科書だと感じた。限られたページ数であり、詳細な解説は望むべくもないが、IT教育として重要な項目が網羅されている、という印象である。
20代の若手職員に、高校生当時に「情報」科目についてどのような勉強をしたか、聞いてみた。すると、「『情報』の教科書を開いた記憶がない。試験もなかったので勉強したこともない。」「実際にやったのは、ワープロ、表計算、プレゼンテーションソフトの実習だけ。」という言葉が返ってきた。
最近の学生は幼少期からパソコンに触れ、習熟している者もいれば、スマートフォン以外にはほとんど触ったことがない者など、情報格差が拡大しているとも聞く。
印刷業における体系的基本知識の習得は?
新入社員研修でDTP実習や印刷実習を課す印刷企業は、少なくない。ビジネスマナーや印刷知識、営業研修などと共に、1~2日程度の実習が取り入れられている。つまりは体験目的の実習であり、体系的な知識や判断力を修得することはできないだろう。
例えば、印刷物制作で付加されるトンボは、何のために必要で、なぜあの形になっているのか、印刷工程の全体像が見えていなければ、簡単には理解できない。
プロ用途のアナログカメラがほぼ皆無となり、デジタルカメラのデータ入稿だけとなった。つまり、RGBデータを印刷するにはCMYK変換が伴うため、カラーマネジメントの知識は必須である。
オフセット印刷のビジネス全体は停滞しているが、デジタル印刷の市場は年々成長を続けている。これは、単に印刷方式の変更やコストダウンが目的ではなく、在庫レスの実現、最新情報を反映した印刷物をタイムリーに提供する、パーソナライズDMで絶大な効果を上げる、など顧客の課題を解決する手段が求められているからである。
印刷業務に関わる専門家、つまり印刷人であれば、営業担当であろうと制作担当であろうと、印刷工程の体系的な理解や専門的な知識が必要となる。
DTPエキスパート試験は、DTPだけでなく印刷技術、カラー、情報システム、情報コミュニケーションという現代の印刷業務に必須で基本的な分野をカバーしたもので、合格者は印刷工程を体系的に理解し、専門的な知識を有するとされている。基本に立ち返って学習することで、今後のビジネスに大いに役立つことは間違いない。
現代社会で体系的なIT教育の重要性が高いことは明らかであり、学校教育でプログラミング教育や「情報」教科などが充実されることは望ましいことである。しかし、実現可能なのは薄く広く程度であることは致し方ないと言えるだろう。
一方、社会人に求められる情報リテラシーやスキルは、より専門的で体系的な学習が必要である。組織としても、個人としても、体系的な知識を習得して専門性を高めることが重要である。
(JAGAT 研究調査部 千葉 弘幸)