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“デジタル×紙×マーケティング”を具現化する人材育成手段としてのエキスパート資格

JAGATが主催するDTP、クロスメディア両エキスパート試験の受験者の過半数は、企業としての取り組みでありその目的は資格ではなく人材育成である。

昨日(5/27)、3月に実施した第51期DTPエキスパート認証試験および第27期クロスメディアエキスパート認証試験の合格者をホームページで発表した。これで通算の合格者数はDTPで23096人、クロスメディアで1323人となったが、彼らの大半を占めているのは所属する企業の教育の一環として資格に挑んだ方たちである。
ただし資格取得はあくまで手段であり、目的は人材育成である。では今、印刷会社はどんな人材を目指して教育の方向を定めているのか、また定めるべきなのだろうか。

印刷業界がおかれている状況は、インターネット、メディアの多様化、デジカメ、モバイル端末の普及により生活者の行動も激変してきたこともあり、経済が好転したとしても、印刷物そのものの需要は回復しない。これまで印刷内で収まっていた顧客ニーズが多メディア展開に変わる、いよいよそのギャップを埋める人材が必要になってきたということである。
変化する顧客のビジネスニーズに呼応して、新たな印刷ビジネスを展開するためには、顧客志向でソフト・サービス化への対応、川上指向、知力・感性、マーケティングのノウハウ、そしてなにより信頼を得るためのコミュニケーション能力が必要となる。印刷業界にとって、人の能力に左右される事柄が現場から対顧客窓口に移行するという大転換である。

こうした現状を背景に、JAGATでは昨年来“デジタル×紙×マーケティング”をテーマとして掲げ、これからの時代に印刷の付加価値を高め、新たなビジネスを開発していくためには、印刷をマーケティング情報と連携させ、デジタル技術(データ、印刷機、メディア) との掛け合わせが必要があると訴えてきたが、今年度はそれをより飯のタネ(商売として利益を上げる)にすべく“デジタル×紙×マーケティング for Business”というスローガンにバージョンアップさせた。
したがって、JAGATのエキスパート資格も“デジタル×紙×マーケティング”をビジネスとして具現化できる人材を育成するという方向に明確に向かっている。

DTPが当たり前になった現代。DTPエキスパートは印刷・メディアに携わる人がまずベース知識として取り組むべきカリキュラムになっている。そのカテゴリーはDTPに関する知識はもちろん、印刷技術全般知識、色の知識、情報システムに加え、コミュニケーション関連知識に及んでいるため、印刷・メディア関連業界に携わる人であれば職種を選ばず誰もが入社3年目くらいまでに取得を目指してほしい。

顧客ニーズの多様化に応える能力とその人材育成が求められる中。クライアントに向き合い、彼らが望む結果を導くためのコミュニケーション戦略を構築できる人材を目指しているのがクロスメディアエキスパートである。クライアントの課題を抽出、分析し、単一メディアではなし得ないソリューションを提案するための知識と能力を養うための資格制度になっている。

今後の印刷ビジネスは「もの造り」から「こと創り」へと向かわざるを得ない。「もの」は設備でできるが「こと」は人から生まれるもの。製造業的発想からの意識転換が必須である。
「印刷物を造る」ということと「ビジネスを創る」ということでは教育の質も違ってくる。いずれにしても、人への投資、人材育成こそがこれからの企業の未来を切り拓く源泉である。早急に取り組むためには、資格制度の活用が有効と考える。

(CS部 橋本 和弥)

第52期DTPエキスパート認証試験
【開催日】2019年8月25日(日)
【申請受付期間】2019年6月25(火)~2019年8月5日(月)

第28期クロスメディアエキスパート認証試験
【開催日】2019年8月25日(日)
【申請受付期間】2019年6月25日(火)~8月5日(月)

クロスメディアエキスパート論述試験 新解答形式

JAGATは、第28期クロスメディアエキスパート認証試験における論述試験形式の改定を発表しました。下記に、解答形式のサンプルをリンクします。

クロスメディアエキスパート論述試験 第28期 解答形式サンプル

第28期試験以降は、この形式に基づいて出題されます。
(ただし、出題形式は予告なく変更される可能性もあります)

論述試験 新解答形式の解説

問1【課題設定】
※課題設定と施策内容の一貫性は重要となります。

問2【ターゲット】
※メインターゲットを絞り込むことで、そのターゲットに効果的な作用を及ぼす施策が可能になります。

問3【提案の基盤・方針】
(1)A社へ提案する施策を発信する主メディア(認知促進、興味・関心の醸成)とその選定理由
[メディア]
[選定理由]
(2)メディアを通じて発信・訴求する主要コンテンツとそのねらい・意図
[コンテンツ]
[ねらい・意図]
(3)(1)の主メディアを含む複数メディア間の連係を誘導するしくみ
(4)共有・拡散を促すしくみ

※「問4」の施策内容の前提となる方針・方向性を記述することが求められています。施策内容との一貫性は重要です。

問4【提案する施策内容】A社に提案する施策を3件にまとめ、記述しなさい。
※施策内容を3件にまとめることが求められています。

問5【実行スケジュール】
※表の区分に従って、準備・実行・フィードバックなどのスケジュールを記述します。

問6【概算見積】
※施策内容に即した項目を設定し、概算見積を記述します。

問7【タイトル】
※施策内容を分りやすく伝えるタイトル (およびサブタイトル) を設定し、記述します。

問8【序文(挨拶文)】提案書の序文を(ですます調)で記述しなさい。
※企画・提案に臨む心情や姿勢、背景などを提案先に伝わるように記述します。

問9【施策の総合的効果】問4に記述した施策のまとめとして、下記項目を記述しなさい。
[自社(X社)の強み・採用する意義]
[A社の競合他社への差別化対策]
[施策内容の総合的な効果・まとめ]

※提案書のまとめに相当する部分です。
自社の強みや採用の意義を記述して下さい。
また、A社から見ると、(A社の)競合他社への差別化を実現できるかどうかは、採用の大きなポイントとなります。
そして、提案書の最後に施策内容の総合的な効果を簡潔に記述することは重要です。

(JAGAT 資格制度事務局)

第27期クロスメディアエキスパート 論述試験の出題意図と講評

2019年3月17日(日)、第27期クロスメディアエキスパート認証試験が実施された。第2部の論述試験は、架空の企業に関する与件文を読み、顧客の課題を解決するコミュニケーション戦略の提案書を140分の制限時間内に作成するものである。

8ページほどの与件文には、ある企業の事業推移や市場環境、競合企業の動向などが記述されている。提案ではターゲットを的確に絞り込み、適切なメディア選択、メディア連携を実現し、顧客の課題解決をおこなうことが求められる。

オーダースーツを製造・販売する企業への企画・提案

今回のテーマは、「オーダースーツを製造・販売する企業」という設定であった。新ブランド構築に際して、新たなコミュニケーション戦略を模索しており、企画・提案を求めている、という設定である。

提案先は、かつて大手百貨店のオーダー部門のスーツ製造(下請け)に特化していた企業である。早くから中国に製造拠点を立ち上げ、アパレル用のCAD/CAMを活用して効率化を実現していた。
百貨店の破たんによって経営危機に陥ったが、格安のオーダースーツ直販ビジネスに切替えることで再建を果たした。
しかし、大手紳士服チェーンなどオーダースーツ参入業者が増え、競合が激しくなったため、より高級感のある新ブランドを創設した、という設定である。

大学生を始めとした若者や女子向けに新ブランドを浸透させるには、どのようなメディア、コンテンツを用意すべきか。SNSや動画配信を通じて双方向コミュニケーションを実現するには何をすべきか。会員登録促進のため、どのような施策を講じるのか。集客や認知を広めるイベントの具体的なプランはどうするか?
クロスメディアエキスパートの論述試験では、これらを提案書としてまとめることが求められる。

提案書の採点基準

提案書の採点においては、以下のような記述が重要視されている。また、これらのポイントは実務上でも有効である。
今後、取り組む際には、このような点に留意するとさらに完成度が上がるだろう。

(1)コンテンツの企画・制作と発信

Webサイト、冊子・フリーペーパー、チラシなどどのメディアを使用するにしても、どんなコンテンツを発信するかが重要である。Webサイトの改定を行うのであれば、どのようなコンテンツを誰に向けて発信し、どのような効果を狙うのか。訴求力のあるコンテンツをどのようにして準備するのか。コンテンツの企画・編集、制作費用は適切かどうかも重要である。

(2)メディア選定理由

メディア選定理由を問う設問があり、なぜそのメディアが適しているかを回答することが求められている。つまり、メディアの特徴(長所・短所)を正しく認識し、それを活用しているかどうかが問われている。

(3)提案書の挨拶文

挨拶文であるため、分析・評論するような文体は避けるべきである。例えば、顧客の業績や状況に関する認識を表現する場合、リスペクト感が伝わるような記述が望ましい。

(4)消費行動モデルに即した提案内容

消費者・生活者の心を動かすには、消費行動プロセスモデルに即した方法が有効である。インターネット時代に有効とされるAISASモデル(注意・関心・検索・行動・共有)やAISCEAS(注意・関心・検索・比較・検討・行動・共有)に即した施策は効果的である。また、SNSやコンテンツマーケティングに即した消費行動モデル(SIPS、DECAX)も有効である。

消費行動プロセスにおける位置付けを明確にすることで、提案内容の説得力を高めることができる。

(5)コミュニケーション施策の全体設計と自社の強み

例えば3つの課題に対して、バラバラに施策を立て、それらを並列で実施するだけでは大きな効果を期待できない。複数の施策の連係によって相乗効果を生み出すような記述が期待される。
また、自社(提案する側)の強みをアピールすることも重要である。いくつもの提案の中から自社の提案を採用することが、もっとも適切で効果的であることを伝えなければならない。

(6)スケジュールと費用

スケジュールは費用算出の根拠ともなる。実務上でも、工数配分をベースに費用を算出することが多い。スケジュール上の規模感が、結果的に費用に反映されていると提案の妥当性が増す。例えば、企画・設計の期間や費用を適切に見込んでいるか、Webサイトの維持・改善の工数を見込んでいるかどうかなども、妥当性を示すポイントとなる。

印刷物を使用する場合、原稿を受領してデザイン制作をするのではなく、印刷物の企画・原稿執筆・データ制作を含める必要がある。さらに、印刷・製本して納品することがゴールではなく、エンドユーザーへの配布方法や費用を見込む必要がある。

(7)競合他社との差別化

提案先とその競合他社との差別化は、もっとも重要な項目の1つである。最終的に「競合他社との差別化」を実現する提案でなければ、採用されることにはならない。提案書の中で強調されていなければならないポイントである。

講評

画一的でサイズやフィット感に制約のある既製スーツと比較すると、オーダースーツは魅力的な製品である。価格が同等であれば、関心を持つ者は少なくないだろう。
就職活動などで初めてスーツを購入する男女学生が、オーダースーツを通じてこの企業のファンになれば、リピート購入だけでなく、周囲へのインフルエンサーになることも期待できる。そのための仕掛け作りが求められている。

展示即売会を開催し、集客することができれば、オーダースーツを実体験するだけでなく、購入に結びつくことになる。ブランド力のあるメーカーや店舗であれば、そのようなことも可能であるが、新興メーカー・ブランドでは容易ではない。

例えば、店舗での採寸から完成・試着までのプロセスを動画で視聴できれば、オーダースーツの実態を知ることだけでなく、フィット感や満足度などを疑似体験することになる。
さらには、オーダースーツの購入者自身が画像や動画を発信し、コミュニケーションを図る場を設けることで、ユーザー側の評価を浸透させることが可能である。

解答における施策には、大学構内のPOP広告からスマホを通じたWebサイトへの誘導、動画による疑似体験や基礎知識の発信、SNSの活用によるコミュニケーション促進などがあった。InstagramやTwitter、FacebookなどのSNSを活用し、双方向コミュニケーションやファン作りを意識したものも多かった。
AISAS、AISCEASなどの消費行動モデルを反映したシナリオがあると、さらに説得力が上がるだろう。

(資格制度事務局)

2019/7/20 第52期DTPエキスパート対策講座(解説講座のみ)

 

セミナー名 2019/7/20 第52期DTPエキスパート対策講座(解説講座のみ)
開催日:2019年7月20日(土) 13:00-17:00
参加費(税込):
一般 14,040円 優待(JAGAT会員またはDTPエキスパート有資格者(紹介)優待) 8,640円  

参加費お振込み先:みずほ銀行 中野支店(普)202430  シャ)ニホンインサツギジュツキョウカイ

申込みは、下記のフォームに必要事項をご記入のうえ、送信ボタンを押してください。
※ご注意ください※
本 メールにご登録いただくと、申込完了メールが送信されます。登録後、数分経ってもメールが受領できない場合は、迷惑メールフィルタ等の要因が考えられま す。その場合は、お手数ですが、メール(webmaster@jagat.or.jp)またはTEL(03-3384-3115)までお問合せください。

0.参加費用

・ポイント解説講座のみ 一般(14,040円)・JAGAT会員またはDTPエキスパート有資格者紹介優待(8,640円)

■参加人数
・ポイント解説講座のみ 一般(14,040円) 
・ポイント解説講座のみ 優待(JAGAT会員またはDTPエキスパート有資格者紹介優待)(8,640円) 
※有資格者紹介優待の場合:ご紹介者エキスパートIDとお名前をご記入ください。

 

■受講料お振込み予定日

※カレンダー形式日付選択が表示されない場合は、YYYY-MM-DD(例:2017-12-05)で入力してください。

1.会社の情報

■社名(例:公益社団法人日本印刷技術協会) ※必須

■シャメイ(例:ニホンインサツギジュツキョウカイ)

郵便番号(例:166-8539) ※必須

■住所1(例:東京都杉並区和田1-29-11) ※必須

■住所2(例:印刷技術協会ビル3F)

2.申込みする方の情報

申込む方と参加される方が異なる場合は、請求書をお送りする方の情報をご登録ください。

■部署名(例:総務部)

■役職名(例:課長)

■お名前(例:印刷 太郎) ※必須

申込者は参加しない

■メールアドレス(例:taro_insatsu@jagat.or.jp) ※必須

このメールアドレスに登録完了メールが送られます。

■TEL (例:03-3384-3115) ※必須

■FAX(例:03-3384-3168)

FAX受講証をご希望の場合は、この番号に受講証が送られます。

2.申込者以外の参加者情報

申込む方と参加される方が一緒の場合は、本欄は入力不要です。

【参加者1】

■部署名(例:企画営業部)

■役職名(例:主任)

■お名前(例:印刷 花子)

■メールアドレス(例:hana_insatsu@jagat.or.jp) 

【参加者2】

■部署名(例:企画営業部)

■役職名(例:主任)

■お名前(例:印刷 次郎)

■メールアドレス(例:jiro_insatsu@jagat.or.jp)

【参加者3】

■部署名(例:企画営業部)

■役職名(例:主任)

■お名前(例:印刷 次郎)

■メールアドレス(例:jiro_insatsu@jagat.or.jp)

■その他備考

3.受講証の受け取り

受講証について、ご希望の受け取り方法をお選びください。
複数名で有料セミナー申込み:「FAXで受け取る」を選択すると、参加者ごとに参加証を受け取れます。
無料参加イベント申込み:「メールで受け取る(受領メールを印刷する)」を選択お願いします。
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4.JAGATからのご案内について

よろしければJAGATからセミナー開催案内や関連のご案内を送付させていただきます。
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第51期DTPエキスパート認証試験 出題傾向と講評

2019年3月17日(日)、第51期DTPエキスパート認証試験(学科試験)が実施された。

学科試験

DTPエキスパートカリキュラムは、2018年11月に改定をおこない、第13版となった。今回の試験は、新カリキュラムを反映した内容となっている。

新出題項目として発表した項目の中から、下記テーマが出題されている。

・ デジタルカメラと撮影
・デジタル写真の画像処理とアプリケーション
・AcrobatによるPDF校正
・モバイルデバイスのカラー再現
・インタフェースの最新動向
・B2BのWeb to print
・インフォグラフィックスの思想
・オンラインショッピングとパーソナライズDM

新出題項目については、概ね基本的な内容を問う出題や従来内容のアップデートである。

また、カリキュラムで改定された「情報デザイン」分野からインフォグラフィックスが出題されている。
インフォグラフィックスは、複雑な情報や知識・概念を視覚的にわかりやすく表現したものである。近年ではその重要性が高くなっており、報道や出版物、デジタルメディア等でも多用されている。

「マーケティング」分野では「パーソナライズDM」、「B2BのWeb to print」が出題されている。
近年、ネットショッピングとパーソナライズDMを連動させることで大きな成果を上げた事例が発表されている。デジタル✕紙媒体の効果的な例である。
また、Web to printは、ネット印刷・印刷通販のモデルとして注目されているが、 B2B (企業間)の印刷受発注業務でも大きな成果を上げている。

実技試験

実技試験は、当日配布される『課題制作要項』に基づき、4週間で取り組むものである。冊子課題(携帯電話マニュアル)/ペラ物課題(マラソン大会告知チラシ)を出題した。  

提出課題と講評

本試験の大きな特長として、実技課題を通じて印刷物製作のプロセスとグループワーク(他者への作業指示・管理)を体感できることがある。今回は、そうした試験の意義を感じていただける機会となったかと思う。

マラソン大会は、ある飲料メーカーが全国各地で実施するイベントである。地域のマラソン競技振興と自社スポーツドリンク製品の告知の目的を兼ねたものである。発注者からは、このような背景に基づく素材データが支給され、デザインを依頼されている。これらの目的に沿う告知チラシを、指定内容に従って制作する課題である。

提出作品では、レイアウトや色使いなどさまざまな工夫が見られ、水準をクリアしているものが多かった。

実技課題試験は、印刷物の制作の基本技能・知識を習得しているかどうか(作品)、グループワークを前提とした作業指示・管理ができるかどうか(作業指示書)を前提に設計されたものとなっている。

DTPエキスパート試験の習得を通じた学習によって、実業務のレベルアップや改善を果たすことが期待されている。

(JAGAT 資格制度事務局 )

【第27期与件:オーダースーツ】クロスメディアエキスパート 記述試験

状況設定について

あなたは、首都圏にある中堅総合印刷会社のX社に勤務するクロスメディアエキスパートである。X社は、商業印刷物やSP企画・制作、Webサイトの構築・運用のサービスを顧客企業に提供している。X社にはデザイン制作、およびWebコンテンツや映像・動画の企画制作を専門とする系列子会社があり、グループ総従業員数は160名である。

A社提案プロジェクトについて

オーダースーツの製造と直販を手掛けるA社は、X社が過去に取引を行った顧客企業である。同社のチラシ・パンフレット製作やWebサイトの一部を手がけた実績もある。
営業担当者より「A社は生活者との新しいコミュニケーション戦略を検討している」との報告があった。そこでX社では、営業部門や企画部門、制作部門に所属する数名で、A社提案プロジェクトを立ち上げることになった。クロスメディアエキスパートであるあなたは、本プロジェクトのリーダーを任命された。
X社は、本プロジェクトにて提案書を作成し、2週間後の2019年3月27日にA社へ提出する予定である。

面談ヒアリングについて

A社について調査を進めたところ、X社の競合企業Y社がインターネットやモバイル端末を活用した企画提案を行う準備をしているとの情報が入った。X社は、営業担当者が中心となり、社長と事業企画部長と面談(※ヒアリング報告書参照)を実施した。
A社は、コミュニケーション戦略を立案するにあたり、社外からの優れた提案を取り入れ、実施を検討する方針である。

2019年3月15日

A社ヒアリング報告書

X社 営業部 第一課
牧野 沙織

概要:A社からの提案依頼に伴う、ヒアリング調査
日時:2019年3月13日(水) 10:00~12:00
対応者:滝田社長、長谷川事業企画部長

1.提案へ向けて

A社は、紳士スーツの製造~卸~販売というサプライチェーンにおいて、時代に合わせたポジションを自ら開拓し、事業展開している。1923年の創業当初は服飾生地の卸商であったが、戦後、2代目は紳士用オーダースーツの製造を始めた。その後、3代目の時代に大手百貨店向けのオーダースーツ製造が拡大したが、百貨店の業績不振により経営が悪化。現社長(4代目)の立て直し方策のうち、オーダースーツ「TAKITA」の直販事業により、業績回復を果たしつつある。
現社長の滝田展隆は、「体に合わないスーツほど格好悪いものはない、日本人のスーツ姿を格好よくしたい」と言っており、TAKITAとは異なる新ブランド「テーラー滝田」を創設した。次のステップは、オーダースーツのわかりやすい説明とブランド認知を拡大させることである。ネットを通じて生活者とのコミュニケーションを確立し、関係性を重視した継続的なプロモーションの実現を模索しており、それに伴うコンテンツやメディア展開案を求めている。

2. 施策の運営と実施効果測定

  • 週単位でメディア展開の実績を確認したい
  • 可能な範囲でメディア利用者のレスポンスを把握し、活用したい
  • A社の担当者は、店舗チェーン本部の運営部を中心に2名を予定

3.想定予算

  • 印刷物やWebサイトの企画・制作、ハードウェア、ソフトウェア、開発費などで、総額1,800万円以内を想定(初期費用のみ。サービス開始後の維持費は別途算定として構わない)

4.施策の実施期間

  • 2019年4月に発注先を選定。5月に要件定義と設計、6月~7月に準備、8月は閑散期なのでテストのみ。施策は9月1日に開始し、2020年2月末までの半年とする。その後、施策の評価と見直しを行う。

5.市場動向:紳士スーツ市場とオーダースーツ業界について

  • 戦前までの紳士スーツは、個人テーラーに注文するオーダーメイドが一般的だった。
  • 1950年代後半~1960年代頃、紳士スーツ既製品の大量生産が始まり、高度経済成長とともに百貨店などを通じて販売されるようになった。
  • 1970年代以降、大手アパレルメーカーのブランド戦略が奏功し、有名ブランドスーツの販売が増えていった。
  • 百貨店は有名ブランドの既製スーツ販売が中心であり、それ以外にオーダースーツ部門が併存する形式となっている。
  • 1970年代~80年代に、郊外型紳士服店が誕生し、低価格(3〜4万円)の紳士スーツ既製品の販売が始まった。後に大手紳士服チェーンへと成長した。
  • 大手紳士服チェーンは、2000年頃より「スーツTOWN」「スーツSelection」など若者向けの別ブランドを立ち上げ、既製スーツを販売している。
  • 1990年代以降、アパレルCAD/CAMの開発が急速に進展し、世界的に普及した。アパレル製品のデザインや生地の裁断に利用されている。既製スーツやオーダースーツにおいても、日常的に使用されている。
  • 近年、有名既製服ブランド並みの高級感・オシャレ感と価格(6~8万円)を売りにしたオーダースーツ専門店も登場し始めている。
  • また、大手紳士服チェーンでも低価格オーダースーツブランドを創設し、オーダースーツ専門店の開設を始めた。主力の既製品スーツより若干高額(4~5万円)の設定である。

6.A社の創業と事業モデルの変遷

  • 1923年、滝田定三がA社を創業。当初は服飾生地(スーツ生地)の卸商であった。
  • 1950年頃、2代目の滝田茂司はオーダースーツの製造・販売を始める。
  • 1960年、大量生産が可能な縫製工場を設立。紳士スーツの国内需要は高度経済成長とともに大きく成長したため、事業は安定した。
  • 3代目の滝田久仁雄は、国内工場をさらに強化・拡大(宮城工場を新設・稼働)し、大手百貨店のオーダースーツ製造を受託する。
  • 1989年、中国・北京市にオーダースーツ工場を建設、日本への輸出と中国国内での製造・販売を開始する。
  • 1990年代より積極的にCAD/CAMシステムを導入し、採寸データによる裁断自動化を推進。
  • 2000年に主要取引先の大手百貨店が破たん。A社売上の半分以上を占めており経営危機となる。
  • 2004年、現社長の滝田展隆が直販戦略を打ち出す。東京神田にオーダースーツ直販店「TAKITA」1号店を開店。
  • 自社中国工場の品質は年々向上し、OEMや卸先にも認知された。安価な中国製と細かいオプションが可能な国内工場製の2グレードを提案できるようになり、利益が拡大した。
  • CADシステムを活用したマシンメイドのフルオーダーと工場直販により、低価格・高品質のオーダースーツ提供を実現。他社のオーダースーツ事業との差別化を図っている。

7.A社の現在の事業と直販店「TAKITA」

  • 現在の事業構成は、オーダースーツ直販、オーダースーツOEM、オーダー礼服・オーダー制服の製造・販売、オーダースーツ販売店の開業支援などである。
  • オーダースーツ直販店「TAKITA」は、「安価で良質のオーダースーツを提供する」方針で、インターネットおよび周辺地域にアピールする手法で成果を上げている。
  • 2018年時点で「TAKITA」は全国で42店舗を運営している。
  • 「TAKITA」の店舗の多くは商業ビルの2階以上にあり、目立たず高級感もない。店舗を見て来客するのではなく、ネット検索やネット広告で知って来店することがほとんどである。
  • Webサイトの来店予約フォームで、来店受け付けを行っている。予約して来店した客は、ほぼ採寸後に注文している。
  • A社のオーダースーツは、初回特別価格19,800円、通常で24,800円(オプションや生地により価格は変動)。マシンメイドのフルオーダーと工場直販によって、高品質と低価格を実現。
  • 大手紳士服チェーンの既製スーツ価格帯が2~4万円であり、価格面の競争力は高い。
  • オーダースーツの出来は「注文者の身体的特徴や要望を採寸データに反映すること」にかかっている。「TAKITA」では必ず来店してもらい訓練されたスタイリストが会話しながら採寸する。
  • スタイリスト教育には力を入れており、接客・スーツ知識・Web知識など、毎年2日間のスキルアップ研修を実施している。

8.「TAKITA」の販売促進

  • Webサイトでは、「マシンメイドによるオーダースーツ」のメリットや高品質など自信をアピールしている。価格はオプションも含めて公開されており、シミュレーション可能。
  • インターネット広告やSEO対策を通じて、低価格オーダースーツに関心ある層に「TAKITA」を訴求している。
  • パンフレットの他に小冊子「はじめてのオーダースーツ採寸」を作成し、店頭やイベント等で配布している。小冊子はオーダースーツの敷居を低くする目的だが、分り易いと好評である。
  • 社長が自らオーダースーツ姿で富士登山や東京マラソンなどに挑戦し、YouTubeチャンネルで動画配信している。TVの経済番組やニュース番組の取材を何度か受け、放映された。
  • オフィシャルスーツサプライヤーとして、プロサッカーチーム(Jリーグ)やプロ野球チーム等にオーダースーツを提供している。団体肖像権やチームロゴなどの使用権を得て、Webページやポスター・パンフレットに選手のスーツ姿を掲載している。
  • オーダースーツ完成時に試着写真をスタイリストがスマートフォンで撮影し、Webページの「お客様スーツコレクション」で紹介している。撮影レベルには個人差があり、写真掲載の評判は必ずしも良いとは限らない。
  • Webの登録会員やメールアドレスを登録した人向けにメルマガを配信(月1回)している。
  • メルマガ・コンテンツのスーツ豆知識「紳士のたしなみ」シリーズには固定ファンがおり、好評である。
  • 公式アカウントとして、Facebook・Instagram・Twitterで情報発信をしている。
  • 店舗近隣地域への新聞折込チラシは、集客効果が小さく配布していない。

9. A社の新ブランド「テーラー滝田」

  • 「TAKITA」は有名ブランドや大手紳士服チェーンに比較すると一般的な認知度も低く、低価格のアピールに留まっている。
  • 今後、さらにオーダースーツ市場への参入が増え、競争が激化する兆候がある。
  • そこで、より高級感やオシャレ感を持たせた新ブランド「テーラー滝田」を創設した。価格帯は、3~5万円とする。
  • 熟練スタイリストの存在や店舗での採寸、豊富なオプション類、利用者の満足度などをアピールしたい。
  • 2018年、1号店として新宿店を開設した。新規開店、および既存「TAKITA」からの改装店と併せ、今後3年間で12店舗の設置を予定している。
  • 基本スタイルとして「ニューブリティッシュ」「イタリアンソフト」「アメリカントラディショナル」を選択し、オーダーする。
  • ターゲットは、オーダースーツに関心のある20~30代の若年層を中心とする。
  • 初めてスーツを購入する大学生は、主要ターゲットの1つである。
  • 女性スーツの拡大を狙いたいと考えている。
  • 採寸の抵抗をなくしてもらうため、女性スタイリストを全店に配置する予定である。
  • コンセプトは「自慢したくなる、贈りたくなるオーダースーツ」である。高級生地や遊び心のあるオプション選択を充実することで、ブランドの差別化を行う。
  • 店は伝統を醸し出すべく、ロンドンの名門紳士服店通りSavile Row(サヴィル・ロウ)にある店づくりを参考にした。

10.「テーラー滝田」の販売促進

  • 大学構内の広告掲示は認められていないが、首都圏の大学カフェテリアでは、テーブルに三角POPスタンドで広告を出すことが許されている。
  • 大学周辺駅でのチラシ・ティッシュ配布は、過去の経験から効果はかなり限定的である。
  • 認知拡大策の1つとして、「テーラー滝田」二つ折りギフトカードを主要ネットショップで販売する。ギフトコードが印字されており、1万円、3万円、5万円の商品券に相当する。
  • スーツは半耐久消費財であり、次回来店してもらえるのが1年~数年先になることもあるため、その間も継続的なコミュニケーションによってブランドの親近感を維持したい。
  • 購入者限定で誕生日2か月前に5,000円引きクーポンコードを印字したカードDMを送りたい。
  • 注文から受け取りまで約1ヶ月かかるため、この間に「テーラー滝田」を印象付け、さらにファンを増やしたい。
  • Webページ「お客様スーツコレクション」の評価を上げるために、撮影用背景スタンドとカメラスタンドを用意する。スタイリストに撮影技術の講習を行い、スキルアップを図る。

11. A社「テーラー滝田」の競合(B社「ディスタンス」)

  • 大手紳士服チェーンB社が、低価格オーダースーツの新ブランド「ディスタンス」を創設した。価格帯は「テーラー滝田」と同等の4~5万円である。首都圏の主要ターミナル駅周辺に店舗を設置し始めた。
  • 「ディスタンス」は、スマートフォンによるAI採寸・ネット完結をPRし、注目されている。
  • 「ディスタンス」も、A社同様にプロサッカーチームのオフィシャルスーツサプライヤーになっている。チラシ・パンフレット等では、選手の闘う「決めポーズ」を使っている点などA社と酷似している。
  • また、ネット通販大手のZ社では、スマートフォン採寸によるオーダー方式をPRし始めた。スマートフォンで360度撮影するだけで採寸が完了し、来店不要で受け取ることができる。技術の先進性や未来的なイメージを強調している。店舗へ行けない人たちがメインターゲットと思われ、競合ではない。

12. 今後の方針

  • 今まで「TAKITA」とコーポレートサイトは同一のWebサイトとなっていた。今後、コーポレートサイト、「TAKITA」、「テーラー滝田」の3サイトとする。先の2つのWebサイト改修は、発注済み。新たに「テーラー滝田」のWebサイトを用意したい。相互送客も行いたい。
  • スポーツチームのオフィシャルスーツサプライヤーとして、選手と同じモデルを販売するときは、今後も選手起用のチラシを活用するが、ビジネス層へ訴求する場合は変えたほうが良いかもしれないと考えている。アドバイスが欲しい。
  • オーダースーツはスタイリストによる採寸が重要と考えており、今後も変わらない。採寸は敷居が高いと感じる人向けに作った冊子「はじめてのオーダースーツ採寸」をビデオ化し、Webでも閲覧できるようにしたい。
  • 今は、注文してくれた帰り際に「出来上がりを楽しみにお待ちください」と笑顔で見送るだけなのだが、本当に「待つことを楽しみ」にできるよう、何かを実現したい。
  • 今回は、「テーラー滝田」のWebサイト、チラシか小冊子もしくは大学カフェテリア三角POPスタンド、サイト内のビデオ、継続コミュニケーション策などを発注したいと考えている。AIDMAやAISAS等の消費行動モデルに合わせて、どのようなメディアとコンテンツ、何を訴求し、どのように各メディアを関連付けると効果的なのか、説明を含めた提案が欲しい。

A社の概要

【基本情報】

  • 法人名 株式会社滝田
  • 設 立 1961年
  • 従業員 230人
  • 資本金 5,000万円
  • 売 上 25億4,733万円(2018年3月期)
  • 所在地 東京都千代田区岩本町(本社)
  • 役 員 代表取締役 滝田 展隆、 専務取締役 倉田 博
  • 事 業 紳士・婦人向けオーダースーツの製造・販売、店舗運営支援
  • 事業所 本社、宮城工場、中国(北京)工場、45店舗

【企業沿革】

  • 1923年 服飾雑貨卸商として滝田定三が創業
  • 1994年 1950年 2代目社長滝田茂司により、オーダースーツ製造を始める。
  • 1960年 オーダースーツ縫製工場を設立。
  • 1972年 工場にオーダースーツ専用ラインを構築。
  • 1986年 3代目社長滝田久仁雄により、大手百貨店や紳士服店からオーダースーツ受注。
  • 1989年 中国北京市にオーダースーツ工場を設立、日本への輸出と現地での製造・販売を開始。
  • 1991年 工場にCAD/CAM(自動裁断システム)導入。型紙不要、省力・短納期に。
  • 2000年 取引先の大手百貨店が破たん。A社売上の半分以上だったため、経営危機となる。
  • 2004年 新戦略として東京神田にオーダースーツ直販1号店「TAKITA」を開設。
  • 2015年 工場直販オーダースーツ事業を柱に、3年連続の増収増益を達成。
  • 2018年 オーダースーツの新ブランド「テーラー滝田」を開設、市場拡大を狙う。

【経営理念】

  • 少しでも安く、できるだけいいものを。
  • 変化をいとわず、新しいことに挑戦する。
  • 日本のビジネスシーンを明るく元気にする。

【A社損益計算書】

単位(千円)
決算年月 2017年3月 2018年3月
売上高 2,432,180 2,547,325
売上原価 1,576,813 1,597,414
売上総利益 855,367 949,911
販売費及び一般管理費 764,241 839,721
営業利益 91,126 110,190
営業外収益 2,471 2,382
営業外費用 1,881 1,791
経常利益 91,716 110,781

【社長プロフィール】

滝田 展隆(たきた のぶたか)(1974年生まれ、45歳)

  • 学 歴 :
    1996年 1996年 国立H大学経済学部を卒業
  • 職 歴 :
    1996年 大手化学繊維メーカーに入社。営業マンとしてアパレル関係を担当
    2003年 株式会社滝田に入社
    2005年 代表取締役社長に就任
  • 家族構成: 妻、長女、実父、秋田犬
  • モットー: 「考えるよりも行動」「迷ったら茨の道を行け」「幸せのおすそ分け」
  • 趣味 : 登山、磯釣りなど。

(設問)与件文を読み、次の設問の解答を、別途配布された解答用紙に記述しなさい。

[問1]A社の顧客コミュニケーションにおける課題を優先度の高い順に3つ記述しなさい。

[問2]問1の課題を解決するための具体的なコミュニケーション施策を箇条書きで記述しなさい。
ターゲット、コンテンツ内容、使用するメディアと選定理由についても記述しなさい。

(1)コミュニケーション施策
(2)ターゲット
(3)コンテンツ内容
(4)使用するメディアと選定理由

[問3]A社に提出する提案書を問1、問2の内容を踏まえて記述しなさい。
(記述形式:A4縦・横書き・3枚)


【資格採用企業インタビュー】人材の力と組織力で 総合的に顧客をサポート

『ものづくりとマーケティングプロモーション』をテーマとして掲げる株式会社光陽メディアは、企業としてエキスパート試験に10年以上の取り組み実績がある。人材育成の方針や課題について、取締役管理本部長 大塚 美世子氏にお話を伺った。

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大塚 美世子氏
株式会社光陽メディア
取締役管理本部長/コンテンツ制作部部長

貴社の事業傾向について変化はありますか。

当社の業務構成としては、出版・学参関連印刷物が多く、全体の約3~4 割を占めています。その他、商業印刷として販促チラシやポスターの製作、ウェブ制作などもコンスタントに行っています。

印刷を含めた売り上げは減少下降傾向にあります。その点は当社も例外ではないため、かなりの部分を占める印刷だけに頼らない事業展開を図っています。そうした中、お客様側からの要望としては、お客様の抱える困りごとへの対応が求められる傾向があります。

そのような事業傾向やお客様の変化を踏まえ、人材には何が求められていると思われますか。

広範囲の知識や対応力とともに、例えば営業職でいえば、お客様のどのような課題に対しても相談に乗れるような人間力というものが必要になっていることを感じます。そういう人材を育てようとしているのですが、すぐに育つわけではありません。ですので、各人材に知識を身に付けてもらうとともに、会社としての総合力・組織力を生かして対応しようという方向性をとっています。人材教育を経営の方針にしっかりと位置付け、営業、制作、製造現場を含めて課題を明確にして取り組むことを念頭においています。

また、DTP、ウェブ、印刷というそれぞれの部門が、おのおのの知識や技術力をもって、お客様の要望に沿うよう協力し合いチームとして応えられるような組織づくりに取り組んでいます。

企業として長年エキスパート資格に取り組まれていますが、どのように取り組みを開始されたのですか。

10年以上前になりますが、初めは会社としてというより、取得したい意欲のある人には勧めるというかたちで取り組み始めました。数回経過するうちに、会社全体として取得推進する方針となり、試験期ごとに対象者を決め、それらの社員に対して共同で研修会をやったり、社内で模擬試験を数回行ったりするようになりました。個人に任せるのではなく、会社として全職場共同で取り組むという方針で行い、累積合計で80 人以上の社員がエキスパート資格を取得しました。現在も取得したい人には支援をしたり、制作実務経験のない営業がDTP エキスパートを取得する際には実技試験のフォローをしたりしています。

また、お客様の要望の変化への対応力が求められる中、その基盤となる知識習得の必要性もあり、クロスメディアエキスパート取得も継続的に推奨しています。

教育手段の中で資格取得をどのように位置付けていますか?

DTP エキスパートにしてもクロスメディアエキスパートにしても、一過性のイベントではなく、さまざまな対応力の前提となる基礎知識、必須知識として社員全員に取得を推奨しています。資格取得のために専門用語を学ぶだけでも十分に意味があり、そうした基礎知識を身に付けていると実務での対応力も変わってきますので、推奨資格として位置付けています。

資格取得が実務に生かされていると感じる点、社員の変化を感じる点はどのような場面ですか。

取り組みを開始した頃は、社員側から負荷が大きいという声もありました。特にDTP については、実技の技術的なところでは苦労していたと思います。とはいえ実際に取得した社員は、自身の日常の業務の中で、習得した知識が血肉となって生かされていると感じているようです。会社としてカラーマネジメントへの取り組みを開始したときには、DTP エキスパートで勉強してきたことが実際に生きているという実感がありましたね。用語を覚えるだけではなく、その展開において社員自身の役に立っているという感触です。

DTP については、歴史をたどれば文字組から製版工程など膨大な技術の蓄積があるので、一度資格試験に合格したからといって全てが身に付くものではないし、日常的に触れるわけではない部分もあります。しかし、例えば高精細印刷がトレンドになってきた時には、DTPエキスパートで学んだスクリーン線数の知識などが必要になります。習得した知識の必要性を感じない時期もあるかもしれませんが、新たなトレンドが持ち上がり、かえって過去習得した知識が生きてくるということもあるのです。その意味で、印刷に関わり続ける以上、いつどこで必要となるか分からない知識をまずは網羅しておくことは重要だと思います。

またクロスメディアエキスパートについては、営業職など直接お客様の課題に触れる人には、取得を推奨してきました。組織として各部門協力してお客様の課題に対応するため、制作職の社員でも知識とともに対応力を広げる必要性があります。世の中の傾向はどんどん変化し、それに伴い新しい領域も増えています。

そういう面では、数年前に勉強したことと同じ勉強をしているだけでは追い付かない、対応できないことも出てきていて、大変だなと思います。お客様の困りごとを解決するにあたり、紙メディアに限らずさまざまなメディアを活用して解決していくという方向の中、クロスメディア資格や各種研修を併せて行い、複合的に人材育成をしています。それら全体の効果として、従来よりも対応力が上がってきているという変化を感じます。

ビジネス動向の変化の中で、印刷業界に求められていることはどのようなことと捉えていますか。

お客様側の変化として、お客様自身の事業の発展、売り上げや会員等の増加といった悩み、課題に対し、当社は何をしてくれるのか?という投げ掛けをされるようになってきました。以前であれば、そうした課題解決のためにチラシを作るという答えがあらかじめ出ていたうえで、ではどんなチラシを何部刷りましょうか?というのがお客様との打ち合わせ内容だったのですが、今では、そういった答えはお客様側から示されるのではなく、私どもでサポートできること、何をするのかをこちらから考えなければならない場面が増えてきました。印刷のことだけを考えていたのでは全く対応できないという点で、人材に求められる能力が変化していると思います。この点は、どのようなお客様についても共通している点です。

お客様からは、悩みや課題に対する総合的な提案を求められています。その際、私たちが解決方法を考えて、こういう方法はどうですか?という提案をするやり取りができなければなりません。例えば印刷なら、価格面では印刷通販が競合するわけですが、プロモーション業務への展開においては別の業界が競合として現れるわけです。新たな競合と対抗していかなければならないわけですから、のんびりしてはいられません。新領域を吸収しつつ、当社が培ってきたノウハウや技術面を生かしてどのようにお客様を総合的にサポートしていくかということが重要です。当社の場合長くお付き合いさせていただいているお客様が多いので、従来のやり方で馴れ合いになってしまう場面もあるかもしれません。そうではなくて、当社も変化しているということをアピールしていかなければならないと思っています。

出版物を作るにしても、早く安く作ってほしいという要望がお客様からあった場合、制作側に負荷のかかる方法で対応するという単純な捉え方ではなく、早く安くやるためにはお互いにどのように改善していくかをお客様側と一緒に考えましょうという話ができないと、要望に対する限界があります。例えばオンライン校正、オンライン入稿を使って効率化したり、校正回数を減らすための提案をしたりして、その結果安くできたね、というかたちで改善していかなければ、どちらにとってもメリットはありません。お客様にとってもメリットのあるような仕組みを作っていくことが大切だと思います。

取材・まとめ JAGAT CS部 丹羽 朋子
-JAGAT info 2019年2月号より転載-

クロスメディアエキスパート論述試験 提案書における重点ポイント

2019年3月17日(日)、第27期クロスメディアエキスパート認証試験が実施された。第2部の論述試験は、架空の企業に関する与件文を読み、顧客の課題を解決するコミュニケーション戦略の提案書を140分の制限時間内に作成するものである。

8ページほどの与件文には、ある企業の事業推移や市場環境、競合企業の動向などが記述されている。提案先企業の課題を適切に理解し、課題解決をおこなうコミュニケーション戦略を提案することが求められている。

出題テーマと内容

出題テーマは毎回、さまざまな分野が取り上げられている。近年のテーマは以下のようになっている。

・コインランドリーの機器販売、運営(26期)
・農産物直売所の運営(25期)
・ハウスウェディング事業(24期)
・マンションリノベーションの設計・施工(23期)
・知育玩具の製造・小売(22期)

新規事業や新たなサービス提供に際して、コミュニケーション戦略を模索しており、効果的なクロスメディア提案を求めている、という設定である。

今回(27期)のテーマは「オーダースーツを製造・販売する企業」という設定であった。

提案書作成における重点ポイント

提案書の採点においては、以下についての記述が重要視されている。また、これらのポイントは実務上でも有効である。

今後、取り組む際には、このような点に留意するとさらに完成度が上がるだろう。

(1)コンテンツ

Webサイト、冊子・フリーペーパー、チラシなどどのメディアを使用するにしても、どんなコンテンツを発信するかが重要である。

Webサイトの改定を行うのであれば、どのようなコンテンツを誰に向けて発信し、どのような効果を狙うのか。訴求力のあるコンテンツをどのようにして準備するのか。Webサイトの閲覧を増やすための施策は何か、というシナリオは必須である。

コンテンツの企画・編集、制作費用は適切かどうかも重要である。

(2)メディア選定理由が不明確

メディア選定理由を問う設問があり、なぜそのメディアが適しているかを回答することが求められている。つまり、メディアの特徴(長所・短所)を正しく認識し、それを活用しているかどうかが問われている。

(3)提案書の挨拶文

挨拶文であるため、分析・評論するような文体は避けるべきである。例えば、顧客の業績や状況に関する認識を表現する場合、リスペクト感が伝わるような記述が望ましい。

(4)提案内容は消費行動モデルを意識する

消費者・生活者の心を動かすには、消費行動プロセスモデルに即した方法が有効である。

インターネット時代に有効とされるAISASモデル(注意・関心・検索・行動・共有)やAISCEAS(注意・関心・検索・比較・検討・行動・共有)に即した施策は効果的である。また、SNSやコンテンツマーケティングの動向に即した消費行動モデル(SIPS、DECAX)も有効である。

提案書の施策説明として、消費行動プロセスにおける位置付けを含めることで、説得力を高めることができる。

さらに、採点基準にはリピートを促す仕組みがあるか(関心を高める)、双方向コミュニケーションがあるか(共有・拡散を促す)も含まれている。これらも加点ポイントとして意識する。

(5)コミュニケーション施策の全体設計と自社の強み

例えば3つの課題に対して、バラバラに施策を立て、それらを並列で実施するだけでは大きな効果を期待できない。全体設計があり、複数の施策の連係によって一つの目的に向かっていくような記述があると相乗効果も期待できる。施策のまとめとして、全体設計を示し、全体の流れや効果を記述すると良いだろう。

また、自社の強みをアピールすることも重要である。いくつもの提案の中から自社の提案を採用することが、もっとも適切で効果的であることを伝えなければならない。

(6)スケジュールと費用

スケジュールは費用算出の根拠ともなる。実務上でも、工数配分をベースに費用を算出することが多い。スケジュール上の規模感が、結果的に費用に反映されていると提案の妥当性が増すと言える。

例えば、企画・設計の期間や費用を適切に見込んでいるか、Webサイトの維持・改善の工数を見込んでいるかどうかなども、妥当性を示すポイントだと言える。

印刷物を使用する場合、原稿を受領してデザイン制作をするのではなく、印刷物の企画・原稿執筆・データ制作を含める必要がある。さらに、印刷・製本して納品することがゴールではなく、エンドユーザーへの配布方法や費用を見込む必要がある。

(7)競合他社との差別化

コミュニケーション施策において、提案先とその競合他社との差別化は、もっとも重要な項目である。「競合他社との差別化」のための提案と言い換えることもできるだろう。

すべての施策が、最終的に「競合他社との差別化」となる提案でなければ、採用されることにはならない。提案書の中で強調されていなければならないポイントである。

「デジタル×紙×マーケティング」のスキルとは

現在の印刷企業には、デジタルメディアと紙メディアの強みを組合せ、クライアントの課題を解決すること、つまり、「デジタル×紙×マーケティング」が求められている。

このようなビジネスを成功させるには、上記のような提案力を身に付けることは必須だと言える。

(研究調査部 千葉弘幸)

第51期DTPエキスパート実技試験提出締切

2019年3月17日(日)実施第51期DTPエキスパート認証試験(本試験)につきまして、実技試験提出を締め切りました。
お取り組みいただいた受験者のみなさまお疲れさまでした。
試験結果は、5月下旬に当Webサイトにて掲載予定です。

アビリンピック東京大会の試み

独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構東京支部では、「障害者が日頃培った技能を互いに競い合うことにより、その職業能力の向上を図るとともに、企業や社会一般の人々が障害者に対する理解と認識を深め、その雇用の促進を図ること」を目的として、東京障害者技能競技大会(アビリンピック東京大会)を開催している。

競技種目としては、パソコン操作からワード・プロセッサ・表計算等のオフィスソフトを駆使し正確な文書作成や効率の良い図表の作成を競うものから、喫茶サービス、ビルクリーニング、製品パッキング(デモンストレーション競技)等のサービス対応業務など、幅広い分野から選定されている。各競技とも、金・銀・銅賞の他、特に優秀な成績を収めた方や努力が著しいと認められた方には東京都産業労働局長賞が授与され、次年度全国アビリンピック大会の東京都代表選手として出場推薦の対象となる。

2013年度大会よりDTP競技が追加され、DTPにおける基本的技術および印刷用データ処理能力とともに、効果的な印刷物を制作する技能を問う競技を実施している。JAGATでは、東京大会でのDTP競技開始当初よりサポートを行い、課題の設定や採点ポイント、受賞者選考基準策定などの協力を行っている。

2018年度大会は、去る2月2日(土)小平市にある東京障害者職業能力開発校をメイン会場として開催された。DTP競技については、隣接する職業能力開発総合大学校に於いて競技者11名にて実施された。

大会会場  競技中の様子



約2時間の競技時間中に、支給素材を用いて指定の印刷物用データを制作するという競技となっている。今回は、『フードロス』問題をテーマとした啓蒙ポスターを制作する内容となった。競技では、デザイン性や印刷技能(各要素とも印刷に適したデータ処理がなされているか)等の点が問われる。設定されている印刷物の用途に適したデザインとなっているかという点では、配色や文字組版、レイアウトの構図など、同じ告知物であっても、手元で見るチラシと掲出されるポスターとでは異なるデザイン性が求められる。

提出作品では、短時間の競技であるにも係わらず、独自にアイコンを起こして紙面を特徴づけたり、支給画像素材の配置に工夫を凝らし訴求力を持たせたりと、DTPオペレーション作業に留まらない作品が何点も見られた。毎回の大会実施後アンケートでも、「DTP競技者の全体レベルが高く大変驚いた。」といった声が寄せられている。

競技終了後には即時選考が行われ、表彰会場にて多数の見学者が見守る中、全競技合同の結果発表と表彰式が行われた。

表彰式 優秀作品サンプル



大会会場では競技の他、点字・車いす体験や各福祉作業所等制作の物品販売、また国際アビリンピック関連映像上映の場などが用意され、障害を持ちながら社会参加する方々、またそうした方々を支援する活動が紹介された。さらに今回から、障害者雇用を検討する企業の担当者に理解を深めてもらう方法として、障害者雇用ミニセミナーおよび競技見学ツアーを行うなど、競技者の意欲的な取り組みとともに雇用の活性化を図る新たなプログラムも実施された。

こうした活動を通して、多様性のある働き方を推進する社会の拡がりに期待したい。

(CS部 丹羽 朋子)